13

あれからしばらく時間が経ち、
私達の乗っていた車のガソリンが切れた。
前の車にカールやジュディス、キャロル達が乗り
私達はひたすらDCに向かって歩き続ける。
後ろにはゾロゾロとウォーカー達が付いて来ていた。


「もうあれから何も見つからない…」
『物資がないと荷物が少なくて済む』
「なに?」
『不幸中の幸い。ボブならきっと―』
「やめて。」
『…ごめん……』


マギーと話していたら後ろにいたサシャを怒らせてしまった。
ミショーンが私の肩を叩いて通り過ぎた。


「一旦ここで休憩しよう」
「森の中を探索してくる」
「何人かに別れよう」


ダリル、マギー、サシャと同じ方向に進む。
少し先で別れてそれぞれ食料や川を探し始めた。
しばらく歩くが何もない……
ため息をついて元来た道を歩き始めた。

すると何やら土を掘っているダリルを見つけた


『……なにしてるの?』
「これだ」
『ミミズ…?』
「ないよりましだ」


ダリルはミミズを食べていた。
土も付いたまま気にせず食べているけど…
ミミズにも味はあるのだろうか…?


「ほら」
『え…?』
「食べろ」
『え、本気?』
「あぁ。ほら」
『いや……私はまだいい…』


そう言うとダリルはミミズを口に入れた。
私にはまだミミズを食べる勇気はない…


サシャとマギーも合流し、みんなの元へ戻る。


「だめね…1日半経つけど何も見つからない…」
「彼らも?」
「えぇ、きっとそう…」
『先は長いね……』
「あとどのくらい?」
「60マイルよ」
「……距離の話じゃない…」


再び歩き始めるが、途中で最後の車もガス欠になる。
みんなでひたすら歩き続ける。

リックと話していたダリルが列を外れ森の中に入った。
付いて行きたい気持ちはあるが……
キャロルが付いていくのを見て辞めた。


「マギー。これあげる」
「なに?」
「オルゴールだよ。壊れてるけど…」
「ありがとう」
「気にいるかと」
「えぇ。気に入ったわ」
「良かった」


カールはマギーの反応を見て頷くと
すぐ後ろを歩いている私の所にやって来た


『いつの間にオルゴールなんか?』
「少し前の家で見つけたんだ」
『そう、素敵なプレゼントだわ』
「ありがとう」


カールの肩を抱くと笑ってくれた。
今まで色々あったけど、カールは本当に優しい子だ。

すると前でマギーがゲイブリエルに何か怒っている。
マギーは先に歩き、ゲイブリエルは辛そうな表情をしている


『カール、ミショーンといて』
「うん、分かった」


カールから離れてゲイブリエルに近付く。
彼は私に気付くと苦笑いをした


『お水を?』
「いや、いい。平気だ……」
『マギーのこと…許してあげて…』
「あぁ。もちろん。それに…彼女は嘘は言ってない」
『あまり気に病まないで』
「あぁ……君は神を信じるか?」
『いいえ?私は元からキリスト教徒じゃないもの』


ゲイブリエルは一言"そうか…”と言うとまた前を向いた。
私もそれからは黙って歩き続けた。


「止まれ……」


リックの合図で全員が止まる。
目の前からウォーカーの群れが歩いて来ている。


『どうする?』
「倒した方が早い」
「サシャ。」
「なによ、その方が安全でしょ?」
「いや。戦うのはやめよう。体力を温存するんだ」


リックは橋の下にウォーカーを落とす作戦を話した。
サシャは反対したが、説得され、しぶしぶ頷いた。

右側にリック、グレン、私、ミショーン
左側にエイブラハム、マギー、お兄ちゃん、サシャ

ウォーカーを待ち構え、順調に橋の下に落として行く。
この調子だと体力を使わないままやりきれそうだ…


そう思った矢先だった。
サシャがウォーカーの頭を掴み、ナイフで刺した。


「サシャ…」
「隊形を保て。サシャの援護だ。乱れるな!」
「計画が狂った」
「やめな、下がってて」


鬼のような形相でウォーカーを倒すサシャ。
サシャに近付かない様にしながらウォーカーを殺す
ミショーンがサシャを止めるけど話を聞かない


『リック!!』
「任せろ」


リックがウォーカーに押さえられ
腕を噛まれそうになっているのが見えて叫ぶ。
すると後ろからダリルの声がした…
と思ったらリックをダリルが助けだしていた。
良かった……良いタイミングで戻って来てくれた…


