23

『おはよう……』
「おはよう、エリー。さっ、早く朝ご飯食べちゃって」
『ん……』
「エリー?零すよ?」
『うん…』
「ほら!シャキッとしろ!」
『いひゃいっ!!』


眠い目を擦りつつ、カールの隣に座って
シリアルを口に詰め込んだ時、グレンに背中を叩かれた。
思わず抗議の声をあげるけど、シリアルが口に入っているので
変な声になって、逆に恥ずかしいめにあった…


「リックのところに行くけど、どうする?」
『私も行く!!』
「じゃあ早く食べて」
『うん!』


笑うグレンにちょっとムッとしつつも
シリアルを牛乳で流し込んで急いで食べた。
食料不足だからしっかり噛まないといけないんだけど
とにかく早くリックの元に行きたかったから仕方ない。

いつもより何倍も早く、朝食を食べて食器を運ぶ


「いつもそれくらい早く食べてくれると助かるんだけど」
『うーん、それは厳しいかな』
「エリーは僕よりも食べるの遅いからね」
『本気出せば早いのよ』
「今日の半分でいいからいつも本気出してちょうだい」

カール、キャロルと話しながら
食器を流しに運ぶとグレン、キャロル
エイブラハムとリックの元に向かった。


『リック、ミショーン、おはよう』
「あぁ、おはよう」
「おはよう」
「リック、銃はどこから?」
「武器庫から盗んだのね?浅はかだわ、どうして?」
「……万が一の為だ」
「今日、会合を開くらしい。自由参加だ」
『そうなの?』
「追放するため?」
「話し合いよ」
「分からない。マギーがディアナから話を聞く」
「会合では"みんな虐待から目を背けていた"と
 "ジェシーを守る為に銃を手にした"と言うの。
 彼らが望む通りの話をする。私もそうしてきた」
「…なぜ?」
「彼らは子供よ。子供はお話が好きなの」


キャロルの言い方に苦笑いをする。
この街には"大きいお友達"が多いようだ


「望み通りの話をしても追放するとなったら?」
『そうならない様にまずは説得をしなきゃ』
「それにもう銃は盗めない」
「ナイフがある。十分対抗出来る」
『そんなことしたら誰かが必ず傷付くわ』
「最悪、死人が出るかも」
「今夜、会合で自体が悪化したら合図する
 キャロルはディアナ、俺はスペンサー。君はレジ
 グレンとエイブラハム、エリーは援護だ」
「説得してみせる…」
「その通り。"俺達に従わなければ3人の喉を切る"と」
「終着駅の様に?」
「脅すだけだ。武器を渡せばそれで済む」
「……それが狙い?」
「違ったが…限界を越えた。台無しだ
 ……俺のせいだ……悪いが、もう少し寝かせてくれ」


全員でリックの元を去る。
最後尾を歩いているとグレンが話しかけて来た


「不満そうだな?」
『当たり前でしょ。何でもかんでも力で解決するのは間違ってる』
「あぁ、俺も同感だ。」
『………デールがいたら絶対反対してた』
「デールは善人だった。こんなこと許さないだろうな」
『…どうにか止められない?』
「(首を横に振る)会合が上手くいくことを祈ろう」
『そうだね…』


グレンとポーチに座っているとマギーがやって来た


『私、少し中にいるね』
「あぁ、マギーから話を聞いたら伝えるよ」


マギーに手を振ると家の中に入った。
ちょうどカールがジュディスにミルクをあげていたので
私は近くの椅子に座った。


『ジュディスのご機嫌はいかが?』
「うん、凄くいいよ。ミルクも良く飲むし」
『それは良かった。後でお散歩でもする?』
「……いいのかな…外に出ても」
『もちろんよ。私達の自由だわ』
「うん……」
『カール?外には出たくない?』
「ううん、そんなことはないよ」
『じゃあ一緒に行こう。ね?』
「うん」


カールの頭を撫でていると"子供扱いしないでよ"
なんて声が飛んできた。出会った頃に比べると
カールも大きく成長したなぁ…なんて感慨深くなる。
そこにグレンが1人で家の中に入って来た


『グレン、マギーは?』
「会合までに1人でも多くの住民と話すって」
『ディアナと話したって?』
「あぁ、思った通りだって」
『そう…分かった。私も少し話してみる』
「俺は……」
『家にいた方がいい』
「あぁ、ポーチに座ってるよ」
『うん、そうして。カール、行こう』


