「バリケードは君達が?」
「奴らが押し寄せた時に誰かが建てたようだ」
「なぜ俺を助けた?」
「期待したんだよ。同じ様に助けて貰えるかもって」
『ふふ…』
「笑うなよ。あんたよりバカなのさ」


グレンを先頭にショッピングセンターを目指す。
迷路の様な通り道だから逸れたらリックは戻れない。
でもさすがは保安官と言ったところだろうか?
置いていかれることもなく、ちゃんと後ろについてくる。


「新入りが1人!奴らが4人侵入した!」


グレンがTドッグに無線で連絡を入れ
スムーズに中に入れる様に手配をした。

が、後少しでたどり着くというところで
目の前からウォーカーが2匹。
グレンが思わず後ずさる。


『グレン、やらなきゃ…!』
「あぁ…いや、待った。」


扉から防護服らしき物を着た2人が出てきた。
背丈から恐らくTドッグとモラレスだろう


『ひゅー。かっこいい…』
「急げ!中に入るんだ!」


ウォーカーを倒してくれる2人の間を縫って
グレン、リック、私の順番で中に入り、Tドッグ達も続いた。


「今すぐ殺してやるわ!!」
「アンドレア!!!」
「冷静になって、アンドレア」
「今すぐ銃を下ろすんだ…!」
『アンドレア、お願い…』


アンドレアはリックに銃を突きつけたまま動かない。
リックもアンドレアやみんなの顔色を伺うだけで動かない。
良かった…アンドレアには悪いけど、リックが本気で
アンドレアに対抗しようとしたら絶対に負ける。


「アンドレア…銃を下ろすんだ…」
「私達は全員死ぬわ。あんたのせいよ」


モラレスの必死の説得にアンドレアは銃を下ろした。
リックは肩で息をしながら、アンドレアを見つめ
"言っている意味が分からない"という顔をしている。


「どういうことだ?」
「食料を求めてここに来た」


モラレスがリックを連れて、どこかへ歩き出した。
すぐにTドッグ、アンドレア、ジャッキーも続く。
私は急いでグレンを引っ張って後ろに続いた。

せっかく助けた彼を殺さないで…!


「銃をぶっ放したら最後…」
「食事のベルと同じなのよ」


ガラス張りの扉には無数のウォーカーが…
あぁ…戦車の所にいたのも流れちゃったのか…
扉を叩くウォーカーの中には石を持ってる奴も。


「大変だわ……」
『石を使う知能があったの…?』
「偶然だろう。奴らに知能はない」
「ねぇ、外で何をしてたの?」
「ヘリコプターを見つけた」
「ヘリなんか来るはずない」
「幻覚に決まっているわ…」
「いや、確かに見たんだ!」
「Tドッグ。無線で連絡しろ」
「避難所があるのか?」
「焼きたてのビスケットもね」
『ジャッキー…』


嫌悪感を露わにするジャッキーに声をかける。
彼女はまだ何か言いたげに口を開いたが、すぐに閉じた


「ダメだ…屋上に出よう。」


Tドッグがそう言った瞬間、鳴り響く銃声。
全員の顔が思わず引きつった。


「メルルだわ……」
「あいつしかいないだろ!」
「おい、行くぞ!急げ!!」
『リックも来て、こっちよ』


全員で屋上にいるはずのメルルの元へ走る。
案の定、メルルはライフルを撃ちまくっていた


「おい!!正気か!?」
「ヘーイ。銃を持つ人間に敬意を払え。常識だろ?」
「弾を無駄遣いした上に奴らをおびき寄せてるだろ!?」
「俺に付きまとってるくせに指図する気か?従う訳ないだろ?」
「なんだと?理由を言え」
「相手にするな、ほっとけよ」
「いいから喋らせろ」
「メルルも落ち着いてくれ」


"問題はもうたくさんだ"というモラレスの言葉を
一切無視してTドッグは腕を組んでメルルを見た。
リックはグレンを見るが、グレンは"関わらない方がいい"と
手を振ってリックに伝え、リックは眉間に皺を寄せた。


「黒人野郎の言うことは聞けねぇのさ」
「この…クソ野郎!!」


"ニガー"
黒人を差別する最低の言葉だ。

メルルに言われて腹を立てたTドッグは
殴りかかるが返り討ちにされてしまう。
慌ててリックもメルルに向かうが殴り飛ばされた。
アンドレアやジャッキーも"やめて"と言うが
メルルはTドッグを蹴る、殴るを始める


『メルル!!やめてってば!!』
「ケガしてる!お願いだからやめて!」
「メルル!!やめるんだ!」


モラレスが止めに入るが返り討ちにされる。
Tドッグには悪いが、私達がメルルを止める術がない…
メルルはついに銃を取り出しTドッグに向けた。


『メルル!!やめて!殺さないで!』


メルルはじっとTドッグを見つめると
彼の体に唾を吐きかけた。


「よし、いいだろう。ちょっと話し合おうじゃないか!」


メルルはそういうと立ち上がり
Tドッグものそのそとメルルから離れた。


「ボスを決めよう。俺は自分に1票入れる!」
『Tドッグ!平気…?』
「あ、あぁ…」
「民主主義に乗っとって挙手制で行くぞ。賛成の奴は?」


Tドッグをメルルから離れさせた私達は顔をしかめる。
手を挙げろと言わんばかりの"賛成の奴は?"という
メルルの問いかけにモラレスがとうとう手を挙げた。
続いてグレン、ジャッキー、アンドレアも手を挙げる


「よし、今から俺がボスだな。異議はないな?」
「あぁ、あるとも」


もはや空気と化していたリックが後ろから現れ
メルルを殴り、手錠をかけた。
空気だなんて思ってごめん、リック。


「お前は誰だ!?」
「優しいお巡りさんだ。
 いいか、状況は変わったんだ。
 "ニガー"も最低な"ホワイトラッシュ"もいない。
 死者と生存者の世界で協力して生き延びるんだ」
「くたばれ」
「話が通じないようだな?」
「もう一度言う。くたばれ」
「銃を持つ人間には敬意を払え。常識だろ?」


リックはメルルに銃口を突きつけた。
あまりの展開についていけていないが…
相手の言葉をそっくりそのまま返すやり方は、
私は結構好きだ。メルルざまぁみろだ。


「保安官が人を殺すのか?」
「俺はもはや妻と子供を探すただの男だ」
「はっ。」
「考える時間をやる。」


そう言うとリックはメルルの身体検査をした。
まだ銃を隠し持っていたら困るもんね…
すると何かをメルルのポケットから取り出し
屋上から下へと投げ捨てた。


「やめろ!俺のヘロインだぞ!?」
『呆れた…こんな時にそんなもの…』


メルルはリックに叫び続けるが、リックは無視をした。
屋上の端に行くリックをモラレスが追いかける。
…彼にリックのことは任せよう。
私はとにかくTドッグだ。


『Tドッグ。切れてる所を消毒しよう』
「エリー…消毒液持ってるのか?」
『えぇ。少しだけ持ってきてる』
「ねぇ、ガーゼは?」
『消毒液だけしか…ごめんね』
「いいんだ。助かるよ」


タオルに消毒液をかけて傷に当てる。
Tドッグは痛そうに声をあげた


『ごめん。少し我慢してて』
「あぁ、ありがとう。いてて」
「俺はあっちに座ってるよ」
『うん、分かった』


グレンが離れ、ジャッキーも立ち上がった。
私はTドッグの全ての傷をタオルで優しく消毒した。





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