『……ダリル?』


目覚めるとまたダリルがいない。
最近のダリルは本当に早起きだ


『おはよう、ローリ』
「おはよう。朝食を食べて」
『ありがとう…ふぁあ』
「寝不足?」
『ダリルが寝かせてくれなくて…』
「あら、そうなの?」
「なに?どういうこと?」


ローリのどこか嬉しそうな声と
カールの"ねぇなんで?"と言う声で
はっと我にかえる。
顔がカーッと赤くなるのが分かった。


『聞かなかったことにして……』
「えぇ、分かったわ。さっ、食べて」
『いただきます。それでみんなは?』
「車を動かしに行ったわ」
『私も行こっ』
「ちゃんと食べてからね?」
『は〜い』


ローリは完全にお母さんだ。
朝食を食べるとナイフとハンドガンだけ持って外に出た


「エリー、マギー、グレンは?」
「エリーはまだ寝てる。昨夜働かせすぎてね」
「……ダリルったら」
「はは」
「おっと噂をしたら来た」
『なに?なに笑ってるの?』
「別に?」
「マギーとグレンにも手伝ってもらおう」
「2人なら監視塔に登るのを見た」
「監視塔?昨日も登ってただろ?」
「グレン!マギー!」


ダリルが監視塔に向かって大声で叫ぶ
すると慌てた様子でグレンが顔を出す。
上の服は着ていないし、ベルトを締めながら…
これじゃ今なにをしていたか誰にでもわかる


「やぁ、どうした?」
「来い」
「なに?」
「下へ降りて来て手伝え!」
「わ、分かった!すぐ行く!」


マギーが後ろで顔を歪めているのが分かる。
ちなみに格好も凄くセクシーだ。

私達は笑った。リックも楽しそうに笑う。
こんなに柔らかい笑顔を見せるリックは久しぶりだ
だが、そんな時間も長くは続かなかった


「リック」


囚人が出てきたのだ。
でも2人?昨日会った時はもっと多かったと思うけど…


「止まれ。……合意したろ?」
「あぁ。分かってる。約束したが…分かってくれ…
 あんな所に居られない…知ってる奴らの死体だらけだ…」
「死体を外へ。焼くんだ」
「そうしようと思ったさ…だが…逆側のフェンスが破れてる
 奴らが待ち構えていて外で死体を焼くことは出来ない」
「死体を外へ放り投げればいい」
「あの2人と俺達は何の関係もない。
 あんたたちのルールは分かった…
 仲間になれるなら何でもするから…頼む…」


囚人の1人が近寄って来るとダリルが私を背中に隠す。
囚人の後ろには監視塔からやって来たグレンとマギーが…
グレンも同様にマギーを背中に守っている。


「条件は変わらない。向こうに住むか、出て行くかだ」
「時間の無駄だった…囚人を撃った奴らと変わらない…
 何人の仲間を引きずり出したと思う?
 放り出したんだ…良いやつらだったのに。
 ゲス野郎とは距離を置いてた。トーマス達とは…
 確かに罪は犯したが、もう償った。信じてくれ。
 あんな地獄に戻るくらいならここを出て行く」


リックはダリルを見たが、ダリルはそっと首を横に振る
私にはこの人たちが悪人には思えない。
特に細い方の男性は私とソースの話をしてくれた。


『リック。私にはこの人たちが根っからの悪人だとは―』
「エリー。君の人を信じる心は長所だが短所でもある。
 この世の中で簡単に人を信頼していたら生き残れない」
『……分かった…』
「だが、少し話し合おう。意見を聞きたい」


ダリルが囚人達をひとまず隔離する。
私達は彼らをどうするか話しあった


『私は入れてあげてもいいと思う』
「俺もだ」
「本気か?武器を取られる。安心して眠れない」
「今もそうだ。入れてやれよ。
 このままだとこの手で殺すのと同じだ」
「アクセルは神経質っぽい」
『アクセル?だれ?』
「細い方。ガタイの良い方がオスカー」
「この場所を横取りされたくない」
「ずっと長い間、私達だけだった。
 急に他人を受け入れられない…」
「農場には入れた」
「撃たれた男の子と一緒だったからよ」
「だって囚人なのよ?」
『彼らは少なくとも10ヶ月は悪さしていないわ』
「俺達の手の方が血で汚れてる。」
「戦力にならない」
「俺は奴らの様な連中と育った。不良だが…
 異常者じゃない。俺も塀の中に入ってたかも」
「よし、俺に賛成か」
「まさか。外で運を試させればいい」
『でもそんなの生きられっこないよ…?』
「わかんねぇだろ?俺達だって生きてこられた」
『それはみんながいたからで…』
「俺は昔、恋人を刺そうとした19歳の若者を逮捕した。
 奴は裁判でもわんわん泣き、裁判員は同情した
 証拠不十分で無罪になった2週間後…
 別の子を撃った。危険は回避する。条件は変えない」


