16

「よし、行こう」


リックの言葉で全員が車に乗り込む。
後ろの車の運転はダリル、助手席に私。
車は大きくて、ソファがあって少しは快適だ


『見て、音楽CDもある』
「かけるなよ?」
『かけないよ。ただ驚いただけ』


ダリルも他愛もない会話をしながら前の車に付いて行く
今の所、特に問題はなさそうだけど…
こんなに暗いといつ、どこからウォーカーが出てくるか
あまり良く分からない…ライトを付けていてもだ…

しばらく23号線を走っていると周りにちらほら
ウォーカーの影が見え始めた。


『見て、ウォーカーよ』
「あぁ…っ!?なんだ!?」


前を向くと、前の車がウォーカーに追突したらしい
轢かれたウォーカーが飛んでくる。


『スピードを落として!!』
「あぁ!分かってる!」
『みんな捕まって!』
「なにごとなの!?」
『前の車が轢いたウォーカーが飛んできてる!
 問題はないけど、危ないからスピードを緩める!』


ウォーカーを踏み、車体も揺れる。
前の車はもうウォーカーで見えなくなってしまった


『……ダリル!止まって!』


ウォーカーではない、人が飛び出してきた。
急ブレーキを踏むが間に合わない……
ドンッという音がした。


『……助けに行かなきゃ!』
「俺が行く、エリーは運転席に座れ!
 エイブラハム、ハリー!手伝ってくれるか?」
「あぁ、いいぜ」
「もちろんだ!」
「援護してくれ、奴を車の中に運び入れる!」


ダリル、エイブラハム、お兄ちゃんは車の外へ。
前の車がウォーカーを轢いて行ったおかげで数は少ない
車の中からみんなでウォーカーを撃ち殺す。


「マギー、頼む。エリー、変われ!逃げるぞ!」
「ああぁぁ…痛い…」
「大丈夫よ、大丈夫。あなたは生きてるわ」
「明かりを」
「ありがとうキャロル」


振り向くと男性が痛そうに足を押さえている
良かった。今すぐ死ぬことはなさそうだ。
マギーが鎮静剤を彼に飲ませている。


「どこに向かえばいい…?」
「Uターンしてくれ…隠れ場所を知っている」


足を押さえている男性が話す
ダリルはUターンをしたが、まだ迷っているらしい


『あなたは誰?どうしてここにいたの?』
「僕はエリック。アーロンの仲間だ」
「あなたが?」
「車に来てくれた時は…ごめん。
 怖くて隠れてた…殺されたくなくて…」
「いいのよ。そう思って当然だわ」
「アーロンが心配で…ここまで…彼は無事か…?」
「さぁな」
「無事よ。グレン達が付いてる」
「あぁ……」


痛みからか、アーロンを心配してからか
彼の声はどんどん涙声になっていく…


『ダリル、彼を治療してあげなきゃ』
「どうやって?」
『とにかく彼の言う隠れ場所に行きましょう
 簡単に応急処置くらいは出来るかも…』
「………」
『彼も死にたくないはず…きっと大丈夫』
「……場所はどこだ?」
「あぁ、そこを左だ」


エリックの指示通りに車を走らせる。
ある建物に辿り着くと、彼は"ここだ"と言った


「少し前までここに隠れていた。安全なはずだ」
「中を見てくる。こいつを見張ってろ」


ダリル、エイブラハム、お兄ちゃんは建物の中へ…
マギーはエリックに付添い、私は辺りを警戒していた


「ああぁぁぁ…」
『ロジータ、助けてもらえる?』
「もちろん」


ウォーカーが5匹、こちらへ向かって来ている
急いで駆け寄り、ロジータとナイフで殺した。

みんなの元へ戻るとダリル達も戻って来ており
中は安全だと言いエリックに肩を貸して連れて行った
マギーとキャロルも後に付いていく
彼の手当ては2人がいれば安心だろう…

全員で中に入るとダリルが照明弾を上げに外へ行った
エリックとアーロンがお互いの危険を知らせるものらしい
明かりを見たアーロンがみんなを連れて来てくれるはず


『マギー、彼は?』
「平気よ。足首の骨を折ったけど異常はないわ」
『良かった…あとはみんなが来るのを待つだけだね』
「えぇ……」
『大丈夫。きっと戻って来る』
「おい、このまま外にいる」
『私も一緒に行く』
「あぁ。リック達が来たら窓を叩く。それまでは中にいろ」
「分かったわ」


