14

私はリックとカールと先頭を歩いていた。
2人がトイレに行ってる間、ジュディスを預かっていたからだ。
ジュディスは私の顔を見て、声をあげて笑った。
本当に可愛い子……
近くに居るマギーに声をかける


『見て、ジュディスが笑ってる』
「本当ね。エリーによく懐いてる」
『マギーも抱っこしてみる?』
「(首を横に振る)今はやめておく…」
『そう…』


マギーが伏し目がちに首を振ったのを見て
またジュディスを抱き抱え直した


「見て、何かある…」
『水よね?それに…紙…?』


そこにはペットボトルと大きな容器が置いてあり
「 From A Friend 」と書いた紙が置いてある。


『誰かからのプレゼント…?』
「さぁな……」


みんなで水を見つめる。
リックは私達に警戒態勢を取るようにと指示を出した。
全員が輪になり、武器を構える。
私もカールにジュディスを預けて、ライフルを構えた。
そこにダリルが戻って来て、リックはダリルに紙を渡した。
ダリルも不思議そうな顔で紙を見つめている。


「どうする?」
「飲まない…罠かも」
「だとしたらもう遅い。だが善意だと信じたい」
「何か混ざってるかも…」
『でも封が空いてないわ。新品なのよ、きっと』
「封を開けなくても混ぜることは出来る」


するとユージーンがペットボトルを手に取り、水を飲もうとした。


「何をするの?」
「毒味だ」


すかさずエイブラハムがユージーンの手を叩いた。
ユージーンの手からペットボトルは落ち、水は零れた。


『……?』
「雨だわ…」


リックの言っていた通り、雨が降った。
ジュディスが濡れない様に布をかぶせてあげると
カールは上を向いて口を開けた。


「エリー、寝転びましょう!」
『うん!』


タラに誘われて地面に寝転がる。
ロジータも私の隣に並んだ


「何でもいいから容器を出すんだ!雨水を貯めよう」
「エリー、腰の入れ物を貸せ」
『ありがとう』
「早く、早く出すんだ」
「雨だ…!」


リックの指示でみんなが雨水を容器に貯めて行く。
私の容器もダリルに渡して入れてもらった。


『はぁ……天然のシャワーね…』
「もう少し温ければ言うことないのに」
『ここにドラム缶があればお風呂が出来るよ』
「ドラム缶?どうして?」
『薪で火を起こして、その上にドラム缶を乗せるの。
 ドラム缶の中に木の板とかを入れて火傷しない様にね
 日本発祥のお風呂で、"五右衛門風呂"とも言うのよ』
「「"五右衛門風呂"?」」
「懐かしいな。大昔、一度家族で入ったの覚えてる?」
『覚えてる!!お兄ちゃんがはりきってたよね』
「あぁ。男の憧れの風呂だよ」
『お兄ちゃんだけでしょ?』
「そうか?」


タラ、ロジータ、お兄ちゃんとそんな会話をしていると
容器に雨水を貯めているリックが険しい顔になっている。
空を見上げるとこのまま嵐が来そうな予感だ…
ロジータも起き上がって空の様子を見ている


「急いで移動しよう……ここにいたら危険だ」
「向こうに小屋があった!」
「どこだ!?」
「こっちだ!」
「みんなすぐに片付けて移動だ!」


雨水を貯めた容器を持って移動する。
誰かが置いてくれていた水の存在はすっかり忘れていた。


「ここだ!」
「よし、ダリル、グレン、マギー、サシャ、キャロル
 エイブラハム、エリーで中の安全を確認しにいく
 他のメンバーは外で待機。視界が悪い、十分に警戒してくれ!」
「行くぞ、こっちだ」


中に入りウォーカーや人間がいないか確認する。
特に誰かがいる気配はない……
ふとマギーが入口で固まっているのが見える。
近付くとそこには女性のウォーカーが…


『マギー?代わりに私が…』
「いいえ……自分でやれるわ」


マギーはそっと女性に近付くとナイフを刺した。
私はそれを後ろで見守っていた。
するとキャロルがこちらに歩いてきた。


「大丈夫?」
『えぇ…』


私の顔を覗きこんだ後、マギーを見て納得した様に頷いた。
キャロルは人の気持ちの変化に敏感だ。
そして私達のことを良く理解してくれている。
私なんかよりも…きっとマギーに寄り添えるだろう…


