18

次の日、朝食を食べるとマギーに誘われ
2人でブラブラと街を歩いていた。


「エリー」
『なに?マギー』
「ここは本当に安全だと思う?」
『そうね。見る限りは安全だと思うけど…』
「ずっと…刑務所にいた時から考えていたことがあるの」
『なに?』
「エリーは…ダリルとの子供が欲しいとは思わない?」
『子供を育てられる環境があれば…とは思うけど…
 みんなを危険に晒せないし、私とダリルがずっと
 赤ちゃんを守ってあげられる保証もないし………』
「そうね…もし、本当にここが安全なら?どう?」
『どうかな。ダリルはここが落ち着かないみたい…
 でもジュディスを抱いてミルクをあげるダリルを見て
 私との間に子供が出来た時、こうやってミルクを
 あげてくれるのかなって考えたりしたこともあるの』
「そうね。ダリル、とっても柔らかい顔してたもの」
『マギーは?グレンとの子供を望んでるの?』
「えぇ。私は生きることを諦めたくない。
 彼の事を愛してるし、彼との間に子供が欲しい」
『とても素敵な事だと思うわ。ローリも諦めなかった。
 アーロンもここなら赤ちゃんが泣いても平気だって』
「えぇ、そうね」
『私も早くダリルにプロポーズして貰わなくちゃ』
「そうね。前から思ってたけど、ダリルって
 典型的な"言わなくても分かるだろ?"タイプよね」
『ほんと、マギーが羨ましい』


そう言うとマギーは私に柔らかく微笑んだ。
同じ年なのに、未来の事までしっかりと考えているマギーが
なんだかすごく大人に見えた。


「エリー、ディアナが呼んでる」
『オーディション?』
「あぁ、そうだ」
『分かった。行ってくるね』
「えぇ、いってらっしゃい」


兄に呼ばれ、ディアナの家に向かうと男性が立っていた


「やぁ、エリーかな?」
『そうよ。あなたは?』
「レジだ、ディアナの夫だよ」
『よろしく』
「あぁ、よろしく。中に入って。彼女が待ってる」


レジに案内されて部屋に入る。
ビデオカメラの設置してある部屋にディアナはいた


「エリー、来てくれてありがとう。そこにかけて」
「何か飲み物を持ってくるよ。コーヒーは飲める?」
『えぇ、砂糖があれば嬉しいわ』
「持ってこよう」
『ありがとう』


レジが笑って部屋を出て行き、私はイスに座った。


「カメラを回しても?」
『えぇ、構わないけど…どうして?』
「透明性を保つためよ」
『そう…変なことは言えないわね』
「これからの質問には正直に答えて。いいわね?」
『もちろん』


するとレジがコーヒーを持ってきてくれ
ディアナがカメラを回して目の前のイスに座った


「まずはあなたのことを教えて」
『エリーよ。エリーカルメン』
「あなたにはお兄さんがいたわね?」
『えぇ、ハリー。さっきあなたが話してた人』
「ハリーとはずっと一緒に?」
『いいえ。再会できたのはもうずっと後よ
 私は兄がアメリカに来ているのも知らなかったの』
「じゃあずっとリック達と?」
『そうよ。リック、カール、ダリル、グレン、キャロル
 最初はもっと仲間がいたけど…彼ら以外は死んだの…』
「どうして死んだの?」
『ウォーカーに襲われて…マギー達に出会ってからは
 インフルエンザが蔓延して命を落とした仲間もいたわ
 それに…住んでいた所を襲われて…殺された仲間も…』
「そう…じゃあ、あなたにとってみんなはどんな存在?」
『家族よ。兄だけじゃなく、みんなもね。
 どんなに辛い事も一緒に乗り越えてきたもの』
「素晴らしいわ。ずっと外で生きて来たのよね?」
『そうよ。各地を転々としてきたの』
「あなたの様な幼い子が大変だったでしょう…」
『あー…私は日本人だから若く見えるだけで
 本当はもう22歳なの。だから子供じゃない』
「ごめんなさい。失礼なことを言ったわね」
『いいの。気にしてないわ。
 みんなも最初に会った時は同じような事を言ったもの』


