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次の日、目が覚めると外からは話し声が聞こえた。


『アンドレア、エイミー、おはよう』
「「おはよう、エリー」」
『どこに行くの?』
「川に行くのよ。顔を洗いに……
 ふふ、あなた凄い寝癖よ?一緒に行く?」
『やだ、本当?寝癖を直しに一緒に行くわ』


2人と一緒に川に向かい、顔を洗って寝癖を直した。
川に写った自分の髪型を見たら本当に凄い寝癖だった!
あれはもはや芸術の域だったかもしれない…
と、調子に乗って"ふふ"と笑っていた。


「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど…」
『なに?どうしたの?』
「エリーとグレンは付き合ってるの?」
『えっ!?いやっ、付き合ってないよ』
「じゃあエリーはグレンの事、どう思ってるの?」
『えっ、とぉ……』


目をキラキラと輝かせて聞いてくるエイミー。
その後ろではアンドレアも笑顔だ。
これは……答えないといけないパターンだよ、ね…


『私…は……』
「私は!?」
『……好きなの。ずっと』
「きゃー!やっぱり!?」
「エイミー、静かに!!」
「あ、ごめんなさい……」


興奮して大声を出したエイミーは
アンドレアに怒られて、はっと口を手で覆った。
そんな彼女の様子に私は苦笑いで返した。


「いつから好きなの?」
『もうずっと前からよ』
「2人は同じ職場だっけ?」
『そうなの。グレンは同僚なの』
「社内恋愛ね!素敵だわ!」
『違うわよ、社内片思い…』


女の子は誰でも恋の話は好きなものだけど、
特にエイミーの年頃は夢中になってそうだ。


「いいわね。私も好きな人が欲しいなー」
「こんな世界で何言ってるのよ」
「いいじゃない。恋に世界は関係ないわ」
『まぁ、でも今から相手を見つけるのは難しいかもね』
「そうね。このグループは既婚者が多いし…」
「でもシェーンは違ったじゃない」
「そうだけど……」
『ローリのご主人の相棒だっけ?』
「そうよ。でも今、2人は"いい関係"みたいだし」
『"いい関係"?』
「何度も2人で森に入ってる。
 それも私達にバレない様に別々にね」
『え…?あれって"そういうこと"なの?』
「いいじゃない。他人の事情に口出しは禁物よ」


私はシェーンがローリを追いかけて森に入るのを
確かに何度か見てたけど、まさか…そうとは……
エイミーに"エリーと子供達以外は全員気付いてる"と
言われ若干のショックを隠せないでいるけど……


「とにかく、彼らも大人なんだから放っておきましょう」
『そうね…誰がどう恋愛しようが自由だもの…
 あ、でも出来ればグレンは好きにならないで…?』
「「ならないわよ」」
『即答もどうかと思うんだけど…』


真顔で即答してくる姉妹に再び苦笑いで返す。


「さっ、そろそろ戻りましょう」
『ねぇ、くれぐれも内緒にしててね』
「もちろんよ。でも女性陣にはバレてると思うわ」
『え゛……』
「エリー、分かりやす過ぎるもん」
「男性陣はどうか分からないけどね」
「勘が良い人がいたら気付いてるかもね〜
 むしろ隠す気がないのかと思ってたくらいよ」


エイミーに言われてがっくり肩を落とす。
まぁ、グレンはこういうことに関しては
かなりの阿呆だからいいとしても……
他の人にバレてたらなんか恥ずかしい…
デールは気付いてそうだなぁ……


「ほら。いつまでそこにいるの。行くわよ」
『はーい……』


2人の後をついてキャンプに戻った。


「おい」
『あ、おはよう〜』
「"おはよう〜"じゃねぇ。
 ちゃんと名前言えるようになったんだろうな?」
『うーん、たぶん……』
「言ってみろ」
『……メルル』
「もう一度」
『メルル!』


昨日、そして川でもこっそりと練習した。
もうそれは何度も何度も……
だからこれで許して下さい…!


「まぁ、いいだろう。下手くそな事に変わりはねぇが」
『じゃあアトランタにも付いて来てくれる!?』
「今回はついて行ってやるよ。
 せいぜい足手まといにならねぇ様にするんだな」


メルルは片手をあげるとテントに戻って行った。
良かった…軍隊経験があるメルルがいれば
きっと私達の生存率もグッと上がるはず…


「おはよう、調子はどうだ?」
『絶好調よ』
「それは良かった。他の皆も問題がない様だから
 メンバーは予定通り。朝食を食べたら出発してくれ」
『うん、分かった。』
「俺は最後にメルルに確認してくるよ」


シェーンは私の頭を撫でるとメルルのテントに向かった。
私は"おはよう"と声をかけてくれたグレンと
可愛い笑顔を振りまいているカールの間に座り
朝食を食べて、出発の時を待った。


「全員、準備は出来たか?」
「いつでも行ける」
「アンドレア…!」


アンドレアとメルル以外が車の前に集まり、
エイミーと出発前の言葉を交わしている
アンドレアをシェーンが呼ぶ。
最後に2人はしっかりとハグをしてこちらにやって来た。
メルルも出会ったころに持っていた銃を持って
こちらに歩いてきた。銃以外の持ち物はなさそう…
多少の水とかリュックとかは持って行く気はない様だ。


「よし、じゃあこの車で行ってくれ。
 予定通りに運転はグレン、助手席は―」
「俺に運転させろ」
「いや、メルル。ここはグレンが―」
「俺が運転する」
「……分かった。何かあったらすぐにグレンと代われ」
「あぁ、いいだろう。助手席にはモラレスが」


メルルが運転だなんて、なんて不安なんだ…
助手席に指名されたモラレスも嫌な顔をしている。


「エリー、乗ろう」
『うん』


一番後ろの列にグレン、私、ジャッキー
真ん中の列にTドッグ、アンドレアが座ると
しぶしぶモラレスも助手席に座った。


「くれぐれも気を付けてくれ」
「あぁ、妻と子供達を頼む…」
「エイミーのこともお願い。」
「こちらのことは心配するな」
「おい、行くぞ」


メルルの言葉に全員が頷き、車は出発した。
エイミーとモラレス一家は車が見えなくなるまで
ずっと私達のことを見送ってくれていた。


「曲でもかけるか?おい、何かねぇのか?」
「おい正気か?音で奴らが寄って来るぞ!」
「ノロマなあいつらに追いつけやしねぇさ」
「キャンプを危険な目に合わせるかも!?」
「いいからグローブボックスを見てみろよ」
「…残念だがCDは何も入ってないみたいだ」
「ちっ。しけた車だぜ、全く…」


メルルは舌打ちをすると車のスピードをあげた。
全員が思うことはただひとつ。
"やっぱりこいつに運転させるんじゃなかった"





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