それからは平和な日が続いた。
相変わらずエドはキャンプのメンバーと馴染めずにいたが
キャロルとソフィアは上手くやっているようで楽しそうだ。
特にソフィアはイライザと仲良さそうに遊んでいる。
ルイスも混じって3人で子供達が遊んでいるのを見ると
なんだかこっちまで胸がほっこりする様だった。


そんなある日、事件は起こった。
ルイスが熱を出して寝込んでしまったのだ。
子供でも飲める解熱剤や抗生物質が必要だった。


「ドラッグストアに取りに行かないと…」
「お願い…息子を助けて…」


ミランダが涙を浮かべて懇願してくる。
ここには医者がいないから分からないけど
ルイスの容態はあまり良くないらしい…
急いで薬を取って戻って来ないとまずい


「分かった。確実に薬がある市内に行こう」
「近くにドラッグストアはないの?」
「一番近いドラッグストアは荒らされてた。
 薬が残っているかどうかも怪しいだろう」
『行くなら早い方がいいわ』
「よし、俺が行く。」
『私も』
「俺も連れて行ってくれ」


モラレスが息子を助けようと名乗り出たが
ミランダは夫にもここにいて欲しそうだ。


「いや、息子の側にいてやれ。エリーと行ってくる」
『必ず戻るから。ルイスとミランダを支えてあげて』
「分かった……本当にすまない……」
「Tドッグ。デールとここを守ってくれ」
「あぁ、任せろ」
「ルイスはキャンピングカーに移そう。
 何かあった場合、すぐに逃げられる様に」
「分かった」


私とグレンは急いで車に乗り込んで市内を目指した。
もうすぐ市内へ着く、その時、森から人が飛び出してきた。


『グレン!人よ!!』


急ブレーキを踏んだおかげで彼にぶつかることはなかった。
まさかこんな所から人が飛び出してくるなんて…


「君!大丈夫か!?」
「う、うるせぇ!!」
「おい!早く行け!」


彼は後から来た男に促されてまた森に入って行った。
あの人たちは一体何をそんなに慌てているのかな…?


「エリー、今の聞こえた?」
『なに?』
「奴らの声だ…逃げるぞ!」


グレンが車を急発進させた。
振り返ると彼が逃げてきた方向から奴らが来ていた。
ご丁寧に目立つイエローワッペンを付けている。


『あれから逃げていたのね。あの目印、彼が付けたのかしら?』
「さぁ?でも夜でも目立ってどこにいるか見つけられていいかもな」


グレンはそう言うと車を飛ばした。
私達は予定より少し遅れて市内へ着いた。
そして前回同様、車を隠して
無駄のない動きでドラッグストアを目指す。

ある建物に身を隠していた時、反対の路地で
子供を連れた3人組が奴らから逃げているのを見つけた


『グレン……』
「あぁ、まずい…あっちは行き止まりだ…」
『助けなきゃ!』
「行こう!」


グレンと裏道を抜けて彼らの近くへと進む。
男性の舌打ちや女性の"行き止まり!?"と
焦る様な声が聞こえて私達も足を速めた。


「こっちだ!柵を乗り越えろ!」
「誰だ!?」
「つべこべ言うな!こっちに来い!」
『早く!!もうそこまで来てる!!』


私達を警戒し、2人を背中に隠したが、
後ろから奴らが来ているのを見てこちらに来た。
男の子をグレンが抱きかかえ、女性と男性も続いた。


安全な所まで走って逃げる。
建物に入り、鍵を閉めるとグレンは男の子を降ろした


「カール!!!」


女性が男の子を抱きしめ、無事を確認する。
どうやら3人ともケガもない様で安心した


「助けてくれて本当にありがとう」
「助かった、ありがとう」
「ほら、カールもお礼を言って」
「ありがとう」
「あぁ、いいんだ」
『どういたしまして』
「俺はシェーン、ローリにカールだ」
「グレンとエリーだ」
「君達はどうしてここに?」
「実はキャンプの子供が熱を出して…
 薬が必要なんだ。それでドラッグストアに」
「キャンプがあるの?」
「あぁ、子供も老人もいる」


シェーンとローリは顔を見合わせた。


「ドラッグストアはどこにある?」
「すぐ隣の路地だ。中は確認してないけど」
「……頼みがある」
「なに?」
「俺は元保安官だ。銃の扱いにも慣れてるし
 君達を守る事も出来る。今から薬を取りに
 ドラッグストアまで行くのを手伝おう。
 その代わり…俺達をキャンプに入れて欲しい」
「あー……ちょっとだけ待ってくれ」