ダリルと外に出て見張りをする
しばらくすると向こうから誰かが走って来る音が聞こえた。


「リックだ…!」


ダリルが窓を叩き、私はリック達に大きく手を振る
横にダリルもやって来て同じように片手を振った
マギーとカールが出て来てグレンとリックにハグをする。
私もミショーンに駆け寄って抱きしめた。


『おかえり…!無事で良かった…』
「あぁ、ただいま。照明弾は誰が?」
『アーロンの友達のを借りたの。エリックよ』
「あれのおかげでここが分かったよ」


みんなで中に入る。


『グレン』
「エリー」


グレンともしっかりハグを交わした。
アーロンが出て来たのでグレンの隣に立つ。


「あの…みなさん…本当にありがとう…
 彼を助けてくれて…みなさんに借りが出来た。
 コミュニティーに着いたらこの恩は絶対に返す…
 アレクサンドリアだ。」


アーロンの言葉にマギーが微笑む。
私もマギーにつられて笑顔になった


「みんなはどうか分からないが…
 僕は今夜は車に乗りたくない。明日の朝、発とう」
「それがいい。だが、お前は向こうで寝ろ」
『リック』
「その必要がある?」
「念のためだ。よそ者だ…」
「彼といさせないと言うんなら撃つんだな」


ダリルはリックに頷いたが、リックは何も言わない。
アーロンも何も言わず進もうとしたがグレンが止めた


「待て……リック、場所を言ったし、本当に仲間は1人だった。
 武器も持ってない。それに彼は足首を折ってる。安全も大切だが…
 人間らしさも大切だ。"関係ない"と言ったが…間違ってた…」
『……リック、お願い。デールの事を思い出して…』
「…………分かった」


しばらく考え込んでいたリックだが、アーロンを通した。
私達も中に入り、寝る準備を始める。


「2時間で交代して見張りをしよう。
 俺、ハリー、ダリル、グレンの順だ」
「あぁ、分かった」
「俺はいいのか?」
「エイブラハムは明日の運転を頼む」
「了解」
「ジュディスとカールを頼んだ」
「あぁ」


リックはダリルにそう言うと外に出て行った。
私はとりあえず寝る準備をしたけど…
どうしてもリックの事が気になって仕方がなかった


「エリー?」
『リックの所に行ってくる。ダリルは先に寝てて』
「あぁ、武器を持って行け」
『うん、分かってる』


外に出ると壁の上にリックが座っているのが見えた


「どうした?何か問題が?」
『ううん、みんな眠ってる。隣に座っても?』
「あぁ。もちろん」


リックに引っ張り上げてもらい、隣に座った
空を見上げると星がキラキラと輝いている
リックも空を見上げた


『今日も星空は綺麗だね』
「あぁ…空を見ていると嫌な事も忘れられる…」
『さっきはありがとう。アーロンを通してくれて』
「いいんだ。デールならきっとそうしただろう」
『うん……』
「…?どうした?」


急に下を向いた私の顔をリックが覗きこむ。


『私…リックが大好きだよ。
 いつもみんなのためにたくさん努力してくれてる…
 アレクサンドリアのことを警戒するのも分かるよ
 みんなを守る為にしてくれてることだって…
 だからその…なんて言ったらいいか分からないけど』
「あぁ、ありがとう。俺もエリーが大好きだ。
 ここにいるみんなが大切な家族だ。そうだろ?」
『うん。そう…そうだよ』
「大丈夫だ。終着駅の様な事にはならない。
 俺達がみんなでいれば例え何かあっても対処出来る」
『私は皆を信じてるよ。何があっても大丈夫』
「あぁ、その通りだ」


リックは柔らかく笑うと私の肩を抱いた。
私もリックに笑いかけるとリックにもたれかかった


「……怖くはないか?」
『怖くないよ。みんながいるから。リックは?』
「あぁ、俺もだ」


2人でしばらく星空を見上げていた


「さぁ、そろそろ寝るんだ」
『うん。ありがとうリック』
「あぁ、俺こそ…」
『見張りもありがとう。気を付けてね。おやすみ』
「あぁ、おやすみ…」


壁から降りて、建物に向かって歩きだす


「エリー」
『ん?』
「エリーはそのままでいてくれ」
『……?うん…?』
「おやすみ」
『おやすみ』


建物の中に入りダリルの側に行く


『……起きてたの?』
「あぁ、一応な…」
『リックと一緒だから平気なのに』
「あぁ、分かってる」
『……ありがとう。でも少しは寝ないとね』


ダリルは肩をすくめると私を抱きしめて寝転んだ。
逞しい腕枕と温かいぬくもりに包まれて、眠りについた。





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