『おはよう、キャロル。何か手伝う?』
「おはよう、エリー。大丈夫よ。食べて」
『ありがとう。いただきます』
「ダリルは?」
『もう来ると思うよ』
「おはよう」
「おはようドクター。いいにおいだ」
「ダリル、人助けをして人気者ね」
「よせ。リックも連れて来てる」
「最近はそれほど…
 他人を受け入れるなら愛する事も学ぶなきゃ」
「……まぁな」


ダリルはチラッと私を見た。
私は"手で汚い"という顔をして見せたが
ダリルに伝わったかは分からない。


「見せたい物があるの。来て」
「エリーは食べてろ」
『言われなくても〜』
「あの…鹿のこと感謝します。
 ごちそうさまでした。……握手してください」


ダリルは指を舐めるとパトリックと握手した。
パトリックが嬉しそうな顔をしているからいいけど…
舐めた手で握手するなんて…
そこがダリルらしくていいのかもしれないけど。


『ごちそうさまでした。
 パトリシア、手伝わなくていい?』
「大丈夫です」
『そう?じゃあよろしくね』


食器を運ぶとちょうどキャロルとダリルが
戻って来たところだった。


『キャロル。ごちそうさま。美味しかった』
「良かったわ。ねぇ、エリーも物資調達に?」
『そのつもりだけど…どうして?』
「物資調達は任せてフェンスのウォーカーを
 どうにかした方がいいかと思って…
 あなたも昨日、見たでしょ?あの数
 今朝は昨日よりも更に増えてるわ」
『うーん…昨日もずっとフェンス越しに
 ウォーカーを殺してたし…死体が山積みよ。
 それもどうにかしなきゃならないわね…』
「残るか?」
『うーん……』
「マギーも残る。3人で対策を考えてくれ」
『マギー行かないの?』
「えぇ。"あれ"をどうにかしないとね」
『マギーが行かないなら物資班の人が足りないわ』
「僕が行きます。」
「本当に?」
「平気なの?ザック」
「僕も何か役に立ちたくて…」
『分かった。じゃあ残って対策を考える』


結局ボブも一緒に行くことになった。


『ダリル。今回も無事に帰って来てね』
「あぁ。必ず戻る」
「グレン、気を付けて…」
「愛してるよ」
「私も愛してる…」
『アツアツですこと…』
「エリーも愛してるよ」
『はいはい、私もグレンのこと愛してるよ』
「本当なのに」
『はいはい』


グレンの頬にキスを送る。
グレンも私の頬にキスを送ってくれた。


「行ってくる」
『いってらっしゃい』


ダリル達が出発しようとしたその時、
ゲートが開きミショーンが戻って来た。


『ダリル!ゲートまで乗せて!』
「あぁ、乗れ」


ダリルのバイクの後ろに乗りミショーンの元へ


「戻ったか」
「まあね」
『ミショーン!おかえり!』
「あんた…そんな軽装備で外へ?」
『あぁ、私は行かないよ。お迎えに来ただけ』
「ありがと」


ミショーンは笑顔で私の頭を撫でてくれた。


『しばらくいるの?』
「まぁ、当分はね。でも奴はまだ…」
「……無事でよかった」
「次はメルコンに行く」
「100キロ以上ある」
「奴がいるかも」
「ウォーカーも悪い人間もいるのに行くのか?」


ダリルの言葉にミショーンは答えないが
目が"総督を見つけ出してやる"と言っている。


「例の場所へ物資を調達しに行ってくる」
「俺はワナを見てくる。
 何か獲物がかかってるかも…」
「私が」
「戻って来たばかりだ」
「すぐ戻るよ」


ミショーンが去って行ったのを合図に
ダリル達、調達班もゲートを出て行った。
私はリックとカールに"また後でね"と言うと
マギー、キャロルの元へ戻った。


「さて、考えましょうか…」
『私に案があるんだけど、いい?』
「なに?エリー」
『数マイル先に開けた広場があるでしょう?
 そこまでウォーカーをおびき寄せるの。
 そこで殺して死体に火を付ける。
 これを繰り返すだけ。どう?簡単でしょ?』
「却下よ」
『やっぱり…?』
「危険すぎるわ。そんなリスクは侵せない」
『でも他にいい案が思い付かないんだもの。
 遠くで鐘でも鳴ってくれたらいいのに……』
「鐘…ね……」
『そっか…音でおびき寄せればいいんだ!
 今より少しは減ってくれるかも知れないよ』
「この件について委員会で提案してみましょう」
「みんなに頑張ってもらうしかないわね」
『私もやるよ。特にやる事ないし』
「私も手伝うわ」
「私は本読みの準備があるから行くわね」
『えぇ、楽しんで』


