15

「エリー」
『どうしたの?2人揃って…』


"リックに話があると言われたから集まれ"と
言われて向かう途中でグレンとマギーが寄って来る。
しかも2人とも、とても笑顔だ。
グレンあんなに怒ってたのに……


「実は……」
「私達結婚したの!」
『えっ…?』


マギーが嬉しそうに指輪を見せてくれる。


『もしかしてさっきのって…』
「あぁ、これだよ」
『……おめでとうっ!』


2人に思いっきり抱きつく。
"ありがとう"と言うと抱きしめ返してくれる。
こんなに嬉しい報告はない…


『本当にお似合いの2人だわ!
 あぁ…本当に本当に嬉しい…』
「これからは私が義姉さんよ。
 …待って。ダリルは将来の義弟?」
『ふふっ。何言ってるのよ』
「さぁ、行こう。リックが待ってる」


マギーと手を繋いでみんなの所へ行く。
もう私達とメルル、ダリル、ミショーン以外は揃っていて
リックは険しい顔つきをしていた。
思わずマギーと顔を見合わせる。


「総督から…条件を出された。あいつは手を出さないと言った。
 ミショーンを渡せば…そうする気だった。ここの安全の為に」


みんなが暗い顔をしてリックを見つめる。


「だが、思い直した。
 メルルがミショーンを連れて行きダリルが追ってる。
 隠したのは間違いだった。悪かった……
 農場を出た夜…俺が言ったことを覚えているだろう?
 あれは取り消す。間違ってた。どんな生き方をするかは
 俺が決めることじゃない。許されない…
 誰か1人を犠牲になんて…出来ない。
 ここで生きているのは俺だけの為ではないのだから…
 生と死の問題だ。どうやって生き、どう死ぬか…
 …俺次第では無い。俺は総督ではない…
 ここを去るにしても、残るにしても全員一緒だ
 決断しよう。残って戦うか、逃げるかだ…」


そういうとリックは監視塔へと上がって行った。
振り向いたカールはリックを睨んでいた。


『カール、大丈夫?』
「うん……ただ……なんでもない」
『そう…話したくなったらいつでも話して』
「うん…」


カールをぎゅっと抱きしめるとリックを追った。


『リック。少し聞きたいんだけど…』
「後にしてくれ。ミショーンが戻って来た」
『本当!?ゲートを開けなきゃ…』
「あぁ、来てくれ!」


リックと急いでゲートを開けミショーンを中に入れる。


『ミショーン、大丈夫?ケガはない?』
「平気だよ。ダリルがメルルを追ってる。
 けど誰も追いかけて来るなってさ…」
『……どうする?リック』
「あぁ…そうだな…」
「メルルは総督の所へ行った。総督と戦い…
 死ぬつもりだろう…だからダリルは来て欲しくないと」
「今はダリルを信じて帰りを待とう…」
『……分かった。見張りをしても?』
「あぁ、頼む」


リックが持っていたライフルを私に渡す。
私はただダリルを信じて待つしかなかった



空が赤くなってきた。
ダリルはメルルと会えていないのだろうか?
それとも2人でまだ戦っている?
ちゃんと……生きているのだろうか…
良くない事を考えそうになった時、誰かが監視塔に
登って来る音がして考えるのをやめた。


「エリー」
『キャロル……』
「平気?」
『まぁね』
「ここにいても?」
『もちろん』


キャロルは私の隣に立った。
ここにキャロルが来るのは珍しい
キャロルはあまり戦闘を好まないタイプだ。


「待ってるの?」
『えぇ、そうよ』
「もし…あなたが捜しに行きたいと言うのなら…
 私も一緒に彼を捜すわ。」


キャロルの言葉に思わず彼女を見た。
正直、キャロルからそんな言葉が出るとは思わなかった。
今日もずっと逃げることを主張していた彼女が。
外に出てダリルを捜すと…


「ソフィアを捜してもらった…
 それに彼も大切な家族だから…でしょ?」
『えぇ……そうね…』


確かにそうだけど、ダリルはそれを望んでいない。
でもこれ以上、太陽が沈み、暗くなってしまったら
捜索も出来なくなるし、ダリルも危ない。
いつ総督の魔の手が伸びるかも分からない…


『もう少し待ってみる…』
「そうね。私も待つわ」


キャロルは反対側を見張っている。
太陽が沈み始めた時、ダリルが帰って来た。


『ダリル…キャロル!ダリルが帰って来た!』
「あなたは行って。見張りは私が…」
『ありがとう、ごめんね』


キャロルにお礼を言って下へ降りる。
急いでゲートを開けてダリルを中に入れた。
ダリルの顔に血が付いている。
涙の通った場所以外は……


『ダリル…』
「…っ」


メルルは死んだ。
ダリルの顔がそう物語っていた。
思いっきり抱きしめるとダリルも抱きしめ返してくれる。
そしてまたダリルは涙を流した。



「……中に入ろう」
『平気?』
「あぁ…」
『ねぇ、ジュディスに会いに行かない?』
「いや…」
『少しだけ。ね?』
「あぁ…」
『待って。先に顔を拭こう』


タオルに水をかけてダリルの顔を拭く。


『拭けたよ。さぁ、行こう』


ダリルの手を引いて建物の中に入る。
みんなは夕飯の準備をしている所だった
私とダリルに気が付いて手を止める。
メルルがいない事にも気付いた様だ


『ジュディスは?』
「ハーシェルとベビーベッドに」
『少しダリルとお邪魔してもいい?』
「もちろん。もちろんだ」
『ありがとう、リック』


コンコン


『ハーシェル。悪いんだけど、少し変わってくれる?』
「あぁ。ジュディスのおしめも変えた所でご機嫌だよ」
『それは嬉しいわ。ありがとう』
「また後で」
『えぇ』


ハーシェルは気を利かして外に出てくれた。
私はダリルの手を引っ張ってジュディスに近付く。
ジュディスは私達の顔を見るとケラケラと笑った

ダリルはそっとジュディスを抱えると
体を揺らしながら、彼女を見つめていた。


しばらくしてマギーがやって来る。
マギーが口を開く前に私は首を横に振った。
今のダリルは食事も取らないだろう
マギーは頷いて戻った。


どれほどそこにいたかは分からないけど
ダリルは寝てしまったジュディスをベッドに戻し
"行こう"と言った。
マギーがくれた夕飯を持って部屋に戻る。


『夕飯は?』
「いらねぇ…」
『そう』
「側にいてくれ…」
『どこにも行かないわ』


ダリルは私をしっかり抱きしめて
しばらく天井を見つめていたが、そのうち眠りに落ちた。
私はそんなダリルをずっと見つめていた。





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