みんなで小屋を出る。
川に着きタイリースは服を洗い始めた。
私達はこれからどうするかを話し合う


『車がないと…』
「バーンズビルが数マイル先にあったはず」
「車がありそうだな」
『決まりね』
「おい、タイリース!行くぞ!」


ボブが何回も呼ぶとやっとタイリースは動き出した。
タイリースは確かな戦力にはなるけど
この調子だと先が思いやられる……


私達は目的通り車を見つけたがエンジンがかからない。
ダリルは舌打ちをして立ちあがった。


「バッテリーを探そう…」
『中にウォーカーが』
「何体いるか調べよう」


私達は建物の中に入る為、少し間隔を開け
ボブ、タイリース、私、ミショーン、ダリルの並びで
建物を覆っている邪魔な草を切り始める。
タイリースは力に任せて切りつけている…


「慎重にやれ。何が出てくるか…」


タイリースはダリルの言葉に耳を貸さない。
ミショーンを見ると、彼女は肩をすくめた。
草を切っているとうめき声が近くで聞こえたと
感じたと同時に何かに手を掴まれる。
ウォーカーだ。
両手を掴まれていて身動きが取れない。


『…っ!ミショーン!助けて!』
「エリー!」
「ああぁ!助けてくれ!!」
「くそっ…!」


同時にダリル、ボブも襲われる。
ミショーンは私を襲っているウォーカーを殺した。
私は反動で後ろにこけて尻もちをつく。
彼女はボブを襲っているウォーカーを殺しに行った。
ダリルが慌てて駆け寄って来る。


「大丈夫か!?」
『……(頷く)』
「よし…タイリース!離せ!」
「離すんだよ!」


尻もちをついたままの私にダリルが声をかける。
タイリースはウォーカーを離さず、引きずり出した。
ダリルがタイリースに乗ったウォーカーを殺す。
私にはタイリースの行動の意味が分からない…


「なぜ離さなかった?」


タイリースは答えない。
私はタイリースに近付くと、頬を思いっきり平手打ちした


「エリー…!」
『あんたのせいで死ぬ所だった!!ボブも!!
 みんなを危険に晒してるのが分からない!?
 私達は薬を持って帰る義務があるの!!
 付いて来たなら自分の役目を果たしなさい!』
「エリー…俺はいいんだ…」
『良くない、ボブは黙ってて!!
 仲間が死んで悲しいのは自分だけだと思わないで!』
「エリー、それ以上は言うな。
 ここで議論してる時間はない。先を急ぐ」


私、ボブに続きタイリースも何かを言いかけたが
ダリルに止められ、また口を閉じる。
ミショーンは私の肩を抱くと先へと進んだ。


「行くぞ」
「エリー…落ち着いた?」
『えぇ。ごめんなさい。それと助けてくれてありがとう』
「いいのよ。あなたの気持ちも分かる…」
「ミショーン。タイリースと外にいてくれ」
「あぁ、分かった」
「車を頼む。エリーとボブはこっちだ。
 俺と中でバッテリーを捜す。いいな?」
『分かった』
「あぁ」


ダリルが先頭で中へと入って行く。
慎重に中を進んでいくとバッテリーが見つかった。


「セルが乾燥してる」
『使えないの?』
「蒸留水をかけよう」


必要な物を持ち、先へ進むとダリルが何かを見つけた


「吐しゃ物だ…さっきの奴らは手を繋ぎ
 心中したらしい。"みんなで仲良く"だ」
「共に生きた様に、共に逝った」
「人を襲う為に?」
「いずれは誰もが死ぬ。
 親しい者が死ぬのを見たくなかったのさ」
「………まあな」


私達の目の前に、動けないウォーカーが…
彼らの気持ちを考えると分からないでもないが…


「行くぞ」


外へ出て、ダリルは一目散に車へと向かった。
私とボブはそれを近くで見ていた。


「タバコを吸っても?」
「俺にもくれ」
『私は少し離れてる…』


ボブとダリルがタバコを吸い始め
私は少し離れた所に立ちなおした。


「以前はどんな仲間と?」
「誰のことだ?」
『私達はこの世界の初めからずっと一緒よ
 刑務所にいる全員って訳じゃないけど…』
「あんたと出会った時、俺は立ち去ろうと…」
「なぜだ?」
「2度襲われた。それぞれ別々のグループに…
 俺だけが助かった。それが続くと思ったんだ。
 呪われてると……だが、あんたは違った。
 以前は眠れなくて毎日酒を飲んでた。
 でもみんなとなら眠れるかと…
 自分のために物資調達に行った」
「暇だからな」
「違う。酒が欲しかった…」


