いつの間にか眠っていた私はサシャの声で目が覚める。
なんだろう?何を騒いでいるのだろう……
目を開けると隣にはカールが座っていた。
リックもゲイブリエルに詰め寄っている
状況を把握しようと起き上がるとカールが気付いた。


「あ、起きた?」
『うん…なにごと…?』
「ダリル、キャロル、ボブがいないんだ。
 サシャとパパはゲイブリエルのせいだって…」
『……なんですって?ダリルがいないの?』
「エリーを連れて来た後、出て行ったみたいなんだけど
 キャロルやボブ、ダリルが出たのに誰も気付かなくて…」


辺りを見回すと確かに3人がいない。
私が寝ている間に何があったのだろう…


「誰かが外で倒れてる…」
「サシャ…!」


飛び出すサシャをリックが追いかける。
外で倒れていたのはボブらしかった。
急いでボブを運ぶ音が聞こえる。
ボブはダリルとキャロルの行方も知ってるのだろうか…


「ボブが目を開けたわ!」
「ボブ、平気か?」
「あぁ……」
「何があった?」
「墓地に居たら殴られた。目が覚めたら別の場所に…
 学校のような場所だった…あいつがいた。ギャレスだ
 他の5人と…俺の脚を食ってた…平然としてた…」
「ダリルとキャロルは?」
「車で去ったらしい…」


ボブの言葉に驚きを隠せない。
みんなが私の顔を見る。
私を見られても…私だって知らない。


『寝てたんだから知る訳ない』
「あぁ…そうだな…すまない…」
「…っ」
「痛がってる…何か薬はない?」
「救急箱に何か薬が入ってた」
「必要ない」
「あるわよ」
「いや………」


そう言うとボブはシャツをズラした。
右肩にはウォーカーの歯型が…


「フードバンクでやられた」
「……いいのよ…」


みんながボブとサシャの事を想った。
ボブはもう起き上がる力もなく倒れる。


「執務室にソファが…床よりはいい…」
「ありがとう……」


寝ていたから何を言われたのかまでは知らないけど
先程、サシャとリックに攻め立てられたのに
ゲイブリエルはとても優しい人だ…
ボブを運んでいるとリックがゲイブリエルに話しかけた


「場所に心あたりは?」
「あぁ…小学校がある。すぐ近くだ」
「どのくらいだ?」
「墓地から南へ森を10分程歩いた所だ」
「分かった……マギー。ボブの熱は?」
「少し…」
「ジムは少なくとも2日は持った」
「現実を見ろ。今すぐDCに発つんだ」
『嫌よ。ダリルとキャロルを待つ』
「そうだ。2人を置いて行けない」
「仲間を想う気持ちは分かるが…
 ここにいればユージーンに危険が及ぶ
 付いて来ないのなら別々の道を歩もう」
「徒歩で?」
「俺達がバスを直した」
「多数決だ」
「一緒にくればいい」
「キャロルや俺達が君を救った」
「みんなを救おうとしている!世界をだ!」
「仲間を待つ」
「逃げたんだ!」


エイブラハムの言葉に怒りがわいてくる。
ダリルやキャロルが私達を置いて行く訳ない。
仲間思いの2人は絶対生きて戻って来る…
きっと何か…事情があっただけ…


「やめろ!触るな!」
「エイブラハム!!」
「離れるんだ!」


今にも殴りだしそうな2人をグレンが止める。
いつの間にかお兄ちゃんが私の隣に立っていた
"平気か?"と聞くお兄ちゃんにただ頷く


「こんな夜中に発って安全だとでも思うのか?」
「あぁ……そうだ…」
「明日にしよう。お互いが必要だ。
 DCへ行くのだって、みんな一緒じゃなきゃ…」
「考えがある。1日待つなら私も一緒に行く
 何があってもよ…いい?」


