『ダリル?どこ行くの…?』
「ちょっと墓に行ってくる」
『……分かった。気をつけてね』


ダリルはしっかり頷くと外へ出て行った
こんなに朝早くから行動するとは…
私はだめだ。眠気に勝てない……


「エリー、起きろ」
『んん…ねてた…?』
「あぁ。おてんば娘が泣いてる」
『ん…ミルクかな…?』


ダリルがおてんば娘を抱っこしてやってきた。
あくびをしながらミルクを作り、ダリルに渡す。
ダリルはまた柔らかな笑顔でミルクをあげる。
そんなダリルの頬にキスをした。


「なんだ?」
『んーん。なんでもない』
「おはよう、エリー」
「おはよう、マギー」
「おてんば娘〜おはよう〜」


みんなが起きてきて、おてんば娘に挨拶をする
私はマギーと朝ごはんの用意を始めた

朝ごはんを食べ始めるがカールは手を付けない。
どうしたものか……
悩んでいるとリックがやってきた


『リック……』
「問題はないか?」
「あぁ。あんたは?」
「……ボイラー区間は一掃した」
「何体いた?」
「さぁな?10〜20体くらいかな」
『朝食を食べる?』
「すぐ戻る。カールを見に来ただけだ」
「リック。1人で行くな。俺達も手伝う」
「武器はどれくらいある?弾は?ナイフは?」
「あるが、弾は残り僅かだ」
「この後マギーと調達に行ってくる。弾とミルクが必要だ」
「発電室は安全だ。アクセルが機械を直してる」
「よし、いいぞ…」
「リック!」


ハーシェルが呼びかけるが、リックは出て行く。
カールは悲しそうな顔をして下を向いた。


朝食を食べ終わり、下のウォーカーを片付けていると
ハーシェルが杖をついてひとりでやって来た。


「エリーを少し借りても?」
「あぁ」
『どうしたの?ハーシェル』
「リックの様子を見に行きたい。道中助けてくれるかな?」
『えぇ、もちろんよ』
「エリー。俺達もここを片付けたら、建物を探索する。
 俺達より先に戻ったらおてんば娘の相手をしてやれ」
『うん、分かった』


クロスボウを構えてハーシェルの前を歩く
リックが暴れ回った分、ウォーカーはいなかった


「エリー。悪いが少し待っていてくれるか?」
『えぇ。いいわ。ここにいる』
「すまない」


ハーシェルはリックと話をしに行った。
なんとなく話は聞こえていたけど、黙って待っていた


「待たせたね、行こう」
『いいのよ』


ハーシェルと来た道を帰る。
ベスがおてんば娘を抱っこしてあやしている所だった


『おてんば娘はまた泣いてるの?』
「そうなの。本当に元気な子よ」
『…そういえばグレンとマギー遅いわね』
「道草でも食ってるんじゃない?」
『そうかもね』


ベスとおてんば娘を笑わせようと努力する。
カールも戻って来て一緒に遊ぶと、たちまち笑顔になった


『やっぱりお兄ちゃんがいいんだね』
「本能的に感じるのかも」
「そうかな?」


カールも嬉しそうだ。
ハーシェルがおてんば娘を抱き、ミルクをあげる。
飲み終わった所でリックが戻って来た。

どうやらリックの中でひとつ、整理がついたらしい。
おてんば娘を抱きしめ、額にキスをした。


「この子に外の光を見せてやろう」


リックの一言を受けて全員で外に出る。


「お前に似てる」
「本当?」


久しぶりの親子の会話だ。
カールもとても嬉しそうに笑っている
やっぱり父親の力って凄い…


「カール。少し抱いててくれ」
「おーけー、任せて」
「よし…良い子だ」


リックはカールにおてんば娘を抱かせると
神妙な面持ちでゲートへと向かう。
私もクロスボウを構えて、後を追った。

ゲートにはウォーカーが。


『リック?何しに来たの?』
「女性がいる、そこだ」
『本当だ…ミルクを持ってる…』


ウォーカーに紛れて立つ黒人の女性。
この人はどうしてウォーカーに襲われないのだろう?
女性はじっと無言でリックを見つめる。
リックも女性を黙って見つめた。


『リック。この人、ケガしてる。助けなきゃ…』
「………」
『リック!聞いてる!?』
「パパ!助けるの!?」


それでもリックは動かない。
私はフェンスに近付いているウォーカーをナイフで殺す。
ウォーカーを減らせばこの人が生き残る確率は上がるはずだ。

リックは黙って歩き出す。
結局、助けるのか!?助けないのか!?

