13

「エリー…シェーンに頼まれ事をされた。
 ちょっと行ってくる……朝食を食べろ」


ダリルの言葉を背中に受ける。
朝食を食べる気にはなれない

しばらくするとグレンがやって来た。


「エリー、少しは外に出よう」
『グレン…』
「ほら、朝食は食べなくてもいいから」


グレンに手を引かれてテントの外へ出る。
しばらくカールとローリが楽しそうに
話をしているのをただぼーっと見つめる。

するとダリルが戻って来た。


「ギャングだ。30人はいて、武器もたくさんあると。
 見つかれば男は殺され…女は死ぬよりも酷い目に合う」
「……何をしたの?」
「おしゃべりさ」
「リックどうする気?」
「脅威は放っておけない」
「排除すべきだ!」
「殺すのか…?」
「決定だ。今日やる」


リックとデールは2人で歩き始めた。
何か口論をしているらしい…
私には関係の無いことだけど。
どうせ私の話なんて誰も聞かない…

デールがみんなの元へ戻って来た


「リックが日没にまた集まり、その時に決めようと。
 みんなランダルの事について真剣に考えてくれ」
「分かった…」


デールは今から全員を説得する気なんだろうか?
ひとりひとりに話しかけに行くのが見える。
あんな悲惨な事があってもデールは諦めない。
ちょっと羨ましいや……

私はテントには戻らずに、側にいたダリルに声をかけた


『ダリル』
「エリー…どうした?」
『少し散歩してくるね。心配しなくていい』
「……分かった。遠くへは行くな」
『(頷く)柵の中にいるよ』


ダリルが頷くのを確認すると私は歩きだす。
次から次へと起こる事態にグループは完全にバラバラに。
特にリックとシェーンの友情はもう……


「エリー…」
『デール。来ると思ってたよ』
「君が傷ついているのは分かっているが…
 どうか私に力を貸して欲しい。頼む……」
『私の意見をリックやシェーンが聞くとは思えない』
「それでも言う価値はある。リックだけじゃない、
 グループのみんなの目を覚まさせるんだ。
 あんな悲惨な事…もう繰り返してはならない」
『それは分かるけど…』
「エリー、君の本心を聞かせてくれ」
『正直分からないよ。彼がどんな人かさえ
 私は知らないんだから。判断が出来ない。』
「……っ、」
『だからこそ、今殺すのは間違ってると思う』


一度、下を向いたデールだが、私の言葉に顔をあげた。


『でも言っても無意味だとも思ってる…
 これが私の本心よ。デール』
「それが聞けたら満足だよ。エリー
 日没前に話をすると言うのは聞いていただろう?
 そこで同じことを話してくれるだけでいいんだ」
『だけど……』
「助けてくれ、エリー。
 これはグループのためでもあるんだ」
『………分かった』
「ありがとう」


デールは私の手を強く握ると去って行った。
私はいつまでも弱いままじゃだめだ。
デールの様に強くなろう…


『ローリ。』
「エリー!あなた…もう大丈夫なの?」
『えぇ、心配かけてごめんなさい』
「いいのよ、いいの…」


ローリは私をぎゅっと抱きしめる。
私もローリを抱きしめ返す


「それで?どうかしたの?」
『何か食べ物を貰える?』
「えぇ。好きなだけ食べて」
『ありがとう』


ローリからお肉をもらい、少し食べる。
やっぱり急には食べられそうもない…


『……ダリルは?』
「向こうで作業してると思うわ」
『そう…もしダリルに私の事聞かれたら
 気分転換に行ってると伝えてくれる?』
「えぇ、分かったわ。……どこへ行くの?」
『気分転換よ』


ローリに食事のお礼を言うと、私は納屋へ向かった。
ランダルが閉じ込められているはずだ…
すると扉の前でアンドレアとシェーンが
何やら揉めているのが見える。
もうしばらく待っておこう……


シェーンが経ち去ってもアンドレアはなかなか去らない。
見張り役なのだろうか…?
もう日没前が来てしまうのに…

するとやっとアンドレアが立ち退いた。
私は音を立てずにそっと中に入り込む


「だれ…?」
『あなたとは会ったことなかったわね。
 事情は聞いてるわ。あなたはここにいたら
 きっと殺されてしまうわよ。それでいいの?』
「なんでもする…だから助けてくれ…」
『…じゃあ私と逃げる?』
「命が助かるならなんでもいい…」
『逃げた後どうする?行くあては?』
「行くあてはない……前にいたキャンプに戻ってもいい…
 いや…女の子には危険だな…2人でどこか…
 安全に暮らせる場所を探そう。きっとうまくいく…」
『そう……分かったわ。あなた…名前は?』
「……ランダル」
『ランダル、あなたが殺されない様に頼んであげる』


私はランダルの元から離れると家へと向かった。
日没してからまだ時間は経っていない。
きっと話し合いは続いているはず…


ガチャ

『遅れてごめんなさい』
「エリー!」
「もういいのかい?」
『えぇ。話し合いに参加しても?』
「もちろんだ。今、みんなの最終意見を聞いている」
「……"生きている者は殺さない"と」
「俺達が殺されそうだった」
「今までの俺達も、世界も終わってしまう。
 醜い世界になるぞ?強い者だけが生き残る
 そんな世界に生きたくない…
 君たちだって同じ気持ちのはずだ!
 頼む……正しい事をしよう…
 ……誰も賛成しないのか?」


