10

他のメンバーはひとまず部屋へ。

私はバイの言った"汚染除去"というワードが
気になって仕方が無かった。


「エリー?」
『………』
「エリー!」
『…!あ……なに?』
「大丈夫か?」
『えぇ…大丈夫よ…』
「本当に?」
『えぇ……』


ダリルはじっと私を見つめた後
キスをして隣に座った。


「不安か…?」
『……うん…』
「そうだな…答えはなかった。」
『そうだけど…そうじゃなくて…
 バイの言ってた"汚染除去"…
 科学施設で燃料が無くなったらどうなるの?
 ここにはたくさんのウイルスがあるんでしょ?
 どうやって汚染除去するの?』
「………荷物をまとめておけ」
『……分かった』


ダリルと私が持ってきた荷物とここにあった食料を
かばんに詰めて、いつでも出られる様に準備をしていると
空調が止まり、遂には電気も消えた。


『ダリル…?』
「大丈夫だ。ここにいる。一度部屋を出よう」
『うん…荷物は?』
「部屋の外に。いつでも持って行けるように」
『わかった…』


部屋を出ようとダリルが外を見ると
ジェンナー博士がちょうど通路を通っていた。


「空調も電気も消えたわ」
「どういうことだ?」
「物事には優先順位がある。」


そういうと博士はダリルの持っていたお酒を取り
飲みながら通路を進んでいく。


「空調も電気も必要だ」
「ゾーン5が自動停止した。」
「一体どういう意味だ?自動停止ってなんだよ!」
「建物が勝手に!?」
「驚いたかい?」


ダリルやみんなが付いていくので、
荷物を中途半端に出した状態で付いていく。
ダリルは博士に詰め寄っていて私からは遠い。
すると下からリック達が現れ、合流した。
仲間が全員、集まった


「どういうことだ」
「システムが不必要な電源を落とした。
 コンピュータの稼働が最優先だ。
 残り時間30分。ほぼ予定通りだ」


そういうと博士は立ち止り、ダリルはお酒を奪う


「フランスと同じだ」
「何が?」
「フランスの研究者はここのみんなが自殺を図る中
 最後まで粘って……答えを出そうとした」
「フランスで何が?」
「今と同じ事さ」
「燃料が切れ、電力が断たれた。
 化石燃料に頼るなんてバカげてる」
『シェーン!』
「シェーンよせ!!
 みんな荷物をまとめろ。脱出するぞ」


リックの合図で全員、動き始める。
私とダリルは準備が出来ている。
食堂に行って何か食べ物を集めよう
そう思い、部屋を出ようとした瞬間、
大きなアラーム音が鳴り響く


「なに?」
「なんなの?」
『この音は何!?』
「汚染除去まで30分です」
「何が起きてるんだ!?」
「荷物をまとめて逃げるんだ!」
「よし!急げ!」


全員が出口に向かおうとした。
一番近くにいた私とグレンが部屋を出ようとした瞬間、
防火扉が作動し、唯一の出入り口が封鎖された。


「そんな…閉じたのか?閉じ込められた!!」
『待って!出して!開けてよ!』


慌てる私達を無視して、ジェンナー博士は
パソコンに向かって話し始めた。


「カール!」
「ママ!」
『どうしたら…』
「一度、戻ろう!」


私はグレンに手を引かれて博士の元へ
ダリルが博士に向かって殴りかかり
シェーンやTドッグがそれを止めている所だった。


「やめろ!やめさせろ!」
「今すぐドアを開けるんだ」
「無理だ。非常口も封鎖されている」
「さっさと開けろ」
「俺には制御できない。
 言ったはずだ。"入り口のドアは二度と開かない"」
『そんな…まさか…』


振り向くとソフィアを抱きしめたキャロルが目に入る
私達、こんな所で閉じ込められたままなの…?
そしてリックが博士に迫る。


「一体、28分後に何が起こるんだ」
「………」
「答えろ!!」
「ここをどこだと思ってる!?
 俺達は人々を悲惨な状況から守って来た!
 エボラ熱のまん延も防いだ!!
 人々を感染から守って来たんだ!
 非常事態に燃料が切れた場合、HITを展開して
 あらゆる有機物を除去する」
「HITとは?」
「バイ。説明を」
「HITとは熱圧力を放つ、燃料気化爆弾です。
 2段階に渡って核爆弾に匹敵するほどの爆発を起こします
 有機体とシステムに大きなダメージを与えます」


リック、ローリ、カールが抱きしめあい
キャロルもソフィアをきつく抱きしめる。
思わず泣きそうになる私をダリルが抱きしめる。


「大爆発が起きる。痛みも悲しみも無い。
 後悔も…吹き飛ぶんだ」


博士の言葉が信じられない……
全員死ぬ?ここで?
やっと愛すべき人達を見つけたのに…
こんなことって、ない……


「どくんだ!」


斧を持ったシェーンが扉に近づき叩き始める。
それを見たダリルはそっと私を離し
私の顔を両手で包むと目を見つめた。


「しっかりしろ。ここから逃げるんだ。いいな?」
『……っ、うん…(頷く)』
「グレン、エリーを頼む」
「あぁ」


グレンに抱き寄せられた私は扉に向かうダリルを見送る


『私達……どうなっちゃうの…?』
「分からない。でもきっと助かる。大丈夫だ」


扉を壊そうとする彼らを見て博士は呟いた。


「じっとしていた方が楽だ」
「楽ですって?」
「外に出たらどうなる?
 苦しみながら死ぬことになる。
 ……君は妹がいたな?」
「……(頷く)」
「名前は?」
「エイミー」
「エイミーの行く末を見ただろ?」
『アンドレアになんて酷いことが言えるの!?』
「最低だ…」
「…リック。妻子が同じ目に遭っても?」
「ここで死ぬのはごめんだ!!」
「どうせドアは開かない」
「殺してやる!!」
『ダリル!』
「よせ!ダリルやめろ!」
「下がれ!そうだ、下がるんだ!」
『ダリル、落ち着いて…』


