朝食を食べて出発する。
先頭はリックとカールだ。
ダリルの言いつけ通り、グレン達と最後尾を歩く


すると左方面から木の音が…
ほとんど全員が銃を構えるが出てきたのはダリル
両手を上げて"降参する"というとリックと話し始めた
そんなダリルにくすっと笑う。
あぁいうちょっとおちゃめで可愛い所も大好き。


「エリー」
『なに?お兄ちゃん』
〈リックに聞いた。彼といい仲なんだって?〉
〈ダリル?〉
〈あぁ。今朝も寄り添って寝てただろ?〉
〈見てたの?なんか恥ずかしい〉


笑ったお兄ちゃんは私の頭をがしがしっと撫でる。
これは小さい頃からのお兄ちゃんの癖だ。
私のヘアスタイルがどうなろうがお構い無しに撫でるのだ


〈また話聞かせてくれよ〉
〈うん、ゆっくりね〉


そう言うとお兄ちゃんは前に進んだ。
リックがみんなに声をかけながら進む
最後尾組の私達にも"固まれ"と言った。

目の前ではサシャとボブが仲良さそうにしている。
そのすぐ後ろにタイリースとユージーン。
キスをする2人をユージーンはどんな気持ちで
見ているのだろうか…なんだか気になってしまう…
さっきのグレンの話が頭から離れないせいだ。


すると突然どこかから男性の声が聞こえる。


「助けて!」
「パパ!行こう!」
「助けて!!助けて!」
「パパ!早く!行こう!」


カールの言葉にリックが走り出す。
最後尾組の私達は男性の叫び声で他のウォーカーが
集まってきていないかを注意深く見張った。


リック達の所へ辿り着く頃にはウォーカーは殲滅。
男性はケガもなさそうだ。


「見張っていてくれ!」
『了解』
「下りろ………大丈夫か?」


リックの問いかけに男性は吐いてしまう。
ダリルは頭を掻いて困り顔だ。
ロジータは嫌悪感満載の顔をする


「すまない…大丈夫だ…」
『あの…お水を……』
「ありがとう。…ゲイブリエルだ」


水を渡すとゲイブリエルは少し飲んだ。
ゲイブリエルは水の入った容器を返そうとするが
さすがに赤の他人が吐いた口で飲んだ水は…


『……あー…あげる』
「…(頷く)」
「武器は?」
「…持っていると思うか?」
「もったいぶらずに答えろ」
「武器は必要ない。神の言葉さえあれば…」
「危なかった」
「祈ったら君達が助けに来た」


ゲイブリエルの言葉をみんな複雑な表情で聞いている。
この世界は祈りだけでは生きてはいけない。


「何か食べ物は…?さっき持っていたものは全て落として…」
「ナッツならある」
「ありがとう」


ナッツを渡す優しいカールの頭を撫でて
ハグしたくなるが、我慢…我慢……
するとお兄ちゃんの優しさに感動したかの様に
タイリースが抱いているジュディスが声をあげた


「美しい子だ…………キャンプが?」
「ない。あんたは?」
「あー……教会がある」
「手を頭より上に」


リックはゲイブリエルの身体検査をしながら質問をする


「殺したウォーカーの数は?」
「殺してない」
「殺した人間の数は?」
「1人も殺してない」
「なぜだ?」
「神は暴力を憎まれる」
「……何をしてきたんだ?何かしらしてきただろう?」
「私は罪人だ。毎日罪を犯す…神には告白するが…他人にはしない」
「教会があるの?」
「…あぁ」
「案内してくれ」
「……分かった…」
「エリー。グレンの側を離れるな」


ダリルは小声で言うとグレンと視線を交わし
リックと共に先頭へ歩いて行った。
今からゲイブリエルの案内で教会に向かうのだ。
安全ならそこで休んで今後どうするか話し合うことが出来る。


「なぁ、俺達を見てたか?」
「私はずっとひとりだ。人間は死者同様に危険だから…」
『人間の方が賢くて、計画的に殺してくるから怖いよね』
「あぁ、人間の方が恐ろしい」
「……私は見てない。教会からあんなに離れたのは初めてだ」


