12

「じゃあ物資の調達に行ってくる」
『本当にカールも行くの?』
「うん。戻れるなら一度家に戻りたいんだ…」
『分かった…気を付けてね』
「ジュディスをよろしくね」


カールの額にキスをすると、カールは柔らかく笑ってくれた。
リックとミショーンにも気を付けてと伝えると
3人は外へと出て行った。
私とベスで扉を閉め、刑務所へと戻った。


『見張りは誰が?』
「私よ。これを片付けたら。その後はキャロル」
『おーけー。ダリルはどこに?』
「グレンと裏のフェンスを修復しに行ったわ」
「私はパパとジュディスの所へ行くわ」
『私も少し外を見てくるわね』
「気を付けて」


マギー、キャロル、ベスと話し、外へ向かう。
まだここへ来たばかりの頃に
リックが近くに武器庫があるはずだと言ってた…
実は昨日、地図らしき物を見つけたんだけど
ところどころ破けて不鮮明だし、武器庫への道なのか
良く分からないのだ…
まずは様子を見に行ってみよう。


フェンスの切れ目のチェーンを外して外へ出る。
みんなにバレると面倒だ。早く戻らないと…


『………マギーに方位磁石を借りて来るべきだった…』


地図が不鮮明なおかげで道が分かりずらい。
幸いなことにウォーカーもパラパラといるだけで
群れには出くわしていないんだけど
予定より時間がかかり過ぎている…
もう少し行ってみて、見つからなかったら戻ろう


そう決めて歩き出してすぐ、多数のウォーカーが…


『うそでしょ…最悪…!』


私はウォーカーから逃げるために走り出す。
少しずつでも倒さないと、体力が持たない…
一匹ずつ誘い出して倒さなきゃ…


『きゃっ!』


何かにつまずいた。
下半身がないウォーカーの頭だ。
襲われない様に必死に戦った……


『はぁ…はぁ…』


噛まれてはいない…生きてる……
でも転んだ足は痛いし、森の中を走ったから顔や腕に
切り傷がたくさん出来てしまった。
まぁ死にはしない。
長袖をまくっていたのを元に戻す。
これで少しは隠れるだろう。

そのままそこに寝転がりたい気持ちを抑えて立ちあがる。


『うん…大丈夫…』


足は思ったよりは痛くない。
ひねったりはしてないみたい…
良かった。この調子だと問題無く走れそうだ…

そこから少し進むと、私はもう目的地に着いていた。


『……ここで合ってるけど…
 どう見ても武器庫ではないね……』


"避難所"と言った方がしっくり来る様な
こじんまりとした建物があるだけだった。
でもコンクリートの壁で覆われているし
ウォーカー相手なら、ここに隠れればやり過ごせるかも…
建物に近付くと扉が開いている…


コンコン


まずは音でウォーカーを呼び寄せる。
2体のウォーカーが出てきたが、問題はなかった。
死体を見ると、昔リックが着ていた保安官の服だ…
ため息が出ちゃう。


『何かあるといいけど……』


中に入ると既に荒らされている気配がある。
ここまでやって来て"何も手に入りませんでした。"
なんてシャレにならない!
なんでもいいから何かないの…!?

奥の部屋に進もうとするが鍵がかかっている。


『……やらなきゃだめよね…?』


ウォーカーの服に鍵がないか捜さなきゃ…
頭をナイフで刺したからと言って怖い物は怖い…
でもこのままずっとここにいる訳にもいかず。
ウォーカーの服を探り、鍵と銃と手錠をゲットした。


ガチャッ


中は先程の部屋より暗い…
懐中電灯とナイフを準備する。


『誰もいない……』


鍵がかかっていたんだから当たり前か…
おかげでこの部屋の物資は残っている。
銃、弾、ナイフ、防弾チョッキ、警棒に照明弾。
缶詰に水まで置いてある。
医療品は救急箱程度しかないのが残念だ…