「銃があるのに…自殺しなかった」
「諦めなかったのよ。私たちみたいにね」
『そうだね……』


そう言うとキャロルは立ち去り、私も続いた。
リックが火を起こすと言うので転がっている木を集める
しばらく火を見つめてカールの隣でぼーっとしていた


「……」
『眠いの?』
「……うん…」
『当分、嵐も止みそうにないし、寝て』
「そうだね」
『膝枕してあげる、ほら』
「えっ、いいよ」
『いいから、早く』
「うん…」


ちょっと恥ずかしそうにしたカールを無理やり寝かせる
もう膝枕が恥ずかしい年齢になってしまったのか……
カールの頭を撫でながらちょっと寂しい気分なる。
思春期の息子を持つ母親の様な気分だ


眠りについたカールの頭を撫でながらリック達の話を聞いていた。
リックは"ウォーキングデッド"だと思って進めばいいと…
シェーンの言うスイッチを切ると似ている様な気がする。
やっぱり2人は親友だったから考え方も似ているのだろうか…?

ダリルが立ちあがり、奥の方へと歩いて行ってしまった。
嵐はますます酷くなる一方だ。


うとうとしかけたその時、大きな音で目が覚める。
気が付けば遠くに居たサシャが走っている。
リック達も異変に気付き、走り始めた


『カール、ちょっとごめん』
「うん、僕も行く」


扉へ向かうと、ウォーカーが扉を開けようと叩いている所だった。
私も急いで扉を抑える。
みんなで力いっぱい扉を抑え………


気が付けばウォーカーも嵐も去っていた。


「もう平気…?」
「あぁ、大丈夫だ…」
「良かった……」


一晩中、扉を押さえていてみんなへとへとだ。
安心したせいかみんな次々と眠りについた


『ダリル』
「エリーも寝とけ」
『ダリルも寝ないと…』
「俺は誰かが起きるまで見張っとく」
『じゃあ私も起きてる』
「いいから寝ろ。寝て、起きたら変わってくれ」
『分かった……隣で寝ていい?』
「あぁ。足を貸してやる」


ダリルが足を伸ばし、自分の太ももを叩いた。
私はダリルの太ももに頭を乗っけるとすぐ眠りに落ちた。





「歯車に砂利が挟まってた」
「直してくれたの?ありがとう」


マギーとダリルの会話で目が覚める。
上を向くとちょうどマギーが立ちあがって
サシャの所へ向かうところだった。


「起きたのか?」
『うん、交代の時間よ』
「あぁ。見張りは頼んだぞ」
『ふわあぁぁ…任せて』


あくびをするとダリルは鼻で笑った
なんだか悔しくなって、何か仕返ししたい……

私は伸ばしたままのダリルの足の上に横向きで座り
ぎゅっと抱きしめると耳たぶに噛みついた


「なっ…!?」
『笑った仕返しだよー』


驚いた顔をしたダリルだけど、にやっと笑った。
あ、これ…何倍返しにもされるパターン?

予想通りダリルからキスの嵐が降って来る。
久しぶりのキスはとても嬉しいんだけど……
みんなが起きたらどうするつもりなんだ…
ついには私を地面に押し倒した。
ちょっと、どこまでするつもり…!?


『ダリルっ…!』
「噛んだ仕返しだ」
『分かったから、もう寝て!』
「続きはまた今度な」
『うん…おやすみ』
「あぁ、おやすみ」


ダリルは私の頭を撫で、横になって眠りについた。
やっぱり相当、疲れが貯まっていたんだろう。
すぐにすやすやと眠った。
私は寝転んだままダリルの寝顔をしばらく見ていたけど
見張りをするために起き上がって座りなおした。


しばらくして、みんながぞろぞろと起きだした。
グレンは起きると心配そうな顔でこちらに来た


「マギーがいない」
『大丈夫、サシャと出て行った。2人で話してるよ』
「サシャと……そうか……」
『2人にしてあげた方がいいと思って追いかけなかった』
「あぁ、そうだな…ありがとう」
『ううん。マギーは立ち直るよ』
「あぁ。サシャとダリルも…」
『うん……みんな強いもん…』


