朝食を食べに向かうとそこには既にダリルがいて
シェーンと何やら話している様だった。
本当に彼も行くんだ…協力的には見えないけど…


「おはよう、エリー」
『おはよう』
「良く眠れた?」
『ううん、あんまり…』
「そう…無理しないでね」
『ありがとう、ローリ』
「はい、エリー!」
「いっぱい食べてね!」
『ありがとう、カール、ソフィア』


朝から可愛い2人にとても癒された。
朝食を食べていると準備を終えたTドッグが…


『もう準備が出来たの?早いね』
「あぁ、なんだか早く目が覚めちまって…」
『大丈夫?』
「あぁ、平気だ」


Tドッグの顔は平気そうには見えないんだけど…
苦笑いを漏らすと、Tドッグも力なく笑ってみせた。


「いいか?作戦を簡単に話す」


メルルとエド以外のメンバーが集まった。

シェーンの作戦はこうだ。
アトランタ当日はグレンの運転で市内付近まで。
今日は全員が徒歩で向かう。
先頭はサバイバル経験者のダリル。
その後ろをグレン、私、アンドレア、
最後尾にはTドッグとシェーンで進む。


「今日はあくまでデモンストレーションだ。
 無理だと分かったらすぐに引き返す。いいな?」
「分かった」
「昼食を食べたら出発だ」
「なんだ、今すぐ行かないのか?」
「そういうことだTドッグ。準備が早すぎたな」


"なんだよ"と言うTドッグをグレンがちゃかす。
ダリルは再びテントの中に戻るのを横目で見つつ
私達は笑って朝食を食べた。


「昼食までどうする?」
「エリーは私と魚釣りのリベンジよ!」
『おーけー、おーけー』


意気込むエイミーにフォークを咥えたまま肩をすくめた。
その様子にローリがたしなめるように"エリー?"と
私の名前を優しく呼ぶので、フォークを手に持った。
教育上、良くないしね!


朝食を食べて、エイミーと川に向かった。
後ろからアンドレアとキャロル、ソフィア
ローリも洗濯物や食器を持って付いてくる。
主婦は毎日、大変だなー…


「いい?エリー、こうやって餌を動かすのよ」
『はーい、エイミー先生。こうですか?』
「ふふ、そうよ」


エイミーに川の中心でレクチャーを受けながら
釣りを始めたが、向こうで洗い物をしているのに
魚なんて釣れるのだろうか?と疑っていた。


「大丈夫よ、向こうで音がすれば魚はこっちに逃げてくる
 そして私達の竿に食いつくってわけ。だからあれでいいの」
『なるほど……エイミーって賢いんだね』
「父さんが教えてくれたのよ」


嬉しそうに微笑むエイミー。
つられて私も笑顔になった


「ほら、見て。早速よ!」
『わっ、頑張って!』


エイミーが早速一匹を釣り上げる。
向こう側でもソフィアがその様子を見て
パチパチと嬉しそうに手を叩いているのが見えた


『さすがよ、エイミー!』
「いえーい!」


エイミーとハイタッチを交わす。
ローリ達にエイミーが魚を振って見せると
彼女達も嬉しそうな声をあげた


「この調子でいくわよ!」
『はい!先生!!』


エイミーと釣り竿を垂らし続けた。
昨日は午前、午後合わせて1匹しか
釣る事が出来なかったのに今日は凄い!
2人で10匹も釣り上げたのだ!
心なしかボートも沈んでいる気がする


「そろそろ戻りましょう」
『そうだね。もう入りきらないし』


エイミーと岸に戻り、新たに問題が発生した。
魚と水を入れたはいいが2人じゃ重くて
どうにもこうにも持ち上がら無いのだ。
せっかく魚を捕まえたのに運べず途方に暮れる


「Tドッグを呼ぶ?」
『そうだね、それにシェーンも。
 でもどちらかがボートを見ていないと』
「うーん…じゃあ私が呼んで来ようか?」


エイミーが走り出そうとした瞬間、
森から出てきたメルルとダリルが見えた。
メルルはめんどくさそうにダリルをあしらうと
1人でさっさとキャンプへと戻って行く。
ダリルはため息を付くと私達に気がついた


『おーい!ダリル!助けてくれない?』
「ちょっと、エリー!?」
『平気よ。ダリル!こっちに来て!』


大声で叫べば、思いっきり眉をしかめた後
周りを見回すとこちらに向かって走って来た


「バカか!?てめぇは!大声を出すな!」
『ごめん、でも助けて欲しくて…』
「………なんだ?」
『これ、魚が入ってるんだけど私とエイミーじゃ
 重くて運べないから手伝ってくれない?』


ダリルはそれはそれは嫌そうな顔をしたけど
クロスボウを背中に担ぐと、私が持っていない方の
取っ手を掴んでくれた。


『ありがとう、助かる』
「……いいから行くぞ」


ダリルとクーラーボックスを持ちあげれば
エイミーがボートを固定して後ろから付いてきた。


「おい、もっと持ち上げろ」
『だって重いんだもん……』
「平行にしねぇと意味ねぇだろ」


ダリルの言う通り、クーラーボックスは
私の方が下がっていてダリルも持ちにくそうだ…
でもそこは力の差もあるんだし、しょうがなくない!?