私は物資を全てかばんに詰め込むと
建物の鍵は開けたまま、扉を閉めて外へ出た。

白いペイントで"物資は全て頂きました"と書くと
刑務所へ来た道を戻り始めた。




〜ダリルSide〜


「ここまですればいいだろう」
「まだあそこの補強が必要だ」
「あぁ、また午後からやろう」
「分かった」


グレンとフェンスの補強を終え、一度中へ戻る。
おてんば娘に会いに行こう。


「おてんば娘は良い子にしてるか?」
「えぇ。とても良い子よ」
「ぐっすり寝てるな…」


ベスの腕の中で眠るジュディス。
頬を触るとくすぐったそうに俺の手を払いのけた


「生意気だな…」
「ふふ」
「そういえばエリーの姿が見えないな」
「さぁ?私はずっとここにいるから分からないわ」
「そうか」


見張りでもしてるのか?
ベスとジュディスから離れ、監視塔へと向かう。


「キャロル」
「お疲れ様」
「あぁ。ひとりか?」
「えぇ、どうして?」
「エリーを見なかったか?」
「エリー?そういえばしばらく見てないわね。
 さっきまでマギーが見張りだったから彼女に聞いてみて」
「あぁ、分かった」


監視塔から見渡してみるがエリーの姿はない。
あいつ…どこ行きやがった…

監視塔を降りてマギーを捜す。
独房棟の中にいる2人を見つけた。
マギーは焦った様子でグレンに何かを話している。
後で聞いてみるか…


「メルル」
「どうした?兄弟」
「エリーを見なかったか?」
「お嬢ちゃんか?しばらく前に出てったきりだ」
「出てった?どこに?」
「さぁな…外へ行くと言っていた気がする。」
「外だと…?」
「散歩だよ、散歩」
「……マギー!」
「…ダリル!」


嫌な予感がして下にいるマギーを呼ぶ。
マギーは少し焦っている声だ。
……まさか…


「エリーを見たか?」
「しばらく見てない!リック達が物資調達に行ってすぐに
 "ちょっと外を見てくる"って言って出て行ったっきりよ!
 見張りが終わって戻ったらまだ帰ってないなんて…
 しかも敷地内のどこにもいないの!」
「くそっ!奴らか?」
「分からない…」
「でも争った後も侵入された形跡もなかったわ。」
「とにかく捜しに行こう。エリーの痕跡を辿る。
 エリーはどっちの方向へ行った?」
「こっちよ!」


マギーの案内で建物を出る。
フェンスに向かって走っていると、
森の中からエリーが戻って来るのが見えた。


「エリー!!!」
「エリー!無事なの!?」


俺とマギーの声に心底驚いた顔をするエリー。
どうやら自分の意思で外に行ったらしい。
無事に戻って来てくれて嬉しいが…腹も立つ。





〜エリーSide〜


「エリー!!!」
「エリー!無事なの!?」


ダリルとマギーの声に顔を上げる。
うわ…後ろにはグレンもいて完全武装状態。
ダリルの表情がどんどん険しくなってる…

グレンがフェンスのチェーンを開けマギーが出てくる。


「どうしたの!?傷だらけじゃない!」
『大丈夫、走って木の枝で切っただけ』
「…噛まれてないか?」
『噛まれてないよ。本当に平気』
「とにかく手当てをしよう。エリー、荷物を」


グレンに荷物を渡して中に入る。
ダリルは一言も話さずに付いてくる。


「父さん!」
「ここだ。どうかしたか?」
「エリーの手当てをしてあげて」
「…何をしてた?」
『森の中を夢中で走ってたらこうなったの』
「君こそ"おてんば娘"がふさわしいな」


ハーシェルに呆れられてしまった。
顔の傷の手当てをしてもらう。
その間、ダリルは後ろからずっと無言で見つめてくる…
その無言の圧力が何より怖いよぉ…


「さ、次は腕だ」
『へ?』
「ごまかせるとでも?さぁ、めくって」


さすがハーシェル。
長袖をまくり手当てをしてもらう。
ダリルはまだ無言で見ている。


「よし、これでいい。」
『ありがとう。ハーシェル』
「(頷く)さて、エリー。
 これから向こうに行って何をしていたか話してくれるね?」
『……もちろん…』


みんなにバレる前に戻ればいいと思って
黙って出かけた私が悪いのだ…
結局、みんなに凄く心配をかけてしまった。
ハーシェルと出るとグレン、マギー、キャロルが
私の持っていたかばんの中身を見ている所だった。