そう言うとディアナは微笑んだ。
私にコーヒーを進めるので一口飲ませてもらった
ほろ苦い味が口の中に広がってとても美味しい。


「エリー、あなたはここに住みたい?」
『えぇ。安全ならここに住ませて欲しい。
 ジュディスやカールを育てる環境が必要だもの』
「昨日も言ったけど、ここに住むなら子供以外の
 全員に仕事をしてもらうわ。あなたは何が出来るの?」
『私は射撃が得意よ。こっちで学んだの』
「そう。物資調達はしたことがある?」
『えぇ。調達係のメンバーだったの。
 ダリルやグレンとよく物資調達に行ったわ』
「分かったわ。ありがとう。次はタラを呼んでくれる?」
『えぇ。お安い御用よ』


部屋を出るとレジに会ったのでコーヒーのお礼を言って
家へと向かう途中でタラに会い、伝言を伝えた。
家に戻るとキャロルとダリルが外にいるのを見つけた


『何話してるの?』
「ダリルにシャワーを浴びたか聞く所よ」
『あー……』
「ベストを洗いましょう。ここに馴染むのよ
 エリー、ダリルにシャワーを浴びさせて」
「まだ決めてない」
「水をかけられたい?」
「それは無様だな」
『ほら、キャロルが怒る前に行くわよ』
「あぁ…」


ダリルをシャワールームに連れて行く。


「一緒に入るのか?」
『まさか、1人で入って』
「じゃあ入らねぇ」
『わがまま言わないでよ』
「シャワーを浴びなくても死なねぇ」
『……いいから。ベストを脱いで』


ダリルに向かって手を出すが、動く気配はない。


『ダリル?』
「待て」


ダリルが口元に手を当てて耳をすませる
一体なんだろう?
私も耳をすませるとタラの声が聞こえる。
私の名前を呼んでいるようだ
下に降りるとタラが笑顔で私を手招きした


『どうしたの?』
「ディアナに仕事を貰ったの。
 私とグレンとノアとエリーは調達係よ」
『そうなの?知らなかった』
「午後から調達係のメンバーで一度森に行くって。
 調達に行く前に一度、デモをしてみるそうよ」
「街の奴らのメンバーは聞いたか?」
「ううん、聞いてない」


ダリルはタラの返事を聞くとどこかへ行ってしまった
ディアナの所かリックの所か……
どちらにせよ午後からの物資調達のメンバーの件だろう


「ダリルはシャワールームに?」
『いいえ。ちょっと出てるの。
 直前まで連れて行くことには成功したんだけど…』
「仕方がないわね。昼食を作るから手伝ってくれる?」
『もちろん』


キャロル、タラと昼食を作る。
本当にキャロルは料理上手で教えるのが上手だ。
一緒に料理していてとても楽しい。


「みんなを呼んで、昼食にしましょう」


タラとみんなを呼び、昼食を食べる。
リックにダリルは?と聞くとディアナの所だと言った
やっぱりリックの所に一度行ったのね。


「エリー」
『ダリル、遅かったじゃない。昼食に遅刻よ』
「午後から森に行く件だが…」
『うん、どうしたの?』
「俺は行けない。ディアナに行くなと言われた。
 リックも今はディアナに従えと……」
『グレンがいるから平気よ』
「森の中ではグレンの側を離れるなよ」
『うん、分かった。』


ダリルは頷くと私の隣に座って昼食を食べた。
お兄ちゃんもスペンサーと午後から見張りを
ゲイブリエルも教会に行くらしい。
少しずつみんなが仕事を与えられている
ダリルは何の仕事をするのだろう?
危険な仕事でなければいいけど…


