11

私達は終着駅に向けて歩き出した。
リヤカーは置いて来た。もう歩けるもの


「平気か?」
『えぇ。平気よ』
「そういえばエリーは何を叫んでたんだ?」
『……なんのこと?』


リックに問いかけられるが何のことだか分からない。
なに?私…寝言でも言った?


「刑務所で…総督に向かって何か叫んでただろ?」
『あぁ…総督にじゃなくて、近くに兄がいたの』
「お兄さんが?」
『えぇ。ずっと日本にいると思ってたけど…
 世界がこうなる数日前に、着いていたらしいの。
 サプライズで会いに来る予定がこんなことに…』
「そうか…」
『総督が私達を虐殺者だと話してたみたい。
 でも兄は私を見つけて総督の嘘に気付いたって。
 誰も殺さず、私と死のうと思ったらしいんだけど
 私が生きてることに気付いて、助けてくれたの』
「お兄さんはどこに…?」
『はぐれちゃった。ウォーカーの群れに出会って…
 歩けない私の代わりに囮になったの…』
「そうか……きっとまた会えるさ。俺達が会えた様に」
『えぇ、そうね。終着駅に行けば会えるわ』


リックは私の肩を叩くと、前を歩くミショーンを追いかけた。


「近いな…日没前には着ける」
「森の中から近付こう。まずは様子見だ」
「あぁ、そうだな…」


リックの言う通り、森の中を進むと
すぐ終着駅にたどり着いた。


「散らばり、中の様子を伺ってから入る」
『分かった』
「エリー、こっちだ」
『うん』
「俺といるか?」
「……大丈夫」


カールはミショーンの後を追って行った。
リックが1人になってしまった…


「リックは1人で大丈夫だ。行くぞ」
『うん……』


ダリルと中を覗く。
特に不審な点は見当たらない。
生存者もいるし、外で料理をしているおばさんも。
いたって平和そうだ…


「兄貴は見えるか?」
『んーん。見えない…』
「そうか…」
『他の部屋かも。まだ着いてないかもしれないし』
「そうだな。中に入ったら聞いてみよう」


戻るとリックが銃を埋めていた。


『……銃を埋めてどうするの?』
「念のためだ…」


カールとミショーンも戻って来た
あちらも以上はなさそうだ


「エリー、フェンスを越えられるか?」
『やってみる』
「エリーと俺が一番に入る。後に続け」


フェンスを登り始めると下でリックが私が落ちてもいい様に
手を伸ばしてくれているのが見えてお礼を言う。

なんとか登り終えてフェンスを降りるとリック、ダリル
ミショーン、カールが後に続いてフェンスを乗り越える。


「こっちだ」


ダリルに続き、早足に中を進む
建物の中に入ると女性がマイクに向かって喋っている。
リックが中に入り声をかける


「やぁ」
「監視当番は何してる…」


女性は喋るのをやめ、男性が近付いてきた。


「強盗をしに?」
「いいや。見られる前に見たかった」
「もっともだ。賢いな…」


リックは銃をホルスターに入れた。
みんなも武器を下ろす


「いつもは正面でやるが…終着駅へようこそ。」
『どうも』
「長い間外に?」
「あぁ」
「ギャレスだ」
「俺はリック。カール、ダリル、エリー、ミショーン」
「警戒するのは分かる。聖域を求めてここへ?」
「あぁ」
「到着だ。……アレックス!
 見られて困るものはないが、正面玄関で歓迎したい。
 アレックスが案内する。……その前に…
 武器を見せて欲しい。自分の前に武器を置いてくれ」


私達はリックを見る。
少し悩んだ後、リックは私達に頷いた


「いいだろう」
「分ってくれ」
「もちろんだ」


武器を前に置くとリック、ダリル、カールは身体検査を受ける。
私とミショーンは触られなかった。
私達が女性で、相手が男性だからだろうか?
身体検査を終えると男性は武器を拾い返してくれた


