21

街まであと5マイルという所でニコラスが目を覚ました


「……っ、」
『クソ野郎がお目覚めよ』


ユージーンが銃を握り直す。
私もタラを背中に隠し、ナイフに手をかけた
ニコラスは車の中を見渡し、状況を把握しようとしている


「もうすぐ街に着く。それまでじっとしてろ」
「あ―」
「何も話すな!!口を閉じてろ…」


何か話しかけたニコラスを遮りグレンが叫ぶ。
私とユージーンもニコラスを睨みつけた。
ニコラスは私達を見回した後、口を閉じた


もうまもなく街に着くところでグレンが口を開いた。


「街に着いたらタラをピートに診せる。
 エリーはすぐにピートを呼んでくれ」
『うん、分かった』
「エリーも頭を打ってるはずだから、診て貰うんだ。
 ユージーンは俺とタラを診療所まで運ぶ、いいな?」
「あぁ」
「車はニコラスに任せる」
『タラ、もうすぐ街に着くからね…頑張って…』


タラの手を握り、話しかける。
彼女は一度も目を覚ましていない。


ゲートを開けてもらい、診療所に走るが
そこにピートはいなかった。
急いで彼の家に向かい、ドアを叩いた。


『ピート!!お願い!!患者がいるの!』
「なんなんだ?騒々しい…」
『女の子が頭を打って血がかなり出てる!』
「彼女はどこに?」
『診療所に向かってるはず!』
「分かった、すぐ行こう」


ピートと共に診療所に走る。
診療所の前にはタラを連れたグレンとユージーンがいた


「すぐに処置をする。彼女をそこに置いたら出ろ!」


ピートの指示通り、タラを診察台に寝かせて外に出る。
遠くの方でニコラスとディアナ、レグが話しているのが見えた。
息子を亡くした2人のことを考えると胸が痛むと同時に
エイデンとノアを死なせたニコラスに再び怒りが湧く。
3人はディアナの家へと入って行った。

私とグレン、ユージーンは診療所の前で
タラの処置が終わるのをひたすら待っていた。


ガチャ


『タラは!?』
「無事だ。命は取り留めた」
「いつ目が覚める?」
「彼女次第だろう…」
「……エリーも診てもらうんだ」
『うん…』
「中に入って」


ピートと一緒に診療所に入る。
髪で隠れて見えてなかったけど、頭の左上に小さな
切り傷が出来ていたので薬を塗ってガーゼをした。
後は特に問題なさそうで安心した。


「俺はもう少ししたら家に戻る」
『えっ?タラはどうするの?』
「放っておいて問題ない」
『でも何かあったら……』
「じゃあ誰かが見ていればいいだろ?」


なんて無責任な医者だろう…
さっき治療してもらってる時に感じたお酒の匂いは
もしかしたら勘違いじゃないのかもしれないな…


「さぁ、治療も済んだんだ。外に出てくれ」
『……分かった』


外に出るとグレン、マギー、ユージーン、キャロルがいた
向こうからカールとイーニッドが駆け寄って来るのも見える


「エリー、ケガは?」
『平気。小さな切り傷だけだった』
「良かった……」


マギーが私を思いっきり抱きしめる。
私もマギーを強く抱きしめた。


「ノアのこと聞いたわ…あなた達は何も悪くない…」
『…っ、でも…目の前で…』
「全力で助けようとした。仕方なかったのよ…
 あなたもグレンも、必死に頑張ったわ…」


マギーは私の頬を両手で包み、しっかりと目を合わせる
彼女の目も潤んでいるのが分かった。
私は何度もマギーに頷いた。


「ピート、どこ行くんだ?」
「家に帰るんだよ」
「タラはどうする!?」
「放っておいて問題ない。心配なら見てろ」


ユージーン、グレンがピートに声をかけるが
ピートはそのまま家へと帰ってしまった。


「なんて無責任なの…?」
「とにかくグレン達は休んで」
「タラは私が見ているわ」
『ありがとう、キャロル』


私達の空気を察してカールとイーニッドは
マギーの後ろに立っているだけで声をかけてこない。
ユージーンは"役目を果たしに行く"と言って
持ち帰った電気器具を付けにどこかへ行ってしまった。


『ダリルは帰ってないよね…?』
「えぇ…でもハリーが部屋にいると思うわ」
『寝てる?』
「えぇ。3時間程前に眠りについた所なの」
『そっか…じゃあ寝かせておいてあげて』
「どこに行くの?」
『教会の屋根の上にいる』


私は最後にカールを見て、声に出さずに"ごめんね"
と言うと踵を返して教会に向かった。
カールに伝わったかどうかは分からないけど…


教会は建物が高いから空に近くて良い…
しばらく空を見上げていると、自然と涙があふれてくる。
涙をぬぐうことなく私は空を見上げ続けた。


<ここにいたのか>
<お兄ちゃん……>
<マギーから聞いたよ。辛かったな…>


日が落ち、暗くなってお兄ちゃんがやって来た
辺りからは良い匂いが出始めているから
みんな夕飯の準備を始めたのだろう。

お兄ちゃんは私の手を握り、私を見つめた


<目が腫れてる…ダリルが戻ってきたら心配するぞ>
<うん……>
<少しは落ち着いたか?>
<どうだろう…わかんないや…>


空を見上げるといつもと変わらず綺麗な星空が広がる


<エリーは辛い事があるといつも空を見上げてた>
<ほんと…?>
<あぁ、小さい頃からずっと…>


お兄ちゃんと並んで空を見上げていたけど
ふいにお兄ちゃんのお腹が鳴って顔を見合わせる


<空気の読めない腹の虫だ>
<ご飯食べに行こう>
<もういいのか?>
<うん、ありがとう。>


教会の屋根を降りて、家に向かう。


<そういえば見張りは?>
<サシャがしてる>
<そっか…>


また明日、サシャにお礼を言わなきゃ…
そう考えながら歩いて、家に着くと
グレンとリックがポーチの所で何か話している様だった。


「エリー…」
「エリー、もう平気か?」
『うん、なんとかね』
「ディアナが明日にでも話を聞きたいと…
 グレンとエリー、ユージーンもだ。」
「あぁ、分かった」
『うん…了解』
「今日はゆっくり休んでくれ」


リックはそう言うとどこかへ歩き出した。
私は座っているグレンに声をかけた


『夕飯は?』
「食べてない」
『一緒に食べよう。明日も生きなきゃ』
「………あぁ…」


グレンの手を引っ張って立たせると
3人で家の中に入って夕食を食べた。


ひとりだと、どうしても眠れる気がしなかったので
お兄ちゃんの部屋のソファで寝させてもらった。





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