次の日、目が覚めると辺りはもう騒がしかった。
少し寝坊しちゃったみたい…
だるい体を起してキャンピングカーを出る。


「おはよう、エリー」
『おはよう、デール』
「大丈夫か?」
『えぇ。なんとかね』
「そうか、良かった」


外に出るとアンドレアの横でローリが
エイミーの埋葬を提案している所だった。
アンドレアは何も言わずエイミーを見つめる。
ローリは諦めて後ろに下がって行った。
私もそっと"おはよう"とだけ声を掛け
ローリ達の元へ向かう。


『おはよう。ごめんなさい、起きるのが遅くなって…』
「いいんだよ、エリー。
 昨日はよく眠れなかったんだろう?
 無理はないさ。もう大丈夫か?」
『えぇ、大丈夫よ。私に何か出来ることはある?』
「そうだな……ローリ、何かあるか?」
「じゃあ洗濯を頼めるかしら?カールとソフィアと3人で」
『分かったわ。2人はどこ?』
「あそこよ。」
『おーけー』
「俺は少しアンドレアと話してくる」
「えぇ、お願い」


リックとローリの会話を背中で聞きながら
2人で遊んでいる所に近付く。
遊んではいる様だけど、2人の顔は暗い…


『カール、ソフィア』
「なに?」
「どうしたの?」
『洗濯するのを手伝ってもらえる?
 私にはまだこの辺りの事が良く分からないの』
「うん、いいよ」
「私も」
『じゃあ行こう』
「「うん」」


2人と手を繋いで必要な物を取りに行く。
アンドレアがリックに銃を向けていた様だが
今はもう降ろしていて、またエイミーを見つめている。
最愛の妹を失ったのは私が想像出来ないくらい辛いだろう
今はそっとしておいてあげるのも彼女のためかもしれない


「こっちだよ」
『ありがとう、カール』
「これを洗えばいいの?」
『そうよ。やり方は分かる?』
「うん。ママがいつもやっているのを見てた」
『賢いわね。カールも分かるの?』
「うん、分かるよ」
『凄いわ!じゃあ私に教えてくれる?』
「もちろんいいよ」


カールとソフィアに洗い方を教えて貰いながら
3人で洗濯を進めていく。
ソフィアも父を亡くしたのだ
カールもずっと一緒にいた仲間を…
きっと辛いはず…
何かをして気を紛らわせている方がいいのかも…


「これで全部?」
『そうね。ママ達の元へ戻りましょう』
「こっちよ!」
『ふふ、待って。ソフィア』


ソフィアに手を引かれ、カールと洗濯物を持ち
キャンプに戻るとちょうど死体の処理をしている所だった。


「時限爆弾だ。」
「どうすればいい?」
「撃つんだよ、頭にぶちこめ。ここから撃てる」
「ダメよ。そっとしておいて」
「……分かったよ。さっさと片付けるぞ」
「おい、何してる?仲間を燃やす気か?仲間は向こうだ!」
「どっちでもいい」
「燃やさない。埋めるんだ。いいな?」
「……あぁ」
「向こうに運べ」
「自業自得だ」
「黙ってろ」
「お前達のせいだ!兄貴を見捨てた…!」


仲間達との悲しいやり取りを横目で見ながら
ローリの元へと向かう。
優しいグレンでもあんなに声を荒げることがあるのかと
どこか冷静に物事を見ている自分に驚いた。
私達は洗濯物を干し終えると、次はどうしようかと
辺りを見回したその時だった。


「ジムが噛まれたわ!」
「平気だ!」
「見せろ!!!」
「俺は大丈夫だ、なんともない!」


ジムを取り押さえダリルが服をめくる。
そこには確かに噛み痕が……
ジムはウォーカーに噛まれた…


「…っ!」
「平気だよ…俺は大丈夫だ…平気だ…」


ジムから少し離れて話し合う。
みんな急な展開に頭が追い付いていない。


「奴も女も頭をぶち抜きゃいい」
「自分ならどうだ?」
「感謝するね」
「残念だが、今回はダリルが正しい」
「ジムは化け物じゃない。
 彼は病人だ。奴らとは区別しないと」
「エリー、2人をお願い出来る?」
『もちろんよ、ローリ』


この残酷な話し合いからカールとソフィアを遠ざけるため
私は2人と少し離れた所へと向かった。


『ここでお絵かきしましょう。
 地面にならいくら書いても無料だわ』
「何を書く?」
『なんでも。好きな物を書いて見せて?』
「わたし決めたっ!」
「……ぼくも!」


2人はもくもくと絵を描き始めた。
チラリと大人達の方を見るとなにやら揉めている。
するとダリルがつるはしを持ってジムに近付いて行った。


「俺が片を付けて…!」
「生者は殺さない」
「なら、なぜ俺に銃を向けるんだ?」
「今回ばかりはリックに賛成だ。つるはしを置け」
「……ちっ」
「ジム、来い。安全な所だ」