反応のないリックをゲイブリエルは不安そうに見る。
先頭を歩かされているから、何か返事がないと
相手がどう受け取ったか分からず怖いのだろう…


「教会はないかも。リスを奪う為のワナかも?」


ゲイブリエルなりのジョークのつもりなんだろうけど
今の私達には笑えない。リックも怖い顔をした。
ゲイブリエルは更に不安そうな面持ちになる。


「信徒には"ユーモアのセンスがない"とよく言われた」
「そのとおりだ」


ゲイブリエルは不安そうな表情のまま進んだ。
教会は確かにあった。綺麗なままだ…


「俺達が先に。リスを奪われたくない」


リックの言葉にくすりと笑ってしまう。
リックを先頭に警戒して中に入り、安全を確認する間
カールやジュディス達は外で待っている。
ウォーカーもいないし、確かに彼はひとりでいたみたい。


「もう何ヶ月もここを開けてない
 誰かが中に居たら……驚くよ…」
「向こうにバスがあった。故障してるが…
 1日〜2日で直せる。神父は"必要ない"と。
 移動手段が見つかった。ここは危険だ」
「あぁ…」
「休んでる間に危機が迫る」
「どちらにせよ物資が必要よ」
「水と食料、銃弾もいる。バスは逃げない」


リックはそう言うと中に入って行った。


「リックに従う。二度と離れない」
「私も従う」
『ごめんね。私も……』
「先に進みたいが、今は休もう」




『2人はどこに行くの?』
「水を汲みに行く。」
「周りに使える物がないか捜すのもね」
「他の皆は?」
『リックチームはゲイブリエルと物資を探し
 グレンチームは街の空き家を捜すそうよ』
「エリーも俺達と行くか?」
『いいの!?』
「いいわよ。一緒に行きましょう」
『うん!じゃあ―』
「エリー、ちょっといいか?」


ダリル、キャロルと一緒に行くと言おうとした時
リックに呼ばれた。


『どうしたの?』
「どこか行く予定だったか?」
『2人と水を汲みに行こうかと…』
「ダリルと行きたいのは分かるが、頼みがある」
『なに?』
「タイリースとカールと残ってくれないか?」
『2人がいれば安心じゃないの?』
「安心なんてこの世界にはどこにもない。
 分かるだろ?俺はあいつを信用していない」
『でも連れて行くんでしょ?』
「あぁ…だがいつ仲間が戻ってくるか分からない。
 それに近くに墓場もあるし、ウォーカーも心配だ」


確かに群れで襲われたらひとたまりもないだろう。
特にタイリースはウォーカーは殺せても人は殺せない。
もし悪い奴らに襲われた時にカールだけだと
ジュディスを守りきれないかもしれない。
と言っても…私もまだ人は……


『分かった。カールとおてんば娘は任せて』
「悪いな…鍵をしっかり閉めて用心してくれ」
『うん。気を付けてね』
「あぁ」


リックが私の肩を叩いて去っていく。


『行けなくなっちゃった』
「留守番か?」
『うん。守衛を任された』
「かっこいいわね」
『まぁね』


肩をすくめた。
私もお留守番はあまり好きではない。
みんなの役に立っている方がいい。
もちろん留守番だって重要だって分かってるけど…
何もせずに待つのはせっかちな私の性に合わないのだ


『じゃあ私は戻るわね。
 2人とも気を付けて行ってきて』
「あぁ」
「分かったわ」


ダリルとキャロルと別れ、教会に戻った


「エリーも残るの?」
『えぇ。ジュディス親衛隊に選ばれたわ』
「エリーがいれば心強いね」


カールはそう言って笑った。


「じゃあ行ってくる。ジュディスを頼んだぞ」
「行ってらっしゃい、パパ」
『気を付けてね』
「あぁ」


リックはジュディス、カール、私の額にキスをし
タイリースとハグを交わしてから出かけて行った。
4人でお見送りをする。
別部隊のグレン、マギーも手を振ってくれていた。


