11

刑務所に近付くと何やら騒がしい。
銃声がいたる所から聞こえてくる。


『ダリル、もしかして総督…?』
「急ごう」


全速力で森の中を駆け抜ける。
後ろからメルルが付いて来ているのに気付いたが
今はもう、メルルの事を気にしている余裕はなかった

森を抜けるとリックがウォーカー2人を相手にしている。


『リック!!!』
「左へ行け!」


ダリルが右のウォーカーに矢を放つ。
私は左のウォーカーの頭にナイフを刺した。
メルルも近くのウォーカーを殺している。


『リック!!!』
「エリー……」


リックと再会のハグを交わす。
どうしてこんな外にいるのかは知らないけど
リックが無事で本当に良かった……


「戻ってきてくれたのか…?」
『うんっ…ごめんね、リック…』
「いいんだ。みんなも喜ぶ…」


側ではメルルがウォーカーの頭から刃を抜いていた。
本人はかなり不本意だろうが、メルルはリックを救った。
独房の中に閉じ込めるという条件で中に入れて貰う事にした。
これも全てメルルの自業自得だ。


「隊列を崩さずに行こう。メルルが先頭だ」
「あぁ、いいだろう」
「メルル、ダリル、エリー、俺だ。いいな?」
『えぇ、いいわ』


壊されたゲートを通り、建物へと向かう。
ウォーカーはウッドベリーの襲撃犯の死体を食べるのに忙しく
こちらに来る人数はとても少なかった。
私達は予想よりも早く、ゲートにたどり着くことが出来た。


「…ダリル?エリー?」


グレンとマギーが目を見開いているのが分かる。
中に入ると同時にマギーから熱いハグをもらった


「エリーっ!おかえりなさい…!」
『ただいま、マギー』
「良かった……」


グレンもダリルとハグを交わす。
そのあとグレンは私の方に来てまたハグをする


「バカエリー…もう2度と離さないぞ…」
『えへへ…マギーに怒られるよ…?』


マギー、グレン、私。3人で泣いた。
また生きてみんなに会えた。それだけでこんなにも嬉しい。
私の大切な家族はこの人達だ……


「やられたのはアクセルだけか…」
「えぇ、あとは無事よ。」
「ケガはないか?」
「大丈夫だ」
「それよりどうしてそいつを連れて来たの?」
「命を救われた。独房に入れる。中に入ろう」


リックの一言でみんな建物の中に入る。
突然の襲撃に疲れ果て、クタクタだ…
それぞれ夕飯を食べるとベッドに入った


『ダリル…ベッドで寝る?』
「エリーはどうしたい?」
『ダリルと一緒ならなんでもいい…』
「……ベッドに行こう。少しは休まる」
『うん』


リックは私の部屋をそのまま残してくれていた。
ダリルとベッドに入り、すぐ眠りについた。




次の日、起きると今後どうするかを話し合う。
ダリルは二階の通路に立っている。
私は足を投げ出して座っていた
ブラブラするのが好きなのだ。
足と足の間に支柱を挟んでいるから安心だ


「危ないぞ。落ちたらどうする」
『支柱があるから大丈夫』
「………」
『分かった、やめる』


ダリルの無言の攻撃に負けて立ち上がる
私が立ち上がると同時にリックが話し出す


「逃げはしない」
「でも木の板で防御は無理」
「外も危ないわ。特に昼間はね」
「リックが"逃げない"と言ってる!」
『勝算はあるの?』
「それはー」
「まるで捕らわれたネズミだ」
「……何か案が?」
「昨日の晩のうちに逃げるべきだった。
 だがもう遅い。道には奴の兵士がいるだろう。」
「怖くはない」
「粋がるな。昨日の襲撃は挨拶のようなもんだ。
 ここには壁があるが、武器と人数で負けてる。
 包囲されたら終わりだ。飢え死にさせられる。」
「…奴を別の棟へ」
「言ってることは正論だ」
「あんたのせいよ!!」
「話し合うべきはいまどうするかよ!」
『ベスの言う通り。落ち着いて話し合う必要があるわ』
「逃げるべきだ。今すぐここを出よう。待ってられない…」


