その場でしばらく過ごし、新たにエド
妻のキャロル、娘のソフィアが仲間に加わった。
エドはなんとも高圧的な男でいけ好かない。
でも娘のソフィアはとても可愛い。
ルイス達以上に私に懐いてくれている。
数日とは言え、密度の濃い時間を過ごしているもの


そう。アトランタから逃げてから何日も経っている。
そろそろ街の方は軍が制圧してくれただろうか?


『グレン、街はどうなったと思う?』
「そうだな…一度見に行ってみようか…?」
『そうね。もしかしたら軍が制圧してくれていて戻れるかも』
「食料のこともあるし…デールに相談してみよう」


思いがけず大世帯となってしまったので、食料の減りが早い。
近くの森で木の実などを集めてはいるけど…
食料が無くなってしまうのは時間の問題かもしれない。

デールを探すとキャンピングカーの上で見張りをしていた


「デール!」
「どうした?何か問題か?」
「いや!ちょっと相談がある!」


何事かと眉間にシワを寄せたデールだが
グレンの話を聞くと、何度も頷いた。


「確かに確認をしに行くことは大事だ」
「だから2人で行ってくるよ」
「だが、軍が来てなかったらどうする?2人だけで平気か?」
「あぁ。その時はすぐに逃げてくるよ」
『2人だけなら逃げやすいから大丈夫よ』
「あぁ。何かあった時、人数が多い方が危険だ」
「そうだな……頼むとしよう。ありがとう」
「任せてよ。じゃあ行こう、エリー」
『えぇ』


グレンと身支度をしているとTドッグが近付いてきた


「どこか行くのか?」
『街の様子を見に行ってくるの』
「すぐ戻る」
「俺も行こうか?」
「いや、大丈夫だ。Tドッグはここのみんなを頼む」
「……分かった」
『ちゃんと帰って来るから、ね?』


心配そうな表情のTドッグ。
私がしっかり目を合わせると頷いてくれた。


「エリー、グレン、気を付けてね」
『ありがとう、エイミー』
「必ず帰って…」
『うん、分かってるよ』


エイミー、アンドレアとハグを交わし車に乗った。
グレンが運転席、私は助手席だ。


『窓開けてもいい?』
「あぁ、もちろん」
『風が気持ちいい……』


窓を開けると気持ちのいい風が入って来る。
髪がなびいて顔にかかるのを払って外を見た


「こうしてると、前に戻ったみたいだ」
『そうだね…今から海にでも行くみたいな』
「水着を持ってこよう」
『ふふ、うん。そうだね』


グレンと他愛もない話をしながら街へと進む。
私達は生きてる人間にも、死んだ人達にも会うことなく
無事にアトランタ市内へと到着した。


「ゆっくり進もう…」
『うん、分かった…』


グレンが街の中へとゆっくり車を進める。
すると突然向こうで男の人の叫び声が聞こえた


『グレン…あれ……』
「食べられてる…」


私が指差す方向には男の人に群がるウォーカー…
軍はアトランタを助けに来てはいないらしい


『来月の支払いの心配はしなくてよさそう…』
「あぁ…自己破産しなくて済んだよ…」
『引き返そう。奴らに気付かれる前に』
「そうだな…」


ゆっくりとバックをして市内を出た。


「くそっ、軍は何してる?」
『どうする?このまま戻る?』
「アトランタ市内を少し見てみたい」
『分かった。車を隠して行きましょう』
「エリーはここにいて、1人で行ってくる」
『嫌よ。私も一緒に行く』
「何があるか分からないんだぞ?」
『それでも。グレンと一緒に行く』
「分かった……側を離れないで」
『うん、分かった』


グレンと車を端の方に止めて市内に戻る。
ここは他にも放置された車が止まっているから
車を隠すには良さそうな場所だし、使える車が
他にもあるかもしれない。後で見てみよう。


市内に入り、まずは自分達の職場へと向かう。
働いていた誰かが生きているかもしれないし、
ピザ屋には食料も水も銃も置いてある。
少しだけ私物も…
それにビルが高いから市内を一望出来る。

