22

朝、目が覚めるとお兄ちゃんもまだ眠っていた。
この街に来てからはずっと見張りで疲れているのに
昨日は私の所に来てくれたんだもん…
そっと寝かしといてあげよう。
そう思って部屋を出て下に降りるとマギーがいた


『おはよう、マギー』
「エリー、おはよう。
 朝食を食べたらグレンとディアナの所へ」
『グレンは?』
「タラの様子を見に行ってる」
『分かった』
「ディアナの所へは私も一緒に行くから」
『うん、ありがとう』


マギーに肩を抱かれて椅子に座った。
今日の朝食はキャセロールの様だ


「あら、ハリーは?」
『まだ寝てるよ。寝かせてあげたくて…』
「今日くらいゆっくりさせてあげましょう」
「エリー、おはよう」
『グレン。おはよう。タラは?』
「安定してるよ。今はピートとユージーンが」
『良かった…まだ目は覚めてないの?』
「あぁ、もうしばらく時間がかかるだろうって」
『そっか……』
「さぁ、3人とも食べて」


キャロルに言われてキャセロールを食べる。
今日もとても美味しい…


食事を終えると私、グレン、マギーは
ディアナの部屋へと向かった。
まずはグレンとマギーが部屋に入る。

しばらくしてグレンが出て来た。
交代に私が中に入ると、ディアナだけでなく
レジとスペンサーも部屋の後ろの方に座っていた。
エイデンの最後を聞くためだろうか…


「座って、エリー」
『えぇ……あの…本当にごめんなさい…』
「……ディアナ」


謝った私に何も言わないディアナにレジが声をかける。
ディアナはちらりと後ろを見て私に向き直った。


「今からあなたに質問をするわ。
 嘘偽りなく答えて。いいわね?」
『えぇ、もちろんです』
「じゃあまずは倉庫に着いた時の事を教えて」
『目的地に着いてすぐ3手に別れて周囲を調べたの。
 正面にはウォーカーの群れがいたから裏口から中に』
「中にウォーカーはいた?」
『倉庫の中にもウォーカーの群れがいたけど、
 フェンスのおかげでこっちには来なかった』
「それをみんなは知っていたの?」
『えぇ、全員で見たから知ってたわ』
「その時のみんなの様子は覚えてる?」
『えっと…』


必死に記憶を辿ってみんなの顔を思い出す。
あの時、2人はどんな顔をしていたっけ…?
確か…私達に"冷静だな"って声をかけたんだっけ…


『私達はフェンスさえ壊れなければ大丈夫だって
 分かってたから特に取り乱す者はいなかったけど
 エイデン達の顔は少し引きつってたみたい…』
「そう、それでどうしたの?」
『私達はお目当ての機械を探し始めたの。
 ここでも3手に分かれて、それぞれ通路を…』
「どのメンバーで?」
『私とユージーンとタラ、グレンとノア
 そしてエイデンとニコラスで別れたわ』
「どうしてそのメンバーで別れたの?」
『最初にそのメンバーで周囲を捜索したからよ。
 エイデンとニコラスは2人でさっさと行ってしまったし
 ユージーンはウォーカーと戦う気もないの。
 女の子のタラだけだと不安だから私も付いて行った。
 ノアは銃の腕はいいけど、足が悪いからグレンが…』
「そう。それで?」
『ユージーンが機械を見つけて、私は機械を全て
 バックパックに入れてたらグレンの声が聞こえた』
「彼は何て言ったの?」
『手榴弾だ、やめろ!って叫んでた。』
「エイデンとニコラスはなんて答えた?」
『分からない…グレンの声が聞こえたと思ったら
 爆発音がして、タラと吹き飛ばされた。
 そこからはグレンが駆け寄って来るまで気絶してたの』
「その時のケガがそれ?」


