もうあたりが暗くなり始めた。
3人はまだ戻らない……


『グレン。3人は大丈夫かな…?』
「……大丈夫さ、きっと…」


そんな会話を交わした時、
リックとダリルが戻ってきた。
2人だけだ………


「いなかったの?」
「足跡が途絶えた。明日の朝、また探しに行く」
「一晩中、森の中で1人にするの?」
「暗闇の中探せば俺達が道に迷っちまう」
「まだ12歳なのよ?本当に何も見つからなかったの?」
「辛いのは分かるが、落ち着いてくれ」
「途中までは辿れた」
「追跡はダリルの得意分野だ。彼が指揮をとってくれている。」
「…それは……血なの?」


キャロルの言葉にダリルを見つめる。
ダリルはキャロルと自分の服を交互に見た後
なぜか視線を逸らした。


「ウォーカーのだ」
「ソフィアは襲われていない」
「どうして分かるの?」


アンドレアの質問に答えにくそうにするリック


「腹を割いて確かめた」


全員が息をのむ。
でもまだ希望はある、ソフィアは生きてる。

座り込んでしまったキャロルをローリが支える


「どうして娘を置き去りにしたの?」
「ウォーカーが2人いた…引き付けるしかなかった」
「唯一の選択肢だ」
「1人で来た道を帰らすなんて…!」
「2人が助かるためには囮になるしかなかったんだ…」
「誰でもそうした」
「娘は1人ぼっちで森に……」


囮になった、というリックの言葉にローリは反応したが、
リックは気付かずにキャロルを見つめていた。
キャロルはソフィアの安否を心配し…
アンドレアとローリがキャロルを支え、
リックは1人でどこかへ行ってしまった。
きっと責任を感じているに違いない。
何か声をかけてあげたいけど…かける言葉が見つからない。

全員が黙ってキャロルを見つめる。
思うことは同じ。みんなソフィアを心配していた…


ダリルは黙ってガードレールを乗り越えると
車の方へと歩いて行ってしまった。
ダリルを見つめる私の視線に気付いたグレンは
そっと肩を叩き、私の背中を押してくれた。


『ダリル…』
「…なんだ」
『ケガはない?』
「あぁ」


下を向いているダリルが、なんだか小さく見えた。
思わずダリルを抱きしめると、ダリルも抱きしめ返してくれた。


『明日はみんなで探そう。範囲を広げるの』
「そうだな…」
『大丈夫、きっと見つかる』
「……あぁ」


ダリルの頬にキスを落とす。
捜索から戻ってはじめてダリルは私を見た。
ダリルに やっとこっち見た と言うと
少し穏やかな表情になってキスをくれた。

明日の朝は早くからソフィアを探しに行く。
体力を失わないために、ダリルと早めの就寝に着く。
ダリルはぎゅっと私を抱きしめて眠った。





「みんな武器を持つんだ」


リックのその言葉に、昨日クロスボウを見つけたのを思い出す。
武器をひと通り見たダリルに声をかける。


『ダリル、見せたいものがあるの』
「なんだ?」
『こっち来て』


ダリルの手を引っ張る。
不思議そうな顔をしながらも付いて来てくれる。
まずは小さいサイズのクロスボウを見せる


『じゃーん!!昨日見つけたの!』
「クロスボウか」
『うん!使えそう?』
「……壊れてはなさそうだな。
 探索から戻ったら見てみよう。威力も知りたい。」
『ありがとう。あとね、これ!矢も見つけたんだけど、
 こっちのクロスボウには大きすぎて使えないから。
 ダリルのクロスボウで使える?』
「貸してくれ」


ダリルに矢を渡すとじっと見た後、試し打ちをした。
矢は問題なく木に飛んで行った


『使えそうだね』
「あぁ、ありがとな」
『うん!』
「………エリー」
『ん?なに?』
「ソフィアを探しに行くことだが…本当に行くのか?」
『もちろん。』
「……油断するなよ。グレンの側を離れるな。いいな?」
『分かったわ』
「何かあったらすぐに俺を呼べ」
『えぇ。みんなも一緒なんだし、大丈夫よ』
「あぁ」


みんなの元に戻るとアンドレアとシェーンが
銃について揉めているようだった。


「こんな武器じゃなくて銃は?」
「ダリルとリック、俺が持っている
 木が揺れるたびに撃たれちゃ困る。」
「木じゃないかも」
「群れが近くにいたら?全員の命が危ない。分かってくれ」
「エリーは?」
『え?』
「昨日、銃を持っていなかった?」
「彼女も短期間だが、訓練を受けている。」
『私の銃はサイレンサー付きよ。
 でもアンドレアが納得しないなら私も銃は置いて行く』


