〜エリーSide〜


『もうすぐグリーン農場だよ。ダリル』
「あぁ……」
『見えてきた…!』


グリーン農場が見えて来て、また泣きそうになる。
早くダリルをハーシェルに見せなきゃ…


『ダリル。先に行ってリック達を呼んで来ようか?』
「……いい」
『でも担いでくれるかもしれないから、ね?』
「……あぁ」


グリーン農場に入ると私は助けを求めるべき走り出す。
目の前からリック、シェーン、グレンが走って来る


『グレン!助けて!ダリルが…』
「ダリル?」
『ひどいケガをしているの!』


グレンが慌てる私の腕を掴み、話をしっかりと聞いてくれる。
リックとシェーンは私の側をすり向けて行く


「また俺に銃を向けたな!?」


ダリルの声に振り向く。


『やめて!リック!ダリルなの!』
「ダリル…?」
「撃てよ!」
「すまない…」
『お願い、ダリルを助けて、早く手当てを…』


そう言った瞬間、銃声が農場に響き渡る。
目の前でダリルが崩れ落ちる。


『いやぁぁあああ!』
「ダリル!」
『ダリル!ダリル!』
「大丈夫だ、生きてる!」
『離して!ダリル!!』
「グレン!エリーを任せた!
 シェーン!ダリルを連れて行くぞ!」
『ダリル!』
「落ち着け、エリー!」


ダリルはぐったりしたまま、リックとシェーンに運ばれている
私はグレンに抑えられ、ダリルに近付く事が出来ない。
私は涙を流し、泣き崩れた。
グレンが私の顔を両手で掴み、顔を上げさせる。


「しっかりしろ、エリー。ダリルは生きてる。な?」
『うっ、うぅぅ。ぐれん……』
「大丈夫だ、大丈夫……」


グレンに強く抱きしめられる。
そしてTドッグが私達が拾ってきた人形に気付いた。


「これ…ソフィアのだろう?」
「エリー、何か知ってるか?」
『……拾った…』
「とにかく急ごう」



ダリルは家に入れてもらい、ハーシェルの手当てを受けた。
リックとシェーンのみが中に入る。
ダリルの意識が覚めたらしい。
手当てを終えた私、アンドレア
ローリは外で待機をさせられている。


『ダリル………』
「エリー…本当に…ごめんなさい…」
『……アンドレア…あなたに悪気が無いのは分かってる。
 だから本当に悪いんだけど、今は話しかけないで…』
「……分かったわ。ごめん…」


ローリは私の肩を抱いてくれた。
アンドレアはそっとその場からいなくなった。
彼女も傷ついているのは分かってるけど…
今、私には彼女まで気遣う余裕はない。


リックとシェーンが部屋から出てくる。


『ダリルは!?』
「大丈夫だ。中に入ってもいい」
『ありがとう…』


中に入るとベッドにダリルが寝転がっていた。
ハーシェルも部屋を出るところだったらしい


『ハーシェル、本当にありがとう』
「あぁ」


ハーシェルは私の肩を叩くと部屋を出て行った。


『平気…?』
「あぁ、平気だ」
『本当に良かった…』
「座れよ」


ダリルに言われてベッドの端に座り、手を握る。


『ダリルが倒れて生きた心地がしなかった…』
「お前を置いて死ねるかよ。
 お前を守れるのは俺だけだろ?」


ダリルはそう言うと私を引きよせてキスをした。


「お前は本当によく泣くな…」
『泣かせてるのはダリルでしょ?』
「そうか?」


ダリルからのキスの攻撃が始まる。
ついばむ様なキスから濃厚なキスへと変わる。
苦しくなってきた所をダリルが気付き、止めてくれる。
ぼーっとした顔でダリルを見つめる。


「……ヤりてぇ」
『バカじゃないの…ダメに決まってるでしょ』
「ちっ」
『ケガ人は大人しく寝てなさい』
「お前はそうやってずっと笑ってろ」
『…ふふ、うん』


ダリルが涙をぬぐってくれる。


『一度寝た方がいいわ。また後で来るね』
「あぁ」


最後にもう一度、キスをして部屋を出る。
部屋を出てリビングへ向かう途中で
涙を浮かべているアンドレアに会った。
アンドレアは私に気付くと、涙をぬぐい、鼻をすすった


『アンドレア』
「…っ、なに?」
『さっきはごめんなさい。
 あなたも傷ついているのに、酷いこと言って…』
「いいのよ。私が悪いの…ごめんね、エリー」


アンドレアをぎゅっと抱きしめる。
またアンドレアは涙を流した。


『お姉さんなのに泣き虫ね』
「エリーだって泣いてるじゃない」
『私はいいのよ。アンドレアより子供だもん』
「こんな時だけずるいわ」
『特権よ』


私達は笑うと、手をつないでリビングへ向かった。
リビングではキャロルとローリが料理を作っていた。


『わぁ、美味しそう…』
「エリー、ダリルは大丈夫?」
『平気よ。今は眠ってる』
「良かったわ。夕飯は食べられるかしら?」
『たぶんね。……ちょっと外の空気を吸ってくる』
「えぇ。行ってらっしゃい」
「遠くへは行かないでね」
『うん、分かってるよ』


