次の日、目が覚めると昨日と変わらずダリルが私を抱きしめていた。
彼がいるだけでこんなに安心して眠れるなんて…
私はダリルにかなり依存してしまっているらしい。


「ん……」
『ダリル、おはよう』
「あぁ……」


眠そうなダリル。
返事をした割には私の首元に顔を埋めた。


『起きないの?』
「もう少しくらいいいだろ…」
『ふふ、うん。そうだね』


私がダリルを抱きしめているみたいだ。
今日は"ちょっと子供っぽい日"らしい…
可愛いダリルに自然と笑みがこぼれた


コンコン


「エリー?ダリル?起きてる?」
『カール?』
「うん、キャロルがご飯食べてって」
『ありがとう。ダリル起こしたら行くね』
「分かった。待ってるね」


ダリルが再び眠りについてからしばらくすると
扉が叩かれ、カールの声が聞こえた。
部屋には入らず用件を伝えると下に降りて行った。


『ダリル。起きて…』
「あぁ…?」
『朝ご飯だって。キャロルが呼んでる』
「そうかよ……」
『ふふ。起きてったら』


ダリルの髪を撫でて額にキスをする。
しばらくするとゆっくり目を開けて私を見上げた。
上目遣いはずるいと思うんだ……
普段、見下ろされている分、いつもと違う姿にドキッとする。

私は可愛いダリルにキスをした。
寝起きのダリルを苛めたくなって何度も何度も、
角度を変えてキスをして、最後に唇を舐めて離れた。


『リップクリームが必要だね。カサカサだもん』


そう言って笑ってダリルを見た時に"しまった"と思った。
寝ぼけて可愛いダリルにちょっと悪戯をするつもりが、
もう可愛いダリルはどこにもいなかった。
彼の瞳にはしっかりと"獲物を狙う光"が宿っている。


『あー……ダリル?あの、ご飯、食べに行こう?』
「飯より先に"ヤること"が出来た」
『待って。おかしい、"やる事"だよね?聞き間違いかな?』
「お前が悪い」
『ダリル?落ち着こう?ね?』


じりじりと壁際に追い込まれる。
顔の両側、すぐ隣に手をつかれ、逃げることが出来ない。
これが日本で大人気の"壁ドン"と言うやつだ……


『あの、ダリ―』
「黙ってろ」


ダリルの荒々しいキスが降って来る。
私が息を吸おうと口を薄く開けた瞬間に舌が入って来て
私の口内を暴れ回る。
自然と息が漏れ、更にダリルの攻撃は激しくなる一方だ。


『ん…はぁっ…』
「そんなエロい顔すんな…」
『してない…っ』
「止められねぇぞ…」
『だめだってば、あっ…』


ダリルは私の耳元でそう言うと耳たぶを噛んだ。
与えられる刺激に反応して声が出てしまう。
ダリルは私のパジャマのボタンを外している


『ちょっと、ほんとに……』

ガチャ

「2人とも早く下に…!?」
『ぐ、グレン!!』
「てめぇ!確信犯だろ!?」
「ち、違うよ!ごめん!だって朝だし!
 キャ、キャロルが呼んでるから!!!」
『せめてノックぐらいして…!』


グレンの登場に慌てて前を閉めて隠すと
ダリルも私の前に出て、グレンに吠える。
"ほんとごめん!"と言うと部屋を出て行くグレン。
階段をバタバタと降りる音が聞こえて、
すぐに階段を落ちる音と"いてっ!"と言う声、
そしてグレンを心配して駆け寄るマギーの声が聞こえた。