押さえつけられたダリルは私の顔を見て頷く
ダリルは落ち着いたが、この最悪な状況は何ひとつ変わらない。


「リック。君は昨日、言っただろう?
 愛しい人達が死ぬのは時間の問題だと。」
「うそだろ?」
「希望は捨てていない」
「希望などひとつもない」
「絶対にある。あんた以外の…どこかの誰かが…」
「全て消え去るのよ」
「その通りだ。俺達は消え去る。人類が絶滅するんだ」


誰もがうつむき、諦めようとした時、
ソフィアを抱きしめているキャロルが口を開いた


「それは違うわ。私達を外に出して!」
「1000分の1秒も痛みを感じずに死ねる」
「娘をこんな風に死なせたくない!」
「幸せな事さ…愛する人を胸に抱いてその時を待つんだ」
「シェーン、よせ!」
「邪魔するな!ドアを開けないと頭をぶち抜く!」
「そんなことをしたら出られなくなる!」
「その通りよ!」
「もう遅い。」
「彼が死ねば俺達も死ぬ!シェーン!!」
「…おおおお!!!」


怒ったのかシェーンは発砲を続ける。
あまりにもシェーンの形相と銃が怖くて震える。
グレンが私をかばう様にして守ってくれる。

リックがシェーンから武器を奪い返したが
私は怖くてたまらない。グレンから離れられなかった。


「おーけー。大丈夫。大丈夫だ、エリー」
『ぐれん……(泣)』
「もう気は済んだか!?」


全員が今後の展開を固唾を飲んで見守る


「うそだ…」
「なにが…?」
「望みが無いなんてうそだ
 あんたは研究を途中で投げ出さなかった。
 なぜ厳しい道を選んだ?」
「ほっとけ」
「そうはいかない。話してくれ
 仲間が逃げても残ったのは?」
「望んだ訳じゃない。約束したからだ。
 彼女に…俺の妻だ」
『そんな…TS19は…奥さんなの…?』
「妻に研究を続けろと言われた。
 断れなかった……妻の代わりに俺が死ぬべきだった!
 俺と違って妻の死は世界の損失だ。
 妻がここのリーダーだった。
 彼女はこの分野の天才で…!
 俺は…ジェンナーというただの男だ
 妻ならなんとかできた。俺には無理だ」
「あんたの奥さんは残念だった。
 でも俺達には選択肢がある。
 生き延びるチャンスがある!」


ジェンナー博士の悲痛な叫びを聞いて
誰もが悲しい顔をする。
そんな中、リックは博士に説得を続ける。

リックの想いが届いたのか、博士は防火扉を開けてくれた。
ずっと防火扉を叩いていたダリルが「行くぞ」と声をかけ
真っ先に走り出す。みんな彼の後に続く。
私もグレンに起こしてもらい、みんなの後を追った。


「早く!行くぞ!」
「離して!私は行かない!」
「正気か!?」
「ここに来てやっと正気に戻れた!感染したくない!」
『うそ、うそうそうそ…』
「話し合ってる時間はないわ。早く行って!」
「Tドッグ行くぞ!」
『待って!だって、そんなの!』
「エリーも来い!」
『シェーン!!!』


シェーンに引っ張られて先へと進む。


「エリー!しっかりしろ!」
『だってシェーン!こんな…!』
「彼らの選択だ。彼らの意思だ!」
『……(頷く)』
「よし、良い子だ」


前を向いて走り出すとダリルが私にリュックを投げる
事前に準備していた物だ。
それぞれが荷物を取ると出口へと向かう


「近付いちゃダメ」


キャロルに言われ、ソフィアと私も離れる
男達でなんとかガラスを破ろうとするがなかなか破れない。
シェーンが銃を使うが、ヒビすら入らない。


「だめか……」
「やぶれないの?」
「リック、これならどう?」
「爪やすりじゃ無理だ」
「あなたの制服を洗った時にポケットからこれが…」


そう言ってキャロルが取りだしたのは手榴弾。
よくこれが入ったバッグを乱暴に扱えたものだ…
色んな意味でゾッとした。


「離れろ!」


リックの掛け声を合図に全員が離れる。
ダリルも私の側にやって来て、私に覆いかぶさる


手榴弾が爆発し、リックが爆風で吹き飛ぶ。
ガラスは割れ、全員が無事に外に出ることが出来たが、
外には多数のウォーカーが…!
リック、シェーン、ダリルが倒して進んでいく


「車に乗れ!すぐ出発だ!」
「エリー!こっちに来い!」
『うん!』
「来たわ!!!」


窓からアンドレアとデールの姿が。
2人を乗せたら出発


「デール伏せて!」
「みんな伏せろ!」


建物は大爆発を起こし、全焼した。
こうして私達はCDCをあとにした。




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