11

前の車にリック、ミショーン、お兄ちゃん
エイブラハムとサシャが乗り込んだ。
他のメンバーはダリルが運転する後ろの車だ。
私は助手席に座った。車は走り出す。


『DCって遠いの?』
「あぁ。長旅になる」
『何マイルくらい?』
「エリーに言っても分かんねぇだろ」
『まぁ、確かにそうだけど…』
「心配するな。必ず俺が連れて行ってやる」
『……うん、ありがとう』


ダリルの前向きな発言に少しほっとする。
それからしばらく車を走らせていると
リックから無線で連絡が入った。


「少し前に民家が見える。
 そこが安全だったら今日はそこに泊まろう」
『了解。安全確認は誰が?』
「こちらで行う。安全が確認出来たら連絡する。
 こちらから連絡があるまで近くで待機していてくれ」
『分かったわ。気を付けて』
「あぁ、そっちもな」


無線を切ると、一度ダリルに渡した。


『後ろのメンバーにも伝えてくるね』
「俺が行く」
『いいえ、何かあった時のために運転席にいて』
「…分かった」


ダリルの頬にキスをして車を降りようとすると
ダリルが私の腕を引っ張ってキスをした。


「すぐに戻って来い」
『うん、分かってる』


後ろの扉を開けるとロジータの心配そうな顔が見えた


「どうして止まったの?」
『リック達がこの先で民家を見つけたの。
 安全が確認出来たら今日の宿はそこになるわ』
「トラブルじゃないのね?」
『えぇ、平気よ』
「分かったわ」


みんなの顔をぐるっと見渡すと、とりあえずは大丈夫そうだ。
扉を閉めて助手席に座ろうとした時、遠くにリックが見えた。


『ダリル、リックが見える』
「あぁ、そうだな」
「聞こえるか?」
『聞こえるよ、リック』
「民家は安全だった。少しだが食料も。来てくれ」
『了解』


ダリルが民家まで車を走らせる。
近くに車を止めると私は後ろの扉を開けに、
ダリル、リックペアとエイブラハム、お兄ちゃんペアは見回りに。

民家に入り、カールと一緒にジュディスにミルクをあげていた


『おてんば娘は良く飲みますね〜』
「まだエリーは"おてんば娘"って呼んでるの?」
『たまによ、キャロル。おてんば娘も可愛いじゃない』
「ジュディス、ほら…もっと飲んで」


ジュディスにミルクをあげるカールは立派なお兄ちゃんだ。
私のお兄ちゃんもこうやってミルクをくれたのかな…?
キャロルを見上げると、彼女も柔らかな笑みを浮かべていた。
そこに血相を変えたミショーンが入って来た


「サシャを見た?」
『見てないわ、どうしたの?』
「さっきまでワイヤーを張ってたのに、いつの間にか消えた」
『リック達は?』
「まだ戻ってない。エイブラハム達も」
『キャロル、グレンとマギーを呼んで、ここをお願い』
「えぇ、分かったわ」
「僕も行くよ」
『ジュディスをしっかり見てて。何かあったら守るのよ』
「分かった」
『ミショーン、行こう』


ミショーンと民家を出て、サシャの足跡を辿る。
ダリルに追跡術を教えてもらったのは随分前の事だ。


『…遠くまで来てるね』
「あぁ…」


見回りとは言えないほど、遠くまで来ている。
私達もこのままサシャを追っていいのだろうか…

戻ってリック達を呼ぶかミショーンに相談しようとした時
ウォーカーに囲まれているサシャを見つけた。


「サシャ!」
『行こう!』


ミショーンとサシャの加勢に加わる。
サシャはウォーカーしか見えていない様だ。
一心不乱にナイフでウォーカーを殺している
その姿はまるで…カレンを殺された怒りでいっぱいの
あの日のタイリースを見ている様だった…

ミショーンの方を見ると彼女も苦い顔をしていた。
きっと同じ事を考えているんだろう…


『サシャ!危ない!』


サシャを襲おうとしているウォーカーを倒すと
私に気が付いていないサシャのナイフが
ウォーカーを倒そうと私の顔に目がけて飛んできた
ミショーンが私の服を引っ張ってくれたおかげで
ナイフは頬をかすめただけで済んだ。
ミショーンが引っ張ってくれていなかったら……
私の頭にナイフが刺さっていただろう…
危うく仲間に殺される所だった。


「サシャ!!!」


ウォーカーを倒した後、ミショーンがサシャを怒鳴る
サシャは肩で息をしながらようやくこちらを見た。


「……邪魔しないで」


それだけを言うとサシャは民家に向かって戻って行った。
私は腰が抜けてしまってその場に座り込んだ


「エリー、大丈夫…?」
『サシャに…殺されるかと…』
「あぁ…危なかったね…」
『助けてくれてありがとう、ミショーン』
「いいや。サシャも悪気がある訳じゃ…」
『うん、分かってるよ。あの時のタイリースと同じだけ…』
「そうだよ。怒りで我を見失ってるんだ…」
『昔、リックもそうなった…こんな世界だもの…
 仕方がないことよ……でも腰が抜けちゃった』