リックはそう言うと話し合いを切り上げた。

彼は前にこう言った。
"何か決断を迫られた時はデールを思い出そう"って…
デールならきっと…彼らを助けると言うはずだ…

グレンの背中を見ながらそう思った。


車も動かし、死体の片付けをしようとしていた時。


「後ろ……」
『え?』


グレンの声に振り向くと
ハーシェルが杖を使いながら歩いている!
付き添いにローリ、ベス、カールが付いていた。


『ハーシェル!』


嬉しくなってハーシェルに手を振る。
振り向くとダリル、リック、グレンも笑顔だ
が、3人の顔がだんだん曇る
不思議に思い振りかえると4人の後ろにウォーカーが…


「逃げろ!!」
「ローリ!こっちに来るんだ!」
『なんてこと…!?』


こんな時に限ってクロスボウを持ってきていない!
ダリルの様にいつも持っておくべきだった…
リックとダリルが走り出した


『グレン!ここは私が閉じておくから先に行って!』
「頼む!」


マギーの事が気がかりであろうグレンも先に行かせる。
私は大急ぎでフェンスを閉じると、
壁に立てかけてあった狩猟銃を手に取り走り出した。


リックが鍵を開けている所で3人に追いつく。
広場に入りウォーカーを殲滅。

ハーシェルとベスは無事だったが
Tドッグは噛まれ、みんなバラバラになってしまった


『どうする?』
「ハーシェルとベスはここにいてくれ」
「チェーンが切られてた」
「…やつらか?」
「あいつらしかいないだろう…?」


突然サイレンが鳴り響いた


『なに!?』
「くそっ!うるせぇ!
 これじゃウォーカーが寄ってきちまう!」
「スピーカーを撃ち落とせ!」


リックに言われてスピーカーを撃ち落とす。
だが、音は鳴りやまない…
リックはオスカーに銃を向ける。
ダリルもクロスボウを向けて警戒を怠らない。


「どういうことだ!?」
「予備の発電機だ!」
「なぜ音が出る!?」
「3機あってそれぞれが各区画を制御してる
 だが、とっくの昔に切断したはずだ!」
「正門の電子扉は開くか?」
「確かじゃないが……開くかも…」
「来い!」
『どうするの!?』
「発電機まで案内させる!」


オスカーとアクセルを連れて建物内を走る。
途中ウォーカーに襲われたが、リックが瞬殺した

発電機がある部屋に入り、ダリルが扉を閉める。


「どうやって音を止めるんだ?」
「ここだ!」


リックとオスカーが進み出た瞬間
何者かがリックを襲った。
きっと先日出会った内のひとりだろう。
彼は囚人服を着ている。
ダリルがさっと私を背中に隠す。
2人は取っ組み合いをしていて援護が出来ない。
今、撃とうものならリックごと殺してしまう…

リックの銃が飛び、オスカーの元へ
オスカーは銃を持ち構える


「撃て!ここは俺達の場所だ!」
「やめろ…やめるんだ…」
「何をためらってる!?撃て!」


オスカーは囚人を撃ってリックを救った。
そして銃をリックに返し、警報は止まった…


「とりあえずこっちの道から戻ろう」


リックの言葉に武器を構えて進んでいく。


『オスカー。リックを助けてくれてありがとう』
「いや、いいんだ。さぁ、行こう」
『先に行って。私は銃を持ってるから』
「あぁ。悪いね」


グレンと後方を担当して進んでいく。
2体のウォーカーが何かを食べている
近付くと、それはTドッグだった…


『そんな…うそでしょ…Tドッグ…』


近付こうとする私をグレンが止める。
前にいたダリルがキャロルの付けていたタオルを拾う


「行こう……」


涙をこらえてハーシェル達の元へ戻るが
ローリ、カール、マギーはまだ戻っていなかった。


「Tドッグは?」
「死んだ」
「キャロルは?」
「……だめだ」
「まだ分からない」
『そうよ!みんなまだ生きてる!』
「そうだな……よし、中へ戻る。ダリルとグレンは…」


リックが言いかけた時。マギーとカールが戻って来た。
マギーの手は血で濡れ、手の中には赤ん坊が……


「ローリはどこだ…?」
「リック。行かないで…」
「まさか…うそだろう?」


リックはカールの顔を覗き込むが、顔は暗い。
マギーはグレンを見て泣き声をあげる…
リックは崩れ落ち、泣き続けた。





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