森の中を歩いていると、突然銃声が鳴り響く。
ローリは立ち止まり後ろを振り返る。


「心配しているの?」
「…銃声がしたわ」
「確かに……」
『一発だけだったよね?』
「どうして一発なの?」
「一匹いたんだろ?」
「一匹なら銃を使わずに始末するはずよ」
『ナイフで倒しきれなかったのを銃で殺したのかも』
「でもまだ来ないなんて…」
「森を捜し回るわけにはいかない」
「どうすれば?」
「ソフィアの為に道路に戻ろう」
「車で合流出来るはず」


アンドレアの言葉に歩き出す、ローリ
ダリル、グレン、私も後に続く。
アンドレアは後ろにいるキャロルに優しく声をかけた


「辛いでょうね……分かるわ」
「でしょうね。ありがとう。
 娘が1人で森の中に居るかと思うと…
 胸が張り裂けそうだわ。
 ……エイミーの様になったら…」


その言葉に全員がアンドレアの顔を見る。


「あぁ、ごめんなさい。酷い事を言ったわ」
「……いいえ。みんなソフィアの無事を祈ってる。」
「言っておくが、祈るなんて時間の無駄だ。
 みんなで捜せば、あの子は助かる。
 まともなのは俺だけか?」


ダリルはそう言うとさっさと歩き始める。
みんなもダリルの後に続く。
私はアンドレアの手を握ると
アンドレアも悲しそうに笑って手を握り返してくれた。


私達はそれからもソフィアの探索を続けるが
ソフィアが見つかるどころか手がかりすら見つからない。


「じきに日が暮れる。引き返そう」
「続きはまた明日?」
「もちろんよ」
『ソフィアが見つかるまで捜すのよ。キャロル』
「ありがとう……」


キャロルの手を握り目を見て話しかけると
力なく、キャロルはお礼を言った。
私達だけでこんなにも辛いのだから
きっとキャロルは想像も出来ないくらい辛いのだろう。


「行くぞ」
「移動距離はどれくらい?」
「大したことない。直線距離で90メートルぐらいだ」
「実際はもっと歩いてる…」
『グレン』
「なに?」
『90メートルってどれくらい?』
「……またか、エリー」


グレンに意味が分からないと顔を向けると
CDCでも似たような質問をダリルにしてた、と言われた。


『あぁ、125マイル?』
「そう」
『だってよく分からないんだもん』
「分かっても直線距離じゃ意味ないわ」


アンドレアはそう言うと右側にズレて歩いた。
私とグレンも左側に寄ってソフィアを探す

しばらく歩いていると、アンドレアの悲鳴が聞こえ
ローリがアンドレアを呼ぶ声が聞こえる。
みんなが走り出した方向に、私とグレンも走り出す。
ウォーカーに襲われているアンドレアが見えた瞬間、
馬に乗った女性がウォーカーを倒してアンドレアを救ってくれた