女性の血の匂いを嗅ぎつけたウォーカー。
フェンスから離れる前にナイフで殺していく。
カールも銃で女性を援護する。
女性も日本刀で戦うが、遂に力尽きて倒れてしまった。

リックが女性を、カールがミルクを取って中に戻った。


「カール!毛布を!ベスは水とタオルだ!」
「ここに!!」
「水よ」
「ありがとう。大丈夫、もう大丈夫だ…」


リックは女性に水をかけ、声をかける。
意識はある様だし、警戒心もちゃんとある。
まだまだ元気そうだ。


「俺を見ろ。君は誰だ?」


女性は答えず、日本刀を取ろうとする。
リックは日本刀を足で遠ざけ、押さえつける。


「傷つけはしない。だから変なことはするな、いいな?」
「リック」
『ダリル、どこ行ってたの?』
「発電室の区画だ。それより誰だ?」
「君の名前は?名前を教えて欲しい」
「ちょっと来てくれ」
「どうかしたか?」
「見て欲しいものがある」
「先に行け。カール、バッグを」
「エリー。こっちだ」
『なんなの?』


ダリルが示すのは独房の檻の中。
中を覗くと、キャロルがいた


『…うそ…キャロル…?』
「エリー…」
『本物なの…?キャロルなの…?』
「そうよ、私よ。」
『キャロルっ、』


キャロルに抱きつき声をあげて泣く。
私の声にリックが走って来たのが分かる。
最後に強く抱きしめるとキャロルから離れてリックと交代する。
リック、ハーシェルもハグをする。
涙を拭って後ろに下がるとダリルが腰に手を回して来た


「良かった…」
「今までどこに?」
「独房よ…」
「自分の身を守った。失神して脱水症に」
「キャロル、見て…」


ベスがおてんば娘をキャロルに見せる。
キャロルは笑顔でリックを見たが、
リックの表情を見て全てを悟った。


「残念だわ……」


リックはローリを想い、涙を流し
カールもママのことを思い出していた。
そしてキャロルは初めておてんば娘を抱いた。


「キャロルを少し休ませてあげなければ」
『キャロル、お水は飲んだ?持って来ようか?』
「ここにも一本あるから大丈夫よ、エリー」
『…本当に良かった…』
「また会えて嬉しいわ」
「少し眠って。側にいるわ」
「カール、ベスはキャロルとここに。
 ハーシェルは彼女の手当て。
 ダリルとエリーは何かあった時のために備えてくれ」


そう言うとリックは再び、女性の方へ歩き出した。
リックの顔はもう厳しいものに変わっている。


「手当てが済んだら、食料と水を渡し行かせてやる
 だが、なぜここが分かり、粉ミルクを持ってた?」
「アジア系の若い男のだ。女もいた」
『2人は無事なの!?』
「エリー、落ち着け。何があった?」
「襲われた?」
「連行された」
「だれに?」
「私を撃ったやつだ」
「仲間に何があったんだ?」


リックは興奮して女性の傷口を掴む。
女性は痛みに悲鳴をあげる。
ダリルはクロスボウを女性に向けた。
私もそれを見て向けようとしたが気が進まなかった。


「二度と私に触るな!」
「話した方がいい。かすり傷じゃ済まねぇぞ」
「自分で捜せ…」
「ダリル、下ろせ」
「……あぁ」
「なぜここへ来た?」
「…街がある。"ウッドベリー"だ。75人ほど生存者がいる」
「街だって?」
「"総督"って奴が仕切っている。
 魅力的な男だが…まるでオカルト教祖だ。」
「用心棒は?」
「民兵気取りの奴らがすべての門を見張ってる」
「入れるか?」
「ウォーカーは入れないが抜け道が」
『じゃあ助けに行こう』
「待て、エリー。なぜここが分かった?」
「刑務所に戻ると言ってた。近くだって…」


リックは考える仕草をするとハーシェルを指差した


「彼はハーシェル。その女性の父親だ。
 今から彼が手当てする。いいな?」


そう言うとリックは行ってしまった。


「エリー。手当てを見ていてくれ」
『…うん…?』


私はクロスボウを構える


「そうじゃない。見て覚えるんだ。
 手当てが出来る人は多い方がいい」
『あぁ、分かった。』


私はクロスボウを側に置くとハーシェルに近づいた。
後ろに銃を持ったカールがいるから大丈夫だろう。
それにこの女性は丸腰だし…


「よし。これで大丈夫だ」
「……ありがとう」
『お水を飲んで。これあげる』


女性は黙って受け取ると水を飲み干した


『相当、喉が渇いていたのね』
「ハーシェル。」
「ちょっ失礼…どうしたリック」
「手当ては?」
「終わった。問題はないだろう」
「そうか…俺達は2人を助けに行く」
『リック、私も行く!』
「だめだ。どんな危険があるか分からない。
 そんな所に君を連れて行くことは出来ない」
『絶対に行く!私こそ待ってるなんて出来ない!』
「連れて行こう。こうなったら意地でもひかねぇぜ」


ダリルがリックを説得してくれる。
リックも諦めた様に"分かった"と呟いた。


「準備してこい」
『うん!』


クロスボウ、ナイフ、銃を身につける。
それから催涙弾など使えそうな武器をカバンに詰め
みんなで車まで運んだ。

ダリルは荷物を積むと羽の書いてあるベストを羽織った。
ずっと前からあれを着ている…お気に入りなんだろうか?


「カール。親父の事は俺に任せろ」
「うん。エリーのこともね」
「あぁ」


出発の準備を終えるとカールとリックは
みんなから少し離れた所で話を始めた。




「連れ戻してくれ」
『もちろんよ。ハーシェル』


そして私達はウッドベリーへと旅立った。





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