いつも間が悪いのか良いのか……
グレンにこういう所を見られるのは初めてではない。


『ほら、またキャロルからの刺客が来るよ』


ダリルは舌打ちをするといそいそと着替え始めた。
私も急いで着替えて、髪に櫛を通して準備をした


「降りるぞ」
『うん、行こう』


ダリルと下に降りてみんなに挨拶をする。
グレンはマギーの隣で気まずそうにしていた


『グレン、今度からノックしてね…?』
「あ、あぁ…ほんと、ごめん…」
「グレン、ノックもせずに入ったの?
 ほんとデリカシーがないんだから……」
『大丈夫だった?階段から凄い音したけど』
「あぁ、平気さ。2、3段踏み外しただけ」
『そう?気を付けてね?』


そう話しながらマギーの隣に座ると
ダリルも続いて私の隣に座った。
座る前にグレンの頭を叩くのを忘れずに…


「エリー、この後少しいい?話があるの」
『えぇ。もちろんいいわよ』


マギーに微笑むと、キャロルのお手製ご飯を食べた。
ダリルは隣で凄い勢いでご飯を食べている。
昨日も私がお風呂に入っている間に食べ終えたみたいだし
相当、お腹が空いてたのかな?


「俺は墓を掘りに行ってくる」
「あぁ、それならモーガンがやってる」
「モーガンが?」
「あぁ。今から様子を見てくる。ダリルは他の事を」
「分かった」
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい、パパ」
「……俺も行くか…」
『バイクいじりに?』
「あぁ、アーロンの所にいる。何かあったら来い」
『うん。いってらっしゃい』


朝食を食べながらダリルを見送る。
私はどの時間帯のご飯もゆっくりだから、
ダリルと共に食べ始めても一緒に食べ終わった事はない。


『キャロル、ごちそうさま』
「えぇ。そこに置いといて」


食器を流しの近くまで運び、リビングに戻ると
マギーに"行こう"と言われて外に出た。


街を奥へと歩き、一番奥の見張り台へと向かう。
そこにはお兄ちゃんが見張りをして立っていた


「ハリー、交代するわ」
「あれ?マギーの番だっけ?」
「グレンなんだけど、昨日のケガのガーゼを変えに
 診療所に行ってるから、その間私とエリーが代わりに」
「グレンが戻ってからで良かったのに」
「いいのよ。早朝からやって貰ってるしね」
『キャロルが朝ご飯、用意してくれてるよ』
「そうか。じゃあお言葉に甘えて交代して貰うよ」


お兄ちゃんはマギーに銃を渡すと降りて行った。
私とマギーは見張り台に並んで立った。


「こないだ話したことを覚えてる?」
『こないだっていつのこと?』
「街に着いたばかりに話したこと。子供の事よ」
『えぇ、もちろん。覚えてるわ』
「実は……妊娠したの」
『本当!?おめでとうマギー!
 妊娠のこと、グレンは知ってるの!?』
「えぇ、もちろん。グレンも喜んでくれたわ」
『他は?誰が知ってるの?』
「エリーだけよ」
『あぁ、本当におめでとう!』


マギーの手を握ってお祝いを述べると
嬉しそうに、でもどこか恥ずかしそうに笑った。


「本当はピートに診て貰いたかったんだけど…
 昨夜、あんなことになっちゃったでしょ?
 これからちゃんとこの子を産めるか不安で…」
『大丈夫よ。私達がサポートするから。
 ここには出産経験者の主婦もたくさんいるし
 いざとなったら知恵を貸して貰いましょう!』
「えぇ、そうね。ありがとう」
『男の子かな?女の子かな?』
「ふふ、エリーったら気が早いわ」
『いいじゃない!マギーはどっちがいい?』
「そうね…グレンの様な男の子だといいわ」


それからマギーと将来生まれてくる子供について
あーだこーだと会話を膨らませていった。
最近、落ち込む事が多かった私にとっては
こんなに嬉しいニュースはない。
また家族が増える。
マギーとグレンの子に早く会いたいな…


