14

「さぁ、行こう」


早朝に起きた私達はしっかり朝食を食べ
武器を持ち車に乗り込んだ。
ダリルはバイク、車の運転がリック
後ろに私とハーシェルが乗り込んだ。

話し合いの場に着くまで
私はぼーっと外を見ていたが
早起きしたせいもあって気付いたら寝ていた様だ…


「エリー。起きろ」
『ん…なに…?』
「なに?じゃねぇ。もうすぐ着く。
 頭を起こして、気持ちを切り替えろ」
『あぁ……うん…』
「ガソリンの補給をしたんだ。」
『あぁ…それで…』
「行くぞ」


起きたばかりで事情を把握できていない私に
リックがなぜ止まっているか教えてくれた。
見るとリックとハーシェルが少し笑っている。
……バカにされたのだろうか?

自分の頬を軽く叩いて目を覚ます。
最悪の事態に備えるべくクロスボウに矢をセットした。


「ここだ。先に降りる。後から来い」
「あぁ、分かった」


リックが降り、建物の周りを見る。
ダリルも車を止めてクロスボウを構えた。


「エリー、行けるか?」
『えぇ、いいわ』
「ハーシェル。少し周りを見てくる。
 何かあったら呼んでくれ。銃はあるな?」
「あぁ、大丈夫だ」


ハーシェルは運転席に移ると、銃を振って見せた


「よし。俺は右から。エリーはあっちだ」
『了解』


建物の周りを警戒して歩くがウォーカーすらいない。
まだ誰も来てないのか……そう思った瞬間、
建物の中からリックと男の人の声がした。
窓から中を覗き込もうとすると反対側でダリルが
同じ様に覗きこんでいるのが見える。
ダリルはジェスチャーで"来い"と言ってきた。
急いで車へと戻る。


『人がいた。あれが総督?』
「そうだ。あのクソ野郎が総督だ」
「もう中にいるのか?」
「あぁ、リックと2人で話している」
『どうして?まだ時間より早いわ』
「……来たぞ」


車が到着し、アンドレアと男の人2人が出てきた。


『アンドレア』
「おはよう」
「なぜ奴が先に来ている?」
「なに?もう来てるの?」
「あぁ、中で話してる」
「全く…勝手なことを…」


アンドレアは"信じられない"といった顔で中に入っていった。
ダリルはクロスボウを構えたまま。
私もめがねの男性にクロスボウを向ける。
ハーシェルも車から降りてきた。


「戦う気はない。それを降ろしてくれ」
「俺達は武器を構えてない。だろ?」


2人は手を上げる。
ダリルがクロスボウを降ろすのを見て、私も降ろした。


「中を見てくる」
「総督はリックと2人で話したいと」
「お前は誰だ?」
「ミルトン・マメット」
「奴の執事か…」
「アドバイザーだ」
『なんの?あなたは何をアドバイスしてるの?』
「バイター対策や……悪いが下っ端に説明する必要はない」
「イキがるな」
「一日中武器を向ける相手だ。頼むから黙ってろ…!」
『ダリル!』


相手の一言にダリルが詰め寄る。
2人は至近距離で睨みあいを始めた。
思わずクロスボウを構える。


「今はよせ。交渉が決裂したら殺し合える…」


ハーシェルの言葉にダリルは戻って来た。
私もクロスボウをそっと降ろした。


『ダリルやめてよ!心臓がいくつあっても足りない…』
「やめただろ?」
『そうだけど』
「エリー。後にしなさい」


ハーシェルに止められて開きかけた口を閉じる。
ミルトンと名乗った男はずっと何かを書いている。
銃も持たずに、なんというか…のんきな男だ…
彼もハーシェルと同じく"理性担当"なんだろうか?