グレンはくるっとシェーンに背を向けて
私に小さな声で相談をしてきた。


「どう思う…?」
『元保安官なら安全でしょ?子供もいるんだし、
 キャンプに入れてあげても誰も文句は言わないよ。
 それにエドのこともあるし、保安官がいた方がいい』
「……そうだな。エリーの言うとおりだ」


グレンは再びシェーンに向き合った


「こちらとしても元保安官がいると心強い。
 まずは薬を取りに行って、みんなで戻ろう」
「あぁ、良かった…ありがとう…」
「じゃあすぐに行こう。暗くなる前に済ませないと」
「エリーはここで2人を守っていて」
『2人で大丈夫?』
「なんてったって保安官だぞ?俺の方が安全だ」


グレンは笑うと私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
確かにシェーンは強そうだ。グレンを守ってくれるだろう


「奴らを倒すには頭を撃ち抜くしかない」
「なるべく音は立てない方がいい。奴らが寄ってくる」
「じゃあナイフで頭を刺そう」
「……分かった」


グレンは顔をしかめたが、ナイフを構えて
シェーンと一緒にドラッグストアに向かった。


「ねぇ…エリーだったかしら?」
『そうよ、ローリ』
「キャンプにはどんな人がいるの?」
『えっと、老人に美人な姉妹に黒人に…
 15人くらいいるわ。子供も3人いる。
 カールくらいの歳の子達だから友達になれるかも』
「本当?男の子はいる?」
『えぇ、1人いるわ。今は熱を出してるけど
 元気になればきっと遊べるようになるわ』


そう言えばカールは嬉しそうに笑った。


『大丈夫よ。みんな良い人達だわ』
「えぇ、そうみたいね」
『……しっ』


扉の前を呻き声をあげながら進む奴の気配に気付いて
ローリとカールに"静かに"とジェスチャーをする。
2人は黙ってこくこくと頷くとローリはカールを抱きしめた

もし、万が一ここに入って来られたら…
私が2人を守らなければ……
ナイフを持つ手に力が入り、嫌な汗が伝った…


「……行った?」
『えぇ、良かった…行ったみたい…』


思わずため息が出る。
とにかく早く2人に戻って来て欲しかった。


「ねぇ、良く市内には来るの?」
『いいえ。今日が2回目よ。あまりここには…来たくない』
「そうね…こんな有り様だものね……」
『でも物資集めには最適だからまた来るかも』
「いつも2人で来てるの?」
『そうよ。人数が少ない方が動きやすいし
 私とグレンはこの街のことを知り尽くしているから』


そう、ピザの配達をしていると、どこが近道だとか
裏道の抜け方だとか、色々詳しくなることが出来た。
人通りの多そうな所も分かるしね。


3人で小声で話を続けていると外から音が聞こえた
2人に静かにするように合図をして耳をすませる。
この足音はグレンだ。もう1つはシェーンだろう


『グレンが戻った。出る準備をして』
「分かったわ」


出る準備をしていると扉が開き2人が入って来た。
2人には血が付いている…
私の顔から血の気が引き、グレンに駆け寄る


『グレン!?ケガでもしたの!?』
「違う違う!!奴らの血だ、俺のじゃない」
『あぁ、良かった……』
「無事だな?」
「えぇ、平気よ」
「よし、行こう」


全員で建物を出て車に向かう。
途中の奴らはシェーンとグレンがナイフで殺した。
順調に車まで進み、グレンがトランクに荷物を積む
そこに"動く死体"がふらふらと寄って来るが
グレンは気付いていない。


『危ない!!』


急いで頭にナイフを刺し込むと、
動きを止めて後ろへと倒れて行った。


「助かった、ありがとう……」
『うん…うん……』


グレンを失うかもしれないという恐怖、
そして人の姿をした"何か"を殺してしまった私は
グレンに手を握られ、目に涙を浮かべた。
嫌な感触が手にまだ残っている。

するとシェーンが頭からナイフを取って血を拭い
私に向かって差し出した。


「大切な人を守るためだ……」
『ありがとう…』


私はナイフを受け取り、車に乗り込み
グレンの運転でキャンプに戻った。
キャンプに戻るまでに私の心も落ち着きを
取り戻していってくれたけど……
奴らを倒すたびにこうなってたらだめだ…
でも出来る事なら…もうナイフで殺したくない…


「デール!薬だ!!」
「良くやった!グレン!」


デールに薬を渡すと、後ろに乗っている3人に
眉をひそめたが急いでルイスの元に向かった。


「おかえり、彼らは誰?」
『アンドレア、彼は保安官よ』
「保安官?」
『そう、これで少しは安心じゃない?』
「そうね…頼もしい味方だわ」


ルイスの容態も落ち着き、みんなに3人を紹介した。
やっぱりエドは面白くなさそうな顔をしていたが
みんなは3人を快く受け入れた。


こうして私達にまた頼もしい仲間が出来た。





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