17

私達はあれから順調に旅を続けていたのだが…
突然、車が止まってしまった。


『直りそう?』
「使えねぇ…!消防車もこいつも」
「バッテリーがいる」
「どこにあるってんだ?」
「こっちだ」
「……良く分かったな」
「さぁ…?」
『ふふ。デール?』
「(肩をすくめる)正解だ」


よくグレンはデールに車の修理を教えてもらっていた。
デールが亡くなった後もキャンピングカーの修理は
車修理の弟子であるグレンがしていた。


『ダリル!』
「なんだ?」
『何か見える?』
「特に何も!」
『私も登っていい?』
「あぁ。好きにしろ」


私も車の上に登る。
ダリルが手を差し出してくれた。


『わぁ…凄くいい眺め…何もかも小さく見える…』
「気を付けろよ。あまり端に行くな」
『うん、分かってるよ。マギー!』
「…?どうしたの?眩しくて良く見えない…」
『マギーがあんなに小さく見える!』
「ふんっ」
「エリーがとっても大きいわ!」


ダリルには鼻で笑われたが、マギーは笑ってくれた


「エリー、大きくなったのはいいけど
 そろそろ元のサイズに戻る時間だぞ!」
『はーい』


グレンに言われて車の屋根から降りた。
ダリルも降りて来て車に乗り込んだ。

少し車を走らせ、私達は遂にアレクサンドリアに到着した。


ゲートが開き、中から銃を構えた男性が現れた
眉間にシワを寄せて、歓迎ムードではなさそうだ…

すると脇道からガサガサと音がし、
ダリルがクロスボウの矢を放った。


「夕食用だ」
「いいんだ、中に入って」
「ここからは武器は預かる。ここに住むなら従え」
「まだ決めてない」
「ニコラス。いいんだ。まずはディアナと話してくれ」
「ディアナ?誰だ?」
「彼女と話せば全て分かる。まずはリックからだ」
「あぁ、分かった。エリー」


呼ばれたからリックを見ると後ろを顎で指した。
後ろにはウォーカーがいる。


『……了解』


私はウォーカーの頭をライフルで撃ち抜いた


「役に立てそうだ」


リックはジュディスをカールに預けるとディアナの元へと行った


「私達はどうするの?」
「リックを待とう」
「そうだな、そうしよう」
「向こうに広場がある。そこまで案内するよ」
「アーロン」
「赤ん坊がいつ泣いてもいい様にゲートから遠ざける」
「……分かった」


アーロンに言われ、ニコラスはしぶしぶ頷いた。
私達は街の奥へと案内される。


「新人か?」
「そうらしい」


リックが入って行った家から男の人が出てきた。


「エイデン・モンローだ。よろしく」
『エリーよ、よろしく』


エイデンが手を差し出して来たので手を握って握手をする。
すると手を引っ張られ、頬にキスをされた。
突然のことに固まる私。
ダリルが後ろからやってきてエイデンの肩を突き飛ばした。


「何しやがる!?エリーに触るな!!」
「気安く妹に触れないでもらおうか」


ダリルとお兄ちゃんがエイデンを威嚇する。
マギーとグレンも私の隣に立ち睨みつける


「エイデン、ニコラス、失礼なことはしないでくれ」
「なんだよ?ただの挨拶だろ?」
「あっちに行っててくれないか?」
「…行くぞ」
「あぁ」


エイデンはニコラスと去って行った。
アーロンが私達に謝る。


「すまない…彼はディアナの息子なんだが…」
「ちゃんと躾けろと母親に言え!」


ダリルはアーロンにそう言うと手の甲で私の頬を擦った。
最初の内は我慢出来たけど、だんだん痛くなってきた…


『ダリル、痛い痛い…』
「ほら、ダリル。そんなに強くしたらだめよ」
「……あぁ」
『ありがとう、キャロル』
「いいのよ」


キャロルがタオルに水を付けてダリルに渡した。
ダリルは少し落ち着いたのか優しい手つきで拭ってくれた


「リックが帰ってきた…」
「ここに留まろう。みんな、ディアナと話すんだ」
「まずは武器を預けてちょうだい。こっちよ」


ディアナに連れられて、ある家の前に来た。
女性が台車を押して出て来た。


「ここに銃を置いて。全部ね」
「預かるだけよ。外に出るときには返す」
「これはいいか?」
「…そうね。いいわ」


みんなが銃を置いて行く。
ダリルのクロスボウは免除された。
最後にキャロルが銃を置くと女性が台車を押して出て行った。


「この2棟を自由に使っていいそうだ」
「2棟も?」
「本当に?」
「あぁ、アーロンがそう言った。彼は4軒先に」
「ダリル。ディアナが呼んでる」
「…あぁ」
『先に部屋を見とくね』
「好きなところに決めていい」
『本当?ありがとう』
「グレン」
「なんだ?」