「マギー、エリー。お待たせ」
「ちゃんと手当てして貰って来たの?」
「あぁ。ロジータがいてやってくれた」
『グレン!マギーから聞いたわ!本当におめでとう!』


見張り台に上がって来たグレンに抱きつく。
グレンは恥ずかしそうに"へへ"と笑い抱きしめ返してくれた


『パパになるのね…あのグレンが?』
「どういう意味だよ、それ」
「それまでにもっとしっかりしてもらわないとね」
「マギーまで!」
『絶対、素敵なパパになれるよ』


手を取り合うグレンとマギーは幸せそうだ。
私にとって今まではお兄ちゃん夫婦が理想の夫婦だった。
今となってはグレン夫妻も理想の夫婦だ。
それぞれ相手を心から思いやり、支え合っている。
私もダリルと、こんな夫婦になりたいな……


「エリーも早くダリルと結婚しなよ」
『それはダリルに言ってよ』
「エリーから"結婚したい"って言えば?」
『やだよ。ダリルを縛りたくない。』
「ここにはライバルも少ないし、2人のペースで進めばいいわ」
「でも子供を産むなら早い方がいいだろ?」
「やだ、グレン。おじさんみたいなこと言わないでよ」
「おじっ…おじさん……」


マギーに言われてショックを受けるグレン、
そんな2人を見て、私はクスクスと笑った。


「エリーは本心はどう思ってるんだ?」
『何が?』
「ダリルと結婚したいと思ってるかってこと」
『そりゃあ…私も一応、女の子だし?
 グレンとマギーみたいになりたいけど…
 ダリルってそんなことしそうにないじゃない?
 それに生きて側にいられるだけでも幸せだから』
「私も2人に夫婦になって欲しいわ」
「あぁ、俺もだよ」


優しくほほ笑むグレンとマギー。
なんだかちょっと恥ずかしくなってきた…


「うわさをすればよ…」
「本当だ、エリー。ダリルだ」


アーロンの家からダリルとリックが出て来て
そのままリックは私達の家の方向へ、
ダリルはこちらに来るのが見えて2人と見つめる。
一体どうしたんだろう?


「グレン、マギー、エリー。
 リックが呼んでる。ディアナの家へ」
「見張りは?」
「ここはいい。詳しくは聞いてないが、緊急事態らしい」


ダリルの"緊急事態"というワードに顔を見合わせた。


「いいから行くぞ。リックが待ってる」
「エリー、先に降りる」
『うん、分かった』
「マギーと後から来てくれ」


見張り台の待機所にライフルを片付けているマギーを待ち
梯子を降りてから何があってもいい様に下で待ち構えた。
ちなみにダリルとグレンはもうここにはいない。


「何してるの?」
『マギーが落ちても受け止められる様にしてた』
「あはは。落ちないし、エリーに受け止められる?」


マギーは私より身長が高いからなぁ…
受け止めきれる自信はないけど、お腹の子は守れるかも?


『分かんないけど、念の為だよ』
「ふふ、ありがとう。その気持ちが嬉しい」


私はマギーとディアナの家に向かった。
そこには既に何人かの住民も集まっていて、
グレンがソファに座っていたのでマギーも隣に座った。
私はダリルが窓際に座っていたので、その隣に立った。


『リックは?』
「もうすぐ来る。みんなが集まったら始めるらしい」
『そっか。緊急事態ってなんだろうね』
「さぁな」
『そういえばまだモーガンにお礼言ってないや』
「後にしろ。それと…俺はまた外に出ることになる」
『スカウト?』
「いや、別問題だ。リックが今から話す」


部屋の中に入って来たモーガンを見て
お礼を言っていない事を思い出した。
ダリルの言葉に、頭にはてなを浮かべるが
今は住民達とリックを待つしかない…

やがてぞろぞろと住民が続けて入って来て、
最後にリックとディアナが入室し話が始まった。


「急に呼びだしてすまない。緊急事態なんだ。
 実はさっき、モーガンと"ある物"を見つけた」


リックの言葉に全員が黙り、耳を傾ける。
"ある物"とは一体なんだろう?