リックはハーシェルの言葉を聞くとどこかへ歩き出す


「戻れ!!!」
『ハーシェル…?』
「リック。あんたが正気を失うのも分かるが、今はよせ!
 ”俺に逆らうな”と言っただろ!?だったら決断を下せ!
 家族の命をあんたに預けた。頭を整理し、どうするか決めろ…」


リックは頷くと外へ出て行った。
そんなリックをカールが追いかける
私達はリックの判断を待つしかない……




「マギーに外を監視してもらおう」
『監視塔からウォーカーを撃ち殺す?』
「エリーの腕なら出来る。その隙にフェンスを直そう」
「バスで塞いでもいい」
「どちらにせよ弾切れは確実だ」
「袋小路だ。食料も弾も足りない」
「なんとかなる」
「今までとは訳が違う!ヘビ野郎がいる!」
『グレン!』
「蒸し返すか?メルルは仲間になった。受け入れろ!」
「ダリル…」
「あんたもだ!」


ダリルは二階への階段を登っていく。
メルルがどんな男でもダリルにとってはたった1人のお兄さんだ
そう簡単に割り切ることは出来ない。


「メルルは厄介の種だ!」
「追い出せない…」
「あんたはシェーンと暮らせたか!?」
『グレン!!!言い過ぎよ!!』
「メルルは軍隊経験がある。確かに凶暴だが、弟とは切り離せない」
「交渉材料として総督に反逆者を差し出せば、休戦出来るかも」
『そんなのダリルが許さない。グレン、どうしたの?
 落ち着いて、冷静になって考えてよ。今のグレンは…
 周りが見えて無さすぎる。話にならないわ。』
「エリーよりは見えてるさ!!」
『いいえ。総督が休戦なんてする訳ないわ』


グレンは黙ってどこかへ行ってしまった。
リックも外へと向かう。
私はため息を付いてハーシェルに謝った


『ごめんなさい、ハーシェル。私まで熱くなっちゃって…』
「いや。グレンはいまメルルへの怒りでいっぱいだ。
 私の言葉にも耳を貸さない。エリーに言われ少しは懲りただろう」


上を見上げるとキャロルがダリルのいる部屋に入る所だった。
リックはローリが亡くなってから幻覚を見るらしい。
現実逃避したいのはこっちだよ……



「パパ!!アンドレアが来た!!」


カールの声にみんなが武器を持って走り出す
リックは私に監視塔へと上がる様、指示を出す。
私は監視塔へと急いで登る。
アンドレアがウォーカーを連れて歩いている。
…腕のないウォーカー……?
とにかくアンドレアがこちらへ来られる様に援護する。


アンドレアが無事に扉の中に入るのを確認して
下に降りたようとして気が付いた。みんな先に降りてる…
待っていてくれてもいいのに……

降りるとアンドレアがシェーンやローリの名前を呼び
安否を確認している声が聞こえる。
シェーン、ローリ、Tドッグの悲報を伝えると
アンドレアは悲しそうに「残念だわ…」と言った。


「エリーは?姿が見えないけど…」
『アンドレア!!!』
「エリー…!」


アンドレアに飛びつく。
グリーン農場で逸れてからやっと会えた。


『生きていて本当に良かった…』
「えぇ。エリーも…ここで寝泊りを?」
『そうよ、向こうの独房でね』
「向こう?見てもいい?」
「行かせない」
「どうして?私は敵じゃないわ」
「中庭も安全だった。君の男がフェンスを突き破るまでは」
「……あなたが突然撃ってきたと…」
「ウソだ」
「突然受刑者が撃たれた。俺達の仲間だった…」
「うそ……」
『アンドレア。私の射撃の腕は知ってるでしょ?
 止まってる相手に先に撃ったのなら、確実に殺せる』
「…彼が嘘をついたのね……私…知らなかったの。
 聞いてすぐに来た!私は街にいた事も知らなかった。」
「何日も前だ」
「精一杯急いで来たわ!」


