朝から教会のバリケード作りでみんな大忙し。
教会のパイプオルガンのパイプを外し外に立てる。
かなり大きく私よりも大きい物もあるかもしれない…


「エリーには無理だ。やめとけ」
『やってみないと分からないでしょ?』
「ムッとするな。あっちを手伝え」


むっとした私の顔を見てダリルは笑った。
お兄ちゃんも来て一緒に"やめとけ"と言う
仕方がないから別の作業を手伝うことにした。
サシャの方を向いたが……あそこはやめておこう
ダリルも心配そうにサシャを見つめていた。
その視線に気付いたタイリース。


「大変だったんだ」
「妹は大丈夫か?」
「いや……」


ダリルはサシャの脇を通って運び出す。
外に出るとゲイブリエルが十字架を見上げていた


「十字架も取るのか…?」
「必要ならな…」
『今の所、必要はないわ。
 ねぇ…ここにいたら危ないよ?』


ニコリと微笑めば、不安そうな面持ちで頷いた。
ゲイブリエルを中にいれ、私も作業を手伝った


「出発しよう。」


カールとジュディスと話し終えたリックが言う。
ジュディスとカールが心配そうなリックのために
お兄ちゃんもここに残ることになった。
ミショーン、お兄ちゃんとハグを交わし、
カールとジュディスの額にキスを送る。


『行ってきます、気を付けてね』
「エリーもね。2人を連れて帰って来て」
『えぇ。もちろんよ』


私達が教会を出たら扉にも板を釘で付ける予定だ。
これだけのバリケード、そしてミショーンと
カール、お兄ちゃんがいればここは問題ないだろう。
私達はベスとキャロル救出に向けて歩き出した。


「ここで作戦会議をしよう」


リックの指示に従い、建物の中に入る。
ノアの証言を元にどう動くか作戦を聞く


「日没に空砲を撃ち、2人を巡回におびき出す。
 暗くなったら突入開始だ。階段の鍵を壊し5階へ
 俺がドアを開け、ダリルが守衛を―」
「どうする?」
「喉を裂く。気付かれない様に事を運び優位に立つ
 ナイフやサイレンサー銃を使う。手際良くな…
 タイリースとサシャはここに…ダリルはキッチン
 エリーはダリルの援護をするんだ。俺はドーン
 残りが降伏すれば5対3。ベスがいれば6対3。」
「12対3だ。患者が加勢する」
「うまくいけばな……最悪の場合は?
 警官の1人が予想外の所にいたら…
 騒ぎになり、一気に銃撃戦だ。弾が飛び交う」
「仕方ないわ」


タイリースの言うことも最もだった。
銃撃戦になった場合、こちらも無傷とはいかない
特に足の悪いノアが危ない目に合うかも…


「良い案がある。警官を生きたまま数人捕らえる。
 人質交換をすれば、誰も死ななくて済む…」
「確かにうまくいくかも…だがこっちが確実だ」
「いや、人質交換も確実だ
 ドーンは秩序を保ちたい。そうだろ?」
「あぁ。努力だけはしてる」
『2人警官を捕らえれば…』
「あぁ。彼女の選択肢は1つだ
 誰も死なない。彼の言う通りに」


日没前に空砲を撃つのはやめて
明るい今から警官を誘い出すことにした。
ノアが囮となり、警官の到着を待つ。


「銃を捨てて!」
「手を上げて後ろ向きに!」
「痛かったら言え」
「銃声を聞き逃すとでも?」
「………腐人は?」


男性の警官は少しは頭が切れる様だ。
ノアが発砲したにも関わらず、近くには死体も
ウォーカーもいない事に気付いて質問した。

ダリルが口笛を吹き、注意をこちらに向ける。
警官の2人は私達を見ると驚いた表情をした
私達と警官はお互いに銃を向け合う。


「手を上げろ」
「何が望み?」
「望みが何であれ、力になる」
「従えば傷つけない」
「……分かった。従う」
「よし。後ろを向け。銃を置き、ひざまずけ」


サシャとダリルが2人の警官を拘束する。
私はさっと前に出て拳銃を回収した。


「ひとつ聞いても?」
「なんだ?」
「その話し方、身のこなし…警官か?」
『……すごい。なんで分かるの?』
「知るかよ…」


ダリルに小声で話しかけるも冷たくあしらわれた。


「俺もそうだった」
「ラムソンだ。協力するはず。いい人だよ」


ノアがそう言った瞬間、一台の車が現れ
せっかく捕まえた2人の警官を連れて行ってしまった。
慌てて車を追いかける。
そこには"避難エリア"の文字が…
焼けただれたウォーカーの側に車が乗り捨ててある。


