「おはよう。すぐ出発するぞ」
『おはよう……』
「おはよう、エリー。早く目を覚まして」


目をこすりながら挨拶をすると、ローリが笑いながら
私の両頬を両手で包んで動かしてくる。


『んふふ、分かってる』
「さぁ、行って」
『うん』
「今日から新しい捜索範囲を割り当てる。
 予想よりさらに東へ行った可能性がある」
「僕も行くよ。土地勘がある」
「ハーシェルは?」
「あなたさえ、よければと」
「……分かった。頼むよ」
「その家に隠れてたのは間違いなくソフィアか?」
「可能性はある。食器棚に入れる背丈だ」
『小柄な私でも入るのはキツかったわ。子供じゃないと』
「確かに」
「足跡をたどろう」
「俺は馬を借りて尾根まで行き、上から捜索する」
『もちろん、私も付いて行くわ』
「チュパカブラも見つかるかもな」
「チュパカブラ?」
「ダリルが話してくれた。
 "リス狩りをしててチュパカブラを見たとね"」
「はは」
「なに笑ってんだ」
「吸血犬を信じるのか?」
「死人も歩く」


するとジミーが銃を取ろうとする。
リックがそれをはばみ、質問を投げかける


「ジミー。銃を撃ったことは?」
「俺も持ちたい」
「ガキはやめとけ」
『もう、ダリル…』
「明日訓練をしよう。本気なら教えてやる」
「私が連れて行く」
「子守を頼むよ」
「よし。アンドレアとTドッグはジミーとここへ」


「エリー」
『なに?グレン』
「少し、戻るよ」
『…マギー?』
「あぁ」


グレンはウインクすると家へと向かった。


「エリー、馬は一緒でいいか?」
『えぇ、もちろん。1人で乗った事ないもん』
「……借りてくる」
『分かった』


私は必要な物を揃え、ダリルを待つ。
馬を借りてきたダリルと共にグリーン農場を後にした。


しばらく2人は最低限の会話で森の中を進む。


『ねぇ、あれってソフィアが持っていた人形じゃない?』
「……見てくる。お前はここで馬を見ていてくれ」
『1人で平気?』
「あぁ、大丈夫だ」


ダリルはクロスボウを構えると下に降りて行った。
人形を確かめるとソフィアの名前を呼ぶ。
辺りを見回すが、誰も近くにはいない…


「いるか?」
『いないわ!』
「……行こう」


ダリルと共に馬に乗り、再び奥へと進む。
すると突然、乗っていた馬が暴れ出す。


「落ち着け…!」
『ダリル!?』
「大丈夫だ、うおっ!」
『だり、ああっ!』


暴れ出した馬に放り出された私達は谷底へと落ちて行った。
そこで私は意識を失った。






〜ダリルSide〜


「なんなんだ…?」


暴れ出した馬に放り出された俺達はまっさかさま。
くそっ、なんだか体がいてぇ……

俺の体にクロスボウの矢が刺さっていた。
痛みで満足に動くことも出来ない。
そうだ。エリーは!?

辺りを見回すと、意識を失い倒れているエリーが…
息はしている様だが、頭から血も出ている。
腕からも血が出ているが、俺の方が重傷だ

一体どうすれば…エリーを抱えてここを登るのは無理そうだ。
かと言ってこのままここにいたら、俺が死んじまう。
まずは袖を破って自分の体に巻き付けた。
これで少しは出血もおさまるだろう……