これが現実……
なんて悲しいのだろう……
そっとカールとソフィアを見ると
2人は家族の絵を描いていた。
思わず涙が出そうになって顔をそむける。
ダリルがこっちを見ていたことに気付いたが、
今、声をかけたら泣きだしてしまいそうだった。


デールがアンドレアとエイミーに近付くのが見えた。
デールは隣に座り、2人は会話を交わした。
アンドレアがそっとエイミーに近付き
そしてデールはそっと側を離れた。


「エリー、ありがとう」
『お安い御用よ、ローリ』
「カールおいで」
「ソフィア」
「はい、ママ」


カールとソフィアはママの元へ戻って行った。
私はそっとアンドレアに近付いて、隣に座った。


『エイミーと話しても…?』
「えぇ…」
『エイミー。私とあなたは知り合ってほんの少しだけど
 一番に私に笑いかけてくれたのはあなたよ…
 どれだけ心強かったか分からない。
 エイミー……あなたの大切なお姉さんは
 必ずみんなで守るわ。だからあなたも…
 きっと私達を見守っていてくれるよね…?
 ありがとう、エイミー。私の大切な友人…
 アンドレア…お悔やみ申し上げます…
 お水だけでも飲んで。ここに置いておくから』
「えぇ……」


アンドレアの側にグレンから貰った水を置くと
私は2人からそっと離れた。
もう少し2人でいさせてあげたいと思った。
でもそんな時間は長く続かなかった…
エイミーが転化した。


「誕生日に、側にいられなかった…
 こんな日が来るとは思わなくて…」


全員がアンドレアに注目している。
私は思わず隣にいたダリルの手を握った。
ダリルはチラッとこちらを見ると軽く握り返してくれたが
手を離し武器を構える体制になった。
リックやシェーンも銃を取りだそうとしている。
アンドレアはエイミーに語りかけ続ける。


「今はここにいる…愛してる……」


そう言うとアンドレアはエイミーの頭を撃った。
こんなに、辛い選択があるだろうか…
私だったら…家族を目の前にして出来るかな…
赤の他人のウォーカーだって倒せそうにないのに
きっと無理だと思う…
神様は本当に意地悪だ……


その後も死体の処理やキャンプの片づけをして
バタバタとした時間を過ごした。

そして私達は1か所に集められ
今後の進路について話し合いを始めた。


「みんな聞いてくれ。
 リックの計画だが、助かるという保証はない。
 だが、助かるかもしれない。
 彼とは長い付き合いだ。俺は信じる。
 大事なのは共に行動すること…
 賛同する者は明日の朝、出発だ。いいな?」


リックの提案する場所へ向かう…
私はみんなに付いていく。
だってここしかもう居場所はないんだもん…
他の選択肢はないんだもの…


「じゃあみんな……しっかり寝て明日に備えてくれ」


シェーンの言葉を最後に解散となる。
私もいつも通りにキャンピングカーに戻ろうとすると
後ろからダリルに呼びとめられた。


「おい。……おい、エリー」
『ダリル…?どうしたの?』
「どこで寝るつもりだ?」
『キャンピングカーよ』
「そこにはジムがいる。
 看病するためにジャッキーも。
 キャンピングカーは満員だろ」
『でも……』
「テントで寝ればいい。空きはある」
『テントに1人は怖いよ…』
「……グレンと眠ればいい」
『でもグレンがなんて言うか…
 その…一応…男女だし……』
「お前みたいな子供にグレンが興味あると思うか?」
『失礼ね、私はもう22歳よ!』
「……なんだって?」
『私は22歳!立派な大人よ!』
「あー……悪かったよ」
『……じゃあダリルのテントで寝させて』
「は?お前、さっきグレンとは男女だからって」
『私みたいな子供に興味ないんでしょ?』
「……勝手にしろ」
『何もしないでね』
「……(肩をすくめ)」


ダリルのテントに入り、一緒に眠りにつく。
この先どうなるか不安はぬぐえず
なかなか眠りにつくことは出来なかった。


「眠れないのか?」
『えぇ……ダリルは?』
「俺もだ。」
『はぁ……ウォーカーなんて
 この世から消えてしまえばいいのに』
「難しい相談だな」
『そうね…今まで生きて来てこんな悲しい事はなかった』
「あぁ…」
『日本の家族は無事かな…』
「……きっと無事さ」
『うん……ダリルのお兄さんもきっと無事ね。
 だって最強なんでしょ?メルルって人』
「あぁ、兄貴は最強だ」
『ここは土地が広いから探すのは大変だけど…
 信じていればきっといつか、また再会出来るわ。』
「そうだな……」
『日本は…狭いから…きっと探すのは簡単だわ…』
「あぁ…さぁ、もう寝よう。明日は忙しい」
『うん…おやすみ、ダリル』
「あぁ」





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