「いたぞ!2人だ!」


走り去る2人を全員で追いかける。
ふと車が気になり中を覗くが誰もいない…
車はどうやらウォーカーを轢き、
タイヤの部分に詰まってしまったらしい。

すると急に叫び声が聞こえ、振り向くと
ダリルと警官が争っていた。


『ダリル!!』


後ろから現れたウォーカーをナイフで刺し
急いでダリルの元へと向かう。
よろめいた警官に銃を突き付ける


『生きたかったら、大人しくして…』
「……手が震えてるぞ?」
『うるさい!いいから、大人しくして!』
「今すぐ殺されたいか?」


後ろからリックが現れて銃を構えた。
付いてきていない私達に気付いて戻って来てくれたんだ


「……分かった…あんたの勝ちだ」


警官がゆっくり立ち上がる。
リックは彼を見つめたまま、微動だにしない。
これは……まずいかもしれない。
同じことを思ったのか、ダリルが声をかける


「リック。」
「………」
「リック…よせ…こいつは使える…」


ダリルと警官が重なった時、
リックは銃を下ろし、ダリルが警官を拘束した。
良かった…彼が殺してしまうかと思った…


『助けてくれてありがとう、リック』
「あぁ…平気か?」
『うん、平気。』
「手が震えてる…」


リックは私の両手を包んでくれる。
まだ怖いのだ。人の命を奪うのが…
今からこれじゃ先が思いやられる。


「行こう。」


ダリルの言葉にリックと警官が歩き出す。
リックが警官を連れて行ってくれることになった


「エリー、助かった」
『ダリルが無事でよかったよ』
「…お前に殺させる事にならなくて良かった」
『覚悟は出来てるつもりだったんだけど…』
「これだけは慣れるもんじゃねぇ…」
『うん…そうだね…』


みんなと合流して建物を進む。
警官たちは素直にあるいてくれるから助かる


「これじゃ私達が死ぬ」
「うまくいくわ」
「他の警官が人質ならね。
 私達はドーンの指揮に疑問を持ってる。
 それは彼女も分かっているはず」
「どうかな?」
「きっと分かってるわよ」
『そうだとしても命を救うはずよ?
 あなた達を見捨てれば秩序は保たれないもの』
「交渉は成立せず、私達は殺される。
 解放するなら私達で対処し、お友達は返してあげる」
「そうはならない」
「死にたいの?」
「いいや…少し黙っててくれ」


男の警官の言葉に女性の警官は黙り込む。
顔は納得いっていなさそうだけど…


「うまくいくよ。彼女と話すんだ」
「ノアから聞いた」
「8年前から彼女を知ってる。俺の望みは平和的な解決だ
 死なずに…ベッドで眠りたい…だから協力させてくれ」
「リック!!」


ダリルがリックを呼び、警官の元へと連れてきた。
リックが来ると入れ違いにダリル達は離れて行った


「"取引はしない"、"妥協はしない"そう言いながら
 彼女は必ずする。それだけは分かっててくれ」
「…10分後に出発するが何か欲しいものは?」
「水を頼む」
「分かった、ありがとう、ラムソン巡査部長」
「俺の名前はボブだ」


その言葉にサシャが反応する。


「今も警官だろう?」
「いいや…出来損ないだ…」


リックが離れて行くとラムソン巡査は"クソ"と漏らした
私と一緒に物資の整理をしていたサシャが振り向く


『……サシャ?』
「大丈夫、水を渡すだけ」
『うん……』


水を持ってサシャが近付く。
私も念のため、サシャの後ろに立った。


「大丈夫さ…立ち直る……」
「私もよ」
「駐車場に…ここへ来る途中、腐人がいたろ?」
『えぇ。たくさんいたわね』
「1人知ってるんだ…」


サシャはラムソン巡査の近くに腰かけた。
ラムソン巡査は話を続けた。
タイラーと言う仲間の頭を撃ち抜いて欲しいらしい。
確かにアスファルトに溶けたまま放置しておくには忍びない。


