寒い冬を迎え、ローリのお腹も大きくなってきた頃
私達はまだ安全な場所とやらを見つけていなかった。
今日もその日の宿を探している。


『2階は大丈夫よ。ウォーカーはいないわ』
「1階も制圧した」
「よし、今日の宿はここにしよう」


リック、ダリル、グレン、マギー、Tドッグ、
カール、そして私。
いつものメンバーで部屋の安全を確保する。
この半年ほどでカールはみるみるたくましく成長した。
あんなに小さくて可愛かったのが嘘のようだ。
リックから貰った保安官のキャップが良く似合う。


『そっちに食べ物はあった?』
「フクロウならいた」


ダリルが仕留めたフクロウの羽を毟りながら近付いて来る。


『やだ、羽を飛ばさないでよ』
「エリーも食べるか?」
『生だったら遠慮しておく』


ダリルは未だに羽を毟っている。
カールはドッグフードらしき缶を持ってきて
開けているが、リックがはたき落としてしまった。
その音に驚いたダリルがリックを見つめる。


『ダリル、早く食べないと時間なくなるよ?』
「あぁ。羽が多いんだよ…」


食べる物も満足に無くて、充分に休むことも出来ず
みんな心底疲れ果てていた……
ここで少しでも休めればいいけど。
そう考えているとTドッグが外を顎で指した。


『はぁ……出発ね』


ダリルが先頭で家を出る。
私はダリルのバイクの後ろに乗り、そこを後にした。


しばらく走ると、車が停車する。


「カール。15分見張れ」
「おーけー」
「もう行く当てがない…」
「南はウォーカーの群れに阻まれて進めない。」
「150はいたかな」
『先週はね』
「今はもっと増えてるかも」
「川があれば、奴らも減速して通れるかもしれない」
「でもこっちから流れてくるかも」
「……囲まれた」
「27号線を戻ってグリーンビル方面へ」
「冬の間、全く先に進めてない」
「あぁ、そうだな。数週間留まれる所を探そう」
『早く移動生活も終わるといいね…』
「よし。川で水を汲んでくる。後で沸騰させよう」
『Tドッグ、手伝おうか?』
「大丈夫だ。グレンとマギーに頼んである」
『分かった、気を付けてね』


ハーシェルとリックが相談している様だが、2人の顔は暗い


「狩りに行くか」
『フクロウは美味しくなかった?』
「あぁ、イマイチだった。」
『そっ。残念』
「おい、リック!ダラダラするなら狩りに行こう!」
『シカとかイノシシとかいないかな〜。お肉食べたい』
「しっ。……やつらか?」
「そうだな」
『なに?ここ…』
「刑務所だ。俺も昔は囚人を連れて行ったりした」
『ふーん。高い壁だね』
「………そうだな」


リックは何かを考え込んだ後、一度戻ろうと行った。
ダリルと私は不思議に思いながらも一緒に戻ることにした。


「この先に刑務所がある。さっきダリルとエリーと見つけた。
 ウォーカーがいるが、そこまで数は多くない。
 ここなら高いフェンスも壁もある。
 中にいるウォーカーを片付けたら、しばらくの間は休める」
『な、なるほど…!』
「…行こう。」


まずはみんなを刑務所まで連れて行く。
ウォーカーにバレない位置から作戦会議だ。


「まずはあのフェンスまで行く。先頭は俺とダリル。
 グレン、マギーが続き、後方はTドッグとエリーだ。
 カールはその少し後ろでママやみんなを守るんだ。いいな?」
「おーけー。」
「あのフェンスの中に入ると通路にウォーカーはいない。
 だからあの中には全員で入る。
 フェンスはグレンとダリルで閉じてくれ」
「分かった」
「よし、行こう」


刑務所のフェンスに近寄るため、ウォーカーを殺して行く。
フェンスに近寄るとリックがペンチで切るので
私達はリックにウォーカーを近づかせない。

無事に全員が中に入り、グレンとダリルでフェンスを紐で結ぶ。
奥に進むとウォーカーは私達の進路に合わせて追いかけてくる
なんだか、犬みたいだ。


「完璧だ……よし。あそこの扉を閉め
 日没までに中のウォーカーを一掃する。」
「誰がゲートを閉めに?」
「俺が1人で行く。援護してくれ」
「だめよ、グレン。自殺行為だわ」
「でも一番素早い」
『素早さなら私も負けてないけど?』
「2人ともだめだ。俺が行く。
 マギー、グレン、ベス、Tドッグで
 ウォーカーをフェンス越しに引き付けるんだ。
 ダリルはあのタワーへ。キャロルもだ。
 キャロル。落ち着いて撃ってくれ。弾を無駄遣いするな?
 ハーシェルとカール、エリーはこちらのタワーだ。
 エリー、君のライフルの腕を信用してる。頼んだ」
『分かったわ、行こう。カール、ハーシェル』