しばらくしてアンドレアだけが中から出てきた。
彼女の顔は交渉が成功したという様な顔では無い。


『アンドレア…?』
「少し2人っきりで話がしたいそうよ。
 私は中から追い出されたわ。待つしかない…」
『……でも…大丈夫なの?
 2人が切れたら手がつけられないわ…』
「……彼らを信じましょう」


アンドレアは近くのベンチに座り込んだ。
かなりまいってるらしい……


何十分とも感じられる様な時間が過ぎた。
私とハーシェルは車の側でじっと立っていて
ダリルはイライラしたかの様に右へ左へと歩き続けている。
アンドレアと銃を持った男性も動かない。
そこへ車に戻っていたミルトンが戻って来た。


「せっかく時間があるんだ。お互いの事を知ろう」
「黙ってろと言っただろ?」
「そう、総督殿が?」
「彼らが話し合っているのは良い兆候だ
 "合戦"は避けたい」
「何が"合戦"だ」
『あれは"合戦"じゃない。あなた達が私達を襲撃したのよ』
「この間の戦いは"合戦"だ。そうここに書いた」
「なんのために?」
「書いておかなきゃ…歴史の一部だ」
「良いことだな」
「実は……大勢のインタビューを…」


その時、物音がした。
ダリル達が音がした方へ行く。
私と歩きにくいハーシェルは動かない。
もちろん武器を持っていないミルトンもだ


「君は行かないの?」
『えぇ。ウォーカーでしょ?三人もいれば充分。
 私にはハーシェルを守るという大事な仕事がある』
「…そうだね。警戒するのは良いことだ」
「座ろう。少し疲れた」
『ベンチがあるわ』
「…一緒に行っても?」
『……かまわないわ』
「ありがとう」


ハーシェルとミルトンがベンチに座る。
私はハーシェルの横に立った。


「脚の事を聞いても…?」
「噛まれた」
「転化を防ぐために切断したのか…
 面白い…噛まれてからの時間は?」


ミルトンの"面白い"という発言に眉をしかめる
ハーシェルは私に無言で"落ち着きなさい"と言った。
表情がそう、私に言っていた。


「直後だ」
「出血多量には?」
「仲間たちが救ってくれた」
「医師は?」
「いない。試行錯誤して学んだ」
「僕もだ…脚を見ても…?」
「脚は見せない」
「重要なデータだ」
「出会ったばかりだ。見たいなら一杯おごれ」


ハーシェルがそう言うと2人は笑い合った。
ミルトンはこう……空気が読めないんだろう。
純粋な探求心にちょっとイラつく部分はあるけど…
きっと善人だ。そう信じたい……


「君にもインタビューしても?」
『私?いいけど…特に話すことはないわ』
「君はどこの国の人?アジア系だろ?」
『日本よ』
「どうしてここに?」
『交換留学よ。義姉さんがアトランタ出身なの』
「じゃあ君は賢いんだね」
『そうでもないわ。英語も…全て分かる訳じゃない』
「家族は?生きてる?」
『…日本にいる家族と簡単に連絡が取れると思う?』
「あぁ、そうだね。ごめん…」
『でも今一緒にいるみんなも家族よ。
 ひとりぼっちだった私を助けてくれた…』
「……そうか。…クロスボウは?」
『拾ったの。私の特技は射撃よ。
 遠いウォーカーだろうが、ヘッドショット出来るわ』


そう微笑めば、ミルトンは更に顔を強張らせた。
最後の一言は私なりの脅し。
家族を傷つけたら許さないわよ、と。


「エリー」
『ダリルだわ。行きましょう』


ダリルの声に戻ると総督が出て来ていた。


「リックは?」
「中だ」
『良かった。生きてるわね…』


すぐリックも建物から出て来て
みんなそれぞれの車に乗り込む。


『アンドレア…』
「大丈夫。きっと上手く行くわ…」


私は最後にアンドレアとハグを交わして別れた。
行きと同様、リックの運転で刑務所へと向かう

何かを考えているのか、リックは終始、無言だった。


刑務所に着くとみんなが出迎えてくれる。
リックは皆に"中に入れ"とそれだけ伝えた。
グレンはそっと私に近付いてきた。


「向こうで何があった?」
『何も。私達は中に入れてもらえなかった』
「外で待ってただけか?」
『そう。話し合いが円滑に進むように祈りながら
 ウォーカーを殺してただけよ。理性班は必要なかった』
「……生きて帰って来れて良かった」
『えぇ。そうね』