側で寝ているダリルの顔を見つめる。
みんな一緒なら大丈夫。きっと乗り越えられる。

しばらくグレンとダリルを見つめていたが
グレンは出発の準備をすると戻って行った。
リックと目が合ったから、大丈夫だと意味を込めて頷いた
どうやらリックには伝わったらしい。
しっかりと頷き返してくれた。


しばらくの間、交代で見回りに行ったり
それぞれがゆっくりとした時間を過ごした。


「……どのくらい寝てた?」
『そんなに寝てないよ』
「……マギーとサシャは?」
『まだ戻ってない。銃声も叫び声も聞こえないし
 見回りに行ったけど特に変化も無いから平気よ』
「そうか……」
『出かける準備をして』
「あぁ」


いつでもここを出られる様に準備を始める。
するとマギーの声が聞こえた。


「ねぇ……みんな…?」


マギーを見ると誰か知らない男の人を連れている。
ダリルは足早に外に出て辺りを確認し、戻って来る


「彼はアーロン。仲間はいない。
 武器と荷物はこちらで預かったわ」


マギーの言葉にダリルが身体検査をする。
確かに武器は隠し持っていない様だ。


「やぁ。よろしく」
「武器を持ってた?」
「これよ」


マギーがリックに武器を渡す。
リックはそれを腰にさして警戒のまなざしを向ける。

武器くらい、今はだれでも持ってる
ついそう言いそうになったが、口を閉じた。


「何の用だ?」
「近くにキャンプがあるって。
 キャンプに入るには"オーディション"が…」
「変な言い方だよね。ダンスのオーディションみたいだ」


アーロンのジョークに誰も笑わない。
沈黙が流れる。


「キャンプではなくコミュニティーだ。
 加わってくれたら力強いが…決めるのは皆さんだ」
『気にいらなければ加わらなくてもいいってこと?』
「もちろん。皆さんの意思を尊重する。
 でもどうか一緒に来て欲しいんだ……」


アーロンの言葉にリックは何も話さない。
アーロンは焦っているのかひとりで話し始める


「分かるよ…僕でも行かない…信用できるまではね
 リックに僕のリュックを渡してくれ」


サシャがリックにリュックを渡す。


「外のポケットに封筒が…言葉だけで説得するのは
 不可能だと思うから写真を…それを見て欲しいんだ。
 写真の画質が悪くてすまない。カメラが―」
「どうでもいい」
「……あー。それはもっともだ」


写真について説明を始めるアーロン。
私には写真は見えない位置にいるから分からないけど
街の様子を写真に収めてきたのだろう。
確かに賢いやり方かもしれない。


「重要項目である安全性が保たれている。
 だが、生き残るにはさらに重要な資源がある。
 "人間"だ。君達が加われば、もっと強くなる」


生き残るのに重要な資源は"人間"…か……
確かにそうかもしれない。
人は誰しもひとりでは生きていけない生き物だから…

その後も喋り続けるアーロンに近寄るとリックは殴った。


『リック!?』
「大変……」


アーロンは気絶し、倒れた。
マギーが駆け寄り私もアーロンの側に行った


『生きてる…?』
「平気よ。気絶してるだけ」
「さっきの顔は"彼を殴れ"の顔じゃない…
 "彼は敵じゃない"っていう顔だった…!」
「まだ分からない。バッグの中身を探れ」
「分かった」
「全方向に目を光らせろ。仲間がいる。
 きっとどこかから狙われているはずだ…」
「誰もいなかった。襲う気はないわ」
「何か見えるか?」
「隠れる場所が多い…」
「見張り続けろ」
『リック、ねぇ。リック!』
「なんだ?」
『心配なのは分かるけど…やりすぎじゃない?』
「何がだ?彼を殴った事か?」
『そうだよ。もう少し話を聞いてあげても―』
「奴は危険だ。赤の他人を簡単に信じるな…いいな?」


リックはそう言うとカールに呼ばれて奥へ行った
私はマギーの横でアーロンを見つめていた。
彼は"悪人"には見えなさそうだけど……

気絶してしまったアーロンが目覚めるのを
私はただ見つめながら待っていた。





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