朝、目覚めると監房の中にいた。
……はて。私は確かにダリルの隣で寝たのに…
ぼーっとしているとベスがやって来た。


「おはよう、エリー」
『ベス。おはよう』
「マギーとグレン、カール以外は起きて武器をチェックしてるわ」
『そうなの?みんな早起きね…』
「エリーの事はダリルがそこに運んだの」
『おかしいと思ったわ。教えてくれてありがとう』
「お安い御用よ」


そのままベスと一緒にマギー達を起こしに行く。
2人はすやすやと眠っていて、起こすのが可哀想に感じられた


「気持ちよさそうに寝てるね」
『えぇ、起こすのがかわいそうね』
「でもきっと放っておいたら起きないわ」
『そうなの?』
「だってみんな疲れてるもの」
『確かにそうね。じゃあもう少しだけ寝かせてあげよう』


ベスとその場を離れる。
武器のチェックを終えたリック達が戻って来た


「起きたのか」
『おはよう、ダリル。運んでくれてありがとう』
「あぁ。あそこで寝かせとく訳にはいかないだろ
 それと予備の防護服があった。着てみるか?」
『いいの!?着たい!!』


ダリルに防護服を着るのを手伝ってもらう
残念ながら私には少し大きいようだ…
防護服を着たまま戦闘に出る事はないだろう


『どう?』
「着ていると言うよりは着られてるみてぇだな」
『アメリカは全部サイズが大きいのよ……』
「そう拗ねるなよ(笑)」
「おはよう」
「おはよう。ぶはっ、」
『ちょっとグレン!今何見て笑ったの!?』
「いや?なんでも?」


グレンは明らかに私を見て笑った。
サイズの合わない防護服がそんなにおかしいか!?


「エリー、その服は俺に譲ってくれよ」
『どうぞどうぞ。あげますよーだ』


防護服を脱いでグレンに渡す。
グレン、Tドッグ、マギーが胸当てを付けたら出発だ。
近くにいるカールを見ると、マスクを被っている


『カールにもまだ大きいね』
「ぶかぶかだよ。でも僕はまだ大きくなるから」
『言ったな?』


カールと笑っているとリックがカールからマスクを取った。


「必要ない。ここにいろ」
「どうして?僕も行くよ」
「危険かもしれない。何かあったらお前が頼りだ。
 ここのみんなを守るんだ。いいな?」
「任せて」
「よし、行くぞ」


刑務所の中を進んで行く。
電気が通っていないため、中は暗い。
時折、水漏れもしている。
ウォーカーがいなくてもかなり怖い。


「マギー、平気か?」
「えぇ…」
「エリーは?」
『正直、早く戻りたい』
「そうだな…早く終わらせよう」


グレンと静かに会話を交わす。
幸い、この辺りにはウォーカーはいない。
進むたびにグレンが印を付けて行く。


「うあぁ!」
『ひゃあ!!』


マギーの叫び声には驚いて、声をあげる。
クロスボウを向けるとグレンだった。


「俺だよ。ぶつかっただけだ…!」
『はぁ…びっくりした…』
「なるべく静かに進んでくれ、いいか?」
「『ごめん、リック』」


更に先へと進む。
先頭を歩いていたリックが急に引き返せと叫んだ。
ウォーカーがいたのだろうか?

ダリル先頭で走って逃げる。
どこからか現れたウォーカーに道を阻まれる


『ダリル!!』
「こっちだ!中へ!」


マギー、グレンと別の扉へ進む
中にはウォーカーが2体。
グレンと殺した。


『どうする!?』
「早く合流しなきゃ…」
「とにかく進もう。こっちだ!」


グレン先頭で道を進む。


「リック!!」
「父さん?」
『ダリル!』


呼びかけながら進む。
すると突然、近くで叫び声が。
この声は…ハーシェル!?