職場に着く前にあるスーパーを覗くと
食料は残っていそうだが、中には"動く死体"が…
仕方なく諦めて次へと向かった。


「入ろう…」


グレンの合図で建物の中に入る。
階段を上っていると閉じられたドアから呻き声が…
中には"動く死体"が閉じ込められているのだろう


『下の階は商業系の会社ばかりだっけ?』
「あぁ、確かそうだけど…なんで?」
『食べ物を回収出来ないかと思って』
「…危険だな…やるとしても後でだ」
『うん、そうね。先に職場に行こう』


職場まで一気に階段を駆け上がる。
グレンが扉の前で振り向いたので頷く。
ドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた


「鍵がかかってる…」
『中に誰かいる…?』
「おい!誰かいるのか!?」


グレンが扉を叩き、声をかけるが返答はない。
"動く死体"の呻き声も聞こえない。


『鍵をかけて逃げた?』
「かもね。鍵を持ってる?」
『ちょっと待って……』


持ってきてバックパックの中を探ると鍵が出て来た


『あったよ、これ』
「さすが。よし、中に入ろう」


グレンと中に入ると、いつもの光景が目の前に広がる。
ここの店主は危険を察知してすぐに逃げたらしい。
中は荒らされてもいないし、当時のまま綺麗だ


「エリーは食料と水を。俺は銃と薬を取って来る」
『分かった』


鍵を閉めるとグレンと別れて調理場に向かう。
パン生地が発酵しまくってとんでもなく膨らんでいた
……これを焼いて食べる時間はあるかな?
ピザの細かな材料は全部持って行けないだろうし…

私は急いで簡単なピザを作ると焼き始めた。
それを待つ時間にバックパックに食料と水を詰め込んだ


「用意出来た?!」
『グレン、冷凍のチキンとポテトはどうする?』
「一応持って行こう。……何か焼いてる?」
『うん、ピザ作ってる』


グレンは少しの間、驚きの表情を見せたが
次の瞬間には笑って私に"のんきだな"と言った


『バックパックに入りきらないコーラが2本
 それにピザ。やることはひとつじゃない?』
「いいね。曲をかけよう」


店主がお気に入りだったジュークボックスから
陽気な洋楽が流れ出すのを聞きながらピザを出した。
うん、我ながら美味しそうに出来ている。


『食べよう。ピザなんてもう食べられないかも』
「また食べられるようになるさ。軍が何とかしてくれる」
『だといいけど』


グレンとピザを食べながらコーラを飲んだ。
こんなにジャンキーな食事は数日ぶりだと言うのに
なんだか酷く昔に食べた物の様に思えた。


「あぁ、この曲。店主が好きだった…」
『そうだね。古い曲で誰も知らなかったけど』
「不思議と全員が覚えてたよな」
『サムなんて良くこの歌で鼻歌歌ってた』
「トムもわざわざ歌手を調べてたな」
『そうだよ、黄巾賊ってグループだっけ?』
「あぁ、黄巾賊ごっこやって怒られた」
『あー…あの時のマミーの顔は怖かった…』


マミーはここの店主、ダンの奥さん。
グレンとの思い出話は尽きることがない。
ここにはたくさんの思い出が詰まっている…


『そういえば銃はあった?』
「ひとつだけ残ってた。弾の方がたくさんあったよ」
『トム達が持って行ったのかな?』
「あぁ、たぶんそうだ。ロッカールームも空だった」
『私の私物まで持って行っちゃったの?』
「日本にいるからいいと思ったんだろ」
『まぁ、いいけど……』


特に大切な物は入れてなかったし…


「でもこれだけはあった」


そう言ってグレンが差し出したのは家族の写真。
ロッカールームに日本で撮った写真を入れていたのだ


『ありがとう。グレン』
「お礼に最後の一枚を食べていい?」
『えぇ、どうぞ』
「ありがとう」


グレンが最後の一枚のピザを食べている間
家族の写真を見つめてから胸ポケットにしまった。


「さて、そろそろ―」

ドンドン!
「あああぁぁぁ」


「……まずい、音に寄って来たのかも…」


"動く死体"の呻き声が聞こえて急いで音楽を止める。
しばらくここで奴らが諦めるのを待つしかない…
グレンは黙って震える私の手を握ってくれる。
私もグレンを見てしっかりと頷き、奴らが去るのを待った。