ディアナは私の左上のガーゼを指差した。
私は"たぶんね"と言うと頷いた。


「その時にみんなはどこにいた?」
『周りにはグレンしかいなかった。逃げたんだと思う。
 それでグレンがタラを担いで、部屋に逃げ込んだら
 そこにエイデン以外のみんながいた』
「エイデンはどこに?」
『その時は気付かなかったんだけど、倉庫の中にいたの。
 鉄筋が2本も体に刺さって…自力で動けない様だった…』
「エイデンは生きてたのね……」
『私達は助けようって言った。タラも危険な状況だったけど
 重症とは言え、彼もまだ生きてたから…でもニコラスが…』
「ニコラスが?なんて言ったの?」
『……彼はどうせ死ぬと…』
「はぁ…っ」


ディアナは頭を抱えて下を向いてしまった。
やっぱり言うべきではなかったかな…
マギーを見ると静かに首を縦に振った。


「それで?エイデンをそのまま置き去りに?」
『ニコラスを説得して助けに行ったの。
 タラとユージーンを残して4人で行ったの…
 でもっ…鉄筋が深く刺さっていて抜けなくて…
 壊れたフェンスからウォーカーが流れてきた。
 ニコラスは…逃げたの。私達を置いて1人で…』
「なんてこと…」
『本当にごめんなさい…彼を助けられなくて…』


ディアナは再び下を向いてしまった。
私も泣きそうになったが、ぐっと涙をこらえた。


「それで…エイデンは鉄筋が刺さったまま…?」
『えぇ…私達だけじゃどうすることも出来なくて…』
「その時はまだノアは生きていたのね?」
『ノアに引っ張られてニコラスを追いかけたの。
 パニックになったニコラスは1人で走り続けて
 回転扉に入って行った。銃の弾も無くなって
 私達も後を追ったんだけど、彼は戻って来たの』
「それで回転扉に閉じ込められたのね…」
『えぇ。どちらかが動けばウォーカーに捕まる。
 そんな状況になって、彼は私達に"なんとかしろ"と。
 そこにユージーンが車に乗ってやってきたの。
 クラクションと音楽を鳴らして片側のウォーカーを
 引き連れて行ってくれたわ。彼が助けてくれたの』
「その時のみんなはどんな表情をしてた?」
『あー…グレンは希望が見えた顔をしてた。
 ノアとニコラスは…よく覚えてない』


頭を横に振ってディアナに答える。
あの時は全員の顔色を伺う余裕なんてなかったのだ。


「そう…それからどうなったの?」
『グレンがガラスを割って出てから銃を取って
 また助けに来るから、扉を固定しろと言ったわ。
 ニコラスも頷いて、グレンはガラスを叩いた。
 3人で扉を押さえたけど少し動いてしまったの。
 全員、無事だったけど一度でガラスは割れなくて
 もう一度やろうってグレンが言ったの。
 ニコラスは猛反対した。割れるもんかって言って…
 そして…グレンの言葉を無視して自分だけ助かる為に
 無理やり回転扉から外に出て行った…
 私達は必死にノアの手を掴んでたけど、ウォーカーに…』


私は両手を組んで、下を向いて涙をこらえた。
目を閉じればノアの叫び声と顔が浮かんでくる
彼の口がウォーカーによって裂かれていくのが…


『私達はガラス越しで…ノアが食べられるのを…
 見たの…助ける事も出来ず…ただ見るしかなくて』
「エリー、大丈夫よ…落ち着いて…」


マギーが横に来て肩を抱いてくれる。
ディアナも黙って話を聞いていた


『…っ、それからグレンと車を探してたら
 ニコラスがユージーンを殴って突き飛ばした。
 だからグレンがニコラスを後ろの座席に…』
「そう……話してくれてありがとう。
 彼女を家まで送ってあげて、マギー」
「えぇ。送ったらすぐ戻るわ」
「最後に…ニコラスはこう言ったわ。
 "あいつらは俺達と違う"と…どう思う?」
『私達は自分が助かる為だけに仲間を見捨てたりしない』
「そう…良く分かったわ」


ディアナの家を出てマギーと家に戻る。
マギーはまたすぐにディアナの所へと戻った。
私は部屋に戻り、ダリルが使っている枕を抱き
ベッドの上からぼーっと窓の外を眺めていた。
昨日からずっと泣き疲れて頭がガンガンする