ミショーンに笑いかけると彼女も目の前に座った


「おんぶして戻るって手もあるけど、どうする?」
『ふふ、この歳でおんぶは恥ずかしいよ』
「じゃあ少し座っていよう。
 でも早くしないと心配性の"誰かさん"が捜しに来るかも」
『それは大変。早く立たないと』
「それに頬も後で手当てしないとね」
『うん、お願いしてもいい?』
「もちろん」


ミショーンといると、とても心がなごむ。
何度、彼女に心を救われただろう…

ミショーンと喋っていると、彼女の予想通り
リック、ダリル、お兄ちゃんが捜しに来た


「こんな所で何してる?」
<エリー!ケガしてるじゃないか!>
『お兄ちゃん、平気。大丈夫』


思わず日本語で話しかけてくる兄を落ち着かせる。
リックはミショーンに"何があった?"と事情を聞いた
ダリルも周りのウォーカーを見て不審顔だ。
ミショーンが2人に説明をした。


「……はぁ…後でサシャと話そう…」
「エリー、立てるか?」
『うーん…』
「俺が連れて行く」


ダリルはそう言うと私をお姫様だっこしてくれた。
実の兄の前でこれは相当恥ずかしい。
今の私は顔が真っ赤になっていることだろう…


『恥ずかしい……』
「文句言うな。勝手したお前が悪い」
『仲間のためだもの』
「……頼むから無茶するな…」
『うん…心配掛けてごめんね』
「あぁ。しばらくサシャには近付くな。
 何かあれば俺達が助ける。エリーは行かなくていい」
『うん、分かった』


大人しく頷くと、ダリルも頷いてくれた。


「それから…リックがサシャと話す時は俺も同席する」
『え…?どうして?』
「どうしてもだ」


この発言にはリックも驚いたらしく、会話に入って来る


「サシャと2人きりで話したいんだが…」
「エリーを殺す所だったんだぞ?
 一言、言ってやらないと気が済まねぇ…」
「リックには悪いが、俺も同感だ。
 悪気がある・ないの話では済まないんだ」


ダリルの言葉にお兄ちゃんも同意する。
ミショーンも今回ばかりはダリルに賛成の様だ


「2人の言い分も分かる…」
「3人だよ」
「あぁ、ミショーンもか…3人の言い分も分かる。
 俺だってエリーはずっと一緒にいる家族だ
 だが今日の所は2人で話をさせてくれないか?
 サシャは今日、タイリースを失ったばかりなんだ
 ……ローリを失った時の事を考えたら…
 サシャの気持ちも痛いほど分かる……」


リックの言葉にダリルは黙り込んだ。
ミショーンとお兄ちゃんはその場にはいなかったが
なんとなく空気を読んで察したらしい。
3人共しぶしぶ頷いた。


「夕食後にサシャと話す。頼んだぞ」
「……分かった」
「分かったよ」
「ダリルは?」
「………分かった」
「よし…」


リックは3人の返事に頷くと、
私の頭を撫でて先に民家へと歩いて行った。


「まずはエリーの手当てをしなくちゃね」
「消毒液をロジータが持っていたはずだ」
「後で借りに行こう」


ミショーンとお兄ちゃんが前で話しながら家に入った。
私がダリルの名前を呼ぶと、ダリルは立ち止まった


『ダリル』
「なんだ?」
『今日はずっと側にいてくれる?
 見張りも誰かに任せて。側にいて欲しい』
「あぁ…ずっと側にいる」
『良かった。ダリルと一緒なら安心だもの』
「俺がお前を死なせない…何があってもだ」
『うん、私もダリルを死なせない。何があっても』
「あぁ…」
『ねぇ、もう歩けるから降ろして?
 中に入ったらみんないるでしょ?恥ずかしい』
「見たい奴には見させておけばいい」
『やだよ。日本人はそんなことしないの』
「分かった」


ダリルは私を下ろしてくれた。
うん、もう腰も抜けていない


『さっ、入ろう』
「あぁ」


ダリルと一緒に中に入る。
グレンが心配そうに駆け寄ってきた


「ミショーンに聞いた。平気?」
『平気だよ。ケガもこれだけだし、生きてる』
「良かった……」


グレンが思いっきり私を抱きしめる。
私もグレンを抱きしめた。


「エリー、手当てするよ」
『ありがとう。ミショーン』


消毒液を持ったミショーンが来てグレンは離れた。
そのままミショーンに手当てをしてもらい
ダリルはそれをじっと見ていた。


『いたっ…』
「動かないで。我慢しな」
『優しくして…』
「充分優しくしてる」
『傷は残りそう?』
「どうだろう…上手くいけば消えるかも」
『残って欲しくないなー』
「傷が残ってもエリーはエリーだよ」
『そうなんだけどさー』


ミショーンが優しく微笑みかけてくれる。


「はい、終わり。夕食に行こう」
『うん。ありがとう』


3人で夕食を食べに行く。
テーブルの上に並んでいるのはとても寂しい物だったが
ないよりはましだと言い聞かせて夕食を頂いた。


夕食後、リックとサシャが見張りを担当し
私達はそれぞれ眠る準備を始めた。


『ダリル、ここにしよう』
「俺はどこでもいい」
『ずっと見張りで眠ってなかったでしょ?
 今日は私の側にいる約束なんだからちゃんと寝て?』
「あぁ、分かってる」


ダリルは私の額にキスを落とすと、私をぎゅっと抱きしめた。
"おやすみ"と言うと私はすぐに眠りについた。





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