アンドレアは納得していないような顔をしたが
それ以上、何も言ってこなかった。
シェーンの方を向くとシェーンは持ってろと言った。


「まだウォーカーと戦った事がないエリーに
 ナイフで戦えというのは酷だ…銃を持っていてくれ」
『ありがとう、リック』
「もういいか?小川に沿って8キロほど行き、戻ってくる。
 いるとしたら小川の近くだろう」
「静かに進もう。見える範囲で距離を保つんだ」
「荷物を持て」


シェーンの言葉に私も荷物を持ち、準備をする。
デールとアンドレアが何か揉めているようだった。
さっきの銃のこともあるので遠くから成り行きを見守る。

2人の溝が埋まるといいのだけど…


そしてダリル、リックが先頭
最後尾がシェーンで森の中に入る。
カールが探索に付いてきたことには驚いた。
私はダリルに言われた通り、グレンの側を歩く。


森の中を歩いているとテントを発見した。
どうかここにソフィアが隠れていて欲しい……
キャロルもそう願いを込めて優しく声を掛ける。


…が、ここにはソフィアはいなかった。
中には生きるのをあきらめた男性しかいない…

その瞬間、どこかから鐘の音が鳴り響く。
全員で鐘の音を頼りに森の中を進んで行く。


すると教会を見つけた


「どういうことだ?鐘がないぞ」


リックはかまわず教会に向かって走り続け
私達も必死に後を追いかける。

教会の中にはウォーカーが3人。
リックはローリからナイフを受け取り、
シェーンも中に入っていく。
ダリルがこちらをチラリと見たのでナイフを渡し
クロスボウを受け取る。
3人はあっという間にウォーカーを殺した。


「ソフィア!!!」
「キリストさん。望みを叶えろよ」
「この教会じゃない。鐘がないだろう?」


そうシェーンが話し始めたとたん
また先程聞こえた鐘の音が鳴りだす。
ダリルとグレンが1番に外に飛び出していく。

どうやら鐘の音はタイマーで鳴るようだ。


「……少し中にいるわ」


そのキャロルの言葉に一同、休憩を取る。
ダリルにクロスボウを渡して近くの木の下に腰かける。


「飲むか?」
『自分のがあるから大丈夫よ』


ダリルは頷くと水を飲む。
私はそんなダリルをじっと見つめていた


「……なんだ?」
『んーん。何もないわよ』
「…変な奴」


そう言うと隣に腰かけたダリル。
ダリルの肩に頭を預けて遠い空を見上げる

しばらくそうして座っていると
少し遠くにいるリックとシェーンの元へ
みんなが集まっているのが見えて、私達も移動する。

リックとシェーンはまた揉めている様に見える。
シェーンは頭をかきながらこちらに戻って来た


「先に戻っていてくれ。ダリル、頼む」
『2人は?』
「リックと俺はもう少しここを探してみる」
「分かれるのか?平気か?」
「あぁ、大丈夫だ」
「僕も残る。ソフィアは僕の友達だ」


カールの言葉にリック、シェーンは複雑な表情を見せる。
ローリも悩んだ表情になる。


「気を付けて」
「分かってる」
「いつの間にか成長して…」


ローリはカールの頭にキスをする。
リックもローリに近付き、ハグとキスを交わす。


「すぐ戻る。」
「えぇ……」
「待て。これを持っていけ」
「いいわ、あなたの銃が無くなる」
「これを使え、ほら」


ダリルはどこから出したのか銃を取り出すと
ローリに渡し、リックを見て頷くと歩き出す。
それを見たアンドレアはやはり不服そうだ。


「行くぞ。離れるなよ」
「エリー」
『えぇ』


ダリル、私、グレン、キャロル、アンドレア
最後尾にローリで歩き出す。
大きな木が倒れている所に差し掛かった時、
キャロルが座り込み話し始める。
自然と全員の足も止まる。


「戻ったら…それで終わり?」
「徐々にグループの人数が減るぜ」
「ナイフが武器じゃね。あなたには銃がある」
「欲しい?あげるわ。その目にはウンザリ」


ローリはアンドレアに銃を差し出す。
アンドレアは納得出来ないと顔が物語っているが
ローリから銃を受け取った。


「キャロル。あなたの苦しみは想像も付かないけど、
 いい加減リックを責めるのはやめて。
 あの人は迷わずソフィアを追ったわ、あなた達なら出来た?
 他に選択肢があったなら教えて欲しいわ。」


ローリはみんなを見回すが、誰も何も話さない。
私達には分かってるの…
リックの選択肢以外に道はなかったと。


「彼に頼っておいて、責めるなんて…
 ……彼が必要ないなら離れればいい。」


そう言うと水を飲むローリ。
アンドレアはローリに銃を返し、ただ一言
行きましょう、と言った。
私とグレンはお互い顔を見合わすと、
歩き出したローリの後を無言で続いた。






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