ふとジェシーの家を見ると、なんだか騒がしい。
中を見ているとリックとピートが揉み合っている

急いで部屋を出て、階段を駆け降りた


「エリー?」
『ピートとリックが揉めてる!』


外に飛び出すと2人は首を絞め合っているところだった。
レジが走って来てディアナの名前を呼ぶ。
どうにかしてこの2人を止めなくちゃ……


『リック!ピート!やめて!離れて!』
「うるさい!!ガキは黙ってろ!!」
「ピート、お願い、やめて…」


ジェシーがピートをリックから剥がそうとするが
男の力にかなう訳もなく、弾き飛ばされてしまう。
カールもやって来てリックを剥がそうとする


「パパ!やめて!パパってば!」


カールもジェシー同様、弾き飛ばされ、私が受け止める


『大丈夫?』
「うん、でも…パパが…!」


こんな時にダリルがいれば……
グレンもお兄ちゃんも、ミショーンもいない…
私の力で敵う訳がないけどリックに近付いた。


『リック!!ピートから今すぐ離れてっ!』
「やめなさい!」


後ろからディアナの声がして、目の前にグレンも見えた。
ディアナに続き、マギーとお兄ちゃんの姿も…


「やめなさい!今すぐ!」
「次は殺してやる……」
「やめてと言ってるの!」
「断ったら?」


リックはいつから持っていたのか銃を取りだした。
グレンはリックに近付こうとする人達を止めた
今のリックは本当に何をするか分からない……


「俺を追いだすのか?」
「銃を下ろして」
『リック……』
「君達は何も何も分かってない!!
 俺達はすべき事をして生き延びた!
 あんたはただ座って傍観してるだけ…
 何もかも分かった様な顔で現実を見ない!」


リックの声と共に遠くから銃声が聞こえる。
壁をウォーカーが叩く音も…


「生きたいか?この街を守りたいか?
 あんたのやり方じゃ悪い方へ向かう!
 今から現実の世界で生きるんだ。
 誰がここで生きるべきか決める」
「えぇ…それがはっきりしたわ」
「俺の事か?俺に出てけと?
 あんたはここを崩壊させる。
 命が奪われる。既に何人も殺された。
 俺はそれを黙って見過ごしはしない…
 戦わなければ死ぬんだ。そんなことは―」


今までどこにいたのか、ミショーンがリック目がけて
走って来て、銃のグリップでリックの頭を叩いた。
リックは気絶し、地面に崩れ落ちた…


「頭を冷やさせる…ディアナ、時間を…」
「猶予はないわ」
「お願いだよ。リックの話も聞いて欲しい。
 彼は先走る事もあるけどみんなを守ろうと必死なんだ
 私達は彼のおかげで今、生きてる。だから話を聞いて」


ディアナは黙ってミショーンを見つめる。
どうするか悩んでいる様だ。

するとレジがディアナを引き寄せ何かを話している。
私達はただそれを見守り待つしかなかった。


「分かったわ…明日、もう一度集まりましょう。
 リックの行動と発言に関して話し合う。いいわね?」
「あぁ、分かった。ありがとう」
「落ち着くまで2人とも近付けないで」


街の男達がピートを抱えて連れて行く。
ミショーンはふっとため息をついた


『ミショーン、リックの手当ては私がしてもいい?』
「任せるよ」
『うん。グレン!運ぶの手伝って!』
「あぁ……」
「僕も手伝うよ」
『カール、でも―』
「僕のパパだ。いいでしょ?」
『……うん、じゃあお願い』


グレンとカールにリックを運んでもらい
ロジータが消毒液を持ってきてくれた。


『ありがとう、ロジータ』
「えぇ。あっちは私が」
『お願い…』


ロジータは頷くとピートの方へ向かった。
リックの手当てをカールと終えると
カールがリックを心配そうに見つめるのを見ている。


『リックなら大丈夫、きっと大丈夫だよ』
「本当に…?」
『えぇ…』


カールの肩を抱いた時、ミショーンが入ってきた。
私達より後ろの椅子に腰かけてリックを見つめる


「手当ては終わった?」
『えぇ、とりあえずは…』
「ここは私が見てる。2人は家に」
「どうして?パパが起きるまでここにいる」
「カール。言うことを聞いて」
『……行こう、カール』
「でも……」
『ミショーンに任せよう?ね?』
「……分かった…」


