「銃をしまって」
「言う通りにするんだ」


全員が銃をホルスターにしまって中に入る。
車いすに座るキャロルとベスを見て安心した…
ベスの可愛い顔にはたくさんの傷が付いていて
痛々しいけど、生きていて本当に良かった。
あの先頭にいる人がドーンだろうか?
確かに賢そうな顔立ちをしている。


「ラムソンは?」
「腐人が……」
「死ぬのを見た」
「そう…残念だわ…善人だった…」


ドーンは目を涙で潤ませている。


「1人ずつ交換よ」
「いいだろう」
「進め」


ダリルが警官を連れて行くと車いすに座った
キャロルがこちらに連れてこられる。
無事に交換が完了した。

キャロルの手を取りしゃがみ、目を見つめる。


『平気…?』
「えぇ。ありがとう」


キャロルの額にキスを送ると奥へと進ませた。
次はベスだ。リックが警官を連れて行く。
リックはベスの頭を自分に寄せた。


『ベス…!』
「エリー!」


ベスとハグを交わす。
ダリルもベスの肩を叩いている。


『顔の傷はどうしたの?』
「もう平気よ。治りかけてる」
『ほんと?可愛い顔が台無しだわ』
「ふふ。迎えに来てくれてありがとう」
『当然でしょ?』
「マギーは?」
『無事よ。後で話そう』
「分かった」
「無事に交換が済みそうね」
「あぁ」


私達は2人を連れて去ろうとした。
すると突然ドーンが驚きの発言をした


「ノアを返して。それで終わり」


呼ばれた本人も、私達も驚きの表情をする。
ノアは元々私達が捕らえた訳ではないのに
どうして返さなければらないのだろうか?


「約束が違う」
「私の世話役よ。ベスがいないなら必要だわ」
「ドーン…」
「黙って。彼を命懸けで捜し、1人死んだ」
「行くな」
「あなたのものじゃない」
『ノアは誰のものでもない。ノアの人生よ』
「そうだ。彼はここを出たがっている」
「交渉決裂ね」
「交渉は済んだ」


一歩も引かないドーンにノアが前に進み出る
リックはノアの前に手を出して制止するが止まらない


「いいんだ」
「行くな……」
「仕方ない」
「よくないわ」
「決まりね」
「……待って!」


歩きだすノアにベスが駆け寄り抱きしめる。


「いいんだ……」
「戻ると思った」


ドーンの言葉に、ベスが固まった様に見えた
ノアからそっと離れるとドーンと向き合う。


「よく分かった」


そう言うとベスは手を振り上げた。
そこからはもう何が起こったのか…
すぐには理解出来なかった。

ベスが撃たれ、血がリックの顔に飛び散る。
"撃ったのは不本意だ"という顔をしている
ドーンをダリルが撃ち殺し、全員が銃を構える


「撃たないで!!終わりよ。」
『ベス…?』
「彼女だけでいい。銃を下ろして」
『ベス!!』


私はベスに駆け寄りベスを抱きしめる。
当然のことだけど…もう息をしていない。


『そんな……うそと言って…ベス!!』
「……ここに残って。外よりはいいはず」
「断る…ここを出たい者がいたら一緒に連れて行く」


リックと警官の話も聞かず、ベスを抱きしめ泣いた。
タイリースがそっと私の肩を抱いてくれる。


「行こう……」
「エリー、ベスを渡してくれ」
『ダリル…』
「俺が連れて行く…」


ベスをダリルに託すとキャロルが手を握ってくれた


「行きましょう」
『うん……』


リックを先頭に外に出るとマギー達が目に入った。
マギーは私の後ろに歩いていたダリルを見つけて崩れ落ちる
仲間との再会は悲しいものとなった。


「とにかく……教会に戻ろう…」


マギーの泣き叫ぶ声が響き渡る。
ダリルもベスを抱えたまま泣いた。
私の手を握ってくれるキャロルも…


教会への移動中、誰も何も話さなかった。
ミショーンが私の手に付いたベスの血を
濡れたタオルで落としてくれていた。


教会へ着くとベスを長椅子に横たえ、
マギーがベスの手を握ってお別れをしている。
グレンが付き添っているのでみんなは席を外した


「エリー…着替えた方がいい」
『あぁ…うん…そう、だね…』


ミショーンに言われ、車に向かう。
服を脱いでみるとベスの血で赤く染まっていた。
新しい服に着替え血で染まった服を抱いてまた泣いた。


「エリー」
『ダリル……』


ダリルが私を強く抱きしめてくれる。
私はダリルの胸で、ダリルは私の首元で泣いた。


『ダリル…行こう…』
「……」
『ベスの所に行こう…』
「……あぁ」


ダリルの頬を両手で掴み、見つめると
まだ涙を浮かべたまましっかりと頷いた。
ダリルと手を繋いでベスの元へと向かう

教会の外ではベスの為に穴が掘られていた。


「ベスにお別れを言おう」


リックの言葉にベスの追悼式が始まる。
それぞれがベスへ最後の言葉を投げかけた。
ゲイブリエルが聖書を読んでくれる中、
ベスをみんなで土の中に埋めた。


「今から向かう場所だが…ノアの故郷に行こうと思う。
 バージニアのリッチモンド郊外にあるそうだ。
 ベスもノアと行くつもりだったらしい…」
「ベスの望みなら行こう…」
「そうだね」
「長旅になる。しっかり準備してくれ」