「谷底に物凄い数のウォーカーがいた」
「群れが?」
「あぁ…何か知ってる者はいるか?」


リックが辺りを見回すと、ヒースが手を挙げた。
彼はスコットとアニーと数週間、調達に出ていた住民らしい。
先程、ユージーンから教えてもらった。


「俺のチームが最初に見た。
 勧誘と周囲の状況を確認しに出た時だ…
 谷底にキャンプがあった。
 住民がトラックで封鎖していた様だが
 彼らは徘徊者と化していた。」
「その後は?」
「DCや…主要な町は逆方向だし、
 死人のキャンプを見る気がしなかった」
「その間、音に引き寄せられ奴らが集まった」
「そういうことだ」


リックは一度全員を見回してからゆっくりと口を開いた。
そして誰もが驚きの作戦を話し始めた。
ウォーカーを谷底から誘い出し、街の逆側に誘導する。
しかもその誘導の役をダリルが……

ダリルの名前が出た瞬間、思わずダリルを見る。
彼は無言で頷くと、不安で瞳が揺れる私の手を握った。


「俺からの提案は危険に思えるだろうが
 すでに奴らが出始めている。
 防御用のトラックが崖に設置されてるが…
 雨が降れば崖は崩落。
 東側に奴らが溢れ出しここへ向かってくる。
 もしもの話ではなくいつか必ず起きることだ」


リックは住民達、全員に伝わる様に語りかける。
彼の必死さが伝わって来てより不安な気持ちになる


「そうならない為にも、早く動く必要がある」
「凄く…恐ろしいとしか言えない…
 何もかもが…他に方法はないわね…」
「あるかもしれない。この町の防御を増強すればいい。
 俺はレグと壁を建てた経験がある。
 新たに設計して壁を作り、さらに安全に…」
「音に引き寄せられ、日々奴らの数が増す」
「リックに従うわ。彼の作戦通りに動いて」


ディアナがこちらを振り向きもせず発言した。
……レグの死が相当、堪えているらしい。


「すでに話したようにダリルが奴らを導く」
「私もやる。車で並走するわ。
 奴らの流れがそれた時に対応出来る」
「俺も同乗する。1人より心強いだろ」
「2組必要だ。道の両側に分かれサポートする。
 監視はロジータとスペンサー、ハリーだ。
 3人以外で…誰がやる?」
「待ってくれ。俺もやる。監視はホリーに―」
「だめだ。作戦中は慣れているハリーに任せたい。
 何が起こるか分からない。不測の事態に対応してくれ」
「……分かった…」


リックの厳しい声色にしぶしぶ頷いたお兄ちゃん。
再び、リックは住民達を見回した。


「さぁ、誰がやる?」
「私が」


ミショーンが手を上げたが、誰も手を上げない。
グレンはマギーに何かを小声で話している。
私が手を上げようとした瞬間、繋いでいる手を
ダリルにくいっと引っ張られた。


「エリー」
『誰かがやらなきゃ。そうでしょ?』
「お前がやる必要はない」
『ここの住民達に任せてたら全員死んじゃう。
 私達が率先してやらないと、この町を守れない』
「俺はウォーカーの先導をしなきゃならねぇ…
 お前に危険が迫った時、側にいられねぇし
 守ってやることも出来ねぇ…そんな状況で―」
『ダリルよりは安全だよ。ウォーカーが森の中に
 入って来るとは限らないし、他にも仲間がいる。
 ミショーンの側にいればリスクも少ないでしょ?』


ダリルはまだ私を作戦に参加させたがらない。
じっとこちらを見つめて、何かを考えている


「ハリーと代わって、見張りをすればいい。
 そうすれば作戦の役にも立つし、
 銃が得意なエリーの腕も活かせる。」
「俺もやる」
『ほら、グレンもやるって』
「マギーは行かない」
『マギーは…私とは違って行けない理由があるの』
「……なんだ?」
『あー……』
「赤ん坊か…?」
『うん、まぁ…そうだよ』


