次の日の朝、緊急会議が開かれた。


「D棟で生き残った者、全てが発症している
 サシャやドクター。他の者達も…」
「マジかよ」
「どうすれば?」
「A棟の監房に隔離しよう。カレンやデイビッドの様に」
「発症を防ぐには?」
「不可能だ。かかったら切り抜けるしかない」
「でも死ぬ」
「命を奪うのは"症状"だ。抗生物質がいる」
『抗生物質があれば生き残れるの?』
「あぁ、確立は格段に上がる」
「近くの薬局に薬は残ってない」
「獣医科学大学なら、薬を求めて押し寄せないだろう
 だが、動物の薬も人間に効く」
「80キロはあるな…時間を無駄にできない」
『私も行く』
「あぁ、すぐに出発だ」
「私も行く」
「ダリルやエリーと車に乗れば感染の恐れが…」
「ノミもうつった」


ミショーンの言葉にハーシェルは笑った。
そんなハーシェルを見た時に気付いた
隣に座っているグレンの表情が暗い。
なんというか…かなりしんどそうだ…


「私も行こう。薬の場所が分かる」
「……外に出たら遅かれ早かれ走る事になる…」
「ならば地図を書こう」
「………あぁ…」
「他にも予防策が必要だ」
「何?」
「ダリル達が帰って来るまで弱者を隔離するべきだ」
『ジュディスのこと?』
「そうだ。管理棟の一室に退避させるんだ」
「弱者って…ジュディス以外には誰のこと?」
「子供たちだ」
「老人は?」


ハーシェルはグレンの言葉に何も答えなかった。
みんなが会議室を出て行く中、グレンは動かない


『グレン?』
「あぁ…どうした?」
『大丈夫…?顔色が良くない…』
「……まずいかも」
『……移った?』
「……分からない…
 でもとりあえず離れてくれ…」
『分かった…』
「ゴホッゴホ……」
『グレン…』
「ダリルには行けないと伝えて…」
『うん…他には?』
「大丈夫だ。行け。エリーに移したくない」
『必ず薬を持って戻るから、待ってて』
「あぁ、信じてる」


会議室を飛び出して部屋に戻る。
出発に必要な物を揃えると車に向かった。


『2人だけ?』
「あぁ、グレンとボブを待ってる」
『グレンは行けない。発症した』
「………そうか…代わりがいるな」
「例えば?」
「リックには聞いてないが、カールと娘がいる。
 行きたがらない。他にする事もあるし…」
「じゃあ誰が?」
「……俺に任せろ」


"準備をしといてくれ"と言うとダリルは行った。
ミショーンは車のオイルを取りに、私は荷物を積み込む


「エリーだけ?」
『みんなもすぐ来るよ』
「あぁ、安心した」


ボブの言葉に少しムッとなるが聞き流した。
前からちょっとボブとは気が合わない所がある。
前回の物資調達の話も聞いたが、どうもおかしい。
ボブが何か話しかけようとしてくる空気は察したが
知らんふりを決め込んだ。


「持って来たよ」
『ありがとう、ミショーン』
「入れようか?」
『うん、お願い』


後はダリルだけ……

しばらくしてダリルが戻って来たが1人だ。


『……もう行く?』
「少しだけ待とう」


ダリルの横に立ち、少し待っていると
タイリースがやって来た。


「待ってたぜ」
「あぁ、行こう。みんなを助けるんだ」


運転席にダリル。
後方座席にタイリースとボブが乗り込む。
ボブが助手席側に乗ったのを見て私は助手席に座るのを辞めた


『ミショーン。助手席どうぞ』
「あんた乗らないの?」
『今日はいい』


タイリースの横に乗り込み、ずっと外を見ていた。
ダリルとミショーンの会話が耳に入る。
やがて車内には音楽が流れ出した。

すると突然、大きな音がして車が左右に揺れ出す。
タイリースが私を支えてくれる


『ごめん、タイリース』
「平気か?」
『うん』


いつの間にかウォーカーに囲まれていた。
数が多い。全て殺すには骨が折れるだろう…


「つかまれ!」


ダリルは車をバックさせて脱出を試みるが
轢いたウォーカーがめり込んで進めない。


「森に向かった走るんだ!いいな?」
「分かったわ…!」
「エリー。俺から離れるな」
『うん、分かった』
「今だ!行け!」


ダリルの合図で車から飛び出す。
ナイフでウォーカーを頃しながら森へと進む。


「タイリース!」


ボブがタイリースの名前を呼んでいる
振り向くとまだタイリースは車の中だ。


「タイリース!」
『どうする!?』
「…ちっ…」


ダリルは車から出てきたタイリースを助けようとするが
ウォーカーに囲まれ、飲み込まれてしまった。


「行くぞ!」
「走って!」


4人で森の中へ逃げ込む。
タイリースの事を諦めたその時、彼がやって来た。
ダリルとボブが手を貸して私達はまた逃げ始めた


「とにかく進もう。車が見つかるまでは歩く」
「方角は?」
「こっちだ」


ダリルについて森の中を進む。
もう何時間歩いたか分からない。
もう太陽も沈み始めてしまった…


『ダリル。どこか休める場所を探さないと…
 このまま夜も森を進み続けるのは危険だわ。
 みんなも疲れてる。それにボブは戦闘慣れしてない』
「そうだな……川の近くへ出て見よう」
『水も汲めるね』
「あぁ」


川に出ると小さな小屋を見つけた。


「中が安全か確かめよう」

コンコン

『………留守みたい』
「タイリース、ボブはここにいてくれ。
 エリーとミショーンと中を見てくる」
「分かった……」


小屋の中へ入って行く。
特に異常は見られない…
ほんの少しだが食料もあった。


「大丈夫だ。中に入って休もう」
「この食料も分けて食べよう」
『何の缶詰?』
「トマトの…何かな?汚れて見えない」
『なんでもいいや、食べよう』


ふたつの缶詰を5人で分け合う。
ミショーンが持ってきていた缶詰も開けた。
でもたったこれだけじゃ力も出ない…


「エリー」
『私はいい。私の分はダリルが食べて』
「いいから食べろ」
『トマト好きじゃないの。食べて』
「………」
『次からはちゃんと食べるから』


ダリルはしばらく無言で私を見つめていたが
私の分のトマトで作られた何かの缶詰を食べた。
ミショーンの缶詰は魚の缶詰だったから食べた


「明日の早朝、出発だ」
『見張りはどうする?』
「交代で行なう」


話し合った結果、ミショーン、ボブとタイリース
ダリル、私の順番で行うことにした。
見張りの時間までダリルの横で仮眠を取る。
グレンやサシャ…みんなは無事だろうか……


『ん…ちょっと寝すぎたかな…』


見張りをしているダリルの元へと向かう。


『ダリル。起こしてくれたらよかったのに』
「あぁ、もうそんな時間か」
『気付いてたでしょ?』
「いや?」


ダリルは否定したが、私を起こさないでくれたのだ


『さっ、もう寝て。交代の時間よ』
「あぁ」
『……ここで寝るの?』
「太陽が出たら起こしてくれ」
『分かった』


ダリルは私のそばで眠った。
小屋の中で寝た方が休まるのに…
ダリルの寝顔をしばらく見つめていた
ずっと見ていたいけど、見張りをしなくちゃね。





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