カールの手を引くとしぶしぶ立ちあがった。
家に向かう途中でお兄ちゃんに会った


『カール、先に中に入ってて。
 ジュディスがお腹をすかせてるかも』
「うん、分かった」


カールが中に入るのを見送り、お兄ちゃんに近付く


『ピートは?』
「手当ては済んだ。意識は戻ってない」
『リックも同じ。ミショーンが見てる』
「そうか……大変な事になったな……」
『そうだね…』
<……追い出されると思うか?>
<分かんない…ディアナの感じだとヤバイかも…>
<まだ着いて一週間も経ってないんだぞ?>
<まぁ、ね…しょうがないよ>
<はぁ……出来るなら留まりたいけどな…>
<それはみんな同じ気持ちだって。リックも>
<だといいが……>


お兄ちゃんの眉間には皺が寄りまくっている。


<なるようになるよ。明日の会合で分かって貰おう>
<あぁ、そうだな……>
<今日は?見張りはないの?>
<今から見張りだ。明日は会合があるから免除>
<そっか。頑張って>
<あぁ、ありがとう>


それから私はタラの元に向かった。
ピートがいない今、診療所には誰がいるんだろう?


『ロジータ、タラの様子はどう?』
「変わりなしよ。まだ目を覚まさない」
『そう…早く目が覚めるといいんだけど…』
「そうね…リックは?まだ寝てる?」
『えぇ、ぐっすりよ。今はミショーンが見てる』
「そう。なんだか問題が尽きないわね」
『本当に…数日くらいゆっくり過ごしたいものね』
「そうだわ、エリーの傷を見せて。ガーゼを変えましょう」
『あぁ、そういえばケガしてたんだった』
「あはは、自分のケガを忘れるなんて」


ロジータは笑うと、私に椅子に座ってと促した。
大人しく座って頭の傷をみてもらう。
傷口にガーゼが張りついて剥がす時に痛みが走った。


「薬を塗りなおして、新しいガーゼを張るわね」
『うん、ありがとう』
「傷は残らなさそうよ」
『良かった。ちょっとは気にしてたのよ?』
「本当?ケガの存在を忘れてたのに?」
『本当、本当』
「でも傷が残っても大丈夫じゃない」
『どうして?』
「ダリルはそれくらいであなたを捨てないでしょ」
『そうかな?』
「だってダリルってエリーのこと
 すっごく好きって感じじゃない?だからよ」
『すっごく好きって感じする?』
「えぇ、だってエリーのこと凄く見てる」
『そうなの?気付かなかった…』


そう言うとロジータは優しくほほ笑んだ。
私がロジータくらい綺麗だったら
不安になんてならないのになぁ…

それからはロジータと2人で恋バナを楽しんだ。
気が付けば、日が落ちていた。


「ロジータ。夕食を持ってきたわ」
「ありがとう、マギー」
「エリー。ここにいたの?夕食を食べない?」
『うん、でもタラが…』
「タラは私が見てるからケガ人は早く寝なさい」
『ケガ人って言ってもこれだけなのに』
「ダリルが戻る前に治さないとね。心配させるわよ」
『ふふ、ありがとう。タラのことよろしくね』
「えぇ、任せて」


ロジータにお礼とおやすみを告げて
マギーと家に向かって歩き出す。


『ディアナと話した?』
「いいえ。詳しい事は明日話すわ」
『そっか…リックも目覚めてないしね』
「えぇ。なんとかしなきゃね」
『明日の会合までに味方を増やさなきゃ』
「そうね。そうしましょう」


明日は街の人達と話してみる必要があるなぁ…
でも私が話に行っても大丈夫かな…
エイデンのこともあるし、聞いてくれるか不安。
グレンはだめだろうな。
後はキャロルとミショーンくらいかな…
お兄ちゃんは見張り後でしんどいだろうし…


家に着いてからはみんなと夕食を食べ
シャワーを浴びて早めにベッドにもぐりこんだ。
昨日から今日まで体も心もあまり休まらなかったせいか
ベッドに入ると5分もせずに眠りについた。





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