リックの言葉にひとまず解散になる。
ダリルは時間まで狩りをしてくると森に入った

教会の中ではマギーがバスで見つけたという
ベスの荷物の整理をしている所だった。


『マギー』
「どうしたの?エリー」
『ベスの服をもらってもいい?
 マギーさえ良かったら、着たいの…』
「もちろんよ。私には入らないから…
 エリーが着てくれたら嬉しいわ」
『ありがとう。大切にするね』
「えぇ。ベスも喜ぶ」


マギーから服を受け取るとハグをしてから別れた。
私も出発の準備をしなければならない。
ベスの服を大切にしまって他の荷物も片付けた。

そして私達は二台に分かれて車に乗り込む。
タイリースが運転する車にリック、ミショーン
ノアとグレン、お兄ちゃんが乗り込んだ。
ダリルが運転する車にはその他のメンバー。
助手席に座ろうとするとダリルに止められた。


「マギーの側にいてやれ。グレンもあっちの車にいる
 いまマギーを支えられるのはエリーだけだ…」
『ダリルは…?』
「俺は……まだマギーの近くには行けない」
『分かった。マギーの事は任せて』
「頼む」


ダリルは頷くと運転席へと乗り込んだ。
助手席にはトランシーバーを持ったキャロルが…
きっとダリルは責任感を感じているのだろう。
刑務所を出てからはベスに救われたと話していたから…


車に乗り込み、マギーの隣に座る
マギーの手を握ると私にもたれかかってきた


「まだ信じられない…父さんもベスもいないだなんて…」
『うん……私もだよ…』
「…っ、ベス…」


泣きだしたマギーの肩を抱く。
父親も妹も失ってしまったマギーの悲しみは計り知れない。
気が付くといつの間にかマギーは眠っていた。
ずっと泣いていたから疲れてしまったのだろう…

ふと前を向くとジュディスを抱き抱えたカールが
心配そうにこちらを見ていて目が合った。
"大丈夫よ"と微笑めば、不安そうなままだったけど
私の目を見てしっかりと頷いてくれた。


「これを…」
『ありがとう、タラ』


タラからブランケットを受け取りマギーにかける。
夢の中では幸せな気分になれるといいんだけど…


しばらく車は走り続けていたが、停車した。
エイブラハムがダリルに事情を聞きに行く。
マギーは未だに眠り続けている。


「前のメンバーがノアの故郷に着いたらしい。
 20分たって連絡がなければ俺達も入るが
 とりあえず今は待機だ。街の状況の連絡を待つ」
『起こすのは後でもいい?』
「あぁ。街に入らないかもしれないしな」
『…そうだね…』


エイブラハムの言葉に頷くと彼は扉を閉めた
その音でマギーが目を覚ました


『おはよう、マギー』
「エリーごめんなさい。重くなかった?」
『全然平気よ。ダリルに比べれば軽いものよ』
「ダリルと比べないでくれない?」


マギーが少し柔らかな表情になった。
すると扉が開き、ダリルが顔を出した。


「街は壊滅していたらしい。物資を調達してる。
 リック達が戻るまでこの辺を捜索する。」
「俺も行こう」
「私も」
「僕も行くよ」
「ジュディスは私に任せて。エリーも行って」
『平気?マギー』
「えぇ。」
『分かった。私も行く』
「運転席にキャロルがいる。
 何かあったらキャロルと車で逃げろ」
「えぇ、分かった」


ダリルは頷くとエイブラハム、サシャ、
カールと私は車から降りた。


『カール、私から離れないで』
「うん、分かった」


街に近付くと遠くからワイヤーが張ってるのが見えた。


『街は壊滅したんだよね?
 じゃあ、ワイヤー貰って行ってもいいのかな?』
「いいんじゃない?死んだ人は使わないでしょ」


サシャの言葉に思わず苦笑いをする。
もう少し言い方があると思うんだけど…


『あー…じゃあカール、手伝ってくれる?』
「うん、いいよ」


ワイヤーに近付き、ケガをしない様に取って行く。
ここの人達がしている様にワイヤーは意外と使える
行く先が不確かな今後に役立ってくれるだろう


「…だいぶ取れたね」
『えぇ。一度しまおっか』


カールとまとめたワイヤーをバックパックの中に
片付けていると、カールがキョロキョロとし始めた


『カール?』
「何か聞こえない?」


カールに言われ、手を止めて耳を澄ませてみる。
……確かに何か聞こえる。


『リック?』
「パパの声だ…」


ワイヤーを全て片付け、バックパックを背負い立ち上がる。
声はだんだん近付いて来ている。


「パパ!!」
「カールか!?」
『タイリースはどうしたの!?』
「噛まれたから腕を切り落とした!サシャは!?」
『森の中よ!』
「呼んでおいてくれ!」
『分かった…!』


リック達はタイリースを担ぎ、車に向かった。
私とカールは急いでサシャを捜し始めた


『サシャ!?サシャー!?』
「サシャ!どこ!?」


サシャが歩いた方向に走りながら、サシャの名前を叫ぶけど
一向に返事もなければ、サシャの姿も見えない。
一体どこまで行ったんだろう…?

すると前からダリルが走って来るのが見えた。


「サシャなら車に戻った。どうした?」


走り続けていた私とカールは、肩で息をしていた。
ダリルの問いかけに答えたくても言葉が出てこない


「……タイリースに何かあったのか…?」
『(何度も頷く)』
「…噛まれた」
「急いで戻るぞ」


私の代わりに答えたカールの言葉を聞き
ダリルは険しい表情に変わり、また走り出した。
私とカールも後に続く。
ウォーカーを殺しながら進み、車に辿り着いた時には
すでにタイリースは息を引き取っていた…

ベスに続き、また仲間を失った。




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