ダリルは作業を止めてボブを見る。
私もボブを見つめた。


「何でも良かった。一度手にしたが、戻したんだ。
 乱暴に置いたから、棚が崩れ…
 ウォーカーが集まりザックが殺された」
「こじつけだ」


ダリルがボブを見つめるがボブは何も話さない。
私もダリルとボブを交互に見つめた。


「エンジンをかけろ。赤と緑の線だ

 ………早く。簡単だ」


ボブはやっと歩きだした。


「アクセルを踏め」
『動くかな?』
「たぶんな」


エンジンはかかった。
ダリルが拍手をした後、口笛で2人を呼ぶ。


「サシャや俺にも責任はある。
 誰にも予測できなかった。
 あんたはもう1人じゃない…行くぞ」


ダリルはボブにそう声をかけて車に乗り込んだ。
私はボブにそっと微笑みかけた。
ボブも私に笑いかけた。

ボブの運転で獣医科学大学へと向かう。
助手席にはミショーン。
後ろにタイリース、ダリル、私だ。

ダリルにもたれかかる。


「大丈夫か?」
『うん…ちょっと疲れただけ…』
「キツくなったら言えよ」
『うん、ありがと』


ダリルの手を握るとダリルも握り返してくれる。
目的地まで私達はずっと手を握っていた。


「着いたぞ」
「ウォーカーがいっぱいだな…」
「慎重に進む。こっちだ」


ダリルを先頭に進んでいく。
何体かのウォーカーと遭遇したが
特に問題はなくハーシェルの地図通り
建物の中に入る事が出来た。


「ここだ…」
「中にウォーカーはいないね。入ろう」
「それぞれ薬を集めてここに持ってくる。いいな?」
『待って。どの薬を持ってくればいい?
 抗生物質と言ってもいっぱいあるでしょ?
 私、難しい英単語が分からない』
「語尾が"シリン"か"シン"
 "CIN"で終わる薬だ。溶かして点滴で血管に流す。
 用量が肝心だが、時間がない。とにかく急ごう…」
『私はあっちを』
「あぁ、頼む」


隣の部屋へと移り薬を探す。

『"CIN"…"CIN"…』


薬は思ったより数があった。
あってるかどうか分からないけど…
点滴の入れ物や注射器もある。
リュックに入る限り全て入れた。


「どうだ?」
「袋も管もリストの物は全部揃った」
「そっちは?」
「あぁ、全部もらった」
『私もおーけーだよ!』
「よし、行くぞ」


部屋を出て建物を進んでいくが、
ウォーカーに阻まれてしまう。


「殺そう」
「だめだ!感染してる。刑務所と同じだ
 血を浴びたら俺達まで感染してしまう!」
「こっちの奴らは平気か?」
「さあね」
「賭けるしかない……」
「いいか?」
『いいわ…』
「やれ」


こちらの扉の前には思っていたより
ウォーカーは少なく、感染もしていない様だ。
倒し、先へと進む。


「出られない」
「こっちから行こう」
「どけ!」


タイリースが消火器を窓ガラスへと投げた。


「行け!飛び移るんだ!」
「分かった」
「次はエリー行け!」
『う、うん…』
「大丈夫だ」
「私がいるから!」
「来るぞ…早く!急げ!」


ダリル、タイリース、ボブが続いて出てくるが
ボブは勢い余ってかばんを下に落としそうになり
かばんがウォーカーに捕まってしまった。


「手を離して!」
「…っ!くそっ…」
「手を離せ!」


ミショーンやダリルの言葉にも耳を貸さず
リュックを引っ張り続けるボブ。


「諦めろ、バッグを離せ!」
『ボブ…!』


ボブがリュックを取り戻した時、
床に叩きつけられ"ガシャン"と音がなる。
明らかに薬では無い物が叩きつけられた音だ。
ダリルがカバンを覗くとお酒の瓶が……


『いつの間に……」
「薬じゃなくてこれか?」
「……」
「立ち去るべきだったな」


お酒を投げ割ろうとするダリルを見て
ボブが銃に手をかける。
私も思わず銃に手をかけてボブに向けた。


「よせ」


タイリースがボブと私に向かって言う。
ボブが手を離したのを見て私も銃を下ろした。
ダリルはボブに近寄ってボブを威嚇する。
銃もボブから取り上げた。


「許してやれ。彼の選択だ。お前に攻める権利はない」
「誰も傷つける気は…落ち着いたら飲もうと」
「ひと口飲め…
 薬を届けたらお前を半殺しにしてやる…
 覚悟しとけ…」


私達は言葉を発することなく車へと向かった。
ダリルは無言で助手席へ


「エリー、どうする?」
『運転してもいい?』
「できるの?」
『こないだ物資を車で運んだわ』
「じゃあ任せる」


運転席に乗り込むとダリルがこちらを見た


「お前が運転手か?」
『そうよ。嬉しいでしょ?』
「……そうだな」


それから黙って車を走らせる。


『ミショーン。見て、ウォーカーよ』
「群れだね。あの道はやめよう。右へ」
『おーけー…一度止まる?』
「そうして」


一度、車を止めてどの道で戻るか考える。


『私には分かんないから決めて』
「100号線を使おう」
「7時間はかかるね」
「ガソリンが必要だ」
『どこかで適当に調達しよう』
「その時に運転も交代よ」
『分かった』
「100号線だ」
「聞こえた」


