「少し寝ないと体が持たないよ。」


バスが見えなくなってもずっと道路に立っている私に
ミショーンが近付いて来て、そっと話しかける。


『うん………』
「ダリルが帰ってきたら起こしてあげるから」
『……分かった。絶対、絶対に起こしてね。
 たとえ……ダリルがどんな姿で帰ってきても…』
「あぁ…」
『ありがとう…』


教会に入り、一番端の長椅子に寝ころぶ。
ジュディスの楽しそうな声が聞こえる中、私はすぐ眠りに落ちた。




「エリー」
『……カール…?』
「夕食の時間だよ」
『もうそんな時間…?』


タイリースが入ってきた扉を見ると、もう日は落ちている。


『ダリルとキャロルは?』
「まだ帰ってきてない…」
『そう……』
「とにかく夕食を食べよう」


カールに手を引っ張って起こしてもらい
みんなと夕食を食べる。
ここにグレンやマギーもいないことが何とも寂しい…

夕食を食べると外に居るミショーンの側へ行った。


『ミショーン、夕食持って来たよ』
「ありがとう」


ミショーンと階段に座る。
今日もいつもと変わらず星がきれいだ…


「心配なのは分かるけどちゃんと寝ないと。
 ダリルが帰って来た時に心配をかけるよ」
『本当は捜しに行きたい…でも私が勝手な行動したら
 みんなにも迷惑がかかるって分かってるから…
 だからせめて起きてダリルを待っていたいの…』
「大丈夫。帰って来るよ」
『うん……』


ミショーンに肩を抱かれ、そっともたれかかる。

1時間ほどそうしていたかもしれない。
体がバキバキだ。
立ちあがって背伸びをした


『んー……はぁ……』
「ゲイブリエル…」
「眠れない……」
『ミショーン。私はすぐそこの小屋を見てくるね』
「1人で平気?」
『平気。一度ダリルと行ったから』
「……分かった。気を付けて」
『うん』


あの日、ダリルと過ごした小屋へと向かう。
途中ウォーカーに襲われたが数も少なく問題はなかった。

小屋に入るが誰もいない…
ランプに明かりを付け、ダリルが座っていた椅子に座る


ダリルが帰って来ると信じてる。
でもどうしても考えは悪い方向へといってしまう…
ギャレス達の様に悪い人間に捕まったら?
ウォーカーの群れに遭遇してしまったら?
きっとダリルはキャロルを助けるために無茶をする。
彼は自分の命を顧みず、仲間の命を助けるだろう…
そもそも2人は一緒にいるのだろうか?
ベスの様にキャロルが攫われて…
ダリルは慌てて追いかけて行ったのではないだろうか?
そう考えると何も言わず消えた理由も分かる…
じゃあダリルは1人でキャロルを助けに?


嫌な考えがぐるぐると頭の中で回る中
外で "パキッ" と木の枝を踏む音がした。
さっとナイフを構えて椅子の後ろに回る
終着駅グループの残党だろうか…?
でも今更こんな所にいる訳が…
もしかしてミショーン…?

足音に耳を澄ませていると
聞き慣れた足音だということに気が付いた。
この足音は……

ガチャ

現れた人物に駆け寄ってハグをする。
彼もしっかりと抱きしめ返してくれた


『おかえりなさい…っ』
「ただいま……」


私はダリルの顔を両手で包んで見つめる


「悪い…心配かけた…」
『ううん…ケガはない?どこにいたの?キャロルは一緒?』
「ケガはない。キャロルもベスも生きてる。
 詳しいことは後でみんなと一緒に説明する」
『分かった…とにかく無事でよかった…』
「エリーは?ケガとかしてねぇか?」
『うん、してないよ。平気』
「疲れた顔してる……」
『大丈夫だよ。ダリルが帰って来たから…』


私達はもう一度、しっかりと抱きしめ合った。


『行こう。みんなも心配してる』
「あぁ」


ランプを消して小屋の外に出る。
歩き始めたダリルの横に並んだ


『ねぇ…ダリル…』
「なんだ?」
『手を繋いでもいい?』
「あぁ」


ダリルの手を握る。
暖かい…
その手のぬくもりが"ダリルがここにいる"と
更に実感を持たせてくれる様だった。
私達は手を繋いだまま教会へと歩き出した。


「襲撃の事やグレン達の事聞いた…
 大変な時に側にいてやれなくて悪かった」
『いいの。ダリルだって大変だったでしょ?
 生きて帰って来てくれたからいいの。』


ダリルに微笑むがダリルの眉は下がったままだ。
人一倍、責任感を感じやすい彼の事だ…
まだあれこれ考えているのだろう。


『リックも言ってたでしょ?
 ダリルが"今ここにいるのが全て"よ』


そう言うとダリルの手を強く引っ張って走った。
ダリルは私に合わせて走ってくれている。
もうまもなく教会に着くという時に
私は躓いてこけそうになった。
ダリルが手を出して体を支えてくれる。


「平気か?」
『うん、ありがとう。地面とキスしなくて済んだよ』
「それは良かった。なんで走り出したんだ?」
『走って体中に酸素が足りなくなると
 頭がごちゃごちゃ余計な事、考えなくて済むでしょ?』


そう言って笑うとダリルは私をじっと見つめた後
ゆっくりと優しいキスをした。


「エリー…俺は……お前を愛してる」
『……っ…私も…愛してるよ…』


面と向かって初めてダリルの口から告げられた愛の言葉
初めて体を重ねたCDCからたくさんの時間が経った。
グレンやマギーを羨ましく思うこともあった。
物資調達や仲間の救援など…
私を置いて行くダリルに不安になったこともあった。
それでも私は彼が好きなのだ。
彼も私を愛してくれる。
もう何も怖いものなどない……


再びキスを交わすと、教会へと向かった。


「早かったね」
『えぇ……その子は誰?』
「今からその説明をダリルにしてもらうとこ」


ミショーンが言うにはダリルは少年を預けて
さっさと私の元へ向かってしまったらしい。
私もダリルに心配をかけていたみたい


『ごめんね、ミショーン』
「(首を横に振る)寝ずに待ってたかいがあったね」
『うん!』
「寝てないのか?」
『少しは寝たよ?』
「どおりで疲れてる顔をして―」
『いいから、その子は誰?』
「あぁ……中に入ろう」


教会の中に入り、リック達を起こす。
ダリルはキャロルやベス、そしてノアと言う少年
2人が連れて行かれたであろう病院のことを話した


「ベスもキャロルも生きてるんだな?」
「恐らく生きてる」
『じゃあ助けに行かなきゃ!』
「それにマギーにも早く知らせたい…」
「とにかく、今日はもう遅い。全ては明日だ
 明日になったら教会のバリケードを作ろう。
 その後、2人の救出に向かう。いいな?」


リックの言葉に全員が頷いた。
お留守番組はミショーン、カール、ゲイブリエル
そしてもちろんだが、ジュディス。
他のメンバーで2人を救出しに行くことになった。






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