11

昼食の時間がやってきて、
シェーンとアンドレア以外のみんなも戻ってきた。
2人は追加の特別訓練を行っているらしい。


「エリー。ダリルに昼食を持って行ってもらえるか?」
『……えぇ、分かったわデール』


デールに言われて、ダリルと気まずい状況なのを思い出す。
いや…ダリルは気にしていないかもしれない。
私が勝手に気まずいのだ。


『ダリル…?』


テントに入ると寝ているダリルは無言で私に背を向けた。
……うん、怒っていらっしゃる。


『朝はごめんなさい。私が悪かったわ』
「………」
『…話したくないわよね。昼食、ここにおいておくね』


そう言ってテントを出ようとした時、ダリルに腕を掴まれた。


『ダリル?』
「……何を怒ってた?」
『……座ってもいい?』
「あぁ。」
『……ダリルがアンドレアに言ったこと。
 アンドレアのために言ったことだって分かってるけど…
 それでも嫌だったの。"ちゃんと殺せ" だなんて…』
「…悪かった」
『ううん、私が悪いの。ごめんね』


謝るとダリルは私を見て頷いてくれた。
私はにっこりとほほ笑みかけると、ダリルの額にキスをした。


『ご飯食べて。私も食べてくる』
「あぁ、分かった」


テントを出て、裏に回って涙をぬぐう。
泣かずに話をすることが出来た…
少しは成長したかな……



午後になり、私は見張りついでに
グレンとマギーの帰りを待っていた。
さっき薬局に行くと言うグレンに頭痛薬を頼んだのだ。
自分の薬だから私も一緒に行くと言ったけど
マギーと話したいことがあるからと断られた。


遠くの方でローリ、マギー、グレンが見える。
キャンピングカーの上に置いてあるライフルのスコープで
3人を見ると、どうやら揉めているらしい…
マギーがローリの足元に何かを投げつけている。
そして家に戻るため、ズンズンとこちらに歩いてきた。
後ろにはグレンも続いている。

2人は立ち止まり、何かを話した後、キスをした。
見てはいけないと顔をそらしたけど…
マギーも大胆ね……

2人は分かれ、グレンはローリの元へと戻って行った。


なんだか複雑な事情がありそうだ。


「エリー。頭痛薬持ってきたよ」
『ありがとう、グレン。すぐ降りるわ』


キャンピングカーから降りてグレンにハグをする。
グレンはハグをしてくれた後、頭痛薬をくれた


『…で?マギーとは話せた?』
「一応はね」
『そっ。でもマギーはご立腹だった様だけど?』
「……ウォーカーに襲われたんだ」
『えっ、大丈夫だったの…?』
「あぁ。やっつけた」
『あぁ…良かった……』
「でも実はローリに頼まれた物が…
……中絶薬だったんだ。それでマギーが怒って…」
『……なんですって?』
「中絶薬だよ。でもまだ迷ってるって」
『だって、そんな…』
「妊婦用ビタミン剤も渡したし、リックに話すべきだと言った
 後はローリ次第で…俺達の出る幕じゃないよな?」
『そうね……彼女の選択だわ。』
「……聞いてくれてありがとう」
『(肩をすくめ)本当に聞いただけだけどね』
「いや、助かったよ」


その日の夕食は、ローリとリックの顔をつい盗み見てしまった。
2人が大丈夫なのか心配だったが、特になにも告げずに
ダリルとテントで眠りについた。



次の日、ダリルも揃い、全員で朝食を食べ始めた。
グレンはなんだかソワソワしている。


「あー、みんな。聞いてくれ…」


全員がグレンに注目する。


「…その…納屋に…ウォーカーがいる…」


グレンの発言に思わずデールを見ると
デールもかなり顔をしかめていた。
朝食を中断し、全員で納屋に確かめに行くことに。


「確かにいる…認める気か!?」
「まさか!だが、ここは他人の土地だ。」
「危ないわ」
「食われるぞ!?」
「今すぐ始末するか、フォートベニングに行くかだ」
「行けない…!」
「なぜだ!?」
「娘がいないから」
「……はぁ、おーけー。そろそろ別の選択肢も考えよう」
『別の選択肢なんかない!』
「そうだ、置いて行けない」
「人形を見つけたんだぞ!?」
「そうだ、人形しか見つかっていない!」
「…わかってねぇ!!」
「落ち着け…」
「俺は言うべきことを言ってるだけだ!」
「シェーン」
「他にもあるぞ!!」
「シェーン、落ち着け…」
「生きていたとしてもあんな姿のお前を見たら逃げる!」
「てめぇ…!!」
「やめろ!!離れるんだ!」
『ダリル!落ち着いて?ね?』
「シェーン!」
「触るな!!」


シェーンとダリルの殴り合いが始まりそうになり
全員で2人を引き離そうとする。


「ハーシェルと話をつける!」
「何を話すと言うんだ!?」
「シェーン!やめて!」
「始末するとしても彼を説得してからだ」
「彼は人間だと思ってる!病気にかかった妻だと…」
「……知ってたのか?」
「昨日、彼と話した」
「ならなぜ言わない!?」
「一晩待ってからでもいいと思った。
 言おうと思ったらグレンが……」
「ハーシェルはイかれてるんだ!」


すると突然、納屋の扉が激しい音を立て始めた。
興奮したみんなの声を聞いて、ウォーカーが扉を叩き始めたのだ
ダリルがとっさに私を背中に隠す。
武器を持っていない今、襲われたらひとたまりもないだろう…


