12


いま目の前で起こった事が信じられなかった。
ソフィアが撃たれたと同時に私も膝から崩れ落ちる。
ハーシェル達やキャロルの泣き声が響き渡る。

ローリやカールの元へ戻ろうとしたリックは
後ろを振り向いて座り込んでしまった私に気付き
「平気か?」と声をかけてくれるが、返事が出来ない。
やがてベスの叫び声が聞こえ、リックも走り出す。
気付けばキャロルはいなくなっていた。

ハーシェル達が家に向かうのに何人もが付いていくが
私はウォーカーから目を離せずにいた。
アンドレアが私に何かを話しかけてるが
全く耳に入らない。


どれくらいの時間、その場にいただろうか?
いつの間にかダリルが隣に立っていた。


「…エリー。いくら殺したとはいえ、ここは危険だ。
 テントの方に移動してくれ。……エリー?」


返事をしない私の腕を引っ張り立たせようとしてくる。
私はダリルの手を振り払った。
涙が流れているが、おかまいなしにダリルを睨む。


「…エリー」
『やめてって言った…』
「………」
『やめてって言った!ハーシェル達の気持ちを裏切って
 こんなひどいこと…本当…信じられない……』
「ウォーカーをこのままにしておく訳には―」
『もっとやり方があった!扉だって厳重に閉められてた!
 シェーンが壊さなければ開きはしなかった!!
 こんな、こんなやり方ないよ……』


ダリルは側で私を見て立っている。


『ひとりにして…ダリルはキャロルの側にいてあげて』


そうダリルに告げると私はテントの向こう側に歩き出した。
柵を越えて、木にもたれかかる。
こうやって空を見ていると全てが忘れられそうだ。




空が赤くなってきた。
もうすぐ夕暮れがやってくる

車が一台、通ろうとして止まった。
誰かが降りて近付いてくる。
私はそれをぼーっと見ていた。


「エリー。こんな所にいたら危ないよ」


グレンだ。


「せめて柵の中に入って。ウォーカーが来てもいい様に」


返事をしない私にグレンは続ける。


「…ハーシェルを捜しに行ってくるよ。
 ベスの様子がおかしいんだけどいないんだ。
 しばらく留守にするから……しっかりするんだ」


そう言うとグレンは私の額にキスをして
車に戻って行った。
それからしばらくしてまた一台車が通った。
もう夕暮れも終わる……


「エリー。夕食が出来たわよ」
『……いらない』
「…でも今日ずっと食べてないでしょ?」
『食欲無いから』
「そう……ところでローリを知らない?
 夕方からどこにも姿が見えないの」
『知らない』
「……分かった。エリー、夜はテントで眠って」


アンドレアはそう言うと戻って行った。
結局、私は夜も眠らずに星空を眺めていた。



次の日、グレンが近寄って来た。
私の横に座ると優しい声で話しかけてくる


「エリー。ご飯も食べてないんだって?
 みんなが心配してたよ。エリーのこと」
『……おかえり、グレン』
「あぁ、ただいま」
『ケガはない?』
「ないよ。元気だ。リックとハーシェルも」
『そう…良かった……』
「ただ、問題があってね。今から皆で話し合うんだ。
 エリーにも参加して欲しい。ここは危ないし…」
『行きたくない……』
「いいから、行こう。」


グレンに引っ張られて立ちあがる。
丸一日何も食べていないから、少し身体がフラつくが
グレンが手を握ってくれているから大丈夫だった。
………温かい…


「…エリー?」
『…っ、ごめん…』
「いいんだ…」


グレンは泣きだす私を抱きしめてくれた。

私が泣きやむとグレンはそっと涙をぬぐってくれた


「さぁ、みんなが待ってるよ」
『うん…』


家に入り、みんなと顔を合わせる。
グレンが「お待たせ。始めよう」と言うと
リックが街であった出来ごとについて話し始めた。
すぐにダリルも入って来る。

シェーンは人質の彼を殺すべきだと言うが
リックは物資を渡し、生きるチャンスを与えるべきだと言う。


ハーシェルはシェーンに「納屋での事を許していない」と
告げるとシェーンは家を出て行ってしまった。


「…今日は様子を見る。とりあえず落ち着こう」


その言葉で解散となる。
グレンは私の肩を叩くと部屋を出て行ってしまった。


私も家を出る。
するとダリルが私の後ろをついてくる。


「エリー……」
『……ダリル』
「悪かった。だから…テントに戻って来い。」
『どうして…?』
「……心配だ」


あんなに突き離したのにダリルは私の側に来てくれた
ダリルの顔を見上げると、「頼む」とダリルは言った。


「テントに戻るのが嫌なら、隣に居させてくれ」
『……テントに戻るわ』


ダリルの顔を見ると、嫌だなんて言えない。
テントに戻るとローリが心配そうな顔をしているのが見える
デールもこちらに近づいてくる。


「エリー、もう平気か?」
『(首を横に振る)ほっといて…』
「……あぁ、分かった…」


テントに入って寝転がる。
ダリルはテントには入って来なかった。





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