「ローリ!?」
「いいえ…」
「ローリは私よ」


ローリが戸惑いながらも名乗り出る。


「後ろに乗って!カールが撃たれたの!!」
『カールが…?』
「リックが待ってる」


彼女の言葉にローリはリュックを下ろす


「おい!待て!知らない女だぞ!?乗るな!」
「道路が塞がっているとか?」
『え、えぇ…』
「道を引き返して!グリーン農場にいるわ」


謎の美女はローリと共に去って行く。
私達はそれを見守ることしか出来ない。
先程のウォーカーが起き、ダリルが頭に矢を撃ち込んだ。


『大丈夫…?』
「えぇ…ありがとう…」


アンドレアに手を貸し、起こすと
私達はダリルに続いて、また歩き出した。



「撃たれたとは何事だ!?」
「分からない…若い女の子がローリを馬で連れて行った」
「止めずに?」
「リックが寄越した女だ。名前を知ってた」
「叫んだのは君か?」


デールの質問にダリルとアンドレアは
さっさと車の中に戻ってしまう。


「ウォーカーに襲われて危なかった」
「大丈夫か?」


アンドレアは黙って首を横に振った。


『…みんなちょっとナーバスになってるの』
「色んなことがあったからな…仕方がない…」
『そうだね……』
「グレン、詳しく話してくれるか?」


デールはグレンから詳しく話を聞くと
一度、車に戻ったダリルとアンドレアを呼び
今後どうするかを話そうと言った。


「グリーン農場に行くべきじゃないか?人数も減って弱ってる」
「そんな…娘が戻って来るかもしれない!そうでしょ?」
『ソフィアが戻った時、ここに誰もいないのはまずいわ』
「そうだな…何か手を考えよう。
 明日、移動する時には移動先を書き残して…
 物資も置いて行こう。今夜は車内に泊まる。どうだ?」
「俺も残るよ」
「2人とも…ありがとう」
「私も」
『私もよ!』
「それじゃ、俺も」
「いや、お前はキャロルの車で行け」
「なんでいつも俺なんだ?」
「グリーン農場を探すんだ。
 Tドッグのケガを手当てしなくては…
 傷はどんどん悪化して、血液感染を起こしている。
 農場に連れて行って抗生物質を与えないと…
 Tドッグは死ぬ。」


デールの口から"抗生物質"と言う言葉が出た瞬間
ダリルは自分のバイクへと歩いて行く。
そしてかばんを取ると戻って来た。


「兄貴の荷物をあさろう」
「なぜ今まで黙ってた?」
「覚せい剤は役に立たないな。
 鎮痛剤が合った。ちゃんとした抗生物質も
 よく効くぞ。兄貴が飲んでた。」


そう言うとダリルは薬を投げ渡し
またどこかへと歩いて行ってしまった。


『デール。こんな事言うのもなんだけど…』
「なんだ?エリー」
『ダリルのお兄さんの…』
「メルルか?」
『そう。メルルを置き去りにしたでしょ?
 あれから皆との間に溝が出来ていた様だし…
 だからダリルもきっと…言い出せなかったんだよ』


私の言葉にデールは黙りこむ。


『だから分かってあげて…』
「そうだな…とりあえず今は薬を飲ませよう」
『そうだね』
「俺は準備をしてくるよ」


グレンはひとり、出発の準備を始めた。
私はTドッグに薬を飲ませるデールをずっと見ていた。

グレンの準備が出来た頃、ダリルが私の側にやって来た


「エリーも一緒に行け」
『私?どうして?』
「グレンとTドッグを援護をしてやれ。
 Tドッグに何かあった時、グレン1人だと対処できない。
 それに…ここより農場の方が安全だろう」
『……分かった』


ダリルが頷くのを見ると私も準備を始める。
そんな私にダリルは小さなクロスボウを差し出した


「これも持って行け」
『使い方が分からないわ』
「ここに矢を入れて引き金を引くだけだ。
 ウォーカーを殺すには威力は十分足りるだろう」
『分かった。ありがとう』


運転席にグレン、助手席に私が座る。
とても辛そうなTドッグは後部座席で寝ていてもらうことにした。


「じゃあ、行くよ」
「気を付けて」
『みんなも気を付けてね』


みんなが見送ってくれる中、農場に向けて出発する。
ダリルもこちらを見てしっかりと頷いてくれた。

出発してすぐグレンが話し出す。


「Tドッグは?寝た?」
『えぇ。すやすや寝てるわ』
「前から聞きたいことがあったんだけど」
『なに?』
「いつからダリルと付き合ってるんだ?」
『付き合ってないわ』
「…うそだろ?」
『ほんとよ。付き合ってない』
「ほんとに?」
『ほんと。グレンに嘘は付かないわ』
「……エリーはダリルのこと、どう思ってる?」
『私は……ダリルの側にいると安心するし、ずっと側にいたい。
 ダリルの吸いこまれそうな青い目も、不器用な優しさも……
 全てが好きよ。でもこの世界で付き合う、付き合わないだなんて
 なんだか考えられなくて…ダリルの気持ちも分からないし…』
「ふ〜ん……」
『でも突然どうして?』
「最近、ずっと一緒にいるだろ?
 ダリルも何かとエリーを気にかけているし」
『そうかな?』
「俺にはそう見えるけど」


グレンの言葉にクロスボウを見ながら少し考える。
第三者のグレンがそう言うのだから、そうなのかもしれない…
だからと言ってどうなるわけでもないんだけど…


「応援するよ」
『ありがとう』
「いいって。エリーは妹みたいなものだからさ」
『ふふ、頼りにしてるね、お兄ちゃん』


そう言うとグレンは嬉しそうに笑った。

グレンと話しているとあっという間に農場に着いた。





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