「兄貴が死んでたら覚悟しろ」
「あいつらは屋上には出られない
 出られるのは俺達だけだ。」
「歩こう」


グレンに手を貸してもらって荷台から降りる。
辺りを警戒しつつ、中心部に向かって歩き続けた。
足のリーチの差があるから日本人の平均的な身長の私は
どうしても早歩きになってしまい少し大変だっだけど
なんとか速度を落とさずに付いて行った。
これからは持久力アップが必須のようだ…


『これからどうするの?』
「武器を…」
「先に兄貴の救出だ」
「待て。グレン、どう思う?」
「うーん…位置的にメルルが先。武器はその後だ」


私達は方針を決め、メルルを置いてきたというビルに向かう。
慎重にウォーカーを避けながら屋上に進む。


「兄貴!」


一番に屋上に入ったダリルがメルルを呼ぶが応答はない。


「いないのか?」
『でもドアは壊されてなかった。
 ウォーカーは侵入できなかったはず。そうでしょ?』
「あぁ……」


全員で屋上の奥へと進む。
するとダリルが何かに気づき、声をあげた。
Tドッグとリック、グレンも何かに気づき
一番私に近い場所にいたグレンは私を引きとめた


『なに?なにがあったの?』
「……メルルは自分の手を切った様だ…」
『…うそでしょ?』
「本当だ…そこに、手が…ある」
『そんな、まさか…』
「君は見ない方がいい。
 少し下がって、後ろを向いていて。
 ウォーカーが来ないかドアを見張っていて」
『わ、分かった…』


下がろうとした瞬間、ダリルが怒りのあまり
Tドッグにボウガンの矛先を向ける。
すかさずリックが銃口をダリルの頭に。
緊迫した状況が続く中、リックが口を開く


「本気だぞ。銃声が響いても構わない。」
『やめて……お願い…』


グレンの腕を握りながら呼びかける。
ダリルはこちらをちらりと見るとボウガンを降ろした。
リックもそれを見て銃を降ろす。
そしてダリルはTドッグに話しかけた。


「バンダナを持ってるか?」
「あぁ…」


バンダナを受け取ったダリルは恐らく手がある方へ歩き出した。


「ノコギリじゃ切りにくかっただろう…
 これはひどい……」


そういうと恐らく手をパンダナに包んで
グレンのかばんの中に入れ、頷いた。
グレンはちょっと嫌そうな顔をしていた。


「ベルトで止血してるはず。」
『どうして分かるの?』
「見ろ。血痕が少ない」
『本当だ……』
「兄貴は生きてこの道を進んだ」
『そうね』


私も近づき、ダリルが指した方を見ると
確かに人が手を切り落としたとは思えない出血の少なさだった。
血痕を追って進み始めるダリルに続く。

ある部屋に入るとウォーカーが死んでいる部屋に辿り着いた。


「兄貴がこいつらを殺したんだ。
 一本の手でな。兄貴は最強だぜ」
「どんなタフでも出血すれば必ず倒れる」


バタン!


「兄貴!」
「奴らがいるのを忘れるな」
「知るかよ。兄貴は出血してる」
『火…?』
「何か焦げてる…」
『なに…?』
「皮膚だ…傷口を焼いたんだ」
『……あぁ、気持ちが悪くなりそう』
「見ない方がいい」
『えぇ……』
「言ったろ。兄貴は最強だ」
「大量出血だ。安心できない」
「そうか?兄貴は地獄から這い上がった」
「脱出か?」
「バカなまねを…」
「兄貴は遠くに逃げたのさ
 絶対に生き残るためにな…」
「生き残るだと?行き倒れるだけだ。勝算はない」
「手錠をかけられて死ぬよりマシさ」
「………」
「兄貴は無事だ。死人どもには負けないさ」
「奴らが1000人いたらどうだ?」
「ふん、数えてろ。兄貴を探しに行く」
「待て」
「何だよ。邪魔するな」
「俺も家族を捜して地獄を味わった。
 気持ちは分かる。彼は負傷している。
 外に捜しに出るには冷静でいなくては…」
「…分かったよ」
『ねぇ、この下に降りてみよう。
 私がいた車の近くにいるかもしれない』
「ホストファミリーか?」
『えぇ。私を探しに戻ってきているかも…』
「先に銃を手に入れよう
 ここの通りは気合いだけじゃ歩けない」
『…分かった。じゃあどうする?』
「俺一人で行く」
「一人は危険だ」
「俺にだってひでぇアイディアだって分かるぜ」
『そうよ、私も賛成できない』
「グッドアイディアなんだ!最後まで話を聞いてくれ
 集団だと動きが鈍るが、俺一人ならすばやく動ける。
 いいか?5ブロック先の戦車のそばにバッグがある。
 初めて会った路地からダリルとエリーと向かう」
「俺と…?」
「弓矢なら静かだ。エリーはナイフと銃
 どちらもすぐに使えるように準備だけはしていて」
『分かったわ』
「2人はここの路地にいてくれ。俺がバッグを取る」
「俺は?」
「Tドッグとこの路地に。」
「2ブロック先か」
「ウォーカーに囲まれてしまった場合、
 ダリルとエリーの元へは帰れない。
 その時は前進して君達の待つ路地に向かう
 どちらにせよ、援護を頼む。集合場所はここだ」
「……以前の仕事は?」
「ピザの配達員さ。……なぜ?」


下に降り、辺りを見回してみるが彼の姿はない。
でもガッカリしている暇はない。
急いで2人の後を追う。
予定通り路地まで来るとグレンは辺りを見回して
飛び出すタイミングを計っているようだ。


「中国人にしては勇敢だ」
「韓国人だ」
「どうでもいい」
『グレン、気を付けて』
「あぁ。援護は頼むよ」


グレンは飛び出して行った。
何事もなく進んでいくグレンを見て安心したのもつかの間
何者かが角から急に飛び出してきた。


『だ、ダリル!』
「…っ!」
「撃つな!何をしてる?」
「兄貴を見なかったか?」
〈 助けて! 〉
「騒ぐな!奴らが来るぞ
 さぁ、答えろ」
〈 助けて! 〉
『静かにして!お願い!』
〈 誰か助けて! 〉
「うるさい!」
『ダリル!?』
「黙れ!……っ!」
『ダリル!やめて!お願い!
 ダリルを離して!離してってば!』


急に後ろから現れた男2人組に倒され蹴られるダリル。
ダリルから2人を引き離そうとするも女の力では歯が立たない。
私もあっという間に倒される。
すると何も知らないグレンがカバンを抱えて戻って来た。


「…っ!?」
「あのバッグだ!取れ!」
『グレン!!』


武器を持って戻って来たグレンはあっさり捕まり
ダリルと私で応戦をするも、私も武器を奪われ
みぞおちに良い一撃をくらってしまった。
グレン同様、車に連れ込まれそうになるが抵抗する力が無い。
意識が薄れゆく中、ダリルが必死に手を伸ばしているのが見えた。
私も手を伸ばしたが……
その手は届くことはなかった。





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