思い当たる節があったのかダリルはすぐに当てた。
もしかしたらそれとなくグレンから聞いていたのかも…
これは想像だけど、ハーシェル亡きいま、
グレンはきっとリックに相談していたと思う。
ダリルにも何か話していても不思議じゃない。
グレンは…隠し事が出来ないのは相変わらずだしね。


『だから、行かせて…?』


ダリルは視線をうろうろとさせた後
私の方をしっかりと見て、頷いた。


「ぜってぇ死ぬんじゃねぇぞ」
『うん、もちろんだよ』
「ミショーンとグレンの側を離れるな」
『分かった。ずっと側にいる』
「やばいと思ったらとにかく逃げろ。
 走って逃げれば…なんとかなるだろ」
『うん、大丈夫だよ。体力付けたもん』


ダリルの手を握り、しっかり目を見て頷く。


『ダリルだけを戦わせない。私だって戦えるよ』
「……あぁ。分かってる」


ダリルが頷いたのを見て、私も名乗りを上げようとした。
するとカーターが再び、作戦には反対だと声をあげた。


「やっぱ他の方法を考えよう。一度に全員を導くのは…」
「奴らは群れをなす。引き付ければ一度に誘導出来る」
「あんたを信じろと?"あんなこと"をした人間に…?」
「"あんなこと"?」
「銃を振りかざし、怒鳴り散らした。人間を射殺した」
「やめなさい!!」


ピリッとした空気の中、ディアナは初めて振り向いた。
リックは恐ろしい顔でカーターを見ている。


『リック、私もやるわ』
「俺もやる」
「私も…」
「協力しよう。俺もやる」
「他には?」


私が手を上げるとヒースも続き、他の住民達も続いた。
ふと目の前のグレンを見ると視線だけで会話をしている
その視線の先にはニコラス。
グレンはあれだけのことをされてもこの男を庇っている


「俺も…やるべきだ。力になりたい」
「やれるか…?」
「人手が必要だろ?」


正直、この男に出来るとは思わない。
リックはグレンと私の顔を見て判断に迷っている。
少し考えた後、ゆっくりと頷いた。


「必ず成功させ、この町と家族を守ると約束する」
「作戦をもう一度」
「…もう説明した」
「細部まで、もう一度。詳しくだ」


カーターの言葉にリックが"地図を"と言った。
ポーチに出て、机に地図を広げ説明を始める


「マーシャルとレティングの交差点を西へ」
「どうやって?」
「他を封鎖して町へは向かえない様にする」
「封鎖方法は?」
「RV車やトラックを敷き詰めるんだ」
「奴らは音のする方へ進み続ける…」
「車だけで封鎖するってのか?
 1体でもすり抜けたら、他の奴らも気付いて
 その隙間に次々に流れ込むんじゃないのか?」
「確かに……」
『簡易的な壁は作れないの?』
「ここにはその素材がない」
「板がある。建設現場に金属板があるのを見た。
 車の防御壁を補強し、衝撃を吸収できる。」
「大群なんだぞ!?その壁が持ちこたえなかったら
 この角を突き抜ければ、東へ流れまっすぐここに。
 そのリスクを負ってまでやることか!?」
「いいや。持ちこたえるように、君がしてくれ」
「ここの壁も不可能を可能にした」
「カーター。お願い…」
「……分かった、やろう…」


カーターが頷き、壁を建設するために何が必要で
どの様に調達するかリック達と話し合いを始めた。


「エリー、来てくれ」
『うん、なに?』


ダリルに呼ばれて輪の中から外れる。
下に降りると、ダリルはどこかに向かって歩き始めた
黙って彼の隣に並んで歩く。

一体、どこに向かってるんだろう?

