次の日、私はひとりで水浴びをしていた。
本当は何人かで固まって来るべきなんだけど
どうしても彼女達と裸の付き合いをするのは
まだ恥ずかしくて、黙ってひとりで来たのだ。

まだまだ暑い季節。
冷たい水がとても心地よい…

汗と汚れを落とし、簡単に拭くと服を着た。
ちょっと透けてしまってるし、体に張り付いてるけど
みんなの元に帰る頃には乾くから別にいいか…

そう思いながら洗濯をしていると
ふと後ろから視線を感じて振り向く。


『何してるの?』
「散歩だ、散歩。お前こそ何してる?」
『水浴びと洗濯だよ』
「ほー……」


立ちあがった私の体を舐めまわすように見るメルル
ぞっと寒気がした。早く立ち去った方か良さそうだ…


『じゃ、私急いでるから』
「おっと、そんなに慌てなくていいだろ?
 時間はあるんだ…少しは俺と遊んでくれよ」


メルルの横を通り過ぎようとした私の腕を掴むと
私の背中を近くの木に付けて両手を上にあげさせた
せっかく洗濯した物も下に落ちてしまう。
いとも簡単に拘束された事に少なからず焦った私は
とにかく体ごとジタバタさせて、叫んだ


『離しなさいよ!この…えっと…禿げ!』
「"クソ野郎"くらい言えないのか?」
『何言ってるか分かんないのよ!』
「中国人には難しかったか?」
『私は日本人よ!いいから私に触らないで!』


メルルが何を言ってるか分からないが
まぁ、恐らく口汚い言葉だろう。
私は"Shit"くらいしか言えないのだ。
だって日本人だもん、罵倒も日本語でしか出来ない。


「別にいいだろ?俺はアジア人とはヤッたことねぇんだ」
『絶対にいや!今すぐ離して頂戴!!!』
「何人もの女が俺のテクによがったんだぜ?」
『じゃあ絶対病気持ってるじゃん!ますます嫌!』


メルルにそう言うと彼は楽しそうに笑った。
こっちは真剣に言ってるのに!


「……何してる?」
「おう、ダリル。中国人のガキと遊んでやってる所だ」
『だから日本人だって言ってんでしょ!!』
「どうでもいい」
「おい、メルル」
『どっからどう見たってあんたのお兄さんが
 私をレイプしようとしてるでしょうか!!
 早く助けなさいよ!!あなた弟でしょ!?』
「バレちまったか」


そう言うとメルルは私の両手を離した。
"またな、お嬢ちゃん"そう言うとダリルの方へ歩き出す
彼は兄に近付くと"キャンプにいられなくなるぞ"と言った
"構うもんか。どうせ長くはいない"と言うメルルを
私はただひたすら睨みつけていた。


落ちた洗濯物を拾って、再び洗濯をやり直す。
先程のメルルへの怒りが収まらない……
怒りにまかせて洗濯をしていると誰かが私に抱きついた。


「エリー!おはよう!」
『カール!?びっくりした、おはよう』
「えへへ」
「おはようエリー。ごめんなさいね」
『おはよう、ローリ。カールなら大歓迎』


可愛いカールの頭を撫でる。
さっきの怒りが飛んで行ってしまったから不思議だ。


『カールはお手伝いに来たの?』
「うん、そうだよ!」
『えらいわね。私も手伝うわ』
「ありがとう、エリー」


3人で洗濯をしていく。
一生懸命、服を擦るカールはとても可愛い。
私にも息子がいたら…きっと可愛いだろうなぁ…


「エリーとグレンはいつから一緒にいるの?」
『もう何年も前からよ。職場が一緒なの』
「あら、元から知り合いだったのね」
『そうなの。たまたま一緒にいて逃げてきたの』
「他に知り合いは?」
『いいえ。グレンだけよ』
「そう…とても仲がよさそうだものね」
『そうかな?ありがとう』


ローリの言葉に素直に嬉しくなる。
それから3人で洗濯を終えるとキャンプに戻った。
メルルとダリルはおらず、それ以外の皆で朝食を食べた。

今朝の事を話すなら2人がいない今がいいだろう。
でも話すべきなのか悩んでる自分がいた。
私がメルルにレイプされかけた事を話せば
みんなは怒って彼らを追い出してしまうと思う…
私だけじゃなく、アンドレアやエイミーも危ないし…
確かにあの時はメルルに腹が立っていたが
どうも本気では無い様な気がしてきたのも事実だ。
もしメルルが本気で私をレイプしようとしたなら
ダリルが来る前にやられていた気がする…
それに未遂とは言えちょっと言いにくい内容だし…
どんな顔で言えばいいのやら…
ってどうして私がこんなことで悩まなくてはならないのだ!?
また違ったメルルへの怒りが湧いてくる。

