10

数日が経ち、私も歩けるようになった。
とは言ってもまだ動きはぎこちない。
大人しくリヤカーで運ばれる日々が続く。

そしてある日、事件は起こった。


「ジョー!!奴を見つけた!」
「本当か?」
「あぁ、女とガキの3人連れだ!」
「よし。暗闇にまぎれて襲撃する。
 仲間を殺した苦しみをたっぷり味合わせてやろう」


ジョーの言葉に気分が重くなる。
今夜、誰かが確実に死ぬ。
しかも子供がいるなんて……


「トニーはそいつらを見張っておけ。
 ダンはトニーと連携して居場所を俺達に伝えろ」
「「分かった」」


トニーとダンが走っていく。
私達は夜になるまでゆっくりと歩き続けた。


「よし。行くぞ。ダン、案内しろ」
「こっちだ」


ジョー達はみんなダンに付いて行く。
彼には私達も何かあった時は援護しろと言われている。
正直、気が進まない。


「行けるか?」
『うん……あまり行きたくないけど』
「……俺もだ」


近くまではリヤカーで進み、武器を持ってリヤカーを降りた。
ダリルに肩を借りてジョーが向かった方向へ進む。


「おっと、貴様は終わりだ。聞こえたか?
 貴様は終わりだ。報いを受ける時が来た。
 因果応報だ!全宇宙のバランスを取るのさ…
 新年を迎えるように盛大にやろう!ははは!
 カウントダウンしようぜ!10ミシシッピ
 9ミシシッピ、8ミシシッピ…」


声のする方へ歩いて気がつく。
ジョーに銃を突きつけられているのはリックだ!
隣にはミショーンが座り、車の中にはカールが…
ダンがまさにカールを車から出そうとしている。
そんな…まさかリックだなんて……
唖然としているとダリルが私を置いて出て行った。


「ジョー!待て……」
「なんだ?"8"で止めたな?ダリル」
「待ってくれ…」
「こいつがルーを殺した…!」
「今の世の中、時間だけはある。言ってみろ」
「彼らを解放しろ…良い人たちだ」
「ルーは反対するだろう…
 お前の友達にバスルームで絞殺された」
「血に飢えてるのは分かる。俺をやれ。さぁ」


ダリルは武器を置いて両手を広げた。
私は急いで歩きだす。彼を助けないと…


「仲間を殺した男を"良い人たち"だと?
 それはウソというものだ。ウソをついた!」


ダリルが殴られる。
私はダリルの前に飛び出した。


『待って、ジョー!』
「お前まで邪魔をするのか!?」
『私には望みがある!あの人達とダリルの安全よ!』
「だから?」
『交渉をしよう…!私の持っている物資を全てあげる!
 食料も水も薬もある!リヤカーごとあげる!
 だからその人たちと…ダリルに手を出さないで…
 ダン!その子にも触らないで!交渉中よ!』
「はぁ…エリー…言っただろう?
 全ての交渉が通るとは限らない。
 あんな僅かな物資で仲間を殺した奴を助けろと?
 ダリルは嘘をついた。ルール違反だ!
 ルールを犯した者はリンチすると言っただろう!?」
『ちょっと!離してよ!』
「エリーには手を出すな!」
「当然だ。エリーは嘘をついていない。
 それにお前が死んだら、こいつは俺が頂く」
「てめぇ…っ!」
『離してって言ってるでしょ!?』
「少しの間、大人しくしてろ!」


ダリルは殴られ、カールはダンにナイフを突きつけられる。
どうすれば救える!?全員を助けるにはどうすれば……


「俺が1人でやったことだ……」
「そうだ!それが真実だ!解決しようじゃないか。
 まずダリルを殺す。次に女だ。そして少年。
 最後にお前を撃ち、エリーは貰う。
 それで一件落着だ。そうだろう?ははははは」
「離せ……」
「ジタバタするな」
「離せ……」


リックを見ると嫌な予感がした。
あの頃の…ローリが亡くなったばかりの頃の顔をしている。

リックはジョーに頭突きをし、ミショーンも銃をはじく。
カールも必死にもがいている。
私も抵抗するが足に力が入らない。
バレない様にそっと腰に仕込んだナイフに手を伸ばす。


「根性を見せろ!」


ジョーの声が聞こえる。
リックの方を見るとリックはジョーの喉元を噛み切った。
ジョーの首から血しぶきが飛び散る。

開いた口がふさがらない…
ジョーにくぎ付けになったのは私だけじゃなかった。
唖然となり死んでいくジョーを眺めている彼らを
ミショーンとダリルが次々と殺していく。
カールを抑えていたダンもリックが何度も刺し、殺した。
もう必要がないのに、何度も…何度も…
リックはダンを刺し続けた。

ダリルは私の側に寄ってきて私を抱きしめる。
私はたまらずダリルの胸に顔をうずめた


「平気か?ケガは?」
『……(首を横に振る)』
「そうか…良かった……」
「カール。車の中に入ろう」
「……うん…」


ミショーンがカールを中に連れていく。
ダリルはリヤカーを車の側まで引いて来た。


「エリーも入れてくれるか?」
「もちろんだよ。中に入って」
『ありがとう……』
「リックと見張りをしてる。少し寝ろ…」
『分かった』


車に入り、ミショーンの隣に座る。
カールは身を乗り出して話しかけてきた。


「エリー…銃で撃たれたんじゃなかったの?」
『防弾チョッキを着てた。だから身体には当たってないの』
「そっか…良かった…エリーが無事で…」


カールは手を伸ばし、私の手を握った。
私もカールの手をしっかり握り返した。
ミショーンも私を抱きしめてくれる。


『ハーシェルのこと聞いたよ…残念だった…』
「あぁ…彼は善人だった…」
『うん…他の人は?誰かに会った?』
「いや、会ってない。ダリルとエリーが初めて」
『そう……みんなに早く会いたい…』
「あぁ…そうだね…さぁ、もう寝な」


カールはミショーンの膝で
私もミショーンにもたれかかって眠りについた。
目を閉じるとリックとジョーの光景が目に浮かんできて
眠りにつけたのは朝方だった。




「彼女は死んだのか?」
「いや……いなくなった」


リックとダリルの声で目が覚める。
ミショーンはカールの頭を撫でていた。
……私も彼女もあまり眠れていない様だ。


「そして奴らと出会った。悪党だとは思ったが…
 ルールがあった。単純だ…納得出来たから共に過ごした」
「ひとりだったしな」
「あぁ…進む途中でエリーを見つけ…
 抜けようと思いながらも、歩けないエリーを
 ひとりで守れるのかと言われ…とどまった。
 ある日"ある男を探してる"と…そして3人に再会した。
 まさかあんな目に合わせるとは…思わなかった…」
「お前のせいじゃない。……おい。お前は悪くない
 いま一緒にいることが全てだ。………兄弟だろ?」


ダリルとリックの会話が聞こえ、思わず泣きそうになる。
ミショーンが私に気付き、片手で引き寄せ抱きしめてくれた。


「昨日のことだが…誰でもそうした」
「そうじゃない…」
「昨日のあんたは本当のあんたじゃない」
「タイリースの時も見ただろう?あれも俺の一面だ。
 だからカールは生き延びてる…
 あの子を守る。その為なら何でもする」


ミショーンがカールを見ると、カールは起きて
2人の会話をじっと聞いていた……





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