ジュディスを抱いたカールを連れて家を出ると
グレンも一緒に出て来てポーチに座った。

カール、ジュディスといつもの老人達の元に向かう。
彼らもいつも通りポーチに座って談笑をしていた。


『おはよう、みんな』
「……やぁ、おはよう」
「まぁ、今日もジュディスはご機嫌そうね」
「さっきミルクをあげたんだ」
「そう。優しいお兄ちゃんがいて良かったわね」


ご婦人がジュディスを抱きあげ笑いかける。
旦那さんも柔らかい笑顔になった。
良かった……ジュディスのおかげだ…


『パパが優しければ息子も優しく育つものよね?』
「えぇ、そうね」
『リックも素晴らしい人だわ。元保安官だし、
 私達家族をアトランタからここまで連れてきた。
 赤ちゃんも連れてよ!それって凄い事だと思わない?』
「あぁ、彼は凄い事を成し遂げたと思うよ。だが…」
『ずっと外にいたの。何度も危険に晒されてきた。
 ウォーカーだけじゃなく人間にも襲われてたのよ…』
「……君の言いたい事も分かるよ。理解はしてるさ。
 だが、昨日のやり方がまずかったね。力づくはいけない」
「パパも反省してる…」
「反省してるかどうかは今日の会合で分かるだろう」
「この子達を追い出すわけにはいかないわ」
「そうだ。だからこそ彼もやり方を変えなければ」
『じゃあ…追い出すことには反対なのね…?』
「私は反対よ。子供達にはこの場所と親が必要よ」
「私は彼の今後の行動次第だ。家族は残ればいい」
「僕はパパと一緒にいる。ジュディスもだ」
『そうね。私達家族はずっとリックと一緒よ』


カールの肩に手を回して力強くご老人を見つめる。
彼もじっと私達を見つめて、頷いてくれた。


「会合には出席して意見を発言するとしよう。
 私達が見て見ぬふりをしたジェシーを助けたのも彼だ」
『ありがとう…』


ご老人にお礼を言うと、彼は"やれやれ"と微笑んだ。
しばらくそこで談笑をしていたけど、ピートの家から
キャロルが出てきたのが見えたので失礼した。
カールもジュディスを連れてついてくる。


『キャロル』
「エリー、どうしたの?」
『ピートのところへ?』
「えぇ、食事を届けたわ。
 それからタラを診察してと頼みに行ったの」
『ピートはなんて?』
「しぶしぶ頷いてくれたわ」
『そう……大丈夫?』
「平気よ。彼もいま問題を起こせばどうなるか分かってる。
 お医者様なんだからそこまでバカじゃないでしょう」
『………そうだね…』


聞きたかったのはそういう意味じゃなかったんだけど…
言いたくなくてあえてそう返したのかもしれないから
私もそこから何も言うことはしなかった。


キャロルと家に戻るとポーチにグレンの姿がない…
家の中にもいない様だけど…一体どこに…?


「僕達は中にいるよ」
『えぇ、そうして』
「おう、帰ったか」
「ただいま、エイブラハム」
『エイブラハム、どこに行くの?』
「診療所にタラの様子を見に行って来る」
『そう。そのお花はお見舞い?』
「あぁ、さっき外で摘んできた」
『ふふ、素敵。タラも喜ぶわね』
「だといいが……」
『グレンを見なかった?』
「俺は見てない」
『そう、ありがとう』


全く…グレンはどこに行ったんだろう?
エイブラハムの様にお花でも摘みに行った?
ポーチに座ってるって言ってたのに。

まぁ、いいや。
会合まであと少しの時間しかないし…
ここに座っていようかな…

私はポーチ座って空を見上げていたが、
なんだか落ち着かなくなって木を削り始めた。
ダリルの矢を作ってプレゼントするのだ!