こちら側のウォーカーを殲滅し、サシャを見ると
エイブラハムの腕をナイフで切りつけていた…
あの時、私にしたのと同じように……


「やめなと言っただろ!?」


ミショーンがサシャを怒鳴りつけるが
サシャは納得のいっていない顔でミショーンを見た
リックも困った顔をしている


「エリー、平気か?」
『うん、リックを助けてくれてありがとう』
「あぁ。間に合ってよかった」
『森の中で何か見つかった?』
「いいや…特には見つからなかった」
『そう…仕方ないね』
「みんな、行こう。先に進むんだ」


リックの合図で全員がまた歩き出す。
私はエイブラハムにバンドエイドを差し出した


『これ、使って』
「必要ない。こんな傷、舐めれば治る」
『でもそんな所、自分で舐められる?』
「ロジータに舐めさせる」
『ふふ。ユージーンに見られるよ』
「見たい奴には見せてやるのが俺の主義でね。
 エリーも見たければいつでも見に来ていい」
『やだ。絶対行かないよ』


エイブラハムと2人で話すのは初めてだけど
案外、楽しく話が出来て嬉しい。
エイブラハムもにこやかに話してくれる。
ちょっとお下品だけど、ユーモアがあっていいかも…


「エリー」
『どうしたの?お兄ちゃん』
「少し、水を飲んでおいた方がいい」
『でも貴重な水だから残しておかないと』
「いいから。飲んで」
『ありがとう』


お兄ちゃんから水をもらい一口飲む。
ぬるいし、なんてことない水がとても美味しく感じる。


<疲れてないか?>
<疲れてるけど…みんな疲れてる>
<そうだな……>
<生きているだけましだと思うことにした>
<それが正しいかもな>


お兄ちゃんは肩をすくめた。
屋根のある場所で眠りたいな…
お湯のシャワーを浴びて、お腹いっぱいご飯を食べるの。
ウォーカーも気にせず、みんなと笑いあって……


「パパ!見て!」


カールの声で私の妄想はかき消された。
目の前には車が3台。
どれも乗り捨てられているようだ。


「森の中を一周してくる」
「私も行くわ」
「いい。俺ひと―」


ダリルがキャロルに答える前に後ろにいる私を見た
どうしたんだろう?固まってしまった。
キャロルも私に振り向き、私の所まで来ると背中を押した。


「2人で行ってきて」
『え?うん…分かった』


ダリルは頷くと森の中へと歩き出す。
私もダリルに続いて森の中に入った


『特に何もないね…』
「あぁ……」


ダリルの目線の先には鹿とウォーカーの死体。
この鹿が生きていれば、良い食料になったのに…

ダリルは少しの間、鹿とウォーカーを見つめていたが
"行こう"と言うと歩き出した。

歩いてすぐ、森の向こうにチラッとみんなが見える。
固まって座って休憩しているらしい。


「大丈夫だ」
『え?』
「俺がいる。何があってもお前を守る。
 誰が相手だろうが、俺がエリーを傷付けさせない。
 だから…そんな不安そうな顔すんな…」


キャロルが私をダリルに付いて来させた理由が分かった。
さっきのサシャのこともあって不安になっていたのかも…


『うん、ありがとう…』


ダリルに抱きつくとぎゅっと抱きしめてくれた。
ずっとこの温もりが私の側にあります様に……


「行こう、みんなが心配する」
『えぇ、そうね』


ダリルとみんなの元へ戻る。
森を出るとリックと目だけで会話をした。
2人の通じ合ってる感じがとても好きだ


「お酒しかなかった?」
「えぇ」
「役に立たない」
「分かってる」
「逆効果だよ」
「そうね……」
「彼は大人だし、これ以上悪化しない」
「………するかも」


彼らの会話を聞きながらダリルにもたれかかる
すると突然、物音がして犬が飛び出して来た。
犬を見るのはギレルモのアジト以来だ。
4匹の犬は警戒して吠えている。
みんなも警戒する中、手を出して口を鳴らす。


『トゥッ、トゥッ、トゥッ』
「…何してる?」
『呼んでるの。こうやったらギレルモの所のチワワは…』


私がダリルに説明をしていると銃声と犬のキャンッという
なんともかわいそうな鳴き声が響き渡った。
サシャが4匹とも銃で撃ち殺したのだ。
誰も何も言葉を発しない。
私も唖然とサシャを見つめた。

そんな中、リックが立ち上がり、木を取った。


「火を起こそう。ダリル、捌いてくれるか?」
「……あぁ」


ダリルが犬を血抜きし、食べやすいサイズにカットする
私はその光景を見ることが出来なかった。


「エリー」
『………』
「食べないと」
『うん……』


グレンからお肉を受け取ってそれを見つめる。
ダリルも4匹を捌き終え、隣に座ってお肉を食べ始めた

いつかシェーンが言っていた。
スイッチを切ればいいと……
私は何も考えず、お肉を口に運んで食べた。






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