そんなことを考えている内にみんなは朝食を食べ終え
自分達のやるべきことのために動き出していた。


「エリー?大丈夫か?」
『グレン…うん、平気よ』
「本当に?顔色が悪い気がする…」
『気のせいよ!ほら、なんともない』
「そう…?具合が悪くなったらすぐ言って」
『うん、分かった』
「今日はキャンプにいて」


グレンは笑って私の頭を撫でると行ってしまった。
私はひとつ深い息を吐くとキャロルのお手伝いをした。


「エリー」
『どうしたの?ローリ』
「少しカールを見ててくれるかしら?」
『えぇ、いいけど』
「森でキノコを探してくるわ。
 危険だし連れて行きたくないの。頼んだわね」


ローリはカールの頬にキスをすると森に向かった。
私はローリが1人で行くのもちょっと心配だったけど
少しするとシェーンも追いかけて行ったから平気だろう。
私はカールと一緒にキャンピングカーの近くで絵を描いたり
しりとりをしたり、道具がなくても出来る遊びした。
するとふとカールがどこかを見ているのに気が付いた。
モラレスと遊ぶルイス達を見ていた…


『カール?』
「僕もパパに会いたい…」


カールもまだまだ小さい子供だ。
父親が恋しいだろうな…胸が締め付けられる。


「パパとはもう会えないんだ」
『そんなことないよ。信じていればきっと…』
「だってもう死んじゃったんだ。ママが言ってた」
『カール…』


カールのパパがもう死んでるとは…
そっとカールを抱きしめると小さな手が私の背に回った


「パパは僕のこと思い出してくれたかな?」
『もちろんよ。きっとカールやママに会いたかったはず』
「うん…」


カールは私から離れると、寂しそうに笑った。


「エリーのパパとママは?」
『分からないの。遠い国に住んでるから…』
「そっか。生きているといいね」
『えぇ、そうね』


カールに寄り添い、一緒にモラレス一家を見ていた。
この小さな男の子の心を救ってあげられたらいいのに…


「そろそろ昼食の時間か?」
『よく分かったね、デール』
「あぁ。腹時計は正確でね」


お茶目にウインクをするデールに私達は笑った。
アンドレアがみんなを呼びに行き、昼食を食べる

すると森の中からメルルとダリルが戻って来て
そのままテントの中へと引っ込んでしまった。
メルルはこちらを一切見なかったが、
ダリルは私の方をチラッと見た後、テントに入った。


「彼らは昼食はいらないのかしら?」
「狩りでもしてきたんじゃない?」


彼らを気遣うエイミーにアンドレアが答える。
カールもローリを見上げた。


「夕食も食べなかったら声をかけて見ましょう」
「そうだな、そうしよう」



結局、メルルとダリルは夕食も私達とは取らなかったけど
デールが食事を渡したら受け取ったそうだ。
やっぱり彼らの事が良く分からない……


「彼らの事は置いといて、もう寝よう」
「見張りは今日はモラレスの番だな?」
「あぁ。任せてくれ」


モラレスが頷くのを確認するとそれぞれ
睡眠を取る為に自分の寝床へと向かった。


夜中にふと目が覚めた。
どうしてもトイレに行きたい……
でも夜、暗い中を1人で歩くのは怖いし…

いつもは1人では絶対にトイレに行かないけど
今日はどうしても我慢出来ないと悟り、外に出た。

トイレを済ませて戻ると見張りのはずのモラレスが
銃を片手に眠っているのが目に入って笑ってしまう


『ふふ、これじゃ見張りの意味ないじゃん』
「のんきな奴らだ」


突然聞こえてきた声に驚いて振り向けば
そこにはいつの間にかダリルが立っていた。


『……何してるの?』
「見張りだ。こんなやつらに任せておけるか」
『……警戒心が高いんだね』
「こいつらが低すぎるだけだ。
 こんな所が本当に安全だと思ってんのか?」


ダリルの言葉に何も言えない。
確かにここには壁も何もないけど…
少なくとも今までは問題はなにひとつ起こってない


「言わなかったのか?」
『……朝の事?言ってない』
「なんで言わなかった」
『まぁ…未遂だし…あなた達だって
 キャンプを追い出されたくはないでしょ?』
「はっ、同情か?」
『違うよ。でももう1人で行動しない』


私はそう言ってダリルを見たが、ダリルは何も言わない。
まるで私の本心を探るかのようにじーっと見つめてくる

これで話は終わりね。と伝わる様に両手と肩をすくめると
寝るために踵を返し、ダリルに背を向けた。


『あ、でも…グレンに何かしたら許さないよ。
 容赦なくキャンプを追い出す。誰であろうとね
 私の最重要項目はグレンを守る事だから』


振り向いてそう言えば、眉をしかめるダリル。
"じゃあおやすみ"と一方的に話を終えて戻った

私の使命はただひとつ。
大好きなグレンを守る、それだけだ。
ここにいる誰であろうとグレンを傷付ける気なら許さない。
例えTドッグやデールでもだ……





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