声がする方へと進むとみんながいた。
ハーシェルは足を噛まれたようだ。


「嘘…そんなの…いやよ!」
「ダリル!!」


ハーシェルをグレンとリックが抱え
ダリルと私でウォーカーを殺していく。


「開けろ!!早く!!」


手錠で封鎖されたドアを開け、中に入る。
ダリル、Tドッグと扉を抑える。


「ここを任せるぞ?いいな?」
「あぁ!任せろ!」
『いいわ!行って!』


ダリルはしっかりと頷くとハーシェルの元へ
するとリックはハーシェルの足を斧で切り落とした


『そんな……』


リックもかなりショックを受けている。
もちろん、みんながショックを受けていた。
でも菌が回る前に足を切らなければハーシェルは死ぬ。
今の私達に出来る最善策を彼は行った。


「……見ろ…」


ダリルの目線の先を見ると数人の男がこちらを見ていた。


「だれだ?」
「お前たちこそ誰だ」


ダリルがクロスボウを構えて男たちに近寄って行く。
リックはハーシェルをまだ見つめていた。


「止血しないと…脚を押さえてくれ。
 強くだ。しっかり押さえるんだ。いいな?」
「ゆっくり出て来い」


ダリルの言葉に男たちが前に出てくる。


「彼は?」
「噛まれた」
「噛まれた?」
「動くな!」
「傷つけたくない!」
「押さえろ。強くだ…」
「医療品はどこにある?」


リックはそう聞くと中へ進んだ。


「お前ら救助隊じゃないな?」
「救助隊など来ない。」
「ここに乗せよう。行くぞ」
「あぁ。」
「エリー!ドアを開けてくれ!」
『オーケー…いくわよ?』


ドアを開け、入って来たウォーカーを殺す。
数がかなり少なくなっていて助かった。


そこからは時間が勝負だ。
早くハーシェルを安全な所へ運ばなければ…


『こっちよ!』
「あいつらが追って来てる!急げ!」
「血が止まらない…っ」
「ドアを開けろ!ハーシェルが!カール!急げ!」
「ベッドに運ぼう」
「あぁ、急ぐんだ!」
『カール、すぐ鍵を閉めて』
「うん!」


ハーシェルをベッドへと運ぶ。
キャロル達も集まって来る


「足を切断したのね?間に合ったかも…」
「包帯を…!」
「もうない」
「じゃあ何でもいいから捜して来て!」
『タオルを取って来るわ!』
「……死ぬの…?」
「いいえ。大丈夫よ…」
「脚を高く上げないと!枕を!」


キャロルの声が聞こえ、タオルと一緒に枕も掴む


『使って!』
「ハーシェルが血だらけよ…」
「傷口を焼けば血は止まる」
「やめて!!」
「止まらないし、ショック死する」
「止まるのを待つしかない…」


すると何やら騒ぎ声が聞こえる。


『ダリル…?』
「みんなはここで待て」


リックとグレンと向かおうとする。
するとリックは振り返りグレンを止めた。


「お前は残ってくれ」
「どうして?」
「ハーシェルが死んだら……」
「………」
「出来るか?マギーの目の前で…」
「できる…」
『グレン、私が…』
「Tドッグでもいい」
「できるよ」
「……よし」


リックはグレン、私に頷くと
私に「エリー行こう」と声をかけて進んだ。
グレンと軽いハグを交わして私も進む
カールが扉の前に待機してくれている。
賢い子だ。
ダリルの右側にリックが立ったので
私はリックの右側にクロスボウを構えて立つ。


「お前らの居場所はない」
「無駄な争いはやめよう」
「何人いる?」
「お前ら以上だ」
「なぜ彼を病院に連れていかない?」


彼の言葉にリックは戸惑いの表情を見せる
私とダリルは表情から悟られない様にするため
ポーカーフェイスを崩さない。
リックは静かに話し始めた。


「いつからあの食堂にいた?」
「10ヶ月前からだ。暴動が起きた」
「悲惨な状況だった…」
「まるで映画みたいだった」
「死ぬと喰人種になるなんてバカな噂が流れ
 看守が外に様子を見に行った。
 すぐ戻ると言ったが…それから294日だ」
「292日だ」
「黙れ。すぐに軍が迎えに来てくれると思ってた」


ダリルと顔を見合わせる。
この人たちは何も知らないのだ。
世界の変化を、何も……


「軍はもうない」
「なんだと?」
「政府や病院、警察も…」
『すべて消えたわ』
「……うそだろ?」
「本当だ」
「……俺の母ちゃんは?子供たちも…」
「女房は?家族に電話をかけさせてくれ」
「分かってねぇな。電話もパソコンもない」
『もう簡単に連絡を取れる時代は終わったの』
「人口の半分は死んだだろう……もっとかも」