「チビだから仕方ねぇか」
『関係ないと思うんだけど?』


ちょっとムッとした顔をしたらダリルに鼻で笑われた。
この余裕の表情がまた腹が立つ…
それからはキャンプまで話す事もなく歩き続けた。

川から戻った私達を見て、みんな驚きの表情。
ダリルが私と一緒にクーラーボックスを
運んで来たらそりゃみんな驚くよね。
グレンなんて口がだらしなく開いている
そんな彼を見てくすりと笑う私。
こんな姿も可愛いと思えてしまうのは惚れているからだ。


「魚、たくさん釣れたの?」
『えぇ、そうよ。ソフィア』


クーラーボックスを置くと嬉しそうに駆け寄って来る
ソフィアとカールの頭を撫でていると、ダリルがすっと
テントの方に向かうのが見えた。


『あ!ダリル!手伝ってくれてありがとう』


ダリルは何も言わずテントの中に入って行った。
素直じゃないな〜と思いながら魚に大喜びの子供達を見つめる


「何匹かはお昼ご飯に出しましょう」
「そうね、腕が鳴るわ」
『キャロルの魚料理楽しみ〜』


久しぶりのちゃんとした昼食が食べられそうだ。
いや、今までもちゃんとはしてたんだけど…
こう…ね。缶詰だし、出来ることは限られてるしね…

キャロルの作った美味しいご飯をみんなで食べる。
メルルとダリルへは今日もデールが持って行った。
これを食べ終えたらいよいよ物資調達に出発だ!


「準備は出来たか?」
「あぁ、いつでも行ける」
『私もいいよ』
「じゃあ行こう」


作戦通りにダリルの後を付いて行く。
なるべく銃を使わずナイフで倒す様にと言われた為
ナイフを右手に握って歩き出した。
あーあ…ウォーカーが出てこなければいいのに…
あの嫌な感触を思い出して、首を横に振った。

森をしばらく歩くとガサガサと音が…
ウォーカーが右側からこちらに向かっている


「おい」


ダリルが顎でウォーカーを示す。
"倒せ"ということらしい


「……おーけー…」


グレンが歩み寄り、ウォーカーの頭にナイフを刺した。
それを確認するとダリルは進み、シェーンがグレンに
戦い方のアドバイスをしている様だ。

次に現れたウォーカーは私、その次はアンドレア
そしてTドッグ、またグレンに戻ると繰り返した。
何度か本当に危険があるとダリルがクロスボウで
ウォーカーの頭を貫いてくれた。

私はアメリカ人との体格差があるからかなりキツい。
特に男のウォーカーに来られるとしんどい物がある
でもそんなことは言っていられない。
必死に顎から頭にかけてナイフを突き刺した。


「エリー、高身長のウォーカーが来た時
 周りに余裕がある時は一度転ばせるか、
 後ろに回り込め。その方がリスクが少ない」
『どうやって転ばせるの?』
「足を引っ掛ける。やってみせる」


シェーンがウォーカーに足を引っ掛け背中を押した。
するとシェーンを食べようとしていたウォーカーは
うつ伏せになって倒れたから、シェーンが頭を押さえ
ナイフを突き刺すのは赤子の手をひねる様に簡単だった


「分かったか?」
『うん、分かった』


それからはシェーンに言われたように戦った。
まだアンドレアは戦うのが怖いのか、触れるのが嫌なのか
大半はダリルに助けてもらっていてダリルの舌打ちが聞こえる
私だって毎回上手く行く訳もなく、何度も助けてもらった。
グレンとTドッグは優秀な様だ。
と言っても多くのウォーカーに出会った訳じゃないから
全員、練習不足は否めないんだろうけど……


「まぁ、最初はこんなもんだろう。
 当初の目的を果たそう。目的地に着いたぞ」


シェーンの言葉通り、メルルが言っていた場所に着いた。
中からは物音はしない…
元の住民はどうやらお出掛け中みたい。


「俺とダリルで中に入って様子を見てくる
 みんなは少し離れて外を警戒していてくれ」


シェーンの言葉に頷くと少し離れて待機した。
2人は中に入って行ったが、すぐに出てきた


「中も安全だ。物資を調達したらリビングに集合だ」
「おーけー。エリー、Tドッグ2階に行こう」
『うん、分かった』
「アンドレアは俺とダリルと1階だ」
「了解」


中に入り、物資を探す。
お菓子が少しあるだけで特に良い物は見つからなかった。
どうやら1階もそんなに収穫がある様ではなさそうだ


「苦労して来た意味あったのかしら?」
「そう言うな。いい練習にはなっただろ?」
「どうだか……」


物資が少なかった事に不満たらたらのアンドレアを
シェーンがなだめながら帰路に着いた。
帰りは行きにウォーカーを殺して来たこともあって
ほとんど出会うこともなく順調に進んだ。


「止まれ……」


ダリルの合図で全員が止まる。
なんだ?とダリルの視線を追うと、そこには鹿がいた。
鹿はこちらの視線に気付き、どこかへ行ってしまった…


「俺は鹿を追う。アトランタへは兄貴と行ってくれ」
「いや、待て!ダリル!あいつが行くと思うか!?」
「……もう行っちゃったわ」


ダリルはシェーンの言葉を聞かずに鹿を追いかけて行った。
結局、今日のデモも何の意味があったのだろうか…?
自由気ままなディクソン兄弟にため息をつく一同であった





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