『リック、ダリルと物資調達に行ってくるね』
「どれくらいで戻る?」
「1週間以内には戻る」
「バイクで?車で行け」
「いや―」
「いいから。エリーもいるなら余計にだ」
「分かった」
「あと鶏や馬がいたら捕まえて来てくれ」
『了解〜』


総督の襲撃があったあの日。
あれから平穏な日々が続いていた。
リックはカールとハーシェルと共に
小さな農園と豚の飼育を始めた。
銃も持ち歩いていない。

刑務所内の建物も雰囲気がガラッと変わった。
あれから何度もウッドベリーへ向かい
使えそうなものを片っ端から運んできた。
刑務所内には図書室も医務室も会議室も出来た。
委員会も発足した。
何か問題があれば話し合い解決するためだ。
メンバーはリック、ダリル、キャロル、グレン
マギー、ハーシェル、そして私。
初期のメンバーで構成された。


「エリー!」
『カール』


私に飛びついて抱きしめてくれるカール。
あれからカールも笑顔を取り戻した。
やっぱり父親との時間は何よりも大切…
リックとの時間が増えれば増えるほど
カールは以前の様に明るく、笑顔になる
こんなに嬉しい事はない。


「物資調達に行くの?」
『えぇ、そうよ。』
「すぐ戻って来る?」
『長くて1週間くらいよ。
 何かお土産を見つけてくるわね』
「本当?楽しみにしてるよ」
『だから良い子にしてて』
「うん、分かってるよ。気を付けてね」
『えぇ、いってきます』
「ダリルも気を付けて」
「あぁ」


カールの額にキスをして車に乗り込む。
ゲートを開けてくれた彼に手を振ると物資調達に繰り出した。


『少し先に小さな宿屋があるはずよ』
「まずはその近辺を捜してみるか」
『お土産屋さんもあるといいね』
「あぁ」


お土産屋があると子供たちに持って帰れる。
きっと喜んでくれるはず


「あそこだ」
『…思ったより小さいね』


宿と言うより…家?コテージと言えばいいのかな?
日本ではあまり見られないタイプの宿屋だ。
こっちでは主流なのかな…


「行くぞ。手前から順に見て行こう」
『おーけー』


コテージは綺麗に見えた。
周りにはウォーカーもいないし、荒らされた形跡もない。


「…くそっ、鍵がかかってる。」
『管理室を捜す?』
「あぁ。なかったらこじ開けよう」


手前に3つ、奥に2つ、そして少し離れた所に
ぽつんと1つコテージが立っている。


バンバン


「あぁぁぁ…」
「いるな…」
『結構いそうだけど…』
「……少しずつ外に出そう。ドアを頼む」
『分かった』


ドアを少し開いて、一体が出たら閉める。
ダリルがナイフでウォーカーを殺す。
それを繰り返して中のウォーカーを殲滅した。
ただこの作業、恐ろしく疲れる。
何体ものウォーカーが出て来ようとするのを
全力で押し返すんだから、体力の消費が凄い…


『はぁ…疲れた…腕の力、使い果たしたよ…』
「ここにいろ。中を見てくる」
『一緒に行く』
「中にウォーカーはいない、大丈夫だ」


私に水を渡すとダリルは中に入って行った。


「鍵があった。少しだが食料と水、薬も。
 アニメティはそこのプレハブの中だろう」
『序盤で順調ね。トラックが必要だったかしら?』
「必要になればトラックも調達すればいい」
『ふふ、そうね。先にプレハブ?』
「先にコテージだ」


差し出されたダリルの手を握り立ちあがる。
私達は一番最初のコテージまで戻った。


「先に安全を確認する。その後、手分けして物資調達だ」
『分かったわ。行きましょう』


鍵を開けて中に入る。
中には人もウォーカーもいない


『誰かここに泊まる予定だったのね。
 机の上にウェルカムカードが…』
「あぁ…来れなかったらしい」
『……見つけた物資は車に?』
「ひとまずここに集める。まとめた方がいい」
『そうね。箱があるといいけど』