デールが私を見る。
私は手を上げる。


『私はデールに賛成よ。彼が正しい。
 今日…デールに意見を求められた時、
 彼がどんな人か知らないから判断が出来ない
 そう言ったわ。だから直接、彼と話してきた。』
「なんだって?」


私の言葉にダリルが反応する。


「気分転換に行ったんじゃなかったのかよ」
『気分転換のついでに行ったの。いいから聞いて』
「……あぁ」
『彼に一緒に逃げようって言ったわ。
 そうしたら彼、私が危ないからキャンプには戻らないと。
 一番に私の心配をしたわ。そんな人が解放した後に
 キャンプに戻って私達を襲ってくると思う?』
「口では何とでもいえる」
『疑わしきは罰せずって言葉知らない?』
「そんなことしてたら全員死ぬぞ!」
『私達は死なない。これまでも諦めずにやって来た』


私とシェーンは睨み合う。


『デールが正しい』
「そうね…彼が正しい。別の道を考えましょう」
「他には?」


私にアンドレアが賛同する。
他に賛同者は現れなかった……


「…テントに隠れて見ないふりをするんだろ
 …………失望したよ…」


デールは最後にダリルに"グループは崩壊だ"と告げると
家を出て行ってしまった。


『…それで?どうするの?』
「少し考えさせてくれ」
「まだ考えるのか!?考える時間は十分だ!」
「分かった……夜、決行だ」


一同に重い空気が流れる。
私はダリルに声をかけると一緒に外へ出た


『ダリル。心配かけてごめんなさい』
「……どうだっていい…」
『あなたはどう思う?これでいいの?』
「殺すべきだ。殺らなきゃ殺られる」
『そうね。そういう意見もあるわね』
「何が言いたい?」
『シェーンは私の意見なんて聞く気が無いのよ。
 話し合いなんて時間の無駄だわ。リックも…
 あまりにも恐れすぎている。そうでしょ?』
「あぁ…そうかもな…」
『見えない敵に怯えたって仕方が無いわ』
「…武装した30人に襲われたら、まず助からない」
『……それはそうね…』
「…やめよう。俺達が話しても無駄だろ?」
『えぇ……』
「それより……納屋の時は悪かった…」
『ううん、もういいの。』
「もう平気か?」
『えぇ。前を向くことにした』
「そうか……良かった…」


そう言うとダリルは背を向けた。


『……泣いてるの…?』
「…っ。ほっとけ…」
『ごめんね、ダリル。ごめんなさい』


ダリルの前に回って両手を握る。
しばらくダリルは私を見つめていたが、
力いっぱい私を抱きしめた。

久しぶりに感じるダリルの体温は暖かかった。




『テントの近くに行きましょう』
「あぁ、そうだな」


テントへ行き、火の近くへ座る。
ダリルは私を足の間に座らせ、後ろから抱き締めた。
私はダリルにもたれかかる。
上を向き見つめると「なんだ?」と声をかけてくれる。
「んーん」と答えるとまたダリルにもたれかかった。
今日も星空は綺麗だ。


「ダリル、ちょっといいか?」


リックとシェーンがダリルの元へ来た。
"今夜決行"というリックの言葉を思い出す。


『いやよ。ダリルは行かせない』
「エリー、うそだろ?」
『本気よ。行かせない』


シェーンと睨み合う。
リックは私の顔を見つめた後、諦めたそぶりを見せた。


「分かった。……Tドッグ。頼めるか?」
「あぁ、行くよ」


3人は闇の中を進んでいく。
私はどうしてもダリルを行かせたくなかった。
Tドッグには申し訳ないと思うけど…

それからしばらくして、リック達が戻って来た。
なぜかカールも一緒だ。


「しばらく拘束する。」
「デールを捜すわ」
「……ローリ」
「中へ行ってカール。早く。
 …リック、どういうこと?」


心なしか嬉しそうなアンドレアはデールを捜しに行った。
カールについて夫婦での会話が始まる。
ここにいる誰もがカールが付いていったことは想定外だった。


すると突然騒がしくなる。
ウォーカーにデールが襲われている様だ。
みんな急いでデールの元へ駆けつける。
一番に着いたのはグレン。
ウォーカーを殺してみんなを呼んでいる


「ここだ!早く来て!」
「デール!!」
「ハーシェルを呼ぶんだ!」
『デール…っ!』


暗くても分かる。
もうデールは助からない…
こんなにお腹が裂けて、血が出ている。


「ハーシェル!」
「……助からない。出血が酷過ぎる」
「なんとかしてあげて…!」


アンドレアの言葉にリックが銃を向けるが
なかなか引き金を引くことが出来ない。
見かねたダリルが銃をそっとどけ、
デールに「悪いな」と言うと引き金を引いた。
最後に見たデールは覚悟を決めた凛々しい顔だった…





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