キャロルを見送る。


『マギーはどうする?私はフェンスに行くけど』
「そうね…私も行くわ」


フェンスに着くとちょうどタイリースとカレンが
キスをしている所だった。
タイリースが振り向きこちらに気付く


「……」
『あー……見るつもりはなかったのよ?』
「気にしないで、エリー」


カレンは後ろで笑っている。
マギーも笑って、私に棒を差し出した。


『ありがとう』
「…予想よりもフェンスが押されてるわね。
 早い所何か対策を考えないと…」
『だから私がバイクでぶーんと―』
「ダメよ」


マギーに即答される。
危険だけど、少しは有効だと思うんだけどな…


「とにかく今は殺るしかないわ」
「精一杯やるわ」
『そうね、やりましょ』


マギーと私もフェンス越しにウォーカーを殺す。
全く……どこからこんなに来るのだか…


それから昼食までウォーカーを殺し
昼食後はみんなと家事をしたり
またウォーカーを殺したりと忙しく過ごした。


『はぁ…疲れた……』
「少し休んだら?エプロンも凄いことになってる」
『ほんとだ…』


ウォーカーの返り血対策に付けているエプロンは
もう血で染まっていない所はなかった。


『そうね。少し休むわ。後よろしくね』


私は建物へ向かって歩き出した。
リックが豚を見つめている…
どうしたんだろう…?


『リック?』
「あぁ、エリーか」
『何してるの?』
「見てくれ。バイオレットが…」
『バイオレット?』
「あぁ、カールが名付けたんだ。
 あの豚の様子がちょっとおかしいんだ」
『確かに……元気はなさそうね。病気?』
「分からない…何事もなければいいんだが…」
『ハーシェルは分からないの?獣医なんでしょ?』
「もう少し様子を見てみると…」
『そっか…早く元気になるといいね』


そう言うとリックも"あぁ"と言った。
2人でフェンスの話をしながら建物へと戻る。
リックと別れ、図書室へ向かう。
もうキャロルの本読みは終わっちゃったかな…
そう思いながら歩いているとキャロルとカールが
一緒に歩いている所に出会った。


『キャロル。もう本読みは終わっちゃった?』
「えぇ。さっき終わった所よ」
『カールも聞きに?』
「うん。パパに言われて…」
『そう。楽しかった?』


私の質問にカールはキャロルをチラッと見た


「気を遣わなくていいわよ。子供向けだもの。
 カールにはちょっと退屈だったみたい」
『そうなの?』
「あー…僕はもうすでに知ってることだったから…」
「そうね」
『次は私も行こうかな』
「子供向けよ?あなたには向かないわ」
「ねぇ、夕飯の準備は誰が?」
『マギー達はまだフェンスよ』
「…急がないとね。じゃあエリー手伝ってくれる?」
『喜んで。カールまた後でね』
「うん」


キャロルと夕飯を作り、みんなで食べる。
食器の片付けはマギー達がやってくれると言うので
私はベッドに寝転んで本を読んでいた。

何か音が聞こえる……
ダリルのバイクのエンジン音だ!
急いでマギーの所へ行く


『マギー!ダリル達が帰って来た!』
「…?どうして分かるの?」
『バイクのエンジン音よ!行きましょう!』
「……バイクのエンジン音がここまで聞こえるの?」


マギーは不思議そうな顔をしたが
私は無視して手を引っ張ると付いてきた



『おかえり!』
「あぁ」


帰って来たダリルの顔は暗い…


『何か問題が?』
「1人死んだ…」
『……そう…』
「ベスはどこだ?」
『自分の部屋にいると思う』
「行ってくる。これ頼む」


ダリルはクロスボウを私に預けるとベスの元へ。
きっと亡くなったのはザックだろう。
ベスのボーイフレンドだ。

振り返るとグレンとマギーも悲しそうな顔をしている。


『サシャ。おかえりなさい』
「ただいま」


今にも泣き出しそうなサシャを抱きしめる。


『大丈夫?』
「………えぇ…」
『良かった…』
「でもザックが…襲われたボブを助けて…それで…」
『えぇ…辛かったわね…』


サシャは私の腕の中で泣いた。
ボブは後ろでそれを眺めている。
彼の顔もまた暗い。



「ごめんなさい、もう大丈夫よ」
『本当?』
「えぇ。中に入りましょう」
『そうね。夕飯を食べて、ゆっくり休んで』


サシャと一緒に中に入り、
ダリルを捜しに自室へと戻った。


『ダリル…』


ダリルの隣に座り手を握る。
チラッとこちらを見たが、すぐ視線を下に戻してしまった。


「ザックが死んだ…」
『えぇ。サシャに聞いたわ』
「大した物資も手に入らなかった…
 下見した時に屋上に墜落したヘリコプターに
 気付いていれば…死なずに済んだのに…」
『下から見えないんじゃ気付きようが無いわ…
 あなたは精一杯やってる。自分を責めないで』


ダリルにそう言うとそっと頷いた。
それからしばらくの間、どちらも話さずに
部屋から見える月を眺めていた…






[ 132/216 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]