しばらくすると向こうからリックが歩いてくる。


『リック、おかえり』
「あぁ、ただいま…何をしてる?」
『ダリルのために矢を作ってるの
 なんだか…落ち着かないから…』
「そうか……」
『ケガは平気?』
「あぁ、手当てしてくれてありがとう」
『いいのよ。素人の手当てだからあまり無茶しないで』
「そうするよ」


私の頭をぽんっと撫でると中に入って行った。
少ししてミショーンとお兄ちゃんも戻って来た
お兄ちゃん、起きてたんだ……
ミショーンだけ家の中に入り、お兄ちゃんは隣に座った


「矢か?」
『そう。ダリルのために作ってるの』
「なるほどな。俺も作っていい?」
『いいよ。はい、ナイフ。これが見本ね』
「太さとか長さはこれ通りに?」
『そうだよ。飛距離とかが変わって来るんだって。
 私にはよくわからないけど、適当に作ったら
 ぐちぐちと文句言われた事がある。昔だけどね』
「エリーが大雑把過ぎるんだろ」


お兄ちゃんにはバレちゃうみたい。
私が大雑把に作り過ぎてダリルに怒られたのだ。
でもそこまで重要なら先に言っておいてくれれば
私だってもっとちゃんと作ってたはずなのだ。
………たぶん。


『リックとは話したの?』
「あぁ、さっき少しだけな」
『なんて言ってた?』
<……会合が上手くいかなかったら街を乗っ取ると>
<お兄ちゃんには何をしろって?>
<見張り用のライフルを持って来て欲しいって>
<…どうするの?>
<持ってくるしかないだろ…?後で取りに行くさ>
<会合に銃を持って行くなんて怪しまれない?>
<いや、恐らくスペンサーも持って行くだろう>


お兄ちゃんと会合について話していると
ミショーンが家の中から出てきた。


『リックは?』
「会合に来るための準備をしてる」
「そうか。俺達も行くか」
『この矢を片付けてから行く』
「先に行ってるよ」
『うん、すぐ行く!』


ナイフを腰のホルスターに入れて矢を部屋に運ぶ。
集中してなかった割には良く出来た。

家を出ると前の方にリックが歩いているのが見えた。
私も急いで身支度を済ませて会合の場へと移動した




「始めましょう」
「待って、まだ来てない。グレンもリックも」
「始めるわ。もう暗くなった。話し合いましょう
 乱闘やその原因については対処するわ。
 話し合うのは警官のリックについてよ…
 武器庫から銃を盗み出した事、人に向けた事
 彼の発言についても……彼は不在たけど」
「"来る"と言ってた」
「必ず来るわ、きっと解決出来る」
『家を出て行くのを見た。絶対に来るよ』
「とにかく、会合は進める」
『……探してくる』
「その前にあなたの意見を言って行ったら?」


ディアナの厳しい視線が私に刺さる。
隣のお兄ちゃんを見れば、頷いている
私は住民達を見回して話を始めた。


『私は、この世界になったはじめからリックと一緒にいる。
 上手く英語も話せない。家族も側にいない。戦えない。
 そんな私を仲間に入れてくれたのは他でもないリックよ…
 彼がいなければ私は生きていない。お兄ちゃんとの再会も
 果たす事が出来ずに、1人寂しく死んでいたと思う。
 彼はたくさん失った。最愛の妻も、親友も仲間も家も…
 それでもみんなを守る為に動いてくれているの。
 この世界は、戦わなければ勝てない。だから戦うの。
 私達と一緒に。手を取り合ってこの世界を生き抜くの…』


全員が黙って私の言葉を聞いてくれている。
この想いが届けばいいんだけど……


『以上よ…じゃあ私は迷子のお巡りさんを連れてくる』
「エリーの兄のハリーだ。次は俺の意見を聞いてくれ」


私は街の奥に向かって走り出した。
一刻も早くリックを連れてこないとね…


『リック!どこなの!?リック!』


辺りはもう暗い。
でも家の明かりのおかげでライトがなくても見える。
もう街の奥の方まで来てしまったけど、リックはいない…
全く…!会合があるというのにどこに行ったんだ!?


