『カール……』
「エリー…」


カールを抱きしめると、力なく抱きしめ返してくれる。
リックも焦点の合っていない目をして座り込んでいる。
ダリルが呼びかけても一切の反応がない。


「赤ん坊に何か食わせるものはあるか?」
「幸い、健康そうだ。だがミルクがないと死んでしまう」
「分かった。物資を調達してくる」
『私も行く』
「俺も」
「私も」
「よし、ベス」
「なに?」
「母親が死に、父親もあの状態だ…」
「カールは任せて」


ベスの力強い言葉にダリルはしっかり頷く
リックは武器を持つとどこかへ走り去ってしまった
カールはそれを黙って見送る。


「よし、そこの2人!ゲートを開けろ!」
『行きましょう』
「日が暮れるぞ!」
『確か85号線にスーパーがあったよね?』
「赤ちゃん用品は全部無くなってた」
「他に物資がある場所は?」
「北方向に商店街の看板が…」
「瓦礫で車は通れないわ」
「バイクで行く」
『じゃあ2人しか行けない』
「私が行くわ」
「まいってるだろう…俺が行く」
「行きたいの。ローリのために…」


グレンはマギーを見つめ、
マギーの意思が揺るがない事を悟り
そっとキスをした。


「分かった。愛してるよ。気を付けて」
『お留守番確定?』
「頼める?エリー」
『分かった。いってらっしゃい』


ローリから赤ちゃんを取りだしたのはマギーだ。
彼女の好きにさせてあげるのがいいだろう…
2人がゲートを出て行くのをグレンと見送る。


『ねぇ、グレン…』
「なに?」
『私達…大丈夫だよね?
 今度もきっと乗り越えられるよね…?』
「……あぁ。そう願うよ…」


グレンはそう言うと建物へと戻って行った。
私はしばらくゲートを見つめていたが、
ウォーカーの叫び声が気に障って仕方が無かった。
鉄パイプを持つとフェンスに向かい、ウォーカーを殺した。


次から次へと私を食べようとやってくるウォーカー。
ウォーカーなんてこの世から消えてしまえばいい。
そう思い近付いて来る奴を片っ端から殺した。
もうフェンスにはウォーカーの死体が山積みになっている。
私自身にもきっと返り血がたくさんついているだろう


「エリー…」
『はぁ、はぁ……』
「エリー。血で汚れてるよ」
『そんなのどうだっていい』
「頼みがあるんだ」
『なに?』
「リックを捜しに行く。付いてきてくれないか?」
『分かった。行こう』


グレンと建物の中に入る。
道中のウォーカーは全員死んでいる
きっとリックが全部やったんだろう…

グレンがリックを見つける。


『リック!』
「心配したよ、リック。外へ出よう」


グレンはリックの顔を覗き込むが反応はない。
グレンはそのままリックに語りかける。


「リック。1人でやらなくていい。
 俺達の棟はもう安全だ。ドアを閉めよう。」
『ここは暗いよ。帰ろう…?』
「リック。一緒に戻るんだ」


リックはグレンを押さえつける。
完全に正気を失った顔をしている。


『グレン!!』
「大丈夫だ、俺だよ。リック」


グレンは私に片手を出し、来るなと合図をした。
顔まで血だらけのリックはグレンの顔をじっと見つめた後
私に向かって突き飛ばした。


『リック……』
「おーけー。一度戻るよ。行こう、エリー」
『うん……』


グレンと無言で歩く。
いつも寝ている場所に着くと、ハーシェル、ベス、
カールが集まって私達の帰りを待っていた。


「エリー!!どうしたの!?」
『大丈夫。ウォーカーの血よ』
「リックは…?」
「(首を横に振る)」
「そうか……エリー。汚れを落としておいで。
 ダリルが戻ってきた時に心配させてしまうだろう」
「俺が落としてあげる。ついでに傷がないかも見よう。」
『うん、ありがとう』


グレンが手を引いて連れて行ってくれる。
濡らしたタオルで優しく拭いてくれながら
傷がないか確認してくれた。


「うん、大丈夫そうだ」
『ありがとう。グレンも大丈夫?』
「平気さ」
『………あのね…』
「ん?」
『グレンがいてくれて良かった…』
「なんだよ、急に」
『出会ったばかりの頃もグレンが一番に寄り添ってくれた。
 今日だって…いつもありがとう、グレン。大好きだよ』


グレンの頬にキスを送ると、恥ずかしそうに笑って
私の額にキスをくれた。


『さぁ、2人が帰って来るのに備えよう。扉前で待つの』
「そうだな。そろそろ戻って来るかも」


グレン、オスカー、アクセルと一緒に外に出る。
もう外は真っ暗になっていた。



「戻ってきた!!」


グレンの声にオスカーとアクセルがウォーカーを引きつける。
私はバイクに近付くウォーカーをライフルで撃ち抜く。
2人は無事に入って行った。


『行こう!グレン!』
「オスカー!アクセル!行こう!」


4人で中に入るとダリルがミルクを飲ませていた
柔らかな笑顔を浮かべて、なんとも楽しそうだ
赤ちゃんも可愛いが、ダリルも可愛く見えた。
私との間に赤ちゃんが出来たら…
あんな風にミルクをあげてくれるだろうか?


「名前は?」
「決めてない。ソフィアがいいかなって…
 キャロルもいいし……それからアンドレア、エイミー、
 ジャッキー、パトリシア…それかローリ。わかんない…」
「そうか……うまいか?おてんば娘…どうだ?
 いい名前だろ?おてんば娘……気に入ったか?」


おてんば娘はダリルの手からミルクを全部飲み干した。
私達の間に柔らかな空気が流れた。





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