グレンは私の肩を叩くと、リックを追った。
私もゆっくりと建物を目指した。



「総督と会った。じっくり話し合った…」
「2人だけで?」
「あぁ」
「ここを去るべきだった」
「…刑務所が欲しいと…俺達全員を殺す気だ」
「街を襲った俺達への報復だ」
「……(頷く) 戦争だ…」


何の為の話し合いだったのだろうか…
でもメルルが確かに言ってた。
"総督は残忍で冷酷な奴だ"と…


「こうなったのなら仕方が無い。道は一つだ。
 先制攻撃をしかける。それしか勝ち目はない!」
「だめよ!ここが欲しいならあげればいい!」
「外に出たらベイビーを守りきれないよ…」
「奴らは殺すべきだ。また襲撃される」


それぞれが自分の意見を出し合い、
今後どうするべきかを話し合う。


『カール』
「なに?」
『ベスとジュディスと向こうへ行っていて』
「どうして?」
『ジュディスにこんな話を聞かせたくないわ…』
「ベスだけでいいでしょ?」
『カール。お願い』
「……分かった」


カールは不満そうにしていたが
すぐに独房へと移ってくれた。
この話の内容はいくらこんな世界でも
未成年に聞かせたくはない。


「少し外させてもらうよ」


逃げるべきだと自分主張を述べた後
ハーシェルは出て行ってしまった。
メルルとミショーンは先制攻撃するべきだと言っている。
ダリルとマギーはそれを黙って聞いていた。
グレンも先制攻撃をするか否か迷っているようだ。


「エリーは?戦争に賛成?」


キャロルがすがる様な目で私を見つめる。
ハーシェルが出て行ってしまった今、味方がいないのだ。
きっと私に味方して欲しいのだろう…


『良くないと思うわ。私達にもカールやジュディス
 ベスがいる様に向こうにだって守りたい者がいる。
 でも総督が休戦を受けいれない限り…
 戦争は免れない。逃げてもどうせ追ってこられる。
 外で殺されるなら、ここにいた方が生き延びられる』
「先制攻撃をしなければどのみち、生き残れない!」
『ベストは総督が私達を諦めるか…
 彼が死んで、アンドレアが街を仕切るか、よ』
「そんな奇跡を待ってたって仕方ない!」
『でも私達は殺人者じゃない。そんな……
 簡単に人は殺せない…ウォーカーとは違うの!』
「ちょっと落ち着こう。今はリックもハーシェルもいないし
 一度解散して…2人が戻ってきたらまた話そう。いいか?」


グレンの言葉に全員が頷いた。
私はさっさと独房にある部屋へと戻る。

メルルやミショーンが言うことも
キャロルやハーシェルが言うことも理解できる。
休戦しなければ誰かが死ぬ…
どちらにせよ悲惨な結果は免れない…

今後の事考えると自然とためいきが出る。


「エリー、平気か?」
『ダリル。えぇ、平気よ』


ダリルは頷くと入って来て隣に座った。


「出会った頃に比べると随分、強くなった」
『私?』
「あぁ。出会った頃も芯は強かったが…」
『あの頃は色々怯えてた。あなたも怖かったしね』
「はは。そうだな…」
『あの頃はウォーカーにだけ怯えてれば良かった。
 それが今は"戦争"だ、"合戦"だ、なんて…』
「自分の身を守る為にみんな必死なんだ」
『私達もね…』
「あぁ…」


ダリルが私の手を握ってくれる。
私はダリルの瞳を見つめた。
彼の瞳はいつもとても綺麗だ…


『何があってもずっと一緒にいてくれる?』
「あぁ、もちろんだ」

コンコン

「ダリル、ちょっといいか?」
「あぁ。すぐ行く」


リックに呼ばれたダリルは私にキスをすると
部屋を出て行った。


「エリー。ちょっといい?」
『どうしたの?グレン』
「手伝って欲しい事があるんだ」
『いいわ、なに?』
「今は理由は言えないんだけど…
 ウォーカーを引きつけて欲しい。」
『フェンスで?』
「そう。お願い出来る?」
『もちろん。お安い御用よ』


