メルルが先頭、次にグレン、私、アンドレア
ジャッキー、後方にモラレスとTドッグで市内を進む。
意外なことにメルルはスーパーの位置を知っていたみたいで
スーパーへの最短距離を迷いもなく進んで行く。


『あの角を曲がったらスーパーね』
「あぁ、もう少しだ」
「止まれ…!」


先頭を走っていたメルルが小声で私達を制した。
端に寄れとハンドサインで指示されたので素直に従う。
メルルはそっと顔を出すと"くそが…"と舌打ちをした。


「何?何があったの?」
「今すぐ戻れ、団体様のお通りだ」


メルルの言葉にスーパーの後に行くつもりだった
ショッピングセンターに向かって走る。
自然と後方を担当していた2人が先頭になった。


急いで中に入り、メルルが扉を閉める。
中にいたウォーカーはTドッグが片付けてくれた。


「スーパーには行けそうにないの?!」
「あぁ、無理だ。あの数はやべぇ」
「どうするの!?」
「うるせぇな!てめぇらで考えろ!」
『ちょっと落ち着いて、静かにしなきゃ…』
「グレン、どうする?」
「うーん……」


言い争うアンドレア、ジャッキー、メルルに
とにかく静かにしてくれと頼む中、Tドッグの言葉に
グレンは顎に手を当てながら考え始めた。


「とにかく一度外の状況を見てくるよ」
「グレン、どうやって外に出るんだ?」
「ショッピングセンターには連絡通路があるだろ?」
『あるわ。ある程度ならビルの間を移動出来る』
「それを使おう。エリーと行ってくる」
「俺達はどうすればいい?」
「ショッピングセンター内の物資を集めてくれ」
「俺は上から行く。てめぇらは下から来い」
「待て、メルル!1人で行くのは危険だ!」
「てめぇらがいた方が邪魔なんだよ!1人の方がましだ!」
「メルルは1人で平気だ。この中で1番強いのはあいつだろ?」
『行きましょう、グレン』
「何かあれば無線で連絡する。頼んだぞ」
「あぁ、2人とも気を付けてくれ…」


グレンと上の階まで上がり、連絡通路を目指す。
メルルが先に通っただけあってウォーカーはいない。
いや…動けるウォーカーはいない、と言った方が正しいかな?
この時だけはメルル様様だなって思った。この時だけはね!


「ここだ。……声はしない。安全そうだ、行こう」


グレンの合図で外に出て、通路を進んで行く。
メルルが言っていた団体様ってあれか……
とんでもない数のウォーカーがいる…
これはメルルが何人いても無理ね。


『スーパーは無理そうね』
「なぁ、スーパーにあんな旗立ってたか?」


グレンの言葉に望遠鏡を覗くと
黄色の旗が風でパタパタと揺れている。


『さぁ?覚えてないけどお店のシンボル?』
「でも良い目印にはなるな。覚えておこう」
『それよりスーパーがダメならどうする?』
「別の場所で物資を…待て、あれはなんだ?」
『……保安官と、馬?』
「おいおいおい、そっちはまずい!」


グレンの指差す方を見ると馬に乗った保安官が
凄いスピードで市内を駆け抜けているのが見える。
上を見ながら走っているみたいだけど…
一体何を見ているのかな…?
あなたが見るべきは下のウォーカーですよ!!

そして彼は先程、私達が曲がらなかった
ウォーカーの団体様がいる通路を曲がってしまった。
大慌てで道を引き返そうとするが、後ろにもウォーカーが…


『どうする?グレン』
「あんな数のウォーカー…どうやって…」


グレンはすでに"どうやって助けるか"を考えていた。
保安官は戦車の下に入ってしまい姿が見えなくなった。


『戦車の下に潜ったけど、銃声が聞こえないわね』
「あぁ、戦車の中にうまく入れたのかもしれない」
『そうだといいけど…あ、見てグレン。出てきた』


グレンの言う通り、戦車の上から顔を出した保安官。
そのまま戦車の上側の扉を閉めて、中に籠城した様だ。
生きていたのは良かったが、閉じこもっても解決にはならない。


「無線を使おう。あの保安官と連絡を取らないと…」
『戦車の無線なんて分かるの?』
「まぁ、なんとかなるだろ……」
『そうだといいけど』
「おっ、ほら。入ったぞ」


ドヤ顔で私を見るグレン。
私は口の端をあげて笑ってみせた


「おい、そこのアホ。」
『まぁ…なんて口が悪いのかしら?』
「あんたのことだよ。乗り心地は?」


グレンが返事を待つが、相手からの返答はない。
少し焦った様子を見せるグレン。


「返答がないぞ…?」
『もしかして自殺しちゃった?』
「おい、生きてるのか?」
『ハロー?聞こえてる?』
「ハロー、ハロー…!」
『良かった、生きてる』
「心配したぜ。まったく…」