昼食を食べ終え、グレン達と外に出る。
ゲートに来るように言われているからだ


「グレン……」
「あいつらは…」


ノアの声に振り向くとエイデンとニコラスが。
グレンとタラも眉間にしわを寄せる。


「そんな顔するな。俺がこのチームのリーダーだ。
 まずは森の中でデモンストレーションを行う。」


エイデンは"付いて来い"というとゲートを出た。
私達はとりあえず大人しく彼についていくことにした。


「徐々に範囲を広げてる。街から半円を描く様にね
 今の所35マイルまで…車を降りたら二手に分かれる
 緊急時には照明弾で相手に知らせる。」
「いい戦略だ」
「そうだろ?だが先月四人やられた」
「何があった?」
「徘徊者が出没したが、戦略に従わなかった
 いい奴らだったが…恐怖心は命取りになる。」
『そうね、その通りだわ』
「俺は頑固だし、イヤな男かもしれないが…
 判断を下すのはこの俺だ。俺の命令に従ってもらう」
「仲間の事はお気の毒に…」
「まぁね。仕返しはする」
「仲間を殺して奴を捕らえた。吊るしてる」
『…吊るしてる?』
「なぜだ?」
「頭をさえさせる。ウォーミングアップだ」


2人に連れられた場所には鎖だけがぶら下がっていた。
鎖は血で汚れている。ここに吊るされていたのだろう…


「あの野郎!捜すぞ!まだ近くに居る!」
「ピュ〜」
「おい、やめろ!ほっとけ!」
「仲間を殺した奴だ。逃がしはしない」
「さぁ、来い!捕まえて見ろ!」


ニコラスが口笛を吹き、ウォーカーが近付いてきた。
グレンが止め、ノアが武器を構える。


「撃つな!下がってろ。さぁ…来い…」


ニコラスがウォーカーの気を引いている間に
エイデンが腕をつかみ、鎖で巻こうとしている。


『タラ…近付かないで…』
「ウォーカーを仕留める」
「ほら、離すな!」
『タラ!!』
「俺が行く」


ウォーカーがエイデンに振り向くと
エイデンはウォーカーをタラの方へ突き飛ばした。
タラを食べようとするウォーカーを必死に抑え、
グレンがウォーカーの頭にナイフを刺した。


「何すんだ!」
「何するのよ!」
「殺す気か!?」
『ふざけないで!!』
「手を出すな!俺の命令に従え!そう言ったろ?」
『頭おかしいんじゃないの!?』
「行くぞ……」


グレンは私の手を引っ張って街へ歩き続ける。
ノアとタラも後に続いてきた。
私の手を握るグレンの手が痛い。
相当、怒っているがなんとか押さえてる様だ。


「クビだ、向いてない」
「そっちこそ」
「おい、待て!こっちのやり方がある」
「なぜわざわざ吊るす?」
「仲間が殺されたんだぞ?話しても無駄だ。命令に従え」
「従ってたら死ぬ」
「なんだと?」
『グレン……』
「やめなよ」
「離れろ」


エイデンがグレンの肩を押す。
周りには皆が集まりだしているのが見えた。


「粋がるな」
「独りよがりだな…離れろ」
「エイデン。何なの?」
「反抗的な奴らでね……なぜ入れた?」
「お前より有能だからだ」
『グレン!』


私が名前を呼ぶのが早かったか
エイデンがグレンに飛びかかるのが早かったか…
グレンに殴りかかったエイデンは簡単に返り討ちにされた。
そしてニコラスがグレンに襲いかかろうとし
隣に居た私もニコラスに殴られそうになった。