グレンと共に部屋を出る。
外に出ると無数のウォーカー達が近付いてくる。


『それで?どうすればいいの?』
「あのウォーカーに用事がある。
 それ以外を引きつけて欲しいんだ」
『分かった』


フェンスを叩き、大声を出してウォーカーを誘導する。
グレンはウォーカーに何かしている様だけど
遠くに移動させる為、じっとは見ていられない。
しばらくそうしているとグレンが寄って来た


「もういい、用事は済んだ。ありがとう」
『どういたしまして』
「もう少しやることがあるんだ」
『力を貸す?』
「いや、大丈夫だ」
『おーけー』


グレンと建物へ向かう。
するとミショーンとマギーが近付いてきた。
グレンは"じゃあ後で"と言うと行ってしまった。


「生き抜くために手伝って欲しい」
『……どういうこと?ミショーン』
「あー。ミショーンと考えたの。
 私達…逃げるにしても戦うにしても時間が必要だわ」
『そうね、マギー』
「だから防御壁を作るの。
 ウッドベリーみたいに槍みたいな置き物を作って」
『ウォーカーも天然の防御壁になってくれるわね』
「えぇ」
「手伝ってくれる?」
『もちろんよ』


いつの間にかグレンやダリル、
リックとカールも手伝って作業をしている。
今日1日でだいぶ作業は捗った。
後は最終結論次第で…決まる…


「エリー!グレンとあっちをお願い!」
『了解〜!』


グレンが向かった方へと向かう。
そこにはダリルがいて、グレンと話していた。


「謝ったか?」
「………」
「反省してる」


ダリルの言葉には一切反応せず、作業を続ける。
振り向いた時に私がいることに気付いたが
グレンは視線を逸らして別の作業に移った。
ダリルもそのまま言葉を続ける。


「償わせる。必ず。
 過去のこととして…許してやってくれ…」
「椅子に縛り殴った事も、ウォーカーを放った事も
 水に流そう。だけど、マギーをあの男に差し出し
 辱めた。彼女にしたことは許せない。
 ダリルだって例えば俺に兄貴がいて
 エリーが同じ目に合わされたら許せないだろ?」


突然、自分の名前が出て来て驚いた…
グレンはダリルから離れて作業を続ける。
ダリルは私を見た後、その場を去って行った。


『グレン』
「………」
『グレン、私を見て』


怒りを抑えようとしながらイラだちを隠せていない
グレンの両手をつかみしっかりと握る。
グレンは下を向いていたけど、少しずつ顔を上げた。
少しの間、私達の間に沈黙が続く。


『そんなに慌てて作業するとビンを落として割っちゃう』
「………ごめん」
『んーん。気にしないで。』


少し座ろう。とベンチにグレンを促す。
座って2人で空を見上げる。


『2人を見た時、こんな目に合わせたあの人を
 殺してやりたいと…はっきりとした殺意を抱いたわ。
 ダリルには悪いけど…メルルがダリルのお兄さんだと
 知ってからもそう思ってた。一緒に過ごしてみて…
 少しの間だけどダリルとメルルは兄弟に思えなかった。
 ……グレンは努力してる。みんなが分かってる。
 もちろんダリルも分かってる。ね?』
「あぁ……」
『さっ。続きやっちゃお。時間は待ってくれないよ』
「あぁ」


やっとグレンは笑ってくれた。
作業が終わるとハーシェルに話があると言って
建物の中へ走って行ってしまった。


「エリー!グレンは?」
『ハーシェルと話がしたいって。
 あぁ、待って……行かない方がいい。
 さっきメルルのことで…ダリルと少し揉めたの』
「そう……分かったわ…」


ハーシェルと2人で話しをさせてあげた方がいい。
そう思ってマギーが行くのを止めた。






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