気が付けば、眠っていた様で…
私にはブランケットがかけられており
グレンも座ったまま眠ってしまっていた。
私はブランケットをグレンにかけてドアに近付いた

"動く死体"の呻き声は聞こえない。
どうやらどこかへ行ってしまったようだ。
市内の大通りが見渡せる窓に近付いて下を見る

一応、道は車で進めそうだ。
"動く死体"もいるけど、数は多くない。
私がもっと強ければ倒しながら進む事もできただろう。
残念ながら私にはそんなことは出来ないけど……


グレンの所に戻ると彼の寝顔を見つめた。
私の大好きな人…彼の役に立ちたいけど…
何が出来るのだろうか。

そんなことを考えながら余っていた生地で朝食を作った。


「……ん…俺…?」
『おはよう。朝食出来てるよ』
「寝てた?いま何時?」
『時計が壊れてるから分からないけど…
 明るさから見ると10時くらいかな?』
「奴らは?」
『どこかに行ったみたい』
「良かった。良い匂いがする」


グレンと朝食を食べて、身支度を整えた。


「まずは一度、キャンプに戻ろう。
 日帰りの予定だったからみんな心配してるかも」
『えぇ、分かった。書き置きを残してもいい?』
「あぁ。連絡ノートに書いておこう」


職場内のメンバーが情報共有するためのノート。
開くと中には店主・ダンの汚い字でこう書かれていた

"俺達は銃を持って逃げる。みんな無事で生き残るんだ
 ダン・マミー・トム・サム・アレックス・レイ"


アレックスはとても爽やかな黒人の青年。
学費のためにアルバイトをしているとても良い子だ
レイはダンとマミーの1人娘。
ティーンエイジャーで思春期真っただ中。


私とグレンもその下に書き足した。

"山奥にいる。数人とキャンプしてるから生きていたら来て"
"俺達は生きてる。みんなも生き残るんだ"

最後にエリー、グレンと署名をして元の場所に戻した。


「行こう、みんなが待ってる」


グレンが扉を開けて、キョロキョロと辺りを見回すが
特に問題はない様で私を呼んだ。
すぐに鍵を閉めて足音を立てない様にして階段を降りる。
階段の途中に転がっていたサバイバルナイフをポケットにしまった


「大通りに何人かいるけど、こっちに気付いてない。
 車の影に隠れながら車まで進もう。行ける?」
『えぇ、もちろん』
「よし、行くぞ…」


グレンの後ろをついて歩いて行く。
知性が低い奴らは私達に気付かずに通り過ぎて行く。
再びグレンが動き出した時、1人がこちらに気付いて
ゆっくりと歩み寄ってくるのが見えてグレンに合図した。
グレンが"平気だ、行こう"と言うので歩みを進める

すると突然"ビービー"と車のアラームが鳴り響いた。
どうやら"動く死体"が車に当たり盗難防止用のアラームが
辺り全体に鳴り響いてしまったらしい。
先程素通りしていった奴らまで戻って来る


『…グレン……!』
「しまった、走るんだ!」


グレンと車に向かって走り出す。
後ろだけでなく、前から横からと出てくる。
数は多くはないが囲まれたら生き残れない


「あの看板を投げる!エリーは止まらず走れ!」
『分かった!』


グレンの指示通りに動く。
看板のおかげで歩みが遅くなった奴らを振り切り
無事に車に乗り込むと大急ぎで市内を後にした。


「はぁ…はぁっ」
『私達……生きてる…』
「あぁ、生きてる…」


お互い肩で息をしながら喜び合った。
グレンが笑うのでつられて私も笑った。

そして私達は穏やかな雰囲気のままキャンプに戻った。



「グレン!エリー!」
『ただいま、Tドッグ』
「良かった!無事ね!?」
「あぁ、ケガはないし食料も手に入れた」
「2人とも良くやった」


みんなが駆け寄って来る。
エドは大して興味もなさそうにタバコを吸っていた。


「街はどうだったの?」
「……(首を横に振る)」
「そう……」
「軍はまだ来てないのか…」
『対応に追われているのかも』
「一生このままだったらどうする?」
「生き延びるだけさ」


