「いた、あそこだ!」
「リック?」
「グレン!」
「リック!」
『良かった、2人とも無事ね』
「奴らが追って来てる」
「…なぜメルルが?」
「殺してやる!」
「落ち着け…脱出の手助けをしてくれた」
「こいつに殴られた!」
「お前も殴ったろ?お互い様だ」
「殺されかけたんだぞ!?」
「うるせぇ、少し黙れ…」


グレンと女性はメルルに武器を向ける。
ダリルは武器を降ろさせようと必死だ
私はオロオロしているしかなくて…
ダリルとメルルの間にいた。


「仲良しの様だな」
「兄貴もイカれ野郎と―」
「あいつは魅力的な男だぜ?
 お前のアンドレアもイチコロだ」
『アンドレア?』
「落ち着け!刀をしまえ!」
「アンドレアがいるのか?」
「総督といた」
「……アンドレアを知っているのか?」
「あぁ。知ってる」
「冬の間、2人で寄り添い合ってた。
 ウォーカーを2匹ペットにしてたぜ」
「兄貴は黙ってろ!」
「死にかけのアンドレアを助けた」
「それでアンドレアは総督と?」
「あぁ。アツアツだぜ。どうする?保安官」
「黙れ……」
「可哀想な奴らだぜ。タマはついてねぇのか?」
「黙れ!」
「女の腐ったような―」


リックはメルルの頭を殴って気絶させた。
こんな人がダリルのお兄さん?
なんだか信じられない……
ふと目の前にいるマギーを見ると彼女も同じ顔をしていた。


「今後どうするかを考えよう…」
『どうするかって…?何を考えるの?』
「メルルだ。このまま連れて帰れば混乱する」
「総督は刑務所に来る。メルルがいれば対抗できる」
「連れて行かない」
「メルルがいたらキャロルやベスも危険だ」
「襲わない」
「じゃあ総督は?」
「今は兄貴の敵だ」
『ダリルのお兄さんなら大丈夫よ』
「メルルにみんなおびえる」
「代わりにサムライ女を?」
「置いて行く」
「でもケガ人だわ」
「助けてくれただろ?」
「いいや、見捨てられた」
「でも置いて行けない。治療だけでも…」
「正体も分からない。こいつは赤の他人だ。
 でもメルルは家族だ……」
「家族なのはダリルだけだ。俺は違う。
 俺の家族は君達と、刑務所にいるみんなだ」
「お前も家族の一員だ。だが…メルルは違う」
「加えてくれ……」


ダリルは懇願してみんなを見るが
誰も聞く耳を持たない。
特にグレンとマギーは許さないだろう…
グレンのひどいケガはメルルが付けたのだ。


「いいさ。2人でやってく」
『ダリルっ!』
「なんでそうなる?」
「兄貴と一緒だ」
「そんな必要はない!」
「昔から2人だった」
「やめて」
「本気か?行くなよ…」
『そうよ、ダリル。一緒に帰ろう…?』
「分かるだろ…?」
「キャロルにはなんて?」
「……理解するさ」
「親父によろしく」
『そんな…だめよ!』


何度も私達の顔を見て頷いた後、
ダリルはマギーにそう言うと歩きだす。
リックがダリルの後を追いかける。


「待て。他に方法があるはずだ」
「2度と兄貴を置き去りにはしない」
「昨夜の1件で状況が変わった」
「兄貴とは絶対に離れない」


ダリルは車のトランクを開け荷物を出す。
リックが説得しようとするが、言葉が出てこない


「無事でいろよ。じゃじゃ馬を頼んだ。
 カールも……強い子だ…それから……」


ダリルはそこで黙って下を向いた。


「エリーも……」
『ダリル!!!』


私が名前を呼んでもこちらを見ない。


『私を置いて行くの!?ダリル!!』
「エリー…」
『離して、グレン。こっちを見て!』
「お前をまた過酷な旅に連れ出す訳には行かない。
 刑務所に居れば安全だ。家族と一緒にいるんだ」
『いやよ!!あなたを失いたくない!』


グレンの制止を振り切りダリルの目の前に立つ。
私の顔はきっと涙でボロボロだろう。
でも今、彼を引きとめないときっともう会えない。


『私を愛しているなら連れて行って!』
「……お前を愛しているから連れていけない…」
『だったら残ってよ…ここにいてよ…』
「それは出来ない……」
『ダリル…あなたがいればどんな過酷な旅も耐えられる
 でも、あなたがいない世界では戦えない…戦えないの…』


ダリルの目を見ると青い瞳が涙で揺れている。
ダリルをキツく抱きしめると、抱きしめ返してくれる。


「分かった…一緒に行こう」
『私はあなたから離れないわ…』
「そんな、エリー…」


私はそっとダリルから離れると
全員とハグをし別れの挨拶を交わす。


『グレン。出会った頃からあなたは最高だわ。
 早くケガを治して、ずっと元気でいてね。』
「エリー。行くなよ…」
『(首を横に振る)大好きだよ』
「俺も大好きだ……」
『マギー。マギーは明るくて活発的で…マギーといると
 どんな事も楽しくて…親友といるみたいだった。
 グレンの事よろしくね。大好きだよ…』
「エリー…あなたを失うなんて…辛すぎるわ…」
『生きていればきっとまた会えるよ。ね?』
「いつでも戻って来ていいから…」
『ダリルと喧嘩したら戻るわ』
「えぇ、そうね」


お互い涙を浮かべながら笑い合った。
私は離れて佇む女性の方へ向かった


『あなた、名前は?』
「………ミショーン」
『ミショーン。グレンとマギーを助けるのに
 力を貸してくれてありがとう。アンドレアも…
 あなたもきっとみんなと家族になれるわ』
「あぁ……」


ミショーンに微笑むと彼女もしっかりと目を見てくれる
彼女の凛とした瞳はとても綺麗だと思った。
最後にリックの元へと向かう。
リックの顔も涙でボロボロだ


『リック』
「エリー…ダリルと君を失ったら…
 俺はどう生きて行けばいい?」
『しっかりして、リック。死ぬわけじゃない。
 リックには感謝してもしきれないわ。
 いつもグループの為に頑張ってくれてる。
 本当にありがとう。カールとおてんば娘を…
 しっかり守ってあげて。お願いね?』
「あぁ…もちろんだ…」
『それから彼女の事…前にリック言ってたでしょう?
 決断をする時はデールの事を思い出そうって。
 今がその時よ。ね?デールの事を思い出して…』
「分かった……」


全員と最後の言葉を交わし、ダリルの側へ行く


「本当にいいのか?」
『えぇ。行きましょう』
「ダリル!エリー!
 あの子の名前はジュディスだ。
 昨日、カールが名付けた。」
『素敵な名前ね』
「あぁ。おてんば娘にピッタリだ」


リックにそう返事をすると、
最後にもう一度家族の顔を見てそっと歩きだした。






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