15

「着いたぞ」
「……ママはどこ?ママがいるって…」
『誰も来てないの…?』
「そのようだ…」
「戻らないと!……どうして逃げたの?
 ママを助けに行かなきゃ!危ないよ!」
「カール。声を落とせ。いいな?頼む…」
「お願い……僕のママだ」


カールはそう言うとリックの手を振り払った。
リックに"任せて"と言いカールの後を追った。


『カール』
「エリー…」
『ママはちゃんと逃げたわ。
 私が見たの。私の事、信じられない?』
「(首を横に振る)」
『じゃあ少しここでママを待っていよう。
 ダリルも。みんなちゃんとここに来るわ。ね?』
「……うん…」
『大丈夫よ…』


カールを抱きしめる。
今にも泣きそうな小さなカール。
早くローリに会わせてあげたい……


『ウォーカーをナイフで倒さなくていいの?
 私だったらクロスボウも使えるし、音も少ない』
「いや、やめておこう」
「ここにいたら危険だ」
「ママを待つよ」
『そうね。ママを待ちましょう』
「逃げだすのか?家族が生きているか分からぬまま?」
「リック。君が考えるべきはひとつだ。
 息子を守る事。予想外の事態であっても変わらない」
「……カール」


私とハーシェルは2人を黙って見守る。
幼いカールにとってこんなに残酷な選択はない


「ここはとても危険だ…残念だが…」


リックが言いかけたその時、
エンジン音が聞こえ、仲間が次々と集まってきた。


『ダリル!!!!!』
「エリー!!」
『良かった…!生きていてっ…』
「お前を置いて死なねぇって言ったろ?」
「ダリル、エリー」
『グレン…!』


ダリル、グレンとハグをする。
グレンが優しく涙をぬぐってくれる。


「よくわかったな」
「徐行運転の後があったからアジア男だと思って」
「ははは。言うね」
「(肩をすくめ)エリー、来い」


ダリルは私の顔を両手で包み
一度だけキスをすると、また力強く抱きしめた。


「他は?」
「今のところはこれだけ」
「シェーンは?」


ローリの言葉にリックは首を横に振る。


「アンドレアは?」
「私を助けてくれて…倒れる所は見た…」
「パトリシアは?」
「……捕まったわ。私の目の前で…
 私と、手をつないでいたけど……」
「ジミーはどうしたの?」
「キャンピングカーで襲われた」
「待て。アンドレアは倒れた?本当に死んだ?」
「……見てくる」
「よせ。」
「だが、置いて行けない」
「いないかも…」
「いないはずだ。生きてればどこかへ逃げてる」
「捜さないの?」
「移動する。奴らが徘徊していて無理だ」
「東へ行こう」
「幹線道路はウォーカーがいる可能性が高い」
「そうだな……」
「とにかく行こう。ここにはいられない」


ダリルの後ろに乗り走り出す。
もう外は寒く風が冷たいけれど、ダリルと離れたくなかった。


『ダリル。止まったよ』
「あぁ。トラブルか?」
「ガス欠だ」
「明日の朝、ガソリンを調達しよう」
「じゃあここで一晩?」
「寒いよ」
「火をおこす」
「薪を拾いに行くか?」
『一緒に行く』
「弾の数はどうだ?」
「少ない」
「泊まるなんてバカよ」
「言い方が悪いぞ」
「落ち着いて。リックに従おう」
「防御線を張り、朝になったらガソリンと物資調達だ」
「グレンと今捜しに行く」
「万が一の時に車が無いと立ち往生してしまう。」
「今も立ち往生だ」
「不安だろうが、地獄を抜け出し、再会できた
 信じられないが…いまこうして一緒にいるんだ。
 俺達はもう離れちゃだめだ。」
「……安全な場所を見つける」
「よく考えろよ。ウォーカーが移動してるんだぞ?」
「隠れるだけじゃなく防御出来る場所を捜すんだ」
「でもそれもいつまで持つか…
 私達は農場だって安全だと思ってた。」
「……とにかく夜明けと共に出発だ」
「これでいいの?」
『わかんない……』


ダリルは何か考えている様なそぶりを見せる。
こんな所でどうしていいかなんて…誰にも分からない。


「ランダル達が襲ってくるかも…」
「ウォーカーになってた。噛まれていないのに」
「どうして?」
「シェーンだ。あいつが殺した」
「その後ウォーカーに?」
『……リック。何か知ってるの?』
「………みんな感染してる」
『え…?』


全員がリックの言葉に驚きを隠せない。


「なんだと?」
「CDCでジェンナーが言ってた。」
『そんな…』
「俺達も感染している」
「どうして黙ってたの?」
「言っても変わらない…」
『でも言ってくれたって良かったのに…』
「確信が持てなかったんだ!」
「納屋のウォーカーのこと、俺は言った」
「知らない方がいいかと……」


どうやらこのことはローリも知らなかった様だ…
リックの優しさが自分の首を絞めている。
ローリはみんなから離れたリックの後を追いかけて行った


「エリー。薪を集めに行くぞ」
『待って、ダリル』


ダリルと森の中へ入っていく。
さっきリックに言われた事が頭から離れない。


『ウォーカーに噛まれなくても、死んだらああなるの?』
「そういうことだな」
『私達全員?』
「あぁ。全員だ」
『…ダリル。私が死んだら―』
「縁起でもねぇこと言うな!」
『ごめん…』
「お前は死なさねぇ…」
『ありがとう』


ダリルと薪を集め、皆の元へ戻る。
先程のギスギスした空気のままだ。
そのまま夜を迎え、カールは既に夢の中…


「エリーも寝ろ。」
『側にいてくれる?』
「あぁ。膝枕してやる」
『ほんと?ふふ、嬉しい』


ダリルの膝枕で眠る。
キャロルがダリルに相談している声が聞こえたが
私は既に眠りに落ちかけている。


「今のなに!?」
「動物だ」
「ウォーカー?」
「……移動よ。もう待てないわ…」


キャロルが動き、私にぶつかる。
その振動で私の眠気が飛んで行ってしまった。


『なに…?何かあった?』
「なんでもない。寝とけ」
『でも…』


体勢を立て直し、ダリルの隣に座る。
みんな緊迫した顔をしている。


「暗闇の中、逃げるのは無理だ。
 車も無いし、歩いては逃げられない」
「また群れに襲われるのを待ってられない…!」
「行きましょう」
「どこへも行かない!」


リックの声に全員がリックに注目する。


「俺は努力してるだろ?グループを守ろうと必死だ…
 今までもそうだ!皆の為に親友だって殺したんだ!」


えっ…シェーンを殺したのはリックなの…?
どうして…?親友なのに…?


「彼を見てきただろう?俺を責め、
 みんなを危険にさらし、脅してきた…
 ランダルを利用して俺を殺そうとしてきた。
 仕方なかった…親友だが、俺を殺そうと…」


"俺は潔白だ"と言うとリックはみんなの顔を見る。
私達はどんな顔でリックの事を見ているのだろう…


「俺がいない方がいいか…?
 行けよ。安全な場所なんて幻想かもしれない。
 きっと無謀な希望だ!だから自分で見つけて見ろ!
 そこからカードを送ってくれ!行っていいぞ?
 どこまで行けるかね……」


明らかにリックの様子がおかしい。
最初に出会った頃のリックとは別人だ…


「行かないんだな?よし、はっきりさせておこう。
 残るなら…2度と俺に逆らうな…」


誰も何も言葉を発しない。
動きもせず、ただ火を見つめていた。
ただダリルはリックをじっと見つめ
そっと私を抱き寄せた。




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