外に出ると農場の良い空気を感じられる。
深呼吸をして農場をブラブラ歩き始めると
見張りをしていたデールが近付いてきた。


「平気か?」
『ダリルは平気よ。今は寝てると思うわ』
「そうじゃなくて…君だよ。」
『私…?』
「あぁ、もう大丈夫か?」
『えぇ。ダリルが生きてるもの。平気よ』
「そうか。」
『少し散歩していたいの。いい?』
「あぁ。見張りは任せてくれ」
『いつもありがとう』
「かまわんよ」


デールはいつも空気を察して、助けてくれる。
アンドレアとは色々ある様だけど、私はデールが大好きだ
ここにいるみんなが大好き。誰ひとり欠けて欲しくない。

私は農場の芝生のど真ん中で寝転がる
空は以前と変わらず、こんなにも美しい。
目を閉じると爽やかな風を感じるのに…
世界は大きく変わってしまった。


気付けば私は寝ていた様で、隣を見ればグレンが座っていた。


『……グレン…?』
「こんな所で寝てたら風邪引くぞ」
『毛布かけてくれたの?ありがとう』
「デールが教えてくれたんだ。エリーが寝てるって」
『優秀な見張り役ね』
「ははっ、そうだな」


グレンはにっこりと笑いかけてくれた。


「知ってた?マギーって22歳なんだって」
『本当!?』
「あぁ、同じ年だろ?」
『うん、信じられないわ…』
「アメリカの子は大人っぽいから」
『羨ましい……』
「エリーはエリーで素敵だよ」
『ありがとう、グレン』
「さぁ、もうすぐ夕飯だよ。行こう」
『うん』


グレンが差し出してくれた手を握って立ち上がる。
家に戻るとキャロルがダリルに夕飯を運んだ後だった


「あら、エリー。おかえり」
『ただいま。すっかり寝ちゃってた。
 デール、グレンに教えてくれてありがとう』
「あぁ。」
「エリー、ダリルと一緒に食べる?」
『いいの?』
「えぇ。これエリーの分よ」
『ありがとう、ローリ』


自分の夕飯を受けとり、ダリルの部屋へ入る。
ダリルはまだ夕飯に手を付けていなかった。


『ダリル、私もここで食べていい?』
「…なんだ?みんなと食べろよ」
『ここがいいんだけど…ダメ?』
「…好きにしろ」
『ありがとう』


ダリルに微笑むと、寝ころんでいたダリルは起き上がり
私に"座れよ"と言うとご飯を食べ始めた。
私はそれをじっと見つめていた。


「……なんだよ」
『ううん…』
「食べにくいだろ?」
『ふふ、ごめん』
「お前も食べろよ」
『うん、いただきます』


ダリルが生きてる。
こうやってご飯を食べてる。
それだけのことがとてつもなく嬉しかった。


『ごちそうさまでした。ダリル、おかわりは?』
「いい。腹いっぱいだ」
『本当?』
「あぁ」
『じゃあ食器を片付けてくるね』


ダリルは頷くと私に食器を渡した。
私はにっこりほほ笑むと部屋を出ようとした。


「エリー」
『ん?なぁに?』
「今夜はどこで寝る気だ?」
『特に考えてはなかったけど…』
「ここにいろ」
『え?』
「狭いが…2人くらい寝られるだろ」
『でも…いいの?』
「あぁ。1人でテントは怖いって言ってたろ?」


出会ったばかりの頃にダリルに言った事だ。
まさか彼が覚えていてくれているとは…


『ありがとう…じゃあお言葉に甘えて…
 食器を返してシャワーを浴びたら来るね。
 ダリルは…シャワーは無理ね』
「一緒に入ってくれるなら大歓迎だぜ?」
『いやよ、恥ずかしいもの』


肩をすくめて布団に入ったダリルを見てから
食器を返しにリビングへ行った。


『アンドレア、洗い物手伝いましょうか?』
「平気よ。ベスとマギーが手伝ってくれる予定なの」
『そう…じゃあ先にシャワーいくわね』
「えぇ、ごゆっくり」
『ありがとう』


シャワーを浴び、髪を乾かしてから
みんなにおやすみを言ってダリルの部屋へ入る。


『……起きてる?』
「あぁ」
『本当にいいの?』
「入れよ」
『お邪魔します』


ダリルのベッドに入るとダリルが抱きしめてくれる
胸に顔を近づけると確かに心臓の音が聞こえる。
その音が何よりも私を安心させてくれた。
ダリルがわたしの髪を手で触る。


「髪、乾かしたんだな」
『誰かさんに襲われない様にね』
「なんだよ。嫌なのかよ」
『嫌とかじゃなくて、ダメなの。』
「少しくらい、いいだろ?」
『ダリル。あなたは絶対安静なの』
「ちっ、つまんねぇ…」
『今日は大人しく寝て。ね?』
「……分かったよ」


おやすみのキスをして眠りにつく。
私は昼寝したにも関わらず、ダリルの体温と心音に
すっかり安心して、すぐ眠りについた。





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