誰もが暗い、怪しむ表情でアンドレアを見る。
私もどんな顔をしていいのか分からなかった…
ここまで来てくれたしアンドレアを信じたい気持もある。
アンドレアはミショーンの方を向き、問い詰める。


「何を言ったの!?」
「なにも」
「…仲間だった私がのけ者ってこと?」
「奴に殺されそうになった」
「メルルでしょ?彼が連れ去った!」
『アンドレア…戻って来てくれたんじゃないの…?』
「……フィリップがしたことは言い訳できない。
 でも今日は和解の為に来た。話し合いに来たの」
「話し合うことはない。奴を殺す
 時と方法を考えているとこだ。」
「戦うのはやめて。街はみんなを受け入れるわ」
「バカなことを」
「彼は交渉する気なのか?そう言ったか?」
「……いいえ」
「ならなぜ来た?」
「戦争の準備をしてる。"殺人者"のあなた達を襲撃しに」
「いいか。次は左目をくりぬくと伝えとけ」
「戦争を望むなら受けて立つ」


リックとグレンははっきりとした態度で話す。
私は正直、戦争は嫌だ。回避できるものならしたい…
でもあの総督が和解なんてするはずがないとも思う


「リック。和解に向けて話し合わなきゃ…
 どうなるか分からない。相手は町全体よ?
 お互いに犠牲者が増えるだけ…話し合いで解決を」
「なら忍び込ませろ」
「無理。町民は無実よ!!」


リックがその場を立ち去り、話し合いは決裂に終わった。


「少し人の空気を吸ってくるわ…」


アンドレアは出て行き、少ししてミショーンが後を追った。
キャロルはジュディスの所へ。
……私も少しアンドレアと話そう。
そう思って足を踏みだした途端、ダリルに手を捕まれた


「どこに行く気だ?」
『アンドレアと話すだけよ』
「……」
『大丈夫よ。殺すつもりならもうとっくにやられてる』
「ついて―」
『ついて来なくても平気。アンドレアだもん』
「……分かった」


ダリルの頬にキスをすると私は外へ出た。
ドアの所でミショーンとすれ違い
外に出るとアンドレアは泣いていた。


『……アンドレア』
「…っ。エリー…どうしたの?」
『少し話そうと思って…平気?』
「えぇ。もちろんよ」
『アンドレアはどうして来たの?』
「みんなに生きて欲しいからよ。ここにいるみんなも
 ウッドベリーの町民のみんなも…みんないい人達だわ」
『そう…でも総督が和解すると思う?
 話し合いもせずに急に撃って来た男だよ?
 私には総督が和解を望むなんて考えられない…』
「説得してみせる。エリーはいいの?
 このまま戦争になって、みんなが傷ついても」
『良くないわ。昔も今も…戦争なんて良くない』
「一緒にリックを説得しましょう…?」
『(首を横に振る)今のリックに何を言っても無駄よ』


そう言うとアンドレアは黙って下を向いてしまった。
私はアンドレアから視線を外し、中庭を見る。
作物でも育てようかと話していたのに…
今やウォーカーがうじゃうじゃいる。


『この中庭にね…作物を植えたり、豚や馬を飼育して
 グリーン農場の様な環境を作ろうとしていたの…
 ローリもTドッグも楽しみにしてた…』
「……残念だわ…」
『アンドレアがはぐれた時、一番に捜しに戻ろうって
 言ったのはリックだった。ソフィアの時だってそう…
 今日も監視塔に上がってあなたを援護する様にって。
 彼の根本的な優しさは変わってないわ』
「そうね……」
『総督はどう?彼の本性は?……彼は善人…?』
「………分からないわ…」


アンドレアはそう言うと遠く空を見上げていた。







「くれるの?」
「あぁ、乗って行くといい」


リックはアンドレアの為に車を用意した。
やっぱり彼の優しい所は変わっていない…
それはきっとアンドレアにも伝わったはずだ
彼女は私達を見渡すし車に乗った。
そんな彼女に銃を渡すリック。


「アンドレア。気をつけろ」
「……(頷く)あなたも」


アンドレア…どうか無事に戻ってね…



 

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