囚人達はみな戸惑いの表情を見せる。
当たり前だ。こんなのすぐ飲み込める訳ない。


「ありえねぇ…」
「確かめて見ろ」


囚人達を連れて外へ出る。


「久しぶりの太陽だ……」
「本当にみんな死んじまった…」
「塀に救われるとはな…」
「どうやって中に入った?」
「監視塔横のフェンスからだ」
「感染病か何かか?」
「あぁ。みんな感染している」
「感染ってエイズと同じか?」


リックは囚人達の質問全てに丁寧に答える。
私とダリルはそれを黙って聞いていた。
それにしても質問が多い……


「向こうなら水もあるし快適だ」
「手伝おう」
「その必要はない。ここは俺達の物だ」
「慌てるな。強引に扉を開けた」
「また閉じ込めようか?」
「俺達が先にいた刑務所だ」
「何もしてないだろう?俺達が命をかけて出してやった」
「自分の房へ帰る」
「いや、他の場所へ」
「私物も置いてきたままだ!」


男は銃をリックに向け
私とダリルは男にクロスボウを向ける。


「銃をおろせ!」
『リックを撃てば、確実に殺すわ』
「待て待て!お互いの利益になる様話し合おう!」
「お断りだね」
「こっちこそ」
「食堂には戻らない」
「他の棟へ移ればいい」
「外に出て…運を試せばいい」


無言になる囚人達。
リーダー格の男は仲間を見渡す。


「こいつらに出来るなら俺らにだって」
「武器が無い」
「ありかを教えてくれ、ボス」
「……食堂に備蓄は?
 相当あるだろう?ほぼ1年も持った」
「飢えちゃいない」
「残りわずかだ」
「半分くれるなら、独房棟の一掃に手を貸そう」
「聞いたろ?僅かしかない」
「他に選択肢があるか?自分達の住みかを持てる」
「……いいだろう」
「言っとくが、俺達の仲間には近付くな。
 お前のにおいが少しでもしたら…殺す」
「分かった」


囚人達と中に戻る。


「食堂に向かおう」
『ちょっとだけ待って!リュックを取って来る!』
「あぁ、急いでくれ」
『おーけー』


カールに鍵を開けてもらい中に入る。
リュックを取るとハーシェルがいる所を覗いた


『ハーシェルはどう?』
「まだ目を覚まさないわ」
『そう……物資を取って来る。何か捜してくるね』
「えぇ。包帯があれば助かるわ」
『分かった』


リック達に"お待たせ"と言うと食堂に向かった。



「おしゃべりしていないで早く来い」
「悪い…」
「ここだ。」


食堂の奥に入ると食べ物の備蓄がたくさんあった。
これは"残りわすが"とは言わない量だ


「"わずか"だと?」
「すぐなくなる」
「コーンとツナは渡す」
「半分という約束だ」
「ここは?」
「開けるな」


扉を開けると異臭が部屋に入って来る
リーダー格の男は笑っている。


「止めたろ?」
「やっとトイレで出来る」
「これを持って戻ろう」
『ねぇ、このソース一本しかないけど
 使ってないようならもらってもいい?』
「あぁ。いいよ。俺達は料理は―」
「気易く話しかけるな!」
『ご、ごめん…』


先程リックとリーダー格の男を止めた人に話しかけると
物資をまとめていたダリルに凄く怒られた。
男の人もダリルに睨まれ縮みあがっている
悪いことしたな……


リュックに入りそうなものを詰めて行く
使っていないソース系は全部貰っていこう。
料理班のキャロルとローリが喜ぶはずだ
それから絆創膏、少しの包帯を見つけ
男達にバレない様にそっとリュックにしまう
……でもこんな量じゃ包帯は足りないな…


「よし、これで半分だ」
「ひとまず戻ろう」
『みんな喜ぶね』


ほほえむと、ダリルも"あぁ"と柔らかい表情を見せた。
そして私達はみんなの元へと戻った。





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