『リック!どこ!?』
「来るな!ウォーカーだ!」
『え…?』


リックの言葉を理解したと同時に横から呻き声。
小さなウォーカーが私を食べようと直進してきた。
後ろに下がろうとして花壇につまずき、後ろにこけると
ウォーカーは私に覆いかぶさって、歯をガチガチ鳴らす。

子供のくせになんでこんなに力が強いの!?
というか、こけた時に打った頭が凄く痛い…

ウォーカーを押さえながら腰にあるナイフに手を伸ばす。
そしてナイフをウォーカーの頭に突き刺した。
リックの声がした方に走れば2体に襲われているリック
片方のウォーカーの頭にナイフを刺してリックを助けた


『大丈夫!?』
「あぁ…助かった…エリーは?
 倒れるのが見えたが、噛まれてないか?」
『平気。頭を打ったから痛むけど噛まれてない』
「良かった…」
『どうしてウォーカーが?』
「ゲートが開いていた。ウォーカーが侵入した形跡を見つけ
 慌てて街の中を全て見回っていたんだ。だから会合には…」
『うん、事情は分かった。仕方がないよ。
 でもゲートを開けたままにしとくなんて…自殺行為よ』
「あぁ。これで分かった。俺達がいくら頑張っても
 彼ら自身が変わらなければだめなんだ。それを話す」
『………ウォーカーを担いでどうするの?』
「彼らに見せる。エリーも子供のウォーカーを担げ」
『え…本気?』
「あぁ、本気だ」
『彼らには刺激が強過ぎない?』
「強すぎるくらいがいい。ちゃんと現実を見せる」
『………分かった』
「頭痛が酷いなら無理はしなくていいが…」
『大丈夫。これくらい持てるよ』


リックと一緒にウォーカーを担ぎ、みんなの元へ向かう。
さっき打った頭の痛みはズキズキと増す様に感じて
思わず眉間にしわが寄るが、黙って歩き続けた。


血だらけのリックと私を見て皆の顔がゆがむ。
リックはウォーカーをドサッと火の前に投げた。
私はその隣に子供のウォーカーをそっと置いた
お兄ちゃんが駆け寄って来て、私の頬を両手で包む


「おい…ウォーカーの血か?」
『うん、私の血じゃないから安心して』
「はぁ……良かった……」
「門に誰もいなかった。開いてたんだ」
「スペンサー…?」
「ゲイブリエルに頼んだ…!」
「行って」
「いいか?こいつは自分で勝手に入って来た。
 俺が気付いて街を見回っていなかったら…
 今頃どうなっていたか分からない…
 それに、俺を探すために街を大声をあげて
 走ったエリーがウォーカーに襲われた。」


そこで全員の視線が私に集まる。
目の前でウォーカーを刺したから返り血を
浴びまくってる私は、みんなの目にはどう映るんだろう?


「エリーだからこそ、俺達は生きてるが
 これがこの街の住民だったらどうなってた?
 俺も、そいつも、死んでいただろう。
 ウォーカーにとってはもちろんだが…
 人間にとっても壁の中の俺達は標的だ
 外の者たちは、俺達を狩る。
 俺達を見つけ、利用しようとする。
 殺しもする。そいつらを殺す。
 生き伸びる方法を教える。こう考えてた…
 "君達を救うには何人殺すべきか…"
 だが、やめた。いいか?君達が変わるんだ。」


リックはそう言うとディアナの方を向いた。


「昨日の言葉は撤回しない。
 もっと早く言うべきだったよ…
 今すぐ腹をくくり決断するんだ。
 運が尽きる前にな…ためらう暇はない…」


その時、ジェシーの顔つきが変わった。
ウォーカーの様なズリズリと足を引きずる音が聞こえ
振り向くとそこには刀を持ったピートの姿が…
リックが私を背中に隠し、レジが前に出る。


「お前はよそ者だ!」
「エリー、ハリー、下がれ…」
「あ、あぁ…」
「ピート。やめろ…」
「どいてくれ、どくんだ!レジ!」
「今よ…」
「どけ!!」


ピートの刀の刃がレジの喉をかすめ血が飛び散る。
ディアナが夫に駆け寄るが、レジは声すら出ない…
息も出来ず、苦しんでいる。
エイブラハムがピートを拘束し、ピートは叫んでいる。


「放せ!あいつのせいだ!」
「しっかりして!あなた…なんてこと…」
「あいつだ!あいつが悪い!」
「リック……やって……」


ディアナは憎しみのこもった目でリックにそう言った。
リックはピートに銃を向け……打ち殺した。
エイブラハムの顔に血が飛び散り、彼は眉をしかめた。
私はそっと視線を外し、動かなくなったレジを見つめた。