「離れよう…」


リックの一言でその場を離れる。
この事はひとまずリックに預ける事となった。


しばらくして頭が卵で汚れたグレンが戻ってきた。


『……グレン…?その頭どうしたの?』
「マギーにやられた…」
『マギーに?彼女、まだ怒ってるの?』
「いや、そうじゃない……聞いてくれる?」
『いまさらでしょ』
「実はこのグループを抜けて、農場に残れと言われた」
『…どうして?』
「色々言われたけど、まとめて言うと俺を失いたくないらしい」
『……マギーはグレンが好きなの?』
「…さぁ。とにかく頭を洗って来るよ」
『え、えぇ……』


グレンを見送ってテントに戻ると
先程までいたダリルがいないことに気付く。


『ダリル、どこ行ったのかしら?』


外に出て誰かに聞こうと思った時
ダリルが戻って来るのが見えた


『ダリル!どこに行ってたの?』
「別に」


機嫌の悪そうなダリルは一言だけ言うとテントの中へ
追いかけるべきか悩んだが、私もテントの中へ入る


『どうしたの?大丈夫?』
「なんでもねぇ」
『でも怒ってる』
「ほっとけよ!」
『……ダリル』


ダリルの背中に視線を投げかける。
後ろを向いていたダリルはチラッとこちらを見た。
ダリルを後ろから抱きしめる。


『言いたくないなら言わなくていい』


しばらくの間、じっとこうしていた。
するとダリルは突然振り向き、私の顔を見つめた


『…なに?どうしたの?』
「ちょっと行って来る」
『行って来るって……どこへ?』
「川辺だ。キャロルに見せたいものがある」
『分かった…気を付けてね』
「あぁ」


ダリルを見送り、テントの中で寝転ぶ。
1人だと静かだな……


「ねぇ、エリー。起きてる?」
『カール?起きてるわよ』
「あっちへ行こう。暇なんだ」
『えぇ、いいわ』


カールと手を繋いで家へと向かった。
ベスと3人で話していると、マギーとグレンが
仲よさそうにやってきて階段に座り込んだ。
グレンは座る前に私にウインクするのを忘れなかった。
どうやら上手くいったようだ。

続いてTドッグとアンドレア。
ダリルとキャロルも戻ってきた。
少し後ろにはシェーンもいる。


「それは?」
「欲しいか?」


尋ねたダリルにシェーンは銃を渡す。


『ダリル、よくないわ』
「決断の時だ!みんな武器を取れ」
「デールは?」
「すぐに来る」
「でも銃は禁止だ」
「そう言ってられるか!安全だと思ったから留まった!
 だが違った!!グレン、お前はこのままでいいのか?」


マギーとシェーンを交互に見て、無言で銃を受け取るグレン


「よし、それでいい。」
「今夜にでも父さんに追い出されるわよ!」
「シェーン、だめだよ」
『リックとハーシェルを待たなきゃ』
「なにごとなの!?」
「ハーシェルはいい加減、現実を見るべきだ」


シェーンは銃を持ってカールに近付く。


「ソフィアを探すんだろ?なら銃を持て。ママを守れ」
「リックの決定よ。勝手に変えないで」
「おい、うそだろ…?」


私達、全員が目を疑った。
ハーシェルとリックが…ウォーカーを連れて歩いている。
シェーンを始めみんながリックの元へと走り出す。
私とローリはカールがいる為、出遅れた。
シェーンがずっと何かを叫んでいる。


「先に行って」
『分かった』


私も彼らの元へ走り出す。
シェーンはウォーカーの危険性を訴えているらしい。
病人ではないと叫んでいる。


「シェーン!黙れ!!!」
「ハーシェル、教えてくれ。生きてる人間はこれでも歩くか?」
「やめろ!!」


リックが止める中、シェーンは銃を3発
ハーシェルが連れているウォーカーに撃ち込んだ。


「胸に3発だ!生きてる人間ならなぜ歩ける!?」


シェーンは発砲を辞めない。
そしてとうとう…ウォーカーを殺した。


ハーシェルは唖然としている。
目の前で起こった出来事が信じられないかの様だ。
私達もシェーンの行動にショックを受けていた。


「消えた少女を探すのも!バケモノの近くで暮らすのも
 ウンザリだ!!!リック!現実から目をそらすな!
 戦わなければ生き延びられない!今だって戦うべきだ!」


シェーンは納屋へと走り出す。
リックはハーシェルの名を呼び、棒を持たせようとしたが
魂の抜けた様に座り込むハーシェルには届かない。
その間にもシェーンは扉を開けようと行動している。
リック、グレンがシェーンを止めようと叫ぶ中、
とうとうシェーンは扉を開けてしまった……
中からウォーカーが溢れ出す……


『やめて……お願いだから、やめて…』


私の叫びは誰にも届かない。
グレンもマギーに言われ、ウォーカーを殺しに進み出た。
ローリとカールは座り込み、リックは成り行きを見守るしかない。

そしてウォーカーが全員倒れたと思ったその時…
中からソフィアがウォーカーとなって現れた。


私達、全員の顔に絶望の色が映る。
キャロルはソフィアに向かって駆け出したが
ダリルがキャロルを受け止めた。

誰もソフィアを撃てず、ソフィアも歩みを止めない。

するとリックが進み出て、ソフィアの頭を撃った。






[ 109/216 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]