「エリー、これどこで?」
『森の中で見つけた。昨日、地図を見つけて…
 武器庫の地図かと思って行ってきたの。
 武器庫でも何でもない建物だったけど、物資はあった。
 建物もコンクリートだからウォーカーから追われていたら
 逃げ込むにはちょうどいいかもしれない』
「どうしてひとりで行ったの?」
『すぐそこだったし、武器庫かどうかも分からなかった。
 短時間で戻れると思ったんだけど…道に迷って…』
「なぜ誰にも言わなかった?」
『…ごめんなさい。心配掛けたくなくて…』
「結果、より心配をかけた!」
「ダリル…」


ダリルが怒るのも当たり前だ…
マギーがダリルを落ち着かせようとしてくれているけど
私が悪いんだもん…怒られて当然だ……


「くそっ…!」
「とにかく…物資が増えたのはありがたい。
 でもエリーの身に何かあったら意味ないだろ?」
『うん、分かってるよ』
「これに懲りたら2度としないで。いいわね?」
『2度としない。ごめんなさい』
「……あなたが無事で良かった…」


マギーが私を抱きしめる。
その後キャロルとグレンも…
ダリルは黙って出て行ってしまった。


「ダリルの事は任せて」
『ごめんね、マギー…』
「いいのよ」


マギーがダリルを追いかける。
私は部屋に戻ってそっと泣いた…




「エリー、起きろ」
『……だりる…?』
「リック達が戻って来た」
『待って!』


いつの間にか寝てたみたい……
私を起こすとすぐ出て行こうとするダリルを呼びとめる。
ダリルは入り口で止まるとこちらを振り返らずに言った


「なんだ」
『本当にごめんなさい…心配掛けて…
 もう今日みたいなことは2度としないから…』


ダリルはためいきをつくと戻って来て
ベッドに座っている私の隣に座った。


「奴らに連れて行かれたかと思った…
 マギーが…しばらく戻ってないと言うから。
 お前の身に何かあったのかと心配した」
『うん…本当にごめんなさい』


ダリルは私をチラッと見て、また視線を落とした。


「今までひとりでいいと思って生きてきた。
 でも今は違う。何よりもお前が大事だ。
 今なら家族を守りたいリックの気持ちも分かる。
 だからもう今日みたいな事はやめてくれ…」
『うん、もうしない…』
「……あぁ。ならもういい」


ダリルは立ちあがると"行くぞ"と言った。
私もダリルの後をついてリック達を出迎えに行った。


『おかえり』
「ただいま」
「エリー!」
『カール!おかえり!』


カールが走って来てハグをしてくれる。
私もカールを力いっぱい抱きしめる


「見て!ジュディスのベビーベットだよ!」
『わぁ、素敵ね。可愛いわ』
「僕が見つけたんだ!」
『お手柄ね、カール』


頭をぐしゃぐしゃと撫でると嬉しそうに笑った。
こういう所は子供らしくて可愛らしい。


「エリー、どうしたの?ケガしてる」
『なんでもないのよ』
「だって外にいた僕よりケガしてるよ?」
『…実は森の中を走り回ったの。ハーシェルに
 "ジュディスよりおてんば娘だ"って怒られちゃった』
「そうなの?平気?」
『平気よ』
「エリー。ちょっといいか?」
『リック。おかえり』
「あぁ、ただいま。あっちで話そう」
『また後でね、カール』
「うん」


リックにみんなから少し離れた所に連れてこられる。


「キャロルに聞いたよ。1人で外に出歩いたって?」


キャロルめ……
私が悪いから仕方が無いんだけど…
言わないでおいてくれたらいいのに…


『うん。そうなの…
 今はすっごく反省してる。』
「(頷く)分かってるならいいんだ。
 特に今はナーバスな時期だ。
 あまり問題を起こさないでくれ。いいね?」
『分かったわ、リック』
「よし……ケガは平気か?」
『平気よ。かすり傷だもん』
「可愛い顔が台無しだ」


そう言うとリックは笑いかけてくれた。
リックは私の肩を叩くと泣きだしたジュディスの元へ…
私はマギーに"監視台で監視をしてくる"と言い
そっとこの空間から逃げ出した。




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