『入りましょう。鍵をかけて』
「うん、分かった」


中に入って鍵をかける。
ジュディスがご機嫌そうに声を上げる
私達は可愛くて天使の様なジュディスと遊び始めた



『…今の聞こえた?』
「……なんだ?」
『何かを彫るみたいな音が聞こえた』
「……聞こえなかった」
「僕も…」


しばらくジュディスと遊んでいたが、彼女は寝てしまい
私達は本を読んだり、寝転んだりしていた。
私は寝転んで目をつぶって周りの音に集中していた


『…外を見てくる』
「僕も行くよ」
『タイリースはジュディスといて』
「分かった……」


窓から外を覗くが、人影もウォーカーもいない。
そっと扉を開けて外に出た。
……やはり誰もいない。


『気のせいかも…』
「ついでに周りを調べてみよう」
『そうね』


カールと教会の周りを歩きだす。
私は周りへの警戒を緩めず、カールは建物を見ていた。


「エリー。見て……」
『なに?……これは…』
「いっぱい付いてる」
『他も見てみよう』


カールと教会を見て回ると"地獄の炎で焼かれろ"と
壁にナイフで書かれているのを見つける。


『これは……?』
「パパが言った通り、何か隠してるのは間違いない」


教会の周りを一周した後、最初に見つけた跡まで戻ると
ちょうどリック達が戻って来た。


「タイリースにここだと聞いた。
 食料を持って帰って来た。中に入って―」
「パパ。見て欲しいものがある」
「なんだ?」
「エリーは戻ってて」
『分かった』


ミショーン達が持ってきた物資を整理しているのを
手伝っているとダリルとキャロルも戻って来た。


『おかえり』
「問題無かったか?」
『えぇ。特に何も』
「良かった」
『……どうして片方だけ水が少ないの?』
「…ふふっ」
「気にするな」


私の質問にキャロルが笑った。
ダリルはバツが悪そうな顔をしただけだった。




今日の夕食は豪華だった。
缶詰を何個も開けて、ゲイブリエルがワインを出してくれた。
久しぶりのお酒にお酒の好きな大人たちは喜んだ


『グレンは?飲まなくていいの?』
「やめとくよ。ここには二日酔いの薬も無いしね」


CDCでのグレンを思い返して笑い合う。
同時にアンドレアやシェーン、デール、
Tドッグ、ソフィア、ジャッキー、ローリを思い出す…
そんな私に気付いたのかグレンが肩を抱いてくれた


「エリーのお兄ちゃんはすぐ馴染んだな」


グレンの言葉に兄を捜すとキャロルと話している。
2人とも穏やかな顔で夕食を食べていて安心した


「ここにいる全員、よく生き延びた。
 それぞれみんなに生きる価値がある。
 生存者に」
「生存者に!」
「乾杯!」
『乾杯』


ワインを飲み、エイブラハムの演説を聞く
エイブラハムの言うことは最もだった。
"この世界"がずっとこのままでいいはずはない。
ユージーンが世界を正せるのなら正すべきだ
"この世界"をウォーカーから取り返す。

みんなはリックを見つめた。
するとジュディスが声をあげる


「あぁっ!」
「なんて?」
「"行く"と言ったらしい」
「はは…この子が行くなら俺も。みんなも」


次の進路が決定した。
リックはジュディスをタイリースに預けて
ゲイブリエルの所へと歩いて行った。

その後は楽しい夜は続く。
ご飯も食べ終わり、ワインで酔いも回って来た頃、
グレンと話しているとダリルが近付いてきた。


「こいつ連れて行っていいか?」
「あぁ。もちろん」
「行くぞ」
『どこに行くの?』


ダリルに手を引かれてリックの元へ
ゲイブリエルといたリックは不思議そうにこちらを見た


「どうした?」
「少しこいつと出てくる」
「……どこに?」
「お仕置きタイムだ」


ダリルの言葉にリックは黙りこむ。
すっかりお仕置きの事など忘れていた私は
ワインで酔っているはずなのに血の気が引いた気分…
なんでお仕置きのこと忘れていたんだろう……
今日1日、ダリルがあまりにも普通だったからだ…


「……どこに行くかだけ言って行け」
「墓場の奥に小屋がある。そこだ」


リックは振り返りゲイブリエルを見る


「確かにある。小さな小屋だ。物資も何もない」
「安全なのか?」
「昼に確かめた。安全だ」
「……分かった…なるべく早く戻れ。
 それと……手加減してやれ…」
「こいつ次第だ」


リックに同情の目を向けられたが
すぐダリルに手を引かれて教会を後にした。


『ダリル…墓場を通るの?』
「あぁ、こっちだ」


片手にワインのボトルを持ったダリルは手を引いて歩き出す。
昔から私はお化けが大の苦手だ。
こんな世界で何を言っているのかと思われるかもしれないが
お化けはウォーカーと違って殺せないし、神出鬼没。
壁だって通り抜けられちゃうし、本当に怖いのだ。


『ねぇ…』
「怖いのか?」
『……うん…』
「大丈夫だ、俺がいる」


ダリルに"大丈夫だ"と言われると安心してしまう。
なんだかダリルならお化けも倒せそうだ

私はダリルの腕にしっかりとしがみついた。


「酔っちまえばいい」
『ん…?』


ダリルはワインを口に含み、私にキスをした。
そのままワインを流し込んでくる。
同時に舌も入れて来て過激なキスをする…


『なに、急に…』
「怖くなくなったろ?」


ダリルは笑うと小屋の扉を開けた。





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