ダリルと別れて物資調達を始める。
お客様が泊まる予定だった分、物資が豊富だ。
お金を払えば使える医薬品のボックスも見つけた。
これが各部屋にあるのだとしたら大きな収穫だ


「こっちはこれで全部だ。そっちは?」
『これで全部よ。本当に良い場所を見つけたわ』
「あぁ、ラッキーだった」
『次に行きましょう』


ダリルと外に出ると念の為、鍵をかけた。
隣のコテージへ向かう。


「……開いてる…」
『(頷く)』


ナイフではなく、クロスボウを構えて中に入る。
悪い人間に襲われた時の為だ。


「逃げた後か…」
『そうみたい…』


中には人はおらず、慌てて逃げ出した形跡がある。
ここの宿泊客は家族連れのようだ。
食料や水は少なかったが、服や本を手に入れた。
子供服やおしめ、ミルクまである。
赤ちゃんと子供を連れて荷物も持たず逃げたのかな…
倒したウォーカーの中に子供はいなかったから、
無事に逃げきれているといいな……
そう思いながら子供たちのおもちゃを見ていると
とても珍しくて面白い物を見つけた。


『ダリル、見て』
「なんだ?」
『これ!日本製品よ!』
「ボールか?」
『違うわよ!見てて……』


スイッチを入れると天井に映し出された星空。
そう、プラネタリウムだ。


『ここのレバーを回すと発電される仕組みなの。
 電池が無くても壊れない限り遊べる優れものよ』
「カールが喜ぶ」
『えぇ』


ダリルと少しの間見つめていたが、次の部屋へと移った。
こうやって順番に回って行った結果、
空いていたコテージが2つ。
逃げ出した家族のコテージが2つ。
中で生きることを諦めた人達のコテージが1つ。
ここは酷い腐乱臭で中に入るのを諦めた。


「最後にプレハブを見たらここに泊まろう」
『こんな素敵なコテージで泊まれるなんて夢のよう!』
「行くぞ」
『うん!』


プレハブの鍵を開けて中を覗く。
人もウォーカーもいない……
ただし大量の物資が私達を出迎えてくれた。


『わぉ……こんなにたくさん…』
「積みきれるか?」
『……車が小さいから無理かも』


ダリルは黙って中に入る。
最初にダリルが予想していた通りアニメティや食料
水もタオルも色々な物がここにある。
コテージを運営するのに必要な物が集まっている。


『どうする?』
「明日考える。とりあえず戻るぞ」


プレハブに再び鍵をかけて最初の部屋に戻る。
荷物を出来るだけまとめて車に積み込んだ


『コーラ飲んでもいい?』
「コーラよりいいものがある」
『なに?』
「ビールと酒だ」
『わお!こんなの見つけてたの?』
「あぁ。今日くらい、いいだろ?」


ダリルはそう言うとビールを流し込んだ。
私もお酒を手にとって飲み始める
夕食も食べて大満足だ。


『どこ行くの?』
「ベッドだ。行くか?」
『うん、鍵かけた?』
「かけといてくれ」


私は一度、ドアを開けて誰もいないのを確認してから
ドアの鍵とチェーンをかけた。


『かけてきたよ』
「あぁ、悪いな」
『ううん』


それにしても久しぶりのお酒だから
酔いが回るのが早い。もうふわふわしている。


「顔が真っ赤だな」
『もう酔った』


ベッドに横向きで、腕で頭を支え寝転がっているダリルは
私を見て笑ったけどダリルだってほんのり顔が赤い。
そんなダリルに近付いてキスをする。


『ダリル…しよ…?』
「おまっ……知らねぇからな…」


ダリルは甘く、激しく。
私を快楽の天国へと連れて行ってくれた。




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