グレンの顔を見ると、ホッと息を吐いた。
見ず知らずの保安官が生きていたことを、
本気でグレンは喜んでいる。
彼はこんな世界でも"お人好し"だ。


「外にいるのか?俺が見えてるのか?」
「あぁ。戦車の中にいてウォーカーに囲まれてる」
『あなたにとっては非常に悪いニュースね』
「良いニュースは?対処法はあるか?」
「……ないね」
「誰だか知らんが、あんた達に助けて欲しい」


助けて欲しいと言われても…
あの数のウォーカー相手に?
どうやって戦車の中から助ければいいんだろう。
落ちない様にしながら下を覗き込む。


「まったく…現状を見たら気が変になるぜ…」
「何かアドバイスはないか?」
「そうだな…さっさと逃げろ」
「…それだけか?他には…?」
「外の様子を教えてやる。エリー」
『戦車の上に1人。あとはお馬さんに夢中』
「分かったか?」
「あぁ」
『戦車の後ろは空いてるわ』
「今なら逃げられる。武器はあるか?」
「外に落とした。取りに戻るべきか?」
「やめろ。そこには何かないのか?」
「探す…」


保安官からの連絡が切れ、私とグレンは下を見つめる。
武器があったとしてもあの数のウォーカー相手となると…
銃を使うしかないだろうし、使っても助からないかも…
はぁ…どっちみち銃声が響き渡るのは避けられないか…


「拳銃が1丁。弾は15発だ」
「戦車の右側に降りて、真っ直ぐ走れ」
『ちょっと…?』
「50ヤード先の路地で待ってる」
「…あんたの名前は?」
「時間がないんだ!急げ!」


グレンは無線を切ると私に振り向いた。
会話の途中で立ち上がったからまさかとは思ったけど
本気であの保安官を迎えに行くらしい。


「あそこの路地で保安官を待つ。エリーはここに」
『どうして?一緒に行くわ』
「いや、ここの梯子を上がるのを上から援護して欲しい」
『…途中まで降りていい?その方が確実に援護出来る』
「あぁ、頼む。俺は保安官を迎えに行ってくる」
『グレン…気を付けて…』


グレンとハグを交わし、梯子を降りるのを見送る。
私も急いで途中まで梯子を降りると銃を構えた。
グレンが買ってくれたサイレンサー付きの銃だ。


『なるべく銃を撃たないでくれぇ…』


そう祈るも、すぐに銃声が響き渡る。
あぁ…こんなに撃ってしまったらだめだ…
ウォーカーはすぐに集まってくるだろう。

ガッカリしながら待っているとグレンと保安官が現れた


「こっちだ!!早く!!」


グレンが急かすも保安官はウォーカーを撃ち続ける。
もういいから早く梯子まで来てよね!!


「こっちだ!何してる!?早く!」
『援護する』
「エリー頼む!」


保安官の足を掴もうとしたウォーカーの頭を撃ち抜く。
1発では当たらなかったけど、2発目で当たったから
まぁまぁ優秀な方だろう!たぶん!きっとね!

グレンが梯子を登り終わり、保安官に手を貸す。


『平気?ケガは?』
「平気だ。2人とも無事さ」
『あぁ、良かった…』


グレンと保安官は息を整えている。
ダッシュして来たんだから疲れたよね…


「見事な銃さばきだ。奴らを始末に来た保安官か?」
「それは違う」
「それはそうと、あんたの名前は?」
「リックだ。助けてくれてありがとう」
「グレンだ。いいんだ、よろしく」
『エリーよ。』


保安官、もといリックと握手を交わす。
グレンは下のウォーカーを見つめ、
リックはグレンのリュックに銃を入れた。


「まずい、先を急ごう」
『はぁ…ため息が出るわね』
「上って転落死した方がましだ」


そういうとグレンは振り返って続けた。


「俺は楽天家でね」
『いいから早く上って』
「俺の後にエリーが上ってくれ」
『分かった』
「あぁ、君に従うよ」


グレンに続き、私、リックと上って行く。
途中で誰かが落ちたら助からないだろう…
慎重に、でもスピーディに上まで上った。




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