ダリルが来た先はアーロンの家だった。
慣れた様子で車庫に入って行く。


『勝手に入っていいの?』
「許可は取ってある」
『おじゃましまーす…』
「これをエリーに見せたかった」


そこにはダリルが乗っているバイクの隣に
少し小さめのバイクが並んでいた。


『わぁ!かっこいいバイク!』
「このバイクはオートマチックだ。
 エリーにも乗れると思って直した」
『これ、私にくれるの?』
「あぁ。何かあったら後ろにマギーか
 カール、ジュディスを乗せて逃げろ」
『うん、分かった。ありがとう』
「乗ってみるか?」
『うん!乗ってみたい!』


ダリルは鍵を取り出すと説明しながらエンジンをかけた。
オートマだけあって日本の原付と特に操作は変わらない
これなら私にも簡単に乗れそうだ。


『最高速度は?』
「100キロくらいだろうな」
『100キロ!?最高だね!』


バイクを押して車庫を出るとバイクに跨る。
久しぶりにバイクを運転するわくわくが止まらない


『走ってもいい?』
「あぁ、こけるなよ」
『うん!!』


ブルン、と一度鳴らした後、町の中を走り回った。
風を感じてとても気持ちがいい。
ディアナの家の前を通るとミショーンが
目を見開いているのが見えておかしかった。


『あー、楽しかった!』
「バイクの調子も問題なさそうか?」
『えぇ!凄く良い子、気に入った。
 本当にありがとう。ダリル』
「あぁ」


ダリルにお礼のハグをして車庫に戻した。


『今度の作戦の時も乗って行っていい?』
「あぁ、好きな時に使っていい」
『カールにも自慢しようっと』
「適度にしとけよ。欲しがったら困る」
『そうだね。ちょっとだけにしとくよ』
「エリー、あんたバイク乗れたの?」
『オートマならね。ミッションは無理』
「かっこいいね。ライダースジャケットを
 見つけたらすぐエリーに持ってくるよ」
『いいね。真っ黒の革のだと最高なんだけど』
「あぁ、そういうのを探すとしよう」


ダリル、ミショーンと家へと向かう。
明日からは忙しい毎日になりそうだ…


「ちょうどいいところに!
 エリー、夕飯を作るの手伝ってくれない?」
『えぇ、もちろんいいわよ』


マギーとキャロルが夕飯を作っているのを手伝う。
今日は作戦会議の関係で遅くなってしまった。
3人で急いでご飯を作り、カールにミルクを渡して
ミショーンがテーブルを片付けた。
全員で食事を取ると、シャワーを浴びて部屋に戻る。
髪をタオルで拭きながら戻ると既にダリルがいた。


『ダリルもシャワー浴びたの?珍しいね』
「あぁ。今日は"ヤること"が出来たからな」


ニヤッと笑ったダリルに今朝の事を思い出す。
そういえば今朝はダリルに悪戯をして
グレンに邪魔されたんだっけ…?
こいつめ…良く覚えてたな……


『あー……覚えてたの?』
「当たり前だろ?早くこっち来いよ」
『うん……』


これから起こる事に期待と恥ずかしさを持ちつつ
ダリルの座っているベッドへと近付いて腰かけた。
額をくっ付けると意地悪そうに笑って彼は言った

「朝みたいにキスしてくれねぇのか?」
『…意地悪言わないで』


ダリルはフッと笑うと優しく私の名前を呼んだ。
近距離で目と目が合うと、片手で私の頬を撫で
キスをした。何度も、何度も。角度を変えて…

キスをしながらそっと私を押し倒し、舌を入れてくる
私はダリルの首に手を回してそれに応えた。

唇が離れる時、銀色の糸が出来て、
それがまた卑猥に見えて私を興奮させた。


「大きい声出すなよ…ハリーに聞こえるぞ」


ダリルのその言葉を"スタート"の合図とし、
私達はお互いを求め合った。

隣の部屋に自分の兄がいる。
絶対に声を漏らして行けないという状況に
また違った興奮をしていたのは私だけではなかった。





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