また車は走り出す。
途中、ガソリンを入れて運転はタイリースが。
ボブの隣に座りたくなかったから
間にミショーンがいてくれて助かった。


長い時間をかけてようやく刑務所へ戻って来た。
ハーシェルが私達を出迎えてくれる。


『グレンは?』
「峠を越えた。自発呼吸してるし、
 マギーが付いてる。もう平気だろう」
『良かった……』
「タフな野郎だ」
「そうだな…あんたも」
「そうさ」
「キャロルは?リジーの所か?」
「リックと話せ」
『どうして?』
「無事だ。とにかく彼と話せ」


ハーシェルの態度に疑問を覚えながらも
ダリルはリックを探して歩きだす。
私も黙ってダリルに付いて行った


「リック」
「ダリル、エリー…話が…」
『キャロルの事?』
「あぁ…2人を殺したのはキャロルだった」
『……カレンとデイビッド?うそでしょ?』
「本当だ。彼女の口から聞いた。」


信じられない…あのキャロルが?
誰よりも争いごとを嫌う彼女が…
2人を殺した?


「だから…物資調達に出た街で別れた」
『別れた?……どういうこと?
 キャロルを街に置き去りに?』
「仕方なかったんだ」
「戻るまで待てよ!」
「タイリースに知られる」
「説得出来た!」
「いいか?彼女は2人を殺した。ここには置けない」
『だからって置き去りにすること……』
「心配ない。車や物資、武器も渡した。生き延びられる」
「気休めだ!!」
「仲間の為にやったと言った。
 そういう人間だ…後悔して無かった」
「本当の彼女じゃない…」
『……リジー姉妹は?』
「面倒を見ると約束した」


ダリルは項垂れた。
私もキャロルの事を思うと胸が痛い…


「どう反応するか…」
「言うしかないだろ?」


ダリルはどこかへ行ってしまった。
リックに声をかけてあげたくても言葉が出てこない。
ついにリックもどこかへ行ってしまった。
私はひとり、ぽつんとその場に残された…


「エリー?」
『マギー……』
「おかえり。そんな所でどうしたの?」
『ううん、なんでもない』
「薬をありがとう。おかげでみんな助かった」
『ううん。グレンは?』
「起きてる。会いに来る?」
『うん、行こうかな』


水を持ったマギーについてグレンの元へ


『グレン』
「エリー…平気か?」
『それはこっちのセリフよ』
「薬をありがとう。助かった」
『(首を横に振る)グレンが生きていて良かった…』


寝ているグレンにハグをする。
グレンも力なく笑ってハグをしてくれた。


その時、突然大きな音がした。


『なに!?』
「分からない…」
『見に行って来る!』
「私も!グレンはここにいて…」


外に出るとリック達と合流をする。
………総督だ。


「リック!こっちへ来い!話をしよう!」
「俺に権限はない!今は委員たちが運営してる!」
「ハーシェルは委員か?ミショーンは?」
「…っ!」
「俺に決定権はない」
「今日は決断を下せ。こっちに来い!話をしよう」


また総督が攻めてきた。
ハーシェルとミショーンが人質に…


リックは総督に言われた通りに近付いて行く。
その間、私達は緊急会議だ。


『2人を助けられる?』
「反撃は難しそうだ…」
「管理棟から森へ抜けるんだ。数で負けてる」
「バスの物資は?」
「一昨日の調達の時よりさらに減ってるはず」
「……なんとかなる。いざとなったらみんなをバスへ」
「いざとなったらって…いつまで待てば?」
「出来るだけ長くだ…」


ダリルがみんなに武器を配り始める。
私もそれを受け取って背中に担ぐ。
どこまで総督は私達に執着するのだろう?
しかも今度は戦車まで……
一体どこで手に入れるの!?
連れてきた人達はウッドベリーの生き残り?
左から1人1人の顔を見るけど、
前回の襲撃にいた人はいない様な…

総督の右側の人達を見始めた時…
ある男性に目が止まった。
会いたくて会いたくて仕方がなかった人。
でも…まさか?本当に…?


<お兄ちゃん!!>


私はお兄ちゃんの元へ走り出そうとした。
隣にいたダリルに手を掴まれる。


「待て!!!どこに行く気だ!?」
『離して、ダリル!あそこにお兄ちゃんがいるの!』
「は!?エリーの兄貴は日本じゃなかったのか!?」
『私もそう思ってたけどあれは絶対私のお兄ちゃん!』
「だとしてもだめだ!」
『お願い!行かせて!!』
「だめよ!エリー!危険すぎる!」
「そうよ!ここにいるべきよ!」


ダリル、マギー、サシャに反対され
もう一度、お兄ちゃんの方を見る。
でもあれは絶対にお兄ちゃん……
きっと私が生きていることも
ここにいることも知らない…


『ごめん…!』


ダリルの手を振り払い、走った。
後ろからみんなが私の名前を呼んでいる。
でも、どうしてもお兄ちゃんに会いたい


<お兄ちゃん!!!>


私の声に振り向くリック。


「エリー!来るな!!」
<お兄ちゃん!私だよ!エリーだよ!!>
<エリー…?>


やっとお兄ちゃんが私に気付いた。
お兄ちゃんも私に向かって走り出している。
もう一生会えないと思ってた…


<お兄―>


バーン!


私は総督に撃たれた。






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