するとダリルがニコラスを捕まえ、首を閉めた


『ダリル!!やめて!』
「ダリル、今はやめるんだ…やめろ…」


リックもダリルを沈め、なんとか離れさせる。
ダリルは怒りを抑えきれない様に左右に歩いた


「みんな良く聞きなさい!
 リック達はコミュニティーの一員、対等よ」


最後にディアナはエイデンを見てはっきりと言った


「いいわね?」
「……分かった」
「全員、武器を返却して!2人は私の部屋へ」


街の住民が散らばりだし、ディアナはリックに向き合った


「警官になって。向いてるわ。ミショーン、あなたも」
「……」
「引き受ける?」
「……分かった」
「ありがとう」
「…何が?」
「あの子を殴ってくれて…」
「エリー、行くぞ」
『うん…』


ダリルに手を引かれて家へと向かった。
そのまま私が選んだ部屋へと入る。


「森で何があった?」


ダリルの真剣な表情に私はありのままを伝えた
私の話を聞いているダリルの顔が厳しい物になる


『あの2人はウォーカーを舐めてる。
 確かにこんな壁の中で暮らしてきたから
 恐怖を感じなかったかもしれないけど…』
「やっぱりあそこで殺すべきだった」
『だめよ。そんなことしたらここにいられなくなる』
「ここにいなくたってやっていける!」
『ジュディスにはここが必要よ…
 それに…マギーも…グレンとの子供が欲しいの。
 今から子供を作るなら安全な場所が必要だわ…』
「……それで誰かが死んだらどうする?」
『死なせない。全力で守るよ。グレンと私が』
「エリー…お前に死んでほしくない…」
『死なないよ。言ったでしょ?ダリルを置いて行かない』


ダリルの頬を両手で包んで目線を合わせる。
しばらく私を見つめていたダリルは額をくっ付けた


「絶対に……死ぬな……」
『当たり前だよ。私もダリルも死なない』


しばらくそうしていたが、ゆっくり立ち上がり
ダリルに手を差し出してにっこりと笑いかけた


『シャワールームに行こう。一緒にシャワーを浴びよう』
「……あぁ、そうだな」


ダリルとシャワールームに向かい
2人で久しぶりの甘い時間を過ごした。


「ダリル、シャワーを浴びたの?」
「あぁ…ベストはエリーが洗った」
『まだ乾ききってないのに着てるの』
「別のを着ればいいのに」
「これでいい」
「そう…さぁ、夕食を食べて」
『ありがとう』


みんなでご飯を食べるとダリルは外へ
私もダリルの側の手すりに腰かけた


「危ないから降りろ」
『平気。落ちそうになったら助けて』
「エリー、お前…」
「落ち着いたか?」


ダリルと話しているとリックがやって来た。
警察官の制服を身にまとっている。


「あぁ……復帰だな」
「試しに着て見た」
『似合ってるよ』
「ここに住む?」
「それぞれの家で寝よう。腰を据える」
「居心地が良いと警戒が薄れ、私達は弱くなる」
「カールもそう言った。だがそれは違う。
 弱くはならない。きっとうまくいくさ
 彼らがダメなら…俺達が主導権を握る…」


リックの言葉に私は何も言えなかった。


「その件についてはまた話しましょう」
「あぁ、そうだな。今は様子を見よう」


リックとキャロルは家の中に戻って行った


『どうする?私達も部屋で寝る?』
「あぁ、そうだな。行こう」


ダリルと部屋に上がる。
お兄ちゃんは今日はスペンサーと夜通し見張りだ
ベッドに寝転ぶダリルに抱きつく


『シャンプーのいい匂い…』
「今までもそうだろ?」
『全然よ。シャンプーのシの字もない』


そう言うとダリルは鼻で笑いながらも
抱きしめて頭を撫でてくれる。
私はそれだけで安心して眠ってしまいそうになる


「眠いのか?」
『うん…ダリルが側に居るから、安心する』
「じゃあ寝ろ…ずっと側にいる」
『ダリルも寝て』
「あぁ、寝るよ」
『おやすみダリル…だいすき…』
「俺もだ…」


ダリルは私の額にキスをした。
そこで私は眠りに落ちた。





[ 159/216 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]