「エリー、起きろ…」


エリーを起こそうとするが、意識が覚めない。
死んだように意識を失ったままだ…


「頼む…起きてくれ…」


エリーの胸に顔をうずめる。
くそっ…俺がもっとしっかりしていれば……


「あぁぁぁ…」
「…!ウォーカー…!」


襲ってくる奴らからエリーを守らないと…
数は多くないが、今の体には酷だった。
ウォーカーを倒し、エリーを水から引き上げる。

そして俺は隣に寝転ぶ。
あまりの痛さに意識を手放しかけた。


「……つっ…」
「矢を抜いちまえよ。傷口をふさげ」
「メルル…」
「ここで何してる?昼寝か?」
「……最低な日だ」
「枕が欲しいか?足をさするか?」
「うるせぇ…」
「みっともねぇな。せっかく鍛えてやったのにこのザマだ
 まるで廃タイヤみてぇだ。何のためにこんな所で死ぬ」
「少女だ。行方不明に…」
「ロリコンになったか?」
「黙れ」
「兄貴を捜しもしないで」
「必死に探したさ…」
「何が必死だ。チャンスをみすみす逃した」
「それは兄貴だ。待ってりゃよかった。
 リック達と助けに戻ったんだぜ…?」
「俺に手錠をかけたリックか?おかげで手を切るハメになった」


メルルの言葉に手を見れば、そこに確かにある手…
これは、俺の幻想か…それとも現実か…?


「お前はリックの下僕か?」
「下僕じゃない」
「ヤサ男や黒人、民主主義野郎のパシリだろ
 そのうち捨てられる。分かってるだろう?
 お前は裏で笑われてる。血のつながりのない…
 赤の他人だ。お前を誰よりも気にかけてるのは俺だ
 さぁ、蹴られない内に早く立て。」


違う、そうじゃない…
メルルは立つんだ、と俺に言い、足を蹴る。
足を蹴られている感覚が消え、メルルも消えた。
するとだんだん泣き声が聞こえてきた。

エリーか…?


目を開けると血だらけのエリーが。


「エリー…?」
『ダリル!!良かった……
 どうしよう、クロスボウが…
 矢が…ダリルの体に……』
「……大丈夫だ…」


泣き続けるエリーを寝たまま抱き寄せると
エリーは俺の胸で、また泣き続けた。


「あんまり泣いてるとウォーカーが来るぜ…」
『だって、ダリル…矢が…』
「大丈夫だ。起こしてくれ。帰ろう」


エリーは目をこすると俺に手を差し出した。
俺はエリーに手を借りて起きる。
すると足元にウォーカーが一匹、転がっていた。


「……エリーがやったのか?」
『うん……クロスボウ、上手く使えたよ』
「そうか……助かった」
『歩けそう…?』
「あぁ、その前に矢を抜く。
 ……あっち向いてろ」
『う、うん…』


兄貴の言うとおりだ。
矢を抜いて止血をしないと…

クロスボウの矢を抜いて急いで止血をする。


「もういい。行こう」
『うん…』


側にあった長い棒を杖にエリーと歩きだす。
問題はこの坂だな…


「エリー、先に登れるか?」
『うん…ダリルは?』
「俺は後から登る。エリーは上で辺りを警戒していてくれ」
『……分かった。』


エリーは登り始める。
途中、落ちそうになったが、なんとか登りきった


『上は大丈夫だよ』
「あぁ、すぐ登る…」


痛む体を抑え、登りだすが、相当キツい。


「鳥にエサでもやるか?」


またメルルか……
さっきから何の用だ…


「どうしたんだ?ダリルちゃん。もう限界か?」
「早く消えろ」
「そう言うな。味方だろう?」
「いつからだ」
「生まれた時からだ。俺が面倒見てやった」
「ウソつけ。ほったらかしだった。
 今だってそうだ。変わらない……」
「教えてやろう。チュパカブラと同じだ」
「本当に見た」
「あの時食べた毒キノコのせいだ」
「殺すぞ」
「殺せよ。登って来られたらな?
 やれるもんならやってみろ。ん?
 ハイヒールでも履いてんのか?
 諦めたっていいんだぜ?どうせ登れない」


雄たけびをあげて手を伸ばす。


『ダリル!』
「エリー…?」
『平気?』
「……あ、あぁ…」


俺はエリーの手を取ってまた歩き始めた。





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