「君達のグループは野蛮じゃないが、バカじゃない。
 バカはするな?それさえ守れば問題ない。いいね?」
「案内するよ」


アレックスに連れられて正面玄関へ
先ほど見た女性が料理をしている所だ。


「こんちには。裏から入ったなら賢いわね。すぐ慣れる」
「メアリー。食事を頼む」
「なぜ受け入れるの?」


ミショーンがアレックスに質問をした。
私は兄がいないかと、外にいる人達に目を配る
その時、ある事に気が付いた。

ある女性が着ているあのポンチョ。
ダリルが着ていたポンチョだ…

私は小声でリックに話しかける


『リック……』
「あぁ…」
『あの女性が着ているポンチョ…ダリルのよ。
 確かあの時、マギーが持っていたはず…』
「あいつが着ている防護服はグレンのだ。
 それに…アレックスの左ポケット…
 あのチェーンはハーシェルがグレンに贈った時計のじゃ…?」
『………かもね』
「………俺が前に出たら武器を構えて後ろを警戒しろ」
『えぇ』


リックが前に進みアレックスのこめかみに銃を当てる
私は後方を警戒していると、建物の上からスナイパーが現れた


「あのスナイパーはこちらのスナイパーより優秀か?」


リックの言葉にスナイパーに銃を向ける
アレックスは怯えながらもリックの質問に答える。
そして後ろからギャレスが現れた


「防護服とポンチョは?」
「防護服は死んだ警官から、ポンチョは物干し」
「ギャレス…」
「黙れ、アレックス」
「お前と話す」
「何を言っても信用しないだろ?」
「ギャレス」
「黙ってろ。…大丈夫だ」


ギャレスが手を握った瞬間、銃で撃たれる。
リックは咄嗟にアレックスを盾にした


「下がれ!行くぞ!!」


リックの言葉に、みんなで走り出す。
とにかく前に進んだ。
そしてある部屋に入る。


「なんなんだ?」
「あの人達、私達を殺す気がない」
「あぁ…足元に撃って来てた」
『なんだか誘導されてるみたい』


リックを見ると、壁の文字を見ている様だ。
そこには"2度と信じるな。常に我らが最初"と書いてある
…ここでも何か事件が起こったのだろうか?


「こっちだ!」


扉の外に出て逃げようとするが…
囲まれていた。


「今すぐ武器を捨てろ!!………早く!!」


ギャレスの言葉に武器を捨てる。
私は銃とクロスボウだけを捨て
服の下に隠しているナイフは捨てなかった。
先程も身体検査をされなかったし、きっと大丈夫だ…


「主犯は左へ行け!貨物車の前へ!
 言うことを聞けば子供も一緒に入れてやる!
 さもなくば殺す!」


ギャレスの言葉にリックはカールを見る。
カールはしっかりとリックに頷いた。


「次に射者!アジア人!サムライだ!」


カール以外は貨物車の前に立たされる。
この中に今から入るのだろうか…


「扉の前に立て!主犯、射者、アジア人、サムライの順番だ!」
「息子も!」
「…行け、子供」


カールがゆっくりと歩き出す


「主犯は扉を開けて中に入れ!」
「息子も一緒に入る!」
「彼を今殺されたいか!?」


ギャレスの言葉にリックは扉を開けて入った。
ダリルも続き、私も中に入る。
やはり中は真っ暗で…途端に恐怖を感じる。
私は前にいるダリルにしがみついた


「大丈夫だ…大丈夫」


ダリルが頭を撫でながら耳元で囁いてくれる。
ミショーン、カールも中に入り、扉は完全に閉められた


「リック…?」


奥から現れたのはグレンだった。
後ろにはマギー達もいる。


「お前たち…生きてたか…」


グレン達の後ろには知らない人達が…
1人だけ…どこかで見たことがある様な気がする


「彼女は仲間よ。助けてくれた」
「それなら俺たちの仲間だ」
「長くは持たない」
「いや…奴らは後悔するだろう」
「何を?」
「悪い相手を怒らせた」




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