エイミーの言葉にグレンが答える。
アンドレアもエイミーの手を握って強く頷いた。


「市内の食料はまだありそうだったか?」
「あぁ、俺達の職場も物資は全て残ってた。
 スーパーやドラッグストアはお客でいっぱいだ。
 2人だけじゃ倒せないと思って寄って来なかった」
『みんなで行って入口を閉じればなんとか…』
「もしくは鍵の掛かっている部屋ね」
『その通りだわ』
「だが市内に戻るのは今は辞めた方がいい。
 このメンバーじゃ全員で戻るのは厳しいだろう」
「奴らに対抗する力が必要だ」
「しばらくは今ある食料で乗り越えましょう」
『そうね。川で釣りも出来るし』


キャロルに微笑めば、彼女も安心した様に笑った。
ソフィアを連れて危険な市内には戻りたくないだろう。


「2人ともありがとう。しっかり休んでくれ」
「あぁ、そうさせてもらうよ。クタクタだ…」
『私もちょっと疲れちゃった』


少し寝たとはいえ、ずっと気を張り続けていたしダッシュしたのだ。
キャンプに着いた瞬間、安心からかどっと疲れを感じた


「眠るといい。夕食になったら起こそう」
「分かった。頼むよ」
『ありがとう、デール』


デールにお礼を言うとグレンとテントに戻った。
寝袋に入ると、驚くほど早く眠りについた



チュンチュン…
小鳥の歌声で目を開けると、外は明るい。
んーっと背伸びをして外に出ると誰もいない
みんなはどこに行ったのだろう?


「エリー、やっと起きたのか」
『え?どういうこと?』
「昨日は夕飯も食べずに眠っていたんだぞ」
『えっ!?』


私はてっきりすぐに目が覚めたのだと思っていたが
デールの話を聞く限りどうやら違うらしい…
"相当疲れていたんだな"とデールは笑った


『デールは眠ったの?見張り変わろうか?』
「あぁ、平気だ。夜はTドッグが見張りをしてた」
『そっか。じゃあ私は川に行ってくるね』


私はデールに川の水を汲んでくると言うと
入れ物を2つ持って川へと向かった。
顔を洗い、水を飲んでから容器に水を入れた


「おはようエリー」
『アンドレア、おはよう』
「手伝うわ」
『ありがとう』


アンドレアにひとつ渡して一緒にキャンプへと戻る


「昨日はだいぶ疲れてたのね。
 何度も声をかけたのに起きなかった」
『本当?ごめんね、声をかけてくれたのに』
「いいのよ。気にしないで」


それからアンドレアは少し声を落とした


「エイミーが街の事を聞きたがってた」
『特に話す様な事はなかったけどね…』
「あの子には残酷な事は伏せてくれない?」


アンドレアの顔は妹を心配する顔だった。
エイミーが希望を失わない様に、生きられる様に
ありのままの街の様子は伝えて欲しくないのだろう


『えぇ、分かったわ。マイルドにして伝える』
「ありがとう。本当に……」
『いいのよ、アンドレアの気持ちはよく分かる』


笑顔で頷くと、安心したように笑った
キャンプに戻るとエイミーが笑顔で近付いてきた。


「エリー、どこに行っていたの?」
『水を汲みに行ってたのよ。必要でしょ?』
「そうね。ありがとう。でも私聞きたい事があったの」
『なに?お水を煮沸しながらで良かったら聞くわよ?』
「もちろんいいわ。街の様子を聞きたかっただけなの」
『残念ながら軍はまだ来て無かったわ。
 でも意外と綺麗だったわよ。鍵のかかってる部屋は
 入る事が出来ないから私達の職場も荒らされてなかった』
「じゃあまた街に戻れる可能性もある…?」
『どうかしら…軍が来てくれたら戻れるかもね』
「ありがとう。また前の様に暮らせるといいのに…」
『えぇ。誰もがそう願ってるわ』


エイミーは不安そうな顔を見せたが、
私とアンドレアがにこりと微笑むと
少し安心した様に笑って見せた。


どうか私達に希望の光が舞い込んできます様に……




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