ダリルは頷くとグレンを呼んだ。


「あのクソ野郎が来た時はエリーに近寄らせないでくれ」
「当たり前だ。絶対に近寄らせるもんか」
『家の中にいるよ(苦笑い)』


ダリルはディアナの家に向かった。
さっき仕留めたフェレットまで持って…

家の中を色々と見て回る。
住んだことが無いような豪邸だ。


「エリー」
『どうしたの?お兄ちゃん』
「ダリルと同じ部屋にするだろう?
 俺はその隣の部屋を使いたいと思ってるんだけど」
『そうなの?』
「出来るだけ離れたくないんだ」
『私もだよ。どこの部屋が良いか要望はある?』
「いや、特にはないからエリーの好きな部屋を選んで。
 ただし、隣にちゃんとした部屋がある部屋にしてくれよ」
『うん、分かった』


お兄ちゃんと笑い合い、一緒に部屋を見て行く


「エリー、ハリー」
「………その顔…」
『わぉ!出会った頃に戻った様ね!リック!』
「まだ違和感があるよ」
『ううん、すごく素敵よ!』
「ありがとう。それで部屋は決まったか?」
『うん、この部屋が気に行った』
「俺は隣に部屋がいい」
『グレン達は?』
「どこでもいいそうだ」
『じゃあここでいい?』
「あぁ。ただし、今日はみんなで寝るんだ」
『どうして?』
「念の為だ」
「分かった。そうしよう」


リックとお兄ちゃんと下の階に降りて行く。
ダリルはまだ戻って来ていなかった。


「他の皆は?」
「カールは他の子供達の所に行った。
 ダリルはまだディアナの所で話しているし
 グレン達も街を見て回ると言っていた。」
『じゃあ私は先にシャワー浴びて来てもいい?』
「あぁ、服もクローゼットのを着ていいそうだ。
 それと…ジェシーと言う女性が散髪をしてくれる。
 以前はスタイリストをしていたらしい。
 エリーも頼んでみたらどうだ?」
『そうね…整えてもらおうかな』


リックにそう答えるとシャワールームに向かった。
久しぶりのお湯でのシャワーはとても気持ちが良かった…
なんだか涙が出そうになったけど、ぐっと堪えた。

シャワールームを出てリックの言っていた
ジェシーという女性の家へと向かった。


『あの…こんにちは』
「あら、どうしたの?髪も濡らしたままで…」
『あなたがジェシー?』
「えぇ、そうよ。よろしくね」
『よろしく。私はエリー。
 リックがあなたが散髪してくれたって…
 私も整えて欲しいんだけど…いいかな?』
「えぇ、もちろんよ。中に入って」


ジェシーの家へと上げて貰い、イスに腰かけた


「それで髪を濡らしたまま来たの?」
『元から乾かすのが面倒なの』
「あら、だめよ。ちゃんと乾かさないと」
『これからはそうするつもり』
「それで?どれくらいの長さにする?」
『長さはあまり変えないで欲しいの。
 後はお任せで。なるべく動きやすい方がいいかな』
「分かったわ。任せて」


ジェシーが私の髪を整えて行く。
警戒心の高いリックが任せた相手なら私も安心。


「出来たわよ、どう?」
『凄く素敵…本当にありがとう』
「いいのよ。息子に会って行く?」
『あー……』
「女の子もいるし良い友達になれると思うんだけど…」
『こう見えて…成人してるの。だから遠慮しておくわ』
「それは、ごめんなさい。気を悪くしないでね」
『いいのよ。良く間違えられる』


明らかに子供同士で遊ばせるために息子を
紹介しようとしたことが分かったから断った。
ずっとここにいるかは分からないけど、
こういう誤解は早く解いておいた方がいいもんね


『そろそろ行くね。本当にありがとう』
「いいのよ。また遊びに来てね」
『うん、また来るわ』


私はジェシーの家を出るとポーチでダリルが
先程捕ったフェレットを捌いている所だった


『ダリル』
「……髪切ったのか?」
『分かる?』
「あぁ、綺麗になった」
『ふふ、ありがとう』


ダリルの頬にキスをする。


「アツアツだね」
『ミショーン、おかえり』
「ただいま。サシャは?」
「中にいる」
「ありがとう」


ミショーンがオーディションを受けていたらしい。
サシャを呼びに行くと、サシャはディアナの家に…


『そういえば洗面台に歯磨き粉があったよ』
「本当?」
『えぇ。何種類かあったみたい』
「最高…!見てくる」
『ふふ、いってらっしゃい』


ミショーンは嬉しそうに家の中に戻って行った。
それから私達は家の中で過ごし、夕食を食べた。


「布団を持って来たよ」
「これで全員分だ」


グレンやお兄ちゃん、ノア、カール達で
隣の家から布団を運んでリビングに置いた。
ここで全員で雑魚寝するのだ。


コンコン


「わぉ…これが本当の顔ね?
 邪魔して悪いけど、落ち着いたか確かめたくて…
 まぁ、みんな一緒ね。賢いわ」
「俺達の自由だ」
「みんな家族だと言ったわね。本当に驚かされるわ…
 赤の他人同士が強い絆で結ばれてる。そう思わない?」
「全員に仕事を?」
「えぇ。それがここの方針よ。結局、共産主義の勝ちね」
「俺の仕事は?」
「決めてるわ。まだ言ってないけど。
 ミショーンも同じ。サシャはほぼ決定。
 ディクソン氏は検討中だけど必ず何か与える」


ディアナはダリルを見つめるとリックに向き直った


「その顔、とても素敵よ」


そう言うとディアナは家を出て行った。
それから交代で見張りをしながら私達は全員で眠った。





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