ローリがゲートを開き、リックは中へ。
5人でリックを襲おうとするウォーカーを殺して行く
危うくキャロルがリックを撃ちかけたが、当たらなかった。


リックは目標のゲートまで行くと、チェーンを止めた。
ウォーカーを蹴っ飛ばすリックがカッコよかったのは内緒だ。


「殺せ!!」


ダリルが指をくるくる回し叫ぶ。
あとはもう簡単だった。
タワーの上から、フェンス越しからウォーカーを撃つだけ。
中を制圧するのに時間はかからなかった。


「よくやった!」
『やったわ!大成功よ!』


タワーを降りるとキャロルとダリルが。
ハーシェルはダリルの肩を叩いて嬉しそうにしている。
ローリも大丈夫そうだ。


「あぁ!こんな広い場所なんて久しぶりよ!」
『カール!!あっちまで競争よ!』
「あ!待ってよ!エリー!!」


カールと芝生の上を走り回る。
疲れて2人で寝転び、空を見上げた


『自由よ。安全な場所を見つけた…』
「うん。これで安心だ」
『ママも安心して赤ちゃんを産めるわ』
「うんっ!」


そう言うとカールはとびっきりの笑顔を見せてくれた。
カールの頭をぐしゃぐしゃに撫でると やめてよ〜とまた笑った




「あー、お袋の味だ」
「明日は死体を片付けて用水路から遠ざけよう。
 フェンスの下を掘れば新鮮な水が手に入るかもしれない」
「土もいい。キュウリやトマト、大豆を育てられる。
 もう3周目だ。何か問題があるなら既に見つけている」
『ダリルもね。ずっとあそこにいる』
「夕飯を持って行くわ」
『……』
「たまには私が、ね?」
『うん、ありがとう。キャロル』


キャロルはダリルの元へと歩いて行った。
楽しそうに話す2人をじっと見つめる。

なんというか、2人には独特の空気があって入りにくい。
大切な仲間に嫉妬しちゃう自分が大嫌いだ。


「エリー。どうした?」
『なんでもないよ、ダリル。いらっしゃい』
「あぁ。」


ハーシェルの提案でベスが "別れの盃" を歌い出す。
とても綺麗で澄んだ歌声…ベスにぴったりの歌声…
途中からはマギーも一緒になって歌う。
気が付けばリックも側に来て歌を聞いていた。


『素敵ね』
「あぁ、いい歌だ…」


歌の余韻に浸っているとリックが口を開いた


「みんなそろそろ寝よう。俺が見張りをする。」
『リックも寝なきゃ』
「大丈夫だ。それより明日は大変だぞ」
「どうして?」
「疲れているのは分かってる…だがあともう一踏ん張りだ。
 早いうちから看守と囚人がウォーカーになった。
 恐らく物資が残っている。医務室もあるだろう」
「武器庫もだな?」
「あぁ。刑務所の外だろうが、そう遠くはない。
 所長室で場所は全てわかる。まさに金鉱だ…!」
「弾切れ寸前だ。長くは持たないぞ?」
「だからこそ中に入る。これまでも協力してやって来た。
 今度も乗り越えられる…やられはしないさ。だろう?」


リックはそう言って、全員の顔を見ると、立ち上がった。
ローリが後を追いかける。
心配で見つめていたが、夫婦の問題だと思い、見るのをやめた


「エリー、寝るぞ。ポンチョに入れ」
『うん…よいしょ…ちょっと狭いのよね』
「文句を言うんじゃねぇ」
『ふふ、冗談よ』


ダリルのポンチョはかなり大きく
2人ならギリギリ入れるからいつも潜って寝る。
こうして眠るとダリルが近く感じられるし
とても温かい…


『おやすみ、ダリル』
「あぁ、おやすみ」


ダリルは私の額にキスをすると、眠りにおちた。





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