「えぇ、いいわ。助けになる」
「……案内するよ」
「いいえ。ここからでも撃てる」
『サシャ』
「大丈夫よ、エリー。エリーは荷物整理してて」
『……分かった』


肩をすくめるとサシャはラムソン巡査を連れて奥に行った。
でもやっぱり気になる……

サシャの方に行こうとした瞬間、大きな音がした


『サシャ!?』
「どけっ!!」


部屋に入る直前でラムソン巡査に突き飛ばされ
後ろにこけ、尻餅をつく。
急いでサシャを見ると窓ガラスは割れ、今にも落ちそうだ。


『サシャ!!!』


サシャに駆け寄り、シャツを掴む。
急いで左手をサシャの体の下に入れると
割れたガラスが腕に刺さって痛みを感じる。


『…っ!タイリース!!ダリル!!!』


2人の名前を呼ぶと、走って来てくれた


「サシャ!」
『気を失ってる!引っ張り上げるの手伝って!!』


ダリルとタイリースがサシャをガラスから上げる。
私は、深く息を吐くと、刺さったガラスから腕を抜いた。
どうやら破片は入ってないらしい。
出血も少ないから血管は傷付いてないはず…


「サシャ!サシャ!!」
「何があった?」
「何の音だ!?」
『リック!ラムソンが逃げた!あっち!』
「ここは任せた!」
「俺は包帯持ってるか聞いてくるよ」


リックがラムソンを追いかける。
ノアが警官に包帯を所持しているか聞きに行ってくれた
私はダリルとタイリースに事情を説明する。


「エリー…サシャを救ってくれてありがとう…」
『ううん。もう少し早く気が付いていれば…』
「いや、本当に助かった。ありがとう」
「包帯もらってきたよ」
「貸せ。俺がする」


ダリルがノアから受け取り、包帯を巻いてくれる。
止血をするために少し強めに巻かれて、眉間にシワがよる


『痛い……』
「我慢しろ……無茶するなって言ったろ?」
『これくらい無茶でも何でもないよ』
「エリー…」
『私じゃなくてもみんな同じことをした』
「……そうだな」


放っておけば私はケガはしなかったかもしれないが
サシャは確実に死んでいたと思う。
死んで欲しくないから助けた。ただそれだけ。


『目を覚ますといいんだけど…』
「ん…」
「サシャ…?」
「あれ…私…?」
「ラムソンに頭を打ち付けられたんだ。気を失ってた」
「奴は?」
「リックが追ってる」
「落ちそうになったお前をエリーが助けてくれたんだ」
「エリー…ありがとう…」
『ううん。ケガがなくて良かった。頭痛とかしない?』
「少し痛むけど、大丈夫そう」
「とりあえずあっちの部屋に行こう。警官を放置出来ない」


ダリルの言う通り、全員で部屋を移動する。
警官2人に”何があったんだ”と問われたので真実を話した。


「そんな……まさか…」
「本当だ。ケガまでさせるとは…!」
「血が…病院に着いたら治療をー」
『平気。そんなに出血はしてないわ』
「とにかく今はリックの帰りを待とう」
「……噂をすれば影だな」


リックが戻って来た。
……ひとりの様だ…
恐らく殺してしまったんだろう…

ダリルが近寄り、リックと何かを話し始めた。
外でウォーカーが騒ぎ出した気がして
私は少し見周りに行ったが、問題はなかった。


「作戦は決まった。行くぞ」


ダリルに歩きながら作戦を説明してもらう。
リックが1人で交渉に行くので私、ダリル、サシャが
屋上から警官の頭を狙っておくというものらしい。


『リック1人で平気なの?』
「1人の方が警戒されなくて済むだろう」
『そっか。気を付けてね』
「あぁ。援護は頼んだぞ」


リックは1人で下に降りて行った。
少しすると警官達の乗った車が近付く。


「リック。そろそろ着く」
「分かった」


車がリックの前に着き、警官が降りてくる。
ここまで会話はよく聞こえてこない…
リックはゆっくりと銃を外した。
私達は男の頭から照準を外さない。


『ウォーカーよ』
「私が」


サシャはウォーカーの頭を撃ち抜いた。
警官も後ろを振り返り確認しているようだ。

警官がゆっくりリックから離れた。
リックから無線が入る。


「今ドーンに確認中だ」
「了解」


しばらくして警官がリックに話しかけた。
どうやら交渉は成立したらしい。
私達は指定された時間に場所へと向かった





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