私達はダリル抜きで無事にキャンプに辿り着いた。
珍しくメルルがテントの外に出て、何か作業をしていた。
顔を上げるとダリルがいない事に気付いてか顔を顰める


「俺が話してくる」
「えぇ、お願い……」


シェーンがメルルの元に向かい、事情を話す。
メルルもそれはそれは嫌そうな顔をしたが
何やらシェーンに説得されてしぶしぶ頷いた。
メルルに何を話したかまでは分からないけど
"あの"メルルを頷かせるとは…さすが保安官…!


「アトランタへはメルルが付いて行く」
「そう…ここに残しておくよりはいいわね」


アンドレアはエイミーを見てそう言った。
やはり妹を1人残していくのは不安も大きいよね…


「メルルを先頭に走らせるのか?」
「そのつもりだ。軍隊経験がある奴が前の方がいい」
『5人だけで行くの?ちょっと不安かも…』
「あぁ、そうだな……」


シェーンはみんなを集めて、更に希望者を募った。
ルイスを救ってもらったモラレス、そしてジャッキーも
名乗りを上げて、7人でのアトランタ行きが決定した。


「エイミーとエリーが釣って来てくれた
 魚を使って、体力が付く夕食を作るわね!」
「私も手伝うわ」
「グレン、悪いんだけど薪を拾って来てくれない?」
「もちろんいいとも」
『私も行くわ、グレン』
「2人とも気を付けてね」


グレンと一緒にまた森の中へと入る。
薪と落ちている葉っぱを袋に詰める作業をする


「エリー」
『んー?なに?グレン』
「怖くないか?」
『…え?何が?』
「明日の事だよ」


顔を上げてグレンを見れば心配そうな顔。
思わず手を止めてグレンを見つめた


『全く怖くないって言ったら嘘になるけど…
 でも平気だよ。グレンがいるし、Tドッグもいる。
 私達はもう2回もアトランタに行って帰って来た』
「そうだけど…今度は今までの様にはいかない…」
『どうして?みんながいるから?』
「メルルが大人しく言うこと聞いてくれると思うか?」
『うーん……でもメルルも死にたくはないと思うよ』
「それはそうだけどさ…」
『大丈夫だよ、きっと助けてくれる。
 それにグレンの事は絶対に私が守るから』
「ははっ、俺が励ますつもりが励まされちゃったな」


頭を掻いて笑うグレン。
薪を拾い集めるとみんなの元に戻った。


『明日出来ない分、多めに取って来たよ』
「ありがとう、助かるわ」
「じゃあ俺達は明日の準備をしよう」
『うん、夕食楽しみにしてるね』
「えぇ、任せてちょうだい」


キャロルに微笑むと、明日の準備をしにテントへ。
サイレンサー付きの銃とナイフ、バックパックに水
携帯食料も念の為に入れて…後は何かいるのかな?
小さなタオルくらいは入れておこう。

特に持って行く物がないからあっと言う間に
準備も終わってしまって、ひまになった。
ふむ……出発に向けて少しでもメルルと
コミュニケーションを取っておくか……
そう思い、私はメルルの元へと向かった


『メルル、起きてる?』
「なんだ?お嬢ちゃんか…
 何の用だ?夜這いするには時間が早すぎるぜ」
『呆れた…夜這いなんてするわけないでしょ?』
「じゃあ何の用があって来たんだ?」
『メルルは軍隊の経験があるんでしょ?
 じゃあ強いんだよね?ウォーカーにも勝てそう?』
「当たりめぇだろうが。あいつらに負ける訳がねぇ」
『自信満々なんだ?』
「当然だ。俺が殺られるビジョンが見えねぇ」
『ふーん…それは頼もしいね』
「そんなことより…お前、もっと警戒した方がいいぜ?」
『どうして?っていうか何に?』
「俺にだ。こないだレイプされかけたの忘れたか?」
『忘れてないよ。でもすぐそこに皆もいるし
 あの時だってメルル、本気で私を襲おうとしてたの?』
「……さぁな?」


私の返事に肩をすくめたメルル。
なんだか煮え切らない態度だ。


「それより、気になる事があるんだが」
『なに?』
「お前のその"メルル"って発音だ。
 もっと上手く呼べねぇのか?下手すぎるぜ」
『だって呼びにくいんだもん。メルルって…』
「いいからやってみろ。メルルだ」
『メルル』
「違う、メルル」
『メルル』
「だから違うって言ってんだろ?!」
『一生懸命やってるってば!』
「キャロルが言えて、メルルが言えねぇ訳がねぇ」


いくらアメリカに住んでいるとは言え、
キャロルやメルル、ダリルの名前は言いにくい…
こう…舌が回らない感じがするし絡まりそうになる。
キャロルの名前はこっそり影で練習はしてたけど
メルルとダリルの練習はそんなにしてなかったのが
この男にはバレてしまったみたいだ。


『メル、メルル…メルル…』
「………これだから中国人のガキは…」
『だから日本人だし、ガキじゃないし!』
「今日1日練習してろ。明日までに直ってなかったら
 アトランタにも付いていってやらねぇからな」
『ちょっと!うそでしょ!?そんなの困るよ!』
「じゃあしっかり練習するんだな」


メルルは話は終わりだと言わんばかりに
しっしっと手を振って私を追い出したメルル。
私は悔しそうにテントを去りながら"メルル"と
ひたすら練習を重ねるしかなかった。


『いたっ、舌噛んだ……』
「エリー?さっきから何してるの?」
『ルイス…聞いてくれる?メルルがひどいの』
「メルル?あの怖いお兄ちゃん?」
『そうだよ。ちゃん発音良く"メルル"って呼ばないと
 明日のアトランタに一緒に行ってくれないなんて
 意地悪を言いだしたのよ。だから必死に練習してるの』
「簡単だよ!"メルル"って言えばいいんだ!」
『私には簡単じゃないのよ……』


心配そうに私の顔を覗き込むルイス。
アメリカ育ちはいいなぁ…
嘆いててもしょうがないけどね!
練習あるのみだ!!


「夕飯の準備が出来たわよ」
「子供達!戻って来なさい!」
「「「「はーい!」」」」
「凄くいい匂い……」
「腕によりをかけたのよ」
『美味しそう…!』
「さぁ、食べて」


いつも通り、メルルの元にデールが食事を運ぶ。
そこで私はやっと気が付いた。
ダリルは森の中で夜を過ごすつもりなんだろうか?


『ダリルってまだ帰ってきてないよね?』
「あぁ、戻って来ないんじゃないか?
 "アトランタにも兄貴と行ってくれ"って言ってたし」
『やっぱり?森の中で夜を過ごすつもり?』
「ダリルなら大丈夫だろ。野生人って感じだし」
『ちょっとグレン…ふふ…』
「いや、いい意味でだから!」


笑う私に慌てて弁解するグレン。
"いい意味での野生人"って一体なんなのだろうか?


『そんなの聞いた事もない…ふふ』
「いいから、早く食べろって」
『はいはい、分かりました〜』


和やかな雰囲気で食事の時間は進んでいく。
キャロルのお料理スキルはぜひとも欲しいものだ…
ピザ作りなら負ける気はしないんだけどなぁ…
それからパンもね!唯一の得意料理!


『かまどがあればね、ピザが焼けるのに』
「ジャンキーな食事がしたいよ」
『分かる…ポテトやナゲットが食べたい…』


アイスクリームも食べたいなぁ…
それから温かいチョコの入ったパイ…
緑茶とおぜんざいだって食べたい。
食べ物の妄想は進むばかりだ


「明日は早朝から出発することになるが
 少しの油断が命取りになる危険がある。
 見張りは俺が引き受けるから皆は早く寝てくれ」
「寝不足でウォーカーにやられました
 なんて笑えないものね。早く寝ましょう」


アンドレアの言葉に背筋がゾッとした。
私は急いで夕食の残りを食べると寝る準備をした


『キャロル、ローリ、ごちそうさま
 いつも美味しいご飯をありがとう』
「いいのよ。こちらこそありがとう」
「今日はゆっくり休んで」
『うん、おやすみ』


一目散にシュラフに包まり、眠りについた。
最後に"メルル"と復習するのも忘れずに……






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