タラはリックを見つめる。
エイブラハムはグレンをじっと見つめて言った。


「グレンとマギーも」
『そんなの嫌だ……』
「いいさ。仲間割れさせる気はない。ロジータ行こう」
「でも……」
「いいから。ユージーン。行くぞ」


ユージーンは動かない。
エイブラハムが何度も呼ぶが反応を示さない。
"行きたくない"と言ったが、エイブラハムに負けて
さっと立ちあがり、扉へと向かって言った。


「バスは渡さない」
「止めてみろ……」


長い沈黙の後、リックがエイブラハムに歩き出す。
エイブラハムもやる気の様だ…
急いでグレンとお兄ちゃんが止めに入る


「ちょっと待て!残って協力してくれたら一緒に行く」
「ダメだ。」
「リックに決定権はない。……残って協力してくれ」


グレンはリックとエイブラハムに強い眼差しを向ける。
もう彼の決心は揺るがないだろう…
エイブラハムも感じ取ったのかしぶしぶ納得した


「半日だ。正午には出発する。それ以上は待たない」
「えぇ。一緒に行くわ」
「12時間で出発する」


エイブラハムは中に戻った。
私は今起こっている状況を受け入れられない…
ダリルとキャロルは行方不明。
ボブは噛まれた上に脚を食べられて…
明日になればグレンとマギーはいなくなる。
それまでにダリルとキャロルが戻れば全員で行ける…
もう何がなんだか…


「エリー、大丈夫。きっと2人は戻って来る」
『うん……マギー…私達…離れなくて済むよね?』


マギーは私を見つめた後、黙って力強く抱きしめた。
私達を見守っていたグレンがそっと肩を叩く


「行こう。リック達の所へ」
「えぇ。行きましょう…」


リック達の所へ行くともう作戦は決まっていた。
簡単に説明を受けて銃を取る。
私はリック達と小学校に行くフリをする。
そして戻って来て奴らを殲滅するのだ。


教会を出てすぐ近くに潜む。
奴らが教会の中に入って行くのを確認した。


「よし、そろそろ行こう」


リックの合図で中に入る。
誰かが相手を1人、リックがギャレスの手を撃った。


「銃を床に置け」
「撃たれてもいいのか?」
「銃を捨て、ひざまづけ」
「……言う通りに。従うしかない…」
「どうかな?」
「賭けて見るか?」


彼らは大人しく銃を置いて手を上げた。
ギャレスはリックを見上げている。


「頼んだら許してくれるか?」
「いや…」
「なぜ入った時に撃たなかった…?」
「弾のムダだ」
「俺達は人々を救っていたんだ…
 でもあいつらが来て…それからだ」


やっぱり"終着駅"の人達は誰かに襲われたんだ…
あの部屋に書いてあったことの意味が確かになった。


「あんたには分からないだろう…
 空腹がどれほど辛いのか………」


ギャレスの言葉に同情してしまいそうになる。
でも連れて行かれた4人が味わった恐怖は
今のギャレス達の比ではないと思う…


「お互いに別の道を歩こう…
 行く手を妨げたりしないと約束する…」
「別の誰かの道を妨げる。相手が誰だろうと…
 だろ?それに、殺すと約束した。」


それからは悲惨な光景が目の前に広がった。
こうなったリックは誰にも止められない
何度も何度もギャレスの頭に刀を振り下ろす。
サシャも怒りをぶつける様にナイフを刺す


「これでいい……」
「そうね…」


ゲイブリエルが奥から出て来て悲惨な状況を見て
ショックを受けている様な顔をしている。


「神の家が……」
「いいえ。ただの壁と天井よ」
「見張りは俺が引き受ける。後は頼んだ…」


リックは外へと出て行った。
残された私達は死体を外に運んだ。
中へ戻り、ため息をつく。


『私も外へ出て来る』
「見張りならリックがいるから平気よ」
『ううん…少し外でダリル達を待ちたいの…』
「でも外はまだ暗いし…」
「俺も行こう」
『ありがとう、お兄ちゃん』
「マギー。行かせてあげよう」
「分かった……気を付けてね」
『うん、ありがとう』


お兄ちゃんと銃を持って外へ出る。
リックは少し先の方に居るのが見えた。
扉の前の階段に座る。


<きっと帰って来るさ>
<うん……信じてるよ…>


お兄ちゃんはそう言うと黙って隣にいてくれた。
次の日の朝になってもダリルとキャロルは戻らなかった…





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