「リック…?」


知らない声に視線をあげるとそこには黒人男性が…
後ろにはダリルとアーロンの姿が見える。
きっと2人がこの黒人の男性を連れて戻って来たのだろう。

会いたくて堪らなかったダリルの姿に思わず目が潤む。
無事に帰って来てくれた喜びと、ダリルがいない間に起きた
悲しい出来事への喪失感が一気に襲ってくるが
ぐっと涙を堪えてダリルを見つめた。


ダリルはリックを見つめた後、キョロキョロと目線を泳がせ
私に気付くと、眉間にしわを寄せて近付いてきた。


「エリー、無茶すんなって言っただろ?」
『街にウォーカーが入って来て…急に襲われたの…』
「ケガは?噛まれてねぇか?」
『うん、でも転んで頭を打ったからちょっと痛い』
「血を落として薬をもらわねぇとな…
 おい、リック。こいつはもういいだろ?」
「あぁ…だがダリル、君は残ってくれ」
「だが―」
「エリーが心配なのは分かるが、話が聞きたい」
『大丈夫だよ、ダリル。向こうにはロジータもいるし』
「俺が付いて行く。俺はいいだろ?リック」
「……エリーを診療所まで連れて行ったら
 ハリーとエイブラハムは一度街の見回りをしてくれ
 念の為、殺し損ねたウォーカーがいないか確認する」
「あぁ、分かった」
「おーけー。じゃあ行こう、エリー」
『ダリル、後で話そう』
「あぁ」


お兄ちゃんとエイブラハムと診療所に向かう。
その間にウォーカーがどこにいたかも伝えた


「じゃあ俺達は見回りに行ってくる」
『うん、気を付けてね』
「2人ともどうしたの?ってエリー!?」
『マギー。平気だよ。ウォーカーの血だから』
「ウォーカー?外に出たの?」
『ううん、街に侵入してた。頭を打ったから薬が欲しくて』
「分かったわ。とにかく中に入りましょう」
『うん』


マギーと中に入るとタラが体を起こしていた。


「タラ…」
『タラ…っ!』
「私は大丈夫だから…2人をお願い」


タラの視線の先には傷だらけのグレンとニコラス。
マギーが慌ててグレンに駆け寄る。


「大丈夫だ……」
「何があったの?」
「外に出たらウォーカーに…軽傷さ」
「……これは?」
「弾が跳ね返って…マギー、心配ない」


ニコラスを見るとじっとグレンを見ていた。
あの目は"余計なことを言うな"とハラハラしてる目だ…


『グレン』
「エリー、なんだ。エリーも血だらけだな」
『自分の血じゃない。ケガ…ウォーカーのせいで?』
「あぁ、そう言ったろ?……エリー、ウォーカーだ」
『……早く治療しなきゃね。タラの次に酷いケガだよ』
「マギー、頼むよ……」
「えぇ、すぐに…」


このケガは絶対にニコラスのせいだ。
今までのニコラスとグレンの態度を見ればわかる。
私は思いっきりニコラスを睨んだが、誰も気付かなかった。


「なんてことだ……」
「良かった…髪型が変わってない
 ふふ、ユージーンったら怖いわ。
 ねぇ。誰かノアを呼んできて…」


タラの一言に全員の顔が曇る。
ユージーンがタラの近くの椅子に座り彼女の手を握った。


「タラ……ノアはもう……」
「……死んじゃったの?もしかして私のせい…?」
「決してそんなことはない。ウォーカーに囲まれて…」
『ユージーンは必死に戦ったよ。タラを守ったのも
 ウォーカーの群れから私達を救ったのもユージーン』
「君のおかげで目が覚めたんだ。ありがとう」
「そう……ノアにはもう…会えないんだ……」


タラの言葉でノアの最期を思い出す。
握りしめた右手にぬくもりを感じて顔を上げると
グレンが私の手を握り、眉を下げてこっちを見ている。


「エリー……」
『……(何度も頷く)』


声を出したら泣いてしまいそうだった。
私はグレンとニコラスの治療をマギーとロジータに任せ
薬をもらって、血で汚れたガーゼも変えて診療所を出た。


『ダリル……』
「俺達の家に帰ろう」
『……うんっ…』


ダリルと手を繋